これって運命?砂漠の三幹部と再会できました!
EPISODE 2

 …熊本と小早川が明堂院家を辞して、二人を見送っていつきの部屋に戻ってきた三人は再度ちゃぶ台を囲んで顔を突き合わせた。

「何かさ、失礼を承知で言うけど、コブラージャっぽい人が普通すぎてビックリしたね!自己紹介の時にサイン入りブロマイド渡されるかもって思ってたのに!」
「あ、私もそれは思ってました」
「僕も」
「すっごい普通!ガッカリするくらい普通だったね!!何よもう!コブラージャから超弩級ナルシスト要素を抜いたらただの超イケメン日仏ハーフ帰国子女なんて!何それ!完璧すぎて逆に面白くない!」
「クモジャキーと熊本さんはほとんど同じキャラだったから、コブラージャもそうだろうって思ってたから…ビックリ更に倍率ドンでしたね」
「つーかさ、コブラージャもデザトリアンだったわけでしょ?デザトリアンって元になった人のコンプレックスとか願望に忠実なキャラになるんでしょ?一体何 がどうして、あんなフツーで常識人の小早川さんから生まれたデザトリアンが痛さ全開のコブラージャなわけ!?それとも何、小早川さんは猫を被ってただけ で、気心知れた人の前ではコブラージャなの??」
「小早川さんは『僕が自意識過剰なくらいの自信家で、図太くて、他人から注目を浴びて持て囃されるのが大 好きな人間だったら悩まずに済んだのに』って言ってたからね。小早川さんの『なりたい自分』が極端な形で具現化したのがコブラージャだったんじゃないかな?」
「おおっ、なるほど!そういうことかぁ」

 疑問が解決してスッキリしたえりかが煎餅の袋を開けてぱくりと頬張った。
 その姿を微笑ましく見ながらお茶のおかわりを注いだつぼみがくるりと目を回した。

「…で、結局、小早川さんが倒れる前にやってた仕事は何だったんでしょうね?」
「うーん…『会社がモデル事務所や出版社も持っててマスコミとも連携してる』『僕が他人から注目を浴びて持て囃されるのが大 好きな人間だったら』発言からして、モデルとかレポーターとか、芸能関係じゃないかな?下積みをしに来たはずの新人が容姿の美しさを理由に先輩を差し置いて抜擢されて、そのせいで周囲から妬まれて人間関係がギスギスしてたとか」
「なるほど。そう考えると、コブラージャが『人の心は簡単に弱り傷つき、嫉妬や憎しみに染まり美しさのかけらもない』と言って目に見える美しさだけを追い求めていた理由も納得がいきますね」
「あれ?小早川さんってば、何の仕事をしてたのか結局言わなかった?」
「言わなかったですね。意図的に伏せてる感じでした」
「そうだね。あんまり言いたくないんだろうなって思ったから聞かなかったけど」
「何それぇ。隠されたら余計に気になるじゃーん。あーもー、気になる気になる気になるぅぅぅ!今すぐ知りたぁぁーーーーい!!」

 唇を尖らせてブーブー言ったえりかは、ふと名案を思いついた!という顔になった。
 怪訝そうな顔をするつぼみといつきにニヤリと笑い、えりかは悪魔のような顔で鞄を開けて小早川から預かった履歴書入りの封筒を取り出した。

「フッフッフ…私の求める答えがここに…」
「「それはダメ!!」」

 封筒の口を開けかけたえりかの手をつぼみといつきが慌てて押さえた。

「気になるのは分かるけど!凄くよく分かるけど!でもそれはダメ!」
「いつきの言う通りです!履歴書の覗き見なんてルール違反です!それを見ていいのはえりかのお母さんだけですっ!!」
「分かった分かった分かったよ、もう。二人とも真面目なんだからぁ。じゃ、今すぐ帰ってママにコレを渡して、小早川さんが何の仕事をしてたのかはママから教えてもらうよ。それならいいっしょ?」
「まぁ、それなら…」
「いい、かなぁ?」

 …そして。
 帰宅の途についたえりかは、ピッタリと隣についてくるつぼみといつきの姿に何とも言えない目線を向けた。

「あのさぁ…つぼみの家はうちの隣だから分かるとして、なんでいつきまでついてくるわけ?」
「えりかのことだから、帰る途中で『やっぱり気になる!』って言って履歴書を見ちゃうかもしれないだろ。そうなった時につぼみひとりじゃ止められないだろうから、保険のためだよ」
「とか言ってぇ。本当はいつきも知りたいんじゃないのぉ?」
「あはは、えりかが騒ぐのを聞いていたら僕も気になってきちゃって」
「いつきはコブラージャと結構深く関わってましたもんね」
「ま、隠されると気になるのは人の性だよねぇ。…ただいまー」

