9月28日

 これは夢だ、と思った。
 昨日は徹夜で仕事で、夜がすっかり明けてからベッドに入ったから、夢なんかを。
 

 幽体離脱の視点…と言うのかな。俺は少し高いところから自分自身を見下ろしていた。
 幼い頃の自分。遠足の前の日の俺。

 自室の窓際に置いた机に座って、テルテル坊主を作っている。いらない布を丸めて白いハンカチで包んでぎゅっと縛る。マジックでヘのへのもへじの顔を描いて、そして。
 小学生の俺は窓を開けてテルテル坊主を「さかさまに」吊るした。

『明日は雨が降りますよぉーに』

 パンパンと手を叩いて真剣に願う。
 雨が降れば遠足は中止になって、普段通りに授業を受けて、給食の変わりにコンビニ弁当を食べて、それで終わる。
 あの頃は学校のイベントなんて大嫌いだった。
 母親お手製の弁当を嬉しそうに広げるクラスメイトが羨ましくて。
 その横でコンビニ弁当を食べる自分が惨めで。
 雨で中止になるものは全部中止になればいいと「フレフレ坊主」を作っては軒先に吊るしてた。


 学校のイベントだけじゃない、誕生日も、クリスマスも、バレンタインも、正月も嫌いだった。
 どれもこれも俺には無縁だったから。
 両親はネットゲームに夢中で、レアアイテムが手に入る仮想世界の記念日やイベントにしか興味がなかった。
 俺の誕生日には「ギルメン」の為にレアアイテムを探してダンジョンに潜りっぱなし。
 クリスマスにはジングルベルの流れる仮想世界でサンタクロースを追いかけ回してプレゼントを貰ってた。
 バレンタインは「食べると稀にレアアイテムが出るチョコ」を引き当てるために俺にも道具屋でチョコを買わせた。
 正月もコンビニ弁当とカップ麺を食べながら仮想世界で着物を着て「あけおめーことよろー」とか言ってた。
 


 だから。
 全部、全部、壊してやったんだ。
 


 そして……
 
 

「…………」

 目が覚めた。
 ああ、またあの夢を見てた。
 散らかった部屋の中でぶら下がっていた両親を見た日から今まで、数え切れないほど見てる。

 以前は夢には「続き」があった。
 学校の授業中にあのゲームをハッキングして、データを全部壊して、ワクワクしながら家に帰るんだ。そして俺は見る、うつろな目と融けた口でぶら下がってた両親を。
 夢の中で絶叫して目が覚めるとぐっしょりと汗をかいてて、罪の意識に苦しんでた。


 でも今は違う。
 たくさんの犯罪者を見て来た桂木が、『匪口さんは犯罪者じゃない』って言ってくれたから。
 


 ベッドから起き出して携帯を見ると、メールが3通届いてた。

『誕生日おめでとう!お祝いしたいから今日の6時頃に事務所に来てね。御馳走たくさん用意しておくよ!美和子さんの料理は本当においしいんだよ、ほっぺが落ちちゃうから!あ、何か食べたいものがあったら買って来てね!』
『今日が何の日か覚えているか?我が奴隷が貴様の記念日を口実にたらふく旨いものを食いたいそうだ。食事にありつきたければ約束の時間より早めに来るのだな』
『もう話は行ってると思うが、弥子ちゃんがお前の誕生日パーティーをしたいそうだ。俺らも招待されてるから、行く途中にお前のプレゼントも買って行くつもりだ。何か欲しいものが有れば早めに連絡しろ』

 差出人の名前は見なくても誰からのメールか分かる。
 ガラにもなく感動なんかしちゃったりして、誕生日を祝ってもらえることが嬉しかったりして、今日の俺は何だからしくない。
 約束の時間までは結構あったけど、俺は構わずに桂木の事務所に向かった。
 
 

『ハッピーバースディ』

 あなたが生まれて来てよかったと言う意味のこの言葉が

 こんなに欲しかったなんて。


END



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