| 生徒会長だった時の癖で建物の中をチェックして回っていたいつきは、廊下の窓枠に手をついて夜空を見上げているコブラージャの姿に足を止めた。彼女の気
配に気付いたのかコブラージャが振り向いてにこりと微笑んだ。会釈だけで立ち去るのも悪い気がして、いつきは彼の隣に歩み寄って窓から空を見上げた。 空気が澄んでいるからなのか、今宵の月はひときわ美しく見える。思わず素直な感想が口から零れた。 「月が綺麗だね」 「…………」 コブラージャが驚いたように目を瞬いていつきを見たので、いつきもきょとんと目を瞬いた。 「あれ?僕、何か変なこと言いました?」 「おやおや、博識な生徒会長らしくない発言だね。『月が綺麗ですね』って、『あなたを愛しています』の遠回しな表現だよ。結構有名だと思うけど…知らないのかい?」 「ええっ!?」 「正確には、『あなたといると、月が綺麗ですね』って言うらしいけどね」 「へぇ…ロマンチックだね」 感心したいつきがもう一度月を見上げると、コブラージャはそんな彼女を見遣って、何かを考える素振りを見せてから口を開いた。 「…いつき。今、暇かな?」 「掃除を忘れている場所がないか見て回っていただけだから、暇といえば暇だけど。……?」 「じゃあ、ちょっとだけ僕の話を聞いてくれるかな。『砂漠の使徒コブラージャ』の、独り言みたいな話」 「ああ、構わないよ」 少なからず好奇心を刺激されたいつきが笑顔で頷くと、コブラージャは淡く笑んで視線を月に戻した。 「どうしてあの頃の僕は、君に…いや、『キュアサンシャインを倒して勝利することに』と言った方が正確かな…拘っていたんだろうとずっと考えていたんだ。僕は君の美しさを認めていたけど、理由はそれだけだったんだろうか?ってね」 「答えは、見つかった?」 「多分ね」 いつきの無言の促しに、コブラージャは考え考え言葉を紡いだ。 「あの頃の僕は、自分達砂漠の使徒は正しいことを為そうとしていると心の底から信じていた。デューン様が君臨する砂漠の世界、心の花が枯れ果てて闇に染 まった世界こそが最高に美しく素晴らしい世界なんだ、と。どうして君達プリキュアにはそれが分からないんだろうかと、本当の本気で不思議だったんだ」 「…うん」 「だから…この場合、『だから』じゃ繋がらないかもなんだけど…僕より美しい姿を持ちながら、僕の考えに共感するどころか、逆に『闇に染まった心』を太陽 の光で照らすと宣言したキュアサンシャインが、僕にとっての『分かりやすい宿敵』になったんじゃないかなと思うんだよね。『人の心は美しいから世界に必要だ』と主張する君と『人の心は醜いから世界には不要だ』と主張する僕、勝っ た方が正義を名乗れると言うか、つまり、『戦いに勝利した方の主張が正解』的な考えがあって。太陽のプリキュアを倒すことで闇の僕が正しいことを分からせてやろう、証明してやろう、みたい な…。…………。あー…僕の言いたいこと、伝わってる?」 「何となくだけど、言わんとすることは分かるよ」 いつきが笑顔で頷くと、コブラージャはホッとしたように微笑んで話を続けた。 「僕はね、君に負けたら消滅するつもりだったんだ」 「え?…」 「僕はデザトリアンやサソリーナとは違う。プリキュアに浄化されても闇に染まった僕の心に光が差すことはない。君の主張を受け入れることは出来ない。己の 信ずる正義を貫けないまま、醜い心の人間だらけの世界に戻されるくらいなら、美しいまま消えた方が遥かにマシだと…本気で思っていたんだよ」 「…………」 「でも君は、僕の心の闇を照らしてくれた。目に見える美しさだけを信じていた僕に、人の心の美しさを目に見える形で教えてくれた。もう何もかも遅すぎたと 思った僕に、まだ間に合うと言って手を差し伸べてくれた。