ともだち。
終章

 …松田がLの協力を約束された翌日。
 竜崎、松田、相沢、そして模木は夜神月の墓を訪れていた。彼らがついた時には既に花と線香が添えてあり、夜神氏が先に来てしまっていた事を物語っていた。

「…夜神さんにお会いしたかったのですが…」

 竜崎はとても残念そうな顔で呟いた。
 刑事達は何も言わなかった。竜崎だってわかっているはずだ。
 夜神氏は最後まで何も言わなかったけれど、竜崎に対する感情は複雑なものがあるだろう。月がキラだったとは言え、最終的に彼を追い詰め、死に追いやったのは竜崎なのだから…。
 彼らは無言で花と線香を添え、手を合わせた。
 短い墓参りが終わると、竜崎は待ち切れないように口を開いた。

「では早速ですがみなさん、私が滞在しているホテルに来て頂けますか」
「ええ、いいですよ」
「松田警視のためにも検討会をしないとな」

 刑事達がうなずくと、竜崎は待たせてあった車にさっさと乗り込んでしまった。
 ずいぶんと意欲的だな。
 そんな事を思いながら、彼らは竜崎の車でホテルに向かった。


 ホテルの部屋に皆を招き入れるなり、竜崎はワタリがお茶を用意するのも待たずに刑事達に黒いノートを差し出した。

「みなさん、このノートを見て下さい。きちんと手にとって、しっかりと」
「ノート?」
「これと、松田の事件と何の関係が?」
「いいから早く」

 促されるまま松田はノートを受け取り、ぱらぱらとめくった。そこにはびっしりと人の名前が書き込まれている。

「これがなんなんですか?人の名前がたくさん書いてありますけど」
「ちょっと待て…なんだか見覚えのある名前ばかりだな」

 相沢がノートを受け取りしげしげと眺めた。
 横からページをめくって覗き込んでいた模木が、あ!と大声を出した。相沢の手からノートをひったくり、最初の方のページを開いた。

「ここ!リンド・L・テイラーって書いてある!」
「え?あの、Lの代わりに記者会見をしてキラに殺された?」
「ひょっとしてこれ…キラに殺された犯罪者の名前じゃないのか?」
「ちょっと、最初から見てみましょう」

 色めき立つ刑事達を、竜崎はじっと見ている。
 ノートの表紙の裏からびっしりと書かれた『How to use』を読み進むにつれて彼らの顔は固くこわばり始めた。全て読み終えた刑事達が蒼白な顔を上げると、竜崎は静かに口を開いた。

「もうお分かりでしょう。これこそが、キラ…夜神月の力の源。どんなに探しても証拠など見つからなかったはずです。彼には死神がついていたのですから」
「……」
「もっとも、私がその事実を知ったのは昨日の夜なんですけどね」
「竜崎、それは、一体…」

 松田の言葉に、竜崎はいたずらっぽく微笑んで…すっと彼らの後ろを指差した。
 誘われるまま振り向いた彼らは、妙に親しげな微笑みを浮かべる異形の生き物を目にして完全に言葉を失った。

「お久しぶり、松田さん、相沢さん。模木さんは…初めまして、かな」
「みなさん、紹介します。私の新しい相棒、死神のライトです」

 死神はふわりと宙を舞って竜崎の後ろにすっと立った。それは全く違和感のない光景で。
 竜崎の顔はまるで新しい友達を親に紹介する子供のように嬉しそうだった。その隣で死神ライトがぺこんと頭を下げた。
 反射的におじぎを返して、刑事達はまじまじとライトを見つめた。

「ライトって…まさか…」
「月、君?」
「死んだはずしゃ…」
「死んだよ。そして生まれ変わったんだ」
「ライト、面倒でしょうが最初から話してあげて下さい。事件に関する討論会はその後です」
「ちぇ、竜崎がちゃんと話しておいてくれればよかったのにさ」

 文句を言いながらも嬉しそうにライトは話し始めた。
 …話を聞き終わった刑事達は複雑な顔を見合わせた。死神が存在し、死神の力を宿したノートで人間が人間を殺して、更にその人間が死後死神になったなんて…。
 とても信じられない、しかし信じざるを得ない、現実。
 それでも。
 ライトを紹介した竜崎は彼らが初めて見るような嬉しそうな顔をしていて、信じがたい現実でも受け入れようと思う事ができた。
 刑事達が状況を理解したことを確認すると、竜崎は少し表情を引き締めた。

「…それで、ライトとこの事件について検討してみたのですが、『加害者は単独犯、通り魔的な犯行に見せかけた計画殺人』という見解で意見が一致しました」
「計画殺人ですか?」
「被害者達にはこれと言った共通点が見つかりませんでしたが、何を根拠に?」
「通り魔の犯行にしては、証拠隠滅が念入りすぎる」

