それが大事

 竜崎はパフェのお変わりを食べ終わり、さて…とデザートスプーンをおいた。

「お約束通り、秋乃さんと一戦交えるとしますか」
「はい!」

 秋乃は嬉しそうにうなずいて、TVの下からゲームソフトを取り出して竜崎に渡した。そのパッケージは女性が好きそうなかわいらしいキャラが描かれている。
 渡されたソフトを見て竜崎は首を傾げた。

「『ぷよぷよ』?」
「竜崎さん、『ぷよぷよ』御存知ないですか?」
「はい、初めて見ます」
「じゃあ『テトリス』は?」
「ああ、それなら知っています。昔やったことがあります」
「それなら話が早いです。基本はテトリスと同じですから」

 秋乃はゲーム機の電源を入れてソフトを起動させた。見せた方が早いと言うことらしい。彼女は慣れた手付きでゲームをスタートさせた。
 カラフルな、目玉付きの球体…確かに『ぷよぷよ』と言った感じの物が3つくっついて落ちて来る。

「この落ちてくる丸いものが『ぷよ』です。ボタンを押すとくるくる回って…こうやって、4つ同じ色がくっつけば消えるんですよ」
「ふむ」
「少しずつ消してもいいんですけど…わざと溜めておいて一気に消すと高得点が出ます」
「なるほど…」

 確かにこれは面白そうだ。秋乃のプレイをみながら竜崎がうずうずしていると、ステージをクリアした秋乃がコントローラーを差し出した。

「竜崎さんもやってみて下さい」
「どうするんですか?」
「このボタンを押すとくるくる回って、このボタンで左右に移動して…」

 秋乃のレクチャーを受けながら竜崎は人生初の『ぷよぷよ』に挑戦を始めた。もともと飲み込みが早いしテトリスで落ち物ゲーには慣れていたので、すぐにコツを掴んで高得点を出せるようになっていた。
 隣では秋乃が嬉しそうにはしゃいでいる。

「すごいすごーい!今日初めてプレイしたとは思えないくらいうまいですよー!」
「面白いですね、これ」
「対戦はもっと面白いですよ。ね、対戦しましょう」
「秋乃さんと私で闘うってことですか?」
「そうです。基本的なルールは同じですけど、自分がたくさん消せば消すほど相手の妨害ができるんですよ」

 説明しながら秋乃はもう一つコントローラーを繋いで対戦モードを選んだ。それぞれ使用キャラを選んだ後、秋乃は自分のキャラにハンデをつけた。

「そんな、ハンデなんていらないでしょう。女性の秋乃さんを相手に…」
「私、仲間内最強ですよ?今日が初めての竜崎さんにハンデなしなんてダメです」
「……では最初は手加減無しでお願いします」

 ハンデはかなり不満だったが、まぁ一度勝負してから…と思い直して竜崎はゲームを始めた。
 自分のプレイヤーが『ぷよ』を消すと、消した数に応じて相手側に『ぷよ』が飛んでいって邪魔をする仕組みらしい。が、竜崎のぷよはちょこちょこと秋乃の 方に飛んでいくのに、彼女の方からはあまり飛んでこない。ハンデをつけられた上にまだ手加減されているのか、とちょっとムッとした時。
 どどどどどどどど!!!
 竜崎の方に大量の『ぷよ』が落ちて来て、あっという間に画面は埋まってしまった。見れば秋乃のキャラクターが実に嬉しそうなアクションをしている。
 秋乃がわざと少しずぷよを消して一気に勝負に来たことが分かった時には、にっちもさっちも行かなくなっていた。一瞬で画面をぷよで埋め尽くされて負けてしまい、竜崎はコントローラーを握ったまま呆然とするしかなかった。
 ハンデをつけてもらってこの結果。竜崎のプライドはけっこう傷付いていた。

「…秋乃さん、もうひと勝負です。今は油断してました」
「はい、望むところです」

 秋乃は嬉しそうに『コンティニュー』を選んだ。
 …そして2時間後。
 ハンデをつけて少し手加減してもらってようやくいい勝負ができるようになった竜崎は、すっかりこのゲームが気に入っていた。