君と戦って僕は漸く気付いたんだ、光や他人が僕を拒否していたんじゃない。心の窓と扉を固く閉ざして、光も他人も、全てを拒んでいたのは他 ならぬ僕自身だったってことに。僕自身が勇気を出して扉を開ければ太陽の光の下に戻れるって事にも、ね」 コブラージャは視線をいつきに向けて青い目を細めた。砂漠の使徒だった頃には一度も見たことの無い柔らかな微笑みを浮かべて。 「…君が、気付かせてくれたんだ」 「そんな…僕は、ただ」 「だから、キュアサンシャイン」 いつきに向き直ったコブラージャは右手を差し出した。 「君には、本当に感謝しているよ」 「…どういたしまして」 躊躇うことなくいつきは手を差し出してその手を握り返した。 唇に笑みを浮かべたコブラージャは彼女の手を握ったまま片膝をついて、王子が姫君にそうするように恭しくいつきの指と手の甲に唇を触れさせた。 「!?!?」 「メルシー、キュアサンシャイン。ありがとう。…本当に、ありがとう」 「…………」 窓から差し込む青白い月明かりに照らされたコブラージャは息を呑むほど美しくて、彼の予想外すぎる行動は乙女心をくすぐる甘くロマンチックなそれで、いつきは頬を赤くしてただ固まっていた。 …夕食の準備が出来たことを知らせるために二人を探しにきたえりかが、色々な諸々を明後日の方向に勘違いして騒ぎを起こすのはこの十数秒後のことになる。 |
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不意に思い立って勢いで書き始めたものの、三歩進んで三歩下がるを数日間繰り返して、色々な諸々の書きたかったものをバッサリと切り捨てて書き上げた一本
になりました。「自分の心を開放してくれたキュアサンシャインに感謝するコブラージャ」が話の肝だったのでそこだけ書けば良かろうなのだ!と開き直りまし
た。ツイッターでつらつらと考えを吐き出していたので、それをまとめればすんなりSSになると思っていたのですが甘かったぜよ。 実はいつきは、三人の中で一番「乙女心」を持っていると思います。なので、コッテコテの少女マンガ的展開にキュンキュンときめきそう。 あと、本当〜に突発的に書き始めた話なので基本的な設定紹介もすっ飛ばして始まってるのでここで説明。 ・本編終了後の時間軸です。季節は夏。 ・砂漠の三幹部はプリキュアと再会し、その後、色々あって砂漠の使徒だった頃の記憶を取り戻しています。「コブラージャ」と表記していますが、正確には「コブラージャっぽい人」です。 ・コブラージャっぽい人こと小早川さんはえりかの店(フェアリードロップ)でデザイナーとして働いています。 ・作中には出てきませんでしたが、三幹部+来海一家+つぼみ+いつき+妖精達で小早川家所有の別荘に来ています。 理由:今年もファッション部の合宿をしたいと思っていたが、えりか母の友人の別荘は借りられず、困っていたところにコブラージャっぽい人こと小早川さんが 「僕の父が衝動買いした別荘ならあるけど使う?長年使ってないからまず掃除から始めないといけないけど」と申し出てくれたので、下見と合宿の準備を兼ねて やってきた…という裏設定があります。 「正義は勝つ」か「勝った方が正義」か?は色んなバトルものの永遠テーマだと思うんですけど。 作中で名言はされませんでしたが、プリキュア達の基本スタンスは「プリキュア=正義」「正義が勝つ」であり、プリキュア達は多かれ少なかれ「自分達の行 動は正しい」と言う信念の元に戦ってると思います(敵が世界を滅ぼそうとしているので、その野望を阻止するのだから当たり前なんですが)。けど、自分の信 ずる正義を信じ、自分達の行動は正しいと信じているのは敵も同じ。