| もしも、の話に興味はない。 起こり得たかも知れない別の歴史を幾ら語ったところで目の前の現実は変わらないからだ。 しかしいずれ訪れる未来を語る『もしも』なら語る異義はある。 …そう、例えば。 求め続けた究極の謎を喰った後の始末をどうするか。 アカネの髪を梳きながらヤコがふと言った。 「究極の謎を喰ったらネウロは魔界に帰るんでしょ?」 「恐らくな。我が脳髄の空腹が満たされれば、我が輩が地上に留まる意味もない」 「そしたらちょっと寂しくなるなぁ」 探偵役として使われることに不満を漏らしながら、いざお役御免となるとそれはそれで寂しいらしい。人間とは全く不可解な生き物だ。 ならばその寂しさすら感じないようにしてやろう。なまじ魔界生物と関わった情報が地上に流れても面倒だ、後始末はきちんとせねばなるまい。日本の諺で何と言ったか…ああ確か「立つ鳥後を濁さず」。なかなか言い得て妙ではないか。 「いらぬ心配だ。我が輩に関するあらゆる記憶を貴様から消してから魔界に帰ってやるからな、寂しいと言う感情すら貴様の中には残らん」 「…この間さ、ネウロが魔界に帰っちゃう夢を見たんだよね」 話が噛み合っていない。 いや、我が輩の言葉を聞いていなかったのか? ヤコは不思議に穏やかな顔で笑った。 「その時思ったんだ。私はネウロのことを忘れないって」 「魔界に帰る時は貴様の我が輩に関する記憶を消すと言っただろう」 「うん。それでも私は忘れないよ」 朝になれば太陽が東から昇るんだよ。 まるでそんな話をするように、絶対の自信を持ってヤコは言った。 「何をね、してもいいよ。きっと無駄だから。私は忘れない。絶対、アンタのこと忘れないから」 …これは幻だ。あるいはヤコが見たように我が輩も夢を見たのだ。 ほんの一瞬この胸を掠めた、記憶の中だけに互いを残して地上と魔界に別れるくらいなら、いっそ永遠に究極の謎など見つからない方がいいという想いは。 |