「秋乃さん、このゲームってその辺のおもちゃ屋で買えますか?」
「ええ、まだ新しいですから何軒か回れば見つかると思います」
「すいませんが買い物に付き合って頂けますか。ちょっと特訓しようと思うので。…打倒、秋乃さんです」
「竜崎さんが本気になったらあっという間に抜かれそうですね」

 楽しみにしてます、と微笑んで秋乃は外出の準備を始めた。

 


 気持ちの整理がついたら戻る、と言い残して竜崎が飛び出してしまったので、松田は食事も喉を通らないほど心配して待っていた。
 それなのに…それなのに、竜崎と来たら。
 秋乃さんの部屋に上がり込んで手作りのパフェをごちそうになって、さんざんゲームで遊んだ上に二人で買い物に行って一緒に本部に帰ってくるだなんて!!
 悔しいやらほっとしたやらで、松田は涙目になって竜崎に食って掛かってしまった。

「本当に、本当に心配してたのに…何ですか何ですか、何なんですか!!」
「そんなに心配をかけてしまっていたとは、申し訳ありません」
「そんなケロリとした顔で謝って貰ったって、嬉しくないですよ!!」
「松田さん、ご飯まだなんですか?」
「当たり前です。竜崎が無事に帰るまでは落ち着いて食事なんか…」
「私達もまだなんです。食材も買って来たから、良ければ私が何か作りましょうか?」
「え、本当ですか?」

 秋乃の言葉に松田はあっさりと怒りをひっこめた。持参のエプロンをつけてキッチンに入る秋乃ににっこり笑って手を振っている。とりあえず機嫌が直ったらしい松田に竜崎は買って来たゲーム機を差し出した。

「松田さん、このゲーム機のつなぎ方、分かりますか?」
「どれです?…ああ、プレステですね。大丈夫、できますよ。食事ができるまでにさっさと繋いじゃいましょう」

 松田はゲーム機を受け取り、慣れた様子でコードをホテルのTVに繋いだ。プレステの電源を入れて動作を確認する。

「これでOKです。試しにソフトを入れてみましょうか。…あ、ぷよぷよじゃないですか!」
「松田さん、知ってるんですか?」
「もちろん!有名なゲームですからねー。昔は地元の大会で優勝したこともあるんですよ、僕。今はかなり腕がなまっていると思いますけど」

 その言葉に竜崎の眉がピクリと動いた。
 『地元の大会で優勝したことがある』?この松田が?
 竜崎はセッティングの済んだTVの前に腰を降ろし、コントローラーを一つ松田に差し出した。その行動の意味が分からずきょとんとしている松田に宣言する。

「…松田さん、私と勝負です」
「え、竜崎と?」
「さっき秋乃さんにコテンパンにやられまして。ハンデもつけてもらったのに…」
「秋乃さんってそんなに強いんですか」
「自称、仲間内最強だそうです。私は全く歯が立ちませんでした」
「へぇ…」

 松田は意外そうな顔でコントローラーを握った。昔とった杵柄とはいうが、新しいルールについていけずにボロボロだった。が、キッチンからチキンライスとオムレツのいい香りが流れてくる頃には、すっかり勘が戻って来ていた。
 立て続けに負けた竜崎がふてくされてコントローラーを投げ出す頃、秋乃がオムライスを作ってくれたので一時休戦となった。
 食事が済んだ後は完全復活した松田と秋乃が対戦を始めた。二人の戦いはギャラリーの竜崎と相沢も一緒に白熱するほどの大接戦で、みんな大いに盛り上がった。
 もう指がつりそうです、と二人がコントローラーを手放す頃にはすっかり日が暮れていた。
 松田は爽やかな笑顔で秋乃に握手を求めた。

「いやぁーすごいです、秋乃さん。めちゃくちゃ強いですよ!!」
「松田さんも強いですね。また対戦して下さいね」
「もちろん!」

 松田を横目でみながら竜崎は密かに決意した。秋乃さんの前に、打倒・松田だ。彼女はともかく松田にだけは負けたくない。
 松田は憧れの秋乃の手を握れたことですっかり舞い上がっていた。竜崎にライバル視されていることなど夢にも思わずに。


END


 
デスノ部屋
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