…と言うことが、ハトプリではコブラージャの台詞で明かされてるんですよね。 ただ、敵組織の方々はある程度の大人なので、「正義は勝つ」ではなく「勝った方が正義」というスタンス。勝った方が正義を名乗り、「正義は勝つ」と発言できる権利がある、みたいな考えが根底にあります。 コブラージャの考える「世界に残る美しい心の持ち主代表」がキュアサンシャイン。で、「一見完璧に美しかった君の心も僅かだが闇に染まっていた。だから 全ての人間は心が闇に染まる可能性がある。闇に染まり醜く枯れ果てる可能性がある心なんて世界には必要ないじゃないか」という、「二行目までは分かるけど 何故そこから三行目に飛躍する?」みたいな無茶な理屈を本気で正しいと信じていたんじゃないかなと。これが私の書くコブラージャの根本的なスタンスです。 サソリーナは「私の心は真っ黒よぉん!」ってヤケクソみたいに言ってた事があったけど、コブラージャも多分同じことを思ってたんじゃないかな。「僕の心 は闇に染まって真っ黒」って。だからサンシャインに対しては「絶望で闇に染まった僕の心に光を差せるものならやってみたまえ」みたいな考えもあったのかも しれない。テンマとの勝敗に自身の答えを委ねたアローンにも通じるんですけど、「君が僕の闇を照らすか、僕が君の光を闇に染めるか。その結果が世界の答え だ」みたいな感じ。コブラージャはそういう詩的と言うかロマンがあるというか厨二というか、そういう考え方を真面目にしそうなイメージがあります。 「サンシャインがコブラージャの心の闇を照らす→プリキュア側の勝利、コブラージャがサンシャインの心を闇に染める→砂漠の使徒の勝利」みたいな感覚で、 それはあながち間違いでもない。「人の心は醜い」が信条のコブラージャにとって、「世界から美しい心が消える=自分の正しさの証明=砂漠の使徒の勝利」み たいな三段論法。「正義は勝つ」ではなく「勝った方が正義」だから、勝利した方の理屈が正しい、みたいな価値観。イコール「『勝者=正しい・敗者=間違っ ている』なので、負けた方は黙って潔く消えるべき」というのが彼なりの美学。 コブラージャにはまったきっかけは「星矢Ωのシラーに似てる」だったせいか、コブラージャの思考や価値観を考察する時にどうしてもシラーさんが被ってきまして。「勝った方が正義」的な彼の発言はシラーさんの考察にセルフ影響を受けてると思います。 ・没になったネタ 合宿回でコブラージャがつぼみ+いつきを見つけたけど夜襲しなかった話をするエピ 月が綺麗だねの会話に絡めて、コブラージャがキュアサンシャイン(になったいつき)に初めて会ったのもこんな風に月の綺麗な晩だったよ…な話をする予定 がありました。で、「『良く眠れたかい?』の台詞はそういうことだったんだね」「今にして思うとあれってセクハラだよねぇ(苦笑)」な会話を入れようと 思ってまとまらずに没。 コブラージャが自身を吸血鬼に例えるエピ 何となくコブラージャは月の光は好きだけど太陽の光は嫌い、みたいなイメージがありまして。当コブラージャは日仏ハーフなので日焼けに弱い+モデルだっ たので日焼け厳禁だったというのも裏設定的にありますが、コブラージャはそういう記憶は無くて「太陽は嫌い」という感覚だけが残ってる感じです。で、「太 陽の光(キュアサンシャインの技)を食らったら吸血みたいに砂になって消えると思ってたんだ(笑)」「吸血鬼は砂じゃなくて灰になるんじゃ?(笑)」みた いな会話をした後、いつきが「本当の愛を知った吸血鬼は、血を吸わなくても花の蜜で生きていけるようになるらしいよ」「…素敵だね、それ」的な会話を入れ ようかと思って上手くいかずに没。 |