家族

 月が帰宅して捜査本部はまた静かになった。
 『今は人前に顔を出すのも怖い』…珍しく竜崎が弱音を呟いたせいで、流れる空気はいつもより重く沈んでいるようだった。普段なら(良くも悪くも)空気を 読めない松田がトンチンカンなことを言って場の雰囲気を変えてくれるのだが、今日の松田は複雑な表情で黙り込んだままだった。
 夜神局長も相沢も、松田にいつもの脳天気さがないので調子が狂ったような顔をしている。
 竜崎もわずかに首を傾げ、松田に目を向けた。

(ひょっとして、私が弱気な事を言ったから気にしているんだろうか…)

 そんな事を考えながら部屋をウロウロしている松田を目で追っていると、不意に竜崎の方を向いた彼と目が合った。
 視線を逸らす事なくじーっと見つめる竜崎に、松田は妙にわざとらしい笑顔を見せた。

「りゅ、竜崎!お茶でも入れましょうか!」
「…ええ、ありがとうございます」

 ついさっきコーヒーを飲んだばかりだったが、竜崎はそれには触れずにうなずいた。きっと話を切り出すきっかけが欲しいのだろうと分かったから。
 いつもより丁寧な手付きでいれられた紅茶を飲みながら、竜崎は松田が口を開くのを待っていた。

「あの…竜崎」
「はい?」

 松田は膝の上で握りしめた拳を見つめたままぽつりと呟く。

「さっき月君のことを『初めての友達』って言いましたよね」
「ええ、言いましたけど。それが何か?」
「じゃあ僕は、月君より先に竜崎に会ってずっと一緒に捜査を続けて来た僕は…竜崎の友達じゃないんですか。ただの部下でしかないんですか」
「………」

 竜崎はまじまじと松田の顏を見つめた。松田は唇を噛み締めてべそをかきそうな顔で竜崎を見ている。
 それはまるで、弟や妹が自分より両親に愛されているのでは、と不安になった子供のようで。
 しばらくの沈黙の後、竜崎は柔らかく微笑んだ。

「…そんな事ありませんよ。松田さんがただの部下のはずがないでしょう。松田さんも私の大切な友達です。…でも」
「でも?」
「あまりに身近にいるから、友達と言うより家族のような感覚でいました」
「家族」
「はい、家族です」

 半べそをかいていた松田の顔がみるみる笑み崩れた。さっき泣いた烏がもう笑った、とはこの事か。

「家族…そうか、家族ですかぁ。えへへへへ」
「そうです。松田さんも相沢さんも模木さんも夜神さんも、家族のように大切な人達です」
「竜崎の家族ですかぁ…いいですね、それ」

 松田はしきりに照れくさそうに頭をかいた。『初めての友達』という話はうまくはぐらかされてしまったが、全く気付いてないようだった。

「じゃあ大事な家族のために、竜崎お気に入りのお店でケーキを買って来ますよ。まだ営業時間のはずですしね!」
「あ、松田さん…」

 とめる間もなく松田は財布を掴んで部屋を飛び出していった。
 バターン!!
 ドアの閉まる大きな音に竜崎の伸ばしかけた手は宙に浮いたまま固まってしまった。その姿に相沢が苦笑する。

「営業時間云々の前に、今日は定休日だった気がしますが」
「…まぁそうだったらそうで、コンビニデザートでも見繕って来てくれるでしょう」
「そんなものが竜崎の口に合いますか?」
「私の為に買って来てくれたものなら何でもおいしいですよ」

 だって、家族のように大切な人達なんだから。
 竜崎は優しく微笑んでそっと抱えた両膝に顔を埋めた。


END


 
デスノ部屋
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