 えりかが家に入ると、陳列してある服の整頓をしていた母さくらがにこりと笑って顔を上げた。

「おかえり、えりか。つぼみちゃんといつきちゃんもいらっしゃい」
「こんにちわ」
「お邪魔します」
「早速だけど、ママ。デザイナー希望の人に会ってお喋りして履歴書も預かってきたよ。はいこれ」
「ありがと。…で、えりか的には印象どうだった?いい人そうだった?」
「日仏ハーフ帰国子女でフランス語ペラペラで超イケメンで、悪い人じゃなさそうだったよ。昔は何の仕事をしてたのかはハッキリ教えてくれなかったけど」
「ふぅん?どれどれ…」

 封筒を開けて履歴書に目を通したさくらは『あら?』と呟いて思案顔になった。
 しげしげと書類を見ながら思案顔をしている母の姿に、えりかも怪訝そうな顔になった。

「ママ?ひょっとして知ってる人だったの?」
「うーん…どこかで会ったような見たことがあるような…。…あ、パパ。ちょうどいいところに」
「ん?」

 ダンボールを抱えて二階から降りてきた流之介をさくらが呼び止めて履歴書を差し出した。

「お店の求人に応募してくれた人なんだけど、どこかで会ったような気がするけど思い出せないのよねぇ。ひょっとしたらパパの仕事で会った人かしら?」
「んんー?『小早川ジャクリーン』?…………。…あ、ひょっとして!」

 大声を出した流之介はダンボールを放り出してダッシュで家の奥に入って行き、数分後、雑誌を何冊か抱えて戻ってきた。
 突然どうしたの?と不思議そうにする女性陣に、流之介は女性向けのファッション雑誌を差し出した。

「思い出した思い出した!この人だろう、その、小早川君は!」
「あらっ」
「ん?」
「んん?」
「んんん?…って、ええーっ!?!?」

 差し出された雑誌を見てえりかは素っ頓狂な声を上げた。
 若い女性向けのファッション雑誌の表紙に『今、注目度赤丸急上昇中のニューフェイスモデル!』のキャッチコピーと共に並んで映っているのは、えりかの姉ももかと小早川だった。
 えりか、つぼみ、いつきは驚きで目を丸くしたまま雑誌をめくった。

「小早川ジャクリーンのプロフィールとインタビュー記事が載ってるのは…もも姉の後か。どれどれ?」
「日仏ハーフで帰国子女、英語とフランス語が得意。デザイナー志望で入社するが、モデル事務所に配属後、女性モデルの後輩役でモデルデビュー。その後、同 僚役、彼氏役をこなし、メンズファッション誌のメインモデルにも抜擢、類稀な容姿と愁いを帯びた表情の美しさが高く評価され一躍注目を浴びる。今後の活躍 が期待される注目度ナンバーワンの男性モデル…ですか」
「『将来の夢はファッションデザイナーになること。モデルの仕事をするとは思っていなかったので、毎日が戸惑いと驚きの連続です。先輩よりも大きな仕事を 任されたりして、正直、プレッシャーで目が回りそう(笑)。今は全てが勉強だと思って全力で取り組んでいます。悩みは、仕事が忙しくて友達に会う時間がな かなか取れないこと。違う業界にいる友達と居酒屋で一杯やりながらどうでもいい話をしたいなぁ』…か。事情を聞いてるせいかもしれないけど、モデルの仕事 に前向きって印象はあんまりないコメントだね」
「あーそうそう、思い出したわ。確かにこんなこと言ってたわねぇ、小早川君」

 さくらの言葉に三人は顔を上げて目を瞬いた。

「え?ママ、小早川さんに会ったことあるの?」
「ももかの人気が出始めるのと同じ時期に人気が出始めた人だったから、色々と気になってね。ももかの仕事ぶりを見に行った時とか、パパが忘れたお弁当を届けに行った時とかに少しだけ会って話をしたことがあるのよ。あ〜思い出してきたわ、何だか心配な子だったわねぇ」
「心配?」
「んー…何かこう、仕事に関して必要以上に思いつめてるって言うか、悩んでるって言うか…。この件に関してはパパに聞いた方がいいと思うわ。私よりパパの方が彼に会う機会が多かったし」
「うーむ」

 女性陣の注目を一身に集めた流之介は、腕を組んでしばらく考えてから口を開いた。

「僕はね、『初めて一緒に仕事をする人とは仕事の前におしゃべりする』というポリシーを持っているんだ。仕事相手の人となりを知ってこそ、その人が持つ魅 力を引き出せると思うからね。…で、小早川君に初めて会った時のことなんだけど。彼、人気上昇中のモデルなのに、スタジオの隅で浮かない顔をしてたんだよ ね。それで興味を引かれて、わざと軽いノリでこんにちわーって声を掛けて、『今日、一 緒に仕事をするカメラマンの来海です、よろしく〜!』って挨拶したら、彼、ローテンションで挨拶を返した後にすごく申し訳なさそうな顔でこう言ったん だよ。『来海さんなんて凄い方に撮影していただけるのに、こんな薄い反応ですいません。普通ここは、飛び上がって喜ぶところですよね』って。その反応に ますます興味を引かれて、思わず『君、モデルの仕事をやりたくてやってるわけじゃないの?』って聞いちゃったんだよ」
「うわ、ド直球な質問。さっすがパパ」
「それで?小早川さんは何て答えたんですか?」
「すっごいシドロモドロになりながら、『デザイナーを希望して今の会社に入ったので、予想外に華やかな部署に配属されて戸惑っている』みたいなことを言っていたなぁ」
「要するに、やりたくてやってるわけじゃなかったのね」
「それでますます気になって、話を聞いてみたんだけど…」

 顎に手を当てて記憶の糸を手繰りながら流之介は話を続けた。
 服飾デザイナーを志して専門の学校を卒業し、業界最大手の今の会社に就職したこと。希望の部署とは違う場所で下積みをすることは知っていたが、モデル事 務所に配属が決まって驚いたこと。『デザイナーとしてのセンスはいまひとつなので最前線の現場でセンスを磨いてきなさい。モデルとして名前が売れれば、そ れが付加価値となってデザイナーへの道も開けるかもしれない』と言う上司の言葉に納得して配属を受け入れたが、先輩を差し置いて目立つ役どころの仕事を与 えられて戸惑ったこと。自分のメイク係やスタイリストが先輩達で息苦しさを感じたこと。先輩や同僚からやっかみ混じりの皮肉や嫌味や陰口や、あることない こと言われて落ち込んだこと。一緒に頑張ろう、と言っていた友人達と疎遠になってしまったこと。『来海ももかは親の七光りで仕事を貰っているが、日仏ハー フの帰国子女って肩書と人並み以上の容姿を親から貰ったお前も同じようなものだ』と幾度となく言われたこと…

「『結局、重要なのは見た目の美しさで、中身は二の次三の次どころか必要ないのかな、とか思っちゃうこともあるんです』って悲しそうに笑っていたよ。小早 川君自身が一生懸命に夢に向かって頑張っているのは話してて伝わってきたし、彼の上司もそれを分かっていたから、『モデルとして人気を博してから知名度を 武器にデザイナーにスライド』と言う道を用意したんだろうけど、そんな色々な諸々が上手くかみ合わなかったんだろうね。後からいろんな人から話を聞いたん だけど、小早川君の成功を妬んだ人から理不尽な悪口を言われたり、根拠のない悪評を流されたこともあったようだし」
「そうなんだ…」

 以前、砂漠の使徒として戦う理由をキュアブロッサムに尋ねられたコブラージャは言っていた。
 人の心は簡単に弱り、すぐに嫉妬や憎しみに染まって美しさの欠片もない。だから世界には心なんて必要ない、と。
 彼があんなにも歪んだ理想を持ったのは、人間だった頃の辛い経験の裏返しだったのか。
 複雑な思いで雑誌のページをめくったえりかはふと手を止めた。
 ページの一面全部を使った小早川の写真。儚げな笑みを浮かべた彼が両腕で抱いているのはコブラージャの心の花、ハマナスの花束だ。その美しさに思わず嘆息して 見惚れ、ページの端に小さく『撮影:来海流之介』と記載されていることに気付いたえりかが父を見ると、ああ…と言って流之介が頷いた。

「ハマナスの花束を持って撮影しよう、と提案したのは僕だよ」
「ハマナスの花言葉は、『照り返る容色』『見栄えのよさ』『香り豊か』、そして…『美しい悲しみ』…」
「お、さすが花屋の娘さん。詳しいねぇ」
「パパ、ハマナスの花言葉を分かってて提案したの?」
「そうだよ。小早川君はとても美しかったけど、それが理由で悲しみを抱えることになってしまった。そして皮肉なことに、悲しんでいるその姿さえも美しいと言わ れてもてはやされて悩んでいることを分かってもらえず辛い思いもしていた。でもね、ハマナスには『幸せの誓い』という花言葉もある。美しさゆえに悲しいこと があったとしても、その先に幸せがあってほしいと思って、ハマナスの花束を持って撮影することを提案したんだよ。まさかそのしばらく後に倒れてしまうとは夢にも思わずにね」
「そう、なんだ」
「あー、随分と話が脱線してしまったけど、ママ。就職試験の審査はしっかり頼むよ」
「あらいけない、本来の用事をうっかり忘れるところだったわ」

 どこまで冗談でどこから本気か分からない顔で言いながら、さくらはもう一度小早川の履歴書に目を通してえりか達を見遣った。

「…小早川君を紹介してくれたのはいつきちゃんの友達だったわね?どんな人なのかしら?やっぱりお洒落が好きな人?」
「友達と言うか、僕の道場の門下生の人です。小早川さんとは全然違って『お洒落なんておなごと軟弱者のすることだ!男は拳と背中で語ればいいんじゃ!』ってタイプで、どうして小早川さんと仲が良いのか不思議なくらいキャラの方向性が違う人です」
「そうそう、ふたばちゃんの保育園の先生も小早川さんを紹介したいって言ってたらしいよ。つぼみのお母さんが言ってたって」
「道場の門下生と保育園の先生か。ファッション業界とは縁のなさそうなギョーカイの人ね。だから逆に小早川君とうまくやっていけてるのかしら。…………。よし、決めた!」
「何を?」
「小早川君の面接はグループでやります!」
「グループ面接?」
「…と、言うと?」
「私と一対一の面接だと小早川君も緊張するだろうし、良くも悪くも素の自分を出せないでしょ。だから、あんまり堅苦しくしないで、みんなでお喋りみたいな 雰囲気で面接をやりたいの。と言うわけで、面接官は私とパパとえりかとももかと、つぼみちゃんといつきちゃん。小早川君には、紹介してくれた友達を連れて 三人で来てもらうわ!で、面接官の皆の意見を聞いて合格判定が出たら改めて二次面接。これで行きましょう!そうと決まったら、パパとももかのスケジュール を確認しなくちゃ。ああ、それから小早川君の予定も聞かないと。連絡先は…ああ、ここに書いてあるわね」

 即断即決即実行で電話をかけ始めたさくらの姿にプリキュア三人組は顔を見合わせてクスリと笑った。
 …何だか、いろいろなことがうまく行きそうな、そんな予感がしていた。


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ハトプリ部屋 総合目次

 当サイトコブラージャの設定紹介と自分の頭の中を整理する意味合いの話になった二話目です。コブラージャメインの話です、と言いながら彼がチラとも出てこない話になりましたが(汗)。
 普段はナルシスト能天気キャラなのに心の花の花言葉は『美しい悲しみ』で『美しくない人の心など世界には必要ない』という理想を持ち、砂漠の使徒だった 頃は目立ちたがりだったのに悩みが解決して人間に戻った後は裏方の職に就いているという、ある意味で大きな矛盾を抱えたコブラージャを自分なりに解釈し出 した結論をこの話で明かしてみました。彼がフェアリードロップに就職する経緯に説得力を持たせるためと、彼の過去をスムーズに明かすために「来海夫妻は人 間だった頃のコブラージャ(小早川)と面識がある」という設定にしました。
 コブラージャの能天気ナルシーな部分は、素体になった小早川の「自分が、美しい容姿に絶対の自信があって美しい自分が大好きで前向きな人間だったら」と いう願望が極端な形で具現化したもの、と考えています。素の状態であのキャラの人が、ちょっと落ち着いたくらいで裏方の仕事に行くとは思えなかったので。 本編コブラージャと多少キャラが乖離してしまった自覚はあるのですが、これから少しずつ、話の進行と共にその溝を埋めていきたいと思っています。