| その日は4月にしては暖かい日だった。 真っ青な空と明るい太陽と満開の桜が、松田には無性に腹立たしかった。 彼の視線の先で、黒い枠とリボンに縁取られた宇生田が笑っている。 「松田」 「あ、局長」 「竜崎に連絡は?」 「さっきしました。場所と、時間を」 「そうか」 「…彼、来るでしょうか」 「来ない…いや、来られないだろうな。これは個人ではなく警察としての葬儀だからマスコミを締め出すわけにもいかん。これだけカメラと人の目があるんだ、ワタリを代役で寄越すのが精一杯だろう」 「そうですね」 松田の顔がわずかに険しくなった。 葬儀場のあちこちに取材目的のマスコミ関係者らしい姿が見える。弔問客に控えめにカメラを向けてはいるが、積極的な取材はしていない様子だった。 宇生田と二人の刑事が殉職したのはキラのテープを面白半分に放送したマスコミのせいだと…少なくとも警察関係者と遺族はそう考えていることを、良く分かっているからだろう。 と。 不意に会場の入り口付近が騒がしくなった。 さりげなく近付いて様子を伺っていた二人は、見覚えのあるリムジンから見覚えのある老人が降りてくるのを見て思わず顔を見合わせた。老人は丁重にカメラと取材を遠ざけると、恭しく後部座席のドアを開けた。 「局長、まさか…」 「そのまさかだと思うが…いつもの服装できたわけじゃあるまいな」 竜崎と会って4ヶ月程度立つが、彼が白い長袖シャツとジーンズ以外の服装でいるのを見たことがない。いくら何でも葬儀の席にあの格好で来られたら目立ち過ぎる…という夜神の心配は幸い杞憂に終わった。 リムジンから降りてきた竜崎は黒のシャツに黒いジーンズ、黒いスニーカーという出で立ちだった。天気もよく暖かいから、警察幹部の御子息だと思ってもらえればギリギリ不自然ではない。 竜崎はいつものように細い身体を曲げるようにして歩いてきた。二人の姿を認めて軽く会釈する。 「竜崎…大丈夫なのか?」 「大丈夫とは?」 「顔も隠さずに堂々とこんな場所に来て…」 「変に顔を隠せば余計に目立ちます。マスコミにも圧力をかけてありますから、私の顔が一般に流れることはありません。…それに」 竜崎は整った唇を噛んで、僅かに厳しさを増した白い顔を宇生田達の遺影に向けた。 「宇生田さんは顔を隠さず堂々とキラに挑んだ。それなのに私が我が身かわいさに顔を隠して葬儀に来るなど、亡くなった彼らに対する冒涜ではありませんか」 ジーンズのポケットに無造作に突っ込まれた両手が細かく震えていた。挑むように夜神と松田に向けられた漆黒の瞳には、激しい怒りの色が見え隠れする。 その瞳に気押された松田と夜神から、ふっと竜崎は目を逸らした。 「そろそろ時間です。行きましょう」 「あ…ああ、そうだな」 「は、はい!」 竜崎はまたいつもの飄々とした表情になって会場に足を向けた。その背中は、キラを相手にたった一人で闘うには細過ぎるように見えて。松田は思わず彼に走りよって声をかけた。 「竜崎!」 「何です?」 「絶対にキラを捕まえましょうね!絶対に、絶対にです!」 「ええ、もちろんです。私達はそのために命を賭けているんですから」 さらりと答えた竜崎の表情はさっきより幾らか柔らかくなっていた。心無しか微笑んでいるようにも見える。 L。竜崎。キラ事件の最高責任者。 彼の揺るぎない信念と正義感。 それは、ためらいなく命を賭けられるほどに信じられるもの。松田の中でわずかに残っていたLへの不信感はいつの間にかきれいに消えていた。 松田は確かな足取りで竜崎のあとをついていった。 |
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