| いよいよキラ逮捕に向かうというのに、竜崎はいつもの飄々とした表情で『行きましょうか』と椅子から立ち上がった。 そこまでする必要があるのかと思うほど厳重にミサを拘束し、扉の前まで来てからふと足を止めた。 「すいません夜神君、行く前に電話をしておきたい人がいるのですが」 「…ああ、どうぞ」 「すいません」 竜崎は携帯を取り出して秋乃の番号を押した。この時間だとまだ店にいるかもしれない。その時は運が悪かったと思って諦めるしかないだろう。 プルル…と呼び出し音が鳴った直後、相手が出た。 『はい、秋乃です』 「……………」 『竜崎…さん?』 「ああ、すいません。まさかこんなにすぐ繋がるとは思っていなかったので、びっくりして」 『だって…待ってましたから…』 「待ってた?」 竜崎が呟いた言葉を聞いて、月は手錠の鎖が許す限り離れてわざとらしく耳に指を突っ込んだ。話を盗み聞きするつもりはありません、というポーズだ。 何もそこまで気を使わなくても…と思いながら竜崎は電話に神経を戻した。 『私、さくらTVのキラ特番は毎週見てるんです。多分ほとんどヤラセだろうなとは思ってますけど…でも、今日出演してたのは松田さんでしたよね』 「ええ、そうですね」 『松田さんが出てたってことはきっと竜崎さんも関わってて…。途中で番組の内容が変わったから、何かあったんだろうなって思って。何か、危険なことが…そして竜崎さんはその危険を確かめに行くんだろうって…そうしたら、お店の名義のことで連絡があるかもって…』 「秋乃さんには何もかもお見通しですね」 『…竜崎さん』 秋乃の必死な声が聞こえた。彼女と知り合ってもうすぐ2年たつが、こんな声は聞いたことがない、と竜崎は思った。 『生きて帰って来てくれますよね?』 「ええ、もちろんです。帰って来たら久々に秋乃さんのケーキを食べたいと思って電話したんですから」 『はい…』 電話の向こうで少しだけ、押し殺した泣き声が聞こえた。秋乃が通話口を手で押さえて泣いている間、竜崎は黙って待っていた。 しばらくして聞こえた声は最初よりずっと明るくなっていた。 『じゃあ、竜崎さんが何をリクエストされてもすぐ御用意できるように準備しておきますね』 「久々ですから何でもいいですよ。一段落したらまた連絡します」 『お待ちしてます。…竜崎さん』 「はい?」 『いってらっしゃい』 「………」 竜崎は返答に詰まった。 こんな会話をするつもりで電話をしたわけではなかったから、答えは用意していなかった。 竜崎は目をそっと閉じて秋乃の言葉を噛み締めた。 いってらっしゃい。 この言葉に対する返事はひとつ。 「…ええ、行って来ます」 そして必ず、あなたに『ただいま』と言いに行きます。 竜崎は通話終了ボタンを押して、律儀に背中を向けて耳に指を突っ込んでいる月に声をかけた。 「月君、話は終わりましたよ」 「ん」 「別に聞かれて困ることなんて話してないんですからそこまでしなくても…」 「いや、竜崎が困らなくても僕が困る」 「?」 「彼女に電話してる奴の話をすぐ隣で聞いているほど居心地の悪いものはないよ」 「ですから…」 「ねぇ!ねぇねぇねぇねぇ!」 竜崎の抗議はミサの大声で遮られた。 椅子に鎖で縛り付けられた不自由な姿勢のまま、ミサは目一杯顔を竜崎に向けていた。その顔は好奇心で輝いている。 「電話の相手、誰だったの?やっぱり竜崎さんの彼女?彼女なの!?」 「…違いますよ」 「違うのか?」 からかうような月の言葉に竜崎は面倒臭そうに視線を向けた。パチンと音を立てて携帯を畳んでポケットに入れ、ミサを見た。 「彼女ではありません」 「えー?うそぉ〜、だってすごくいい雰囲気だったじゃなーい」 「彼女ではありませんが、ミサさんにとっての月君と同じくらい、私にとって大切な人です。ミサさんが月君の為になら死ねるように、私は彼女の為にも生きなくてはならない」 「キャーー!!!」 何が嬉しいのかミサは鎖に繋がれた足をバタバタさせてはしゃいでいる。 …これは帰って来たら、『竜崎さんの彼女を紹介して』とうるさいだろうな…。 どうやって断ろうか言い訳を考えながら、竜崎はヘリポートに足を向けた。 |
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