 竜崎は机の上においてあった資料を摘まみ上げた。

「犯人はロープと猿轡で被害者の自由を奪った上で、剃刀のような刃物で喉を切り裂き殺している。ロープと猿轡用に使われた布はどこにでも売っているありふれたもので、これらから犯人を特定するのは不可能に近い…ですね」
「はい、そうです」
「凶器の剃刀は現場に残されていませんが、これもありふれたものだと考えていいでしょう。そして、被害者の共通点は…現時点では、『若い女性』ということしかないんでしたね」
「ええ、そうです」
「これが『若い女性』なら誰でもいいという通り魔殺人なら、わざわざ凶器を持ち帰ったり殺人の痕跡を隠す必要はないと思われます。仮に指紋や髪の毛などを 残してしまったとしても、前科者でもない限り犯人を特定するのは難しい。証拠を隠滅するために現場に長く留まる方がはるかに危ない」
「つまり、誰かに見られる危険を犯してでも現場に留まって証拠を隠さないと、自分が犯人だと特定されてしまう…と犯人は考えていたと言う事ですか」

 相沢の言葉に竜崎とライトはうんうんとうなずいた。
 ただ感心のため息を漏らす刑事達に、更に説明が続いた。

「ですから、これが計画殺人であるとするなら必ず被害者は犯人となんらかの形で接触していて、共通するものがあるはずです」
「でも…かなり細かなところまで調べましたが、共通点は…」
「私達にとってはとても些細な、思わず見逃してしまう部分が有るのかもしれません。今以上に突っ込んで調べてみて下さい。被害者達が好きな洋服や化粧品のブランド、よく買い物に使う店、好きな芸能人、インターネットでよく見ていたホームページ、何でも構いません」
「わかりました、もう一度徹底的に洗ってみます」

 松田は力強くうなずいた。

 

 …松田はガチガチに緊張して記者会見の会場に足を踏み入れた。ドアを開けた途端に詰め掛けた報道陣がフラッシュをたく。眩しさに目を細めながら、ぎくしゃくと歩いて準備された椅子に腰を降ろした。
 深呼吸して手をポケットに突っ込んだ瞬間、背筋がすーっと寒くなった。
 ない。準備して来たカンペがない。竜崎や相沢や模木にさんざんチェックを入れてもらったカンペがない。
 松田の頭は緊張で真っ白になっている。カンペがなければ、記者会見が出来ない!

(どうしよう…取りに戻ろうか、誰かに持って来てもらおうか…早くしないと、時間が…)

 冷や汗をかきながらオロオロと周囲を見回すと、机の下からひょいとカンペが差し出された。ライトが床に肘をついてニヤニヤ笑っている。

「松田さん。大事なカンペ、控え室のテーブルの上に置き忘れてたよ?だめだなぁ全く」

 ありがとう。
 目だけで合図を送って紙を受け取り、松田は緊張で震える手でカンペを広げた。カメラのフラッシュがさっきよりも激しくたかれた。
 その眩しさに負けないように。警視・松田は事件の報告を始めた。

「時間になりましたので、都内で起きた連続殺人事件の報告をさせて頂きます。本日午後15時50分、7人の女性を殺害した容疑者を逮捕しました。逮捕されたのは都内の飲食店アルバイト……」

 報告を続けるにつれて松田は段々落ち着いて来ていた。いや、犯人の供述を聞いた時の怒りで緊張を忘れたのかも知れない。

「容疑者は被害者達がよく使っていた喫茶店の店員で、都内の一流大学を卒業したものの就職活動に失敗し、『この有能な自分を何故みんなは認めてくれないの か』と世の中に対する不満を募らせていました。そのため、『自分よりはるかに無能に見える若い女性』が店で楽しそうに仕事の話をしているのを見て殺意を覚 えたと供述しています。……」

 記者会見を終えて控え室に戻ると、既に竜崎や相沢、模木の姿はなかった。
 にゅ、と壁をすり抜けて出て来たライトが松田を手招きする。みんな別の場所で彼を待っているのだろう。
 部屋に残っていた同僚達が拍手で松田を出迎えた。

「松田警視、これからみんなで一杯どう?」
「あーごめんね、先約が有るんだ。懐かしい友達から予約が入っちゃてて。明日、必ず付き合うから」

 松田が申し訳なさそうに微笑むと、みんなはそれじゃ仕方がないな、と快く了解してくれた。
 もう一度ごめんねと謝って松田は控え室を飛び出した。
 懐かしい友達と再会できた事を、今度こそ手放しで祝うために。


END


 
デスノ部屋
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