Happy Birthday 2012

「刹那、明日は休 日だったよね。何か予定入ってる?」
「急なスケジュール変更だったからな、がら空きだ」
「じゃあさ、僕の部屋の模様替えを手伝ってくれないかな。一人だとついつい寄り道しちゃってなかなか終わらないんだ」

 親友ブラドに笑顔で拝む真似をされては断れず、ガデスやエミリオの横槍に噛みつきつつも刹那が快くその頼みを引き受けたのは、10月26日の朝食の席で のことだった。





 そして翌日10月27日。
 良く言えばシンプル、悪く言えば殺風景なブラドの部屋の模様替えは、さほど時間がかかることも無く終了した。模様替えと言うからには家具も動かすだろう し…と刹那は新品の軍手を用意してきたが、重力使いのブラドがいたので軍手の出番は全く無かった。

(人間だった頃の感覚がまだ抜けないか…)

 この場にガデスやエミリオがいなかったことに感謝しながら刹那が真っ白な軍手をゴミ箱に向かって放り投げると、描いた放物線の途中で軍手が制止して、有 り得ない軌道を描いてブラドの手の中に飛んで行った。
 彼はまっさらな軍手をしげしげと眺めて刹那に尋ねた。

「この軍手、新品でしょ?捨てちゃうなんて勿体ないよ」
「取っておいても使い道はないだろう?誰かの部屋の模様替えをするにしても、お前かガデスがいれば家具や重いものは楽に動かせるしな」
「じゃあ、僕が使うよ。花壇の手入れをする時にね」
「…ああ」
「ねぇ刹那。案外早く模様替えは終わったし、一緒に中庭に行かない?春に蒔いた種が花を咲かせたんだ」

 食べられもしない植物に特段の興味はないが、親友の誘いを拒否しない程度にはお人好しな刹那は、にこりと笑って頷いた。





 刹那を中庭につれて来るなり、ブラドは『お茶を淹れてくるから適当にその辺を見てて』と一方的に言って、刹那の返事も待たずに中庭の一角にある給湯室に 向かった。
 …何か企んでいるな。
 何を企んでいるかも薄々察しはつくがそこは敢えて気付かない振りをして、刹那は中庭の真ん中にある椅子に腰を降ろして花壇を見回した。彼の視線から隠れ るようにしてブラドが花を摘んでいるのも見て見ぬ振りをしてやる。
 待つことしばし。
 二人分のティーセットを乗せたにしては大き過ぎるトレイを持ってブラドが戻ってきた。トレイの上には飲み物のポットと二人分のティーカップとケーキ皿、 花束、そしてリボンの掛かった箱が乗っている。
 刹那がしれっとした顔でカップを取ろうと手を伸ばすと、ブラドがその手にリボンの掛かった箱を差し出した。片手では持てないので、仕方なく両手で受け 取ってわざと素知らぬ風に彼を見遣った。

「何だ?」
「刹那が開けてよ。ね?」
「…………」

 にこにこ笑いながらブラドがする頼み事は、どんな上官命令よりも拒否しづらい。
 刹那は仕方なくリボンをほどいて箱を開けた。
 …中に入っていたのは小さなバースデーケーキだった。色とりどりの果物が山盛りになったケーキには、『HappyBirthday』の文字が書かれた チョコのプレートと蝋燭が乗っている。
 刹那は無表情でケーキを見つめたまま、抑揚のない声で尋ねた。

「今日は誰かの誕生日だったか?」
「…分かってるくせに」
「…………」

 刹那は一度瞬きしてブラドに視線を向けてから、ふいっと明後日の方向に顔を向けた。

「それはこっちの台詞だ」
「…………」
「俺は、人間の身体を捨て、名前を捨て、過去を捨てて『刹那』になった。俺は刹那だ、それ以外の何物でもない。だから、俺の誕生日は今日じゃない」
「それは違うよ」
「…………」
「それは違うよ、刹那。『人工サイキッカー刹那』が誕生した日も、今日も、どちらも同じ『刹那が生まれた記念日』だよ」
「…………」
「僕は、君に、『人間だった自分』を忘れないでいて欲しいと思ってるんだ。身体や名前や過去を捨てても、人間だった時の記憶や感覚や感情は忘れないでいて 欲しい。僕達が世界を変える為に必要不可欠なそれは、このサイキッカー部隊の中で君しか持っていないものだから」

 …親友の顔に視線を戻せば、鮮やかな深紅が真摯な色に染まって煌めいていた。
 恐ろしいほど曇りの無い純粋な眼差し。時には狂気すら孕むこの純粋さ無くして世界は変えられないだろう。
 刹那は目を閉じて浅く息を吐いた。
 下手に突っぱねてはブラドの第二人格が出て来て面倒なことになるのは目に見えているし、せっかくの親友の好意を意固地に突っぱねるのも大人気ないだろ う。

「…分かった。お前がそう言うなら、有難く祝ってもらうとしよう」
「このケーキはクリスお勧めの人気店で買って来たんだ。すっごく美味しいらしいよ」
「それは楽しみだな」
「じゃあ刹那。改めて、誕生日おめでとう」
「フ…何だか照れくさいが、ありがとな」

 刹那は素直に礼を言って差し出された花束を受け取った。
 ブラドはにこりと笑って、じゃあ…と言ってポケットを探り、何ともきまり悪げな顔になった。
 バースデーケーキには蝋燭が立っているから火を付けて吹き消すのがお約束なのだが、どうやらこの様子だと彼は火を付ける道具を持ってくるのを忘れたらし い。そして刹那は煙草を吸わないのでマッチもライターも持っていない。ついでに給湯室はオール電化なのでコンロで火を付けると言うのも出来ない。

「おいブラド、ここまで含めて計画のうちか?」
「そ…そんなことないよ。おかしいなぁ、マッチを持って来たつもりだったんだけど…。ちょっと待ってて、マッチかライターを取ってくるから」

 刹那がわざとらしいジト目を向けると、ブラドが冷や汗をかきながら苦しい笑みを浮かべて立ち上がりかけた、その時。

「お?何だ何だお前ら!そんな美味そうなケーキ、二人だけで食うつもりだったのか、あァん?」
「全く、油断も隙もありゃしないね」

 コンビニの袋を提げたエミリオと咥え煙草のガデスが声をかけて来た。
 二人は断りも無く椅子に座ってコンビニの袋をテーブルに置くと、コンビニデザートのケーキやペットボトルのジュース、紙コップと紙皿を袋から出して並べ 始めた。

「…お前ら、一体何の用だ?それからこのコンビニケーキとジュースは何だ」
「何の用だって…お言葉だなオイ。今日は一応お前の誕生日だから、仲間として祝ってやろうと思ったんじゃねーか」
「コンビニのケーキで、か?」
「御大層なパーティーを企画してもどうせ文句言うだろ、刹那は。わざわざ気を使ってチープにしてやったんだよ、有難く思いなよ」

 チープにすると言っても限度があるだろう…とは思ったが。
 文句を言ったところで徒労に終わるのが分かり切っているし、ブラドが嬉しそうにニコニコしているので刹那は溜息をつくだけで終わらせてやることにする。
 ジュースのペットボトルを開けながらガデスが皆を見回した。

「一応誕生日だし、お約束の乾杯くらいすっか!」
「一応一応言い過ぎだ」
「乾杯の前に蝋燭の火を吹き消したら?」
「あ、そうだ!僕、火を付ける道具を取って来なきゃって思ってたんだ!ちょっと待ってて」
「わざわざ取って来なくても、ガデスがマッチかライターくらい持ってるだろう」
「あー?蝋燭付きバースデーケーキを用意しといて火を付ける道具を忘れたのかぁ?ったく相変わらずヌケてんなぁ…ちょっと待ってろよ」

 呆れたように言いながらポケットを探ったガデスが、『あれ?』と言う顔になった。ベストやズボンや、一通りのポケットを探して首をひねった彼は、にっこ りと笑ってポンと手を打った。

「あーそうだそうだ。丁度ライターのオイルが切れてよ、近くにいた炎のサイキッカーに火を貰ったんだった!これが最後の葉巻だったから、新しいのを買う時 にライターも一緒に買うつもりだったんだよ!」
「『つもりだったんだよ』じゃないだろ、クソオヤジ」
「要するに、火を付けられる道具は持っていない、と言う事だな」
「…僕、ひとっ走り行って来る」
「待て待て、早まるなブラド。要するに蝋燭に火さえ付きゃいいんだろ」

 そう言ってガデスは二カッと笑い、咥えていた葉巻を蝋燭に押し付けて火を付けた。
 せっかくのフルーツケーキが葉巻臭くなりそうだし灰が落ちたら台無しだ…と刹那とエミリオは顔をしかめたが、勿論ガデスはお構いなしである。蝋燭に火を 付けると実に満足げなドヤ顔で葉巻を咥え直した。

「んじゃそーゆー訳で!27歳おめっとさーん!」
「どういう訳か知らないけど一応祝ってやるよ。おめでと」
「おめでとう、刹那!」

 ブラドがにこにこしながら拍手して、わざとらしい苦笑を浮かべたガデスと無表情のエミリオも手を叩いた。
 刹那はブラドだけを見遣って口元に笑みを浮かべた。

「ありがとな、ブラド。来年のお前の誕生日はちゃんと祝うから、楽しみにしててくれ」
「うわぁ、ありがと!今から待ち遠しいなぁ」
「え?ブラドだけ?俺の誕生日は?」
「僕の誕生日もちゃんと祝ってくれるんだろうね」

 ガデスとエミリオのツッコミは意図的に無視して、刹那は蝋燭の火を吹き消した。
 言われなくとも祝ってやるさ、コンビニのケーキとペットボトルのジュースでな…と思いながら。


     END    


サイキ部屋
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 10月27日は刹那の日!という企画があると聞いて、企画があれば乗っとけ乗っとけ!という感じで書いた刹那誕生日SSです。すっかり星矢に染まった脳 味噌でも書こうと思えばかけるもんだ!私にしては短めな話になりましたが、読む方にしてみたらこのくらいでちょうどいいのかも?
 そしてウォンが出てなくてすいません(><) 色々と考えてみたのですがどこにどう入れればいいかわかんなかったですorz