| 季節外れの雨。 降水確率50%って言ってたのに、と毒づきながら弥子は学生鞄を頭の上に乗せて走った。無論そんなもので雨がしのげるはずがなく、探偵事務所に着いた頃にはすっかり下着までぐしょ濡れになっていた。 ポタポタと前髪から雫を垂らしながらドアを開けるとネウロが何か言いかけて(多分いつものように『遅い』と言おうとしたのだろう)口を閉じ、不思議そうに首を傾げた。 「貴様、この雨の中傘もささずに来たのか。物好きだな」 「傘を持ってたらちゃんとさしてきたよ。持って行かなかっただけ」 「天気予報で雨が降ると言っていたではないか」 「50%だったし、降っても大したことないかなって」 「30%を超えたら降るという前提で行動するものだ、カタツムリが」 「………」 最早言い返す気にもなれない。弥子は事務所の片隅にある簡素な風呂場(お世辞にもバスルームなどという洒落た呼び方は似合わない)からバスタオルを出してごしごしと髪を拭いた。 こんなことなら着替えを置いておけばよかった、と今更になって思う。 不機嫌な顔でぐしょ濡れの髪や服を拭いている弥子を見ていたネウロがふと口を開いた。 「貴様、傘を持っていないなら何故我が輩に電話の一本も入れなかったのだ?」 「…だって、雨なんていつやむかわかんないし。傘を持ってないから雨がやむまで待って、って言ってもネウロは承知しないでしょ?」 「当然だ」 ネウロはケロリとした顔で頷く。 だったら電話しても意味ないじゃない。 心の中で弥子が呟くと、その考えを見透かしたようにネウロは続けた。 「雨がやむまで待つ気はないが、傘を持って貴様を迎えに行くのはやぶさかではないぞ」 「………」 意外すぎる言葉に弥子は体を拭く手を止めてネウロをまじまじと見つめた。 やぶさかではない…って、確か『喜んで致します』って意味だったよね? 不機嫌一色だった弥子の顔がぱぁっと綻んだ。 「え…ほんと?じゃあ、明日もし雨が降ったら傘を持って迎えに来てくれる?」 「明日の降水確率は60%だ。傘を忘れるなどと言う愚行を犯したら、事務所に足を踏み入れた瞬間に火炙りにするぞ」 「………」 …ほんの一瞬でもコイツの甘い言葉を信じた私が馬鹿だった! |