| 実験したいことがあるからとクリスから呼び出しがかかったのはそれから暫くしてのことだった。 しかも何故か、呼び出さた先は研究棟ではなく屋外プールだ。頭の上にクエスチョンマークを付けたまま姿を見せた刹那に、クリスは満面の笑みを見せた。無論…と言うべきか、ブラドと栞も一緒にいた。 ちなみに、何やら面白そうだと察してガデスとエミリオも同行していたので、何気に軍のメインメンバーが揃っていた。 「プールに呼び出して何を実験する気だ?」 怪訝そうに尋ねる刹那に、クリスは野菜ジュースの様な液体が入ったコップを差し出した。 「これ、飲んで」 「……………」 何だか物凄ーーーーーく嫌な予感がする。 クリスの屈託のない笑顔が、ウォンの微笑みより危険に見えて来た。 胡散臭げな顔をしている刹那にブラドが言った。 「大丈夫、そんな不味くはないはずだから」 「『はず』って何だ。第一これは何だ。そもそも何が大丈夫なんだ」 「んーとね、分かりやすく言うと『ゴムゴムの実』のジュース」 「………………は?」 「どうやらクリス殿とブラド殿は大真面目に刹那殿に『ゴムゴムの実の能力』をつけようとなさったようです」 栞が分かりやすく解説してくれたがむしろ分かりたくないと刹那は思った。 そしてあの訳の分からんジュースを飲むのを拒否するのは出来ないだろうと言うことも同時に察した。 クリスとブラドは開発者として自分の作ったものに自信を持っているだろうし、ガデスとエミリオはこんな面白そうなことを止めさせるはずがない。 ゴムゴムの実を食べたらどうなるんだなどと口走ってしまったことを果てしなく後悔したがもう遅い。 27年と少し。 短い一生だったな。 そんなことを思いながら観念してコップを受け取った。 「え、飲むの?お腹壊す程度じゃすまないかもよ?」 「すげぇ勇気あるな。見直したぜ」 さすがのエミリオとガデスも驚いたが、クリスは平然としている。 「大丈夫、ちゃんとマウスで実験したから。どれも死んでないわ」 「それは『大丈夫』と言うのか?」 「何かあったらちゃんと直してあげるわ。安心して」 「クリス…今『治す』じゃなくて『直す』って言っただろう」 目の前のマッドサイエンティストを睨み付けて、刹那はコップに口を付けた。 不味くは…ない。飲むカロリーメイトのような味だ。 皆の注目を一身に浴びながら一気に飲み干した。もう開き直りである。 「……………」 「どう?」 「どうと言われても…」 特に腹は痛くないが。 そう思っていると、やおらガデスに腕を引っ張られた。 ぎゅーっ。 「いでででで!」 「何だよ、伸びねぇじゃねーか」 「え、失敗?」 「他人が引っ張ってものびないわよ、マウスの手足も伸びなかったもの」 「そう言うことは先に言え!」 突っ込むポイントが根本的に違うと思いながら刹那はクリスに突っ込みを入れた。 「じゃあどうやったら伸びるのさ」 エミリオが真顔で尋ねた。 何かもう色々と突っ込みたいがキリがないので早々に諦めた。こう見えて刹那は無駄な努力はしない主義である。 エミリオの質問に答えたのはブラドだった。 「気合いかな」 前言撤回。 やっぱり突っ込んでいいか。 そう思った時、刹那より先にガデスが突っ込んだ。 「何じゃそりゃ」 「ルフィみたいに、気合いいれて『ゴムゴムの銃!』って技の名前叫びながら腕を伸ばしてみて」 「……………」 刹那が目眩を感じた原因は、真夏の暑さだけではなかっただろう。 そりゃ子供の頃はそういう遊びもした。友達と一緒にかめはめ波のポーズをとったこともある。 自分が大人気ないと言う自覚はあるが、流石にこの歳でごっこ遊びは勘弁して欲しい。 無駄な努力に終わる予感がビシビシするが取りあえず抗議してみる。 「ブラド」 「何?」 「俺も一応、『羞恥心』と言うものを持っているんだが」 「刹那。こんな些細なことで恥ずかしがってたら、可能性の壁は越えられないよ」 「いや、あのな」 ぽん。 実に同情に満ちた顔と手付きでガデスが刹那の肩を叩いた。 ぎゅっ。 果てしない哀れみのこもった眼でエミリオが刹那の手を握った。 そして二人は、戦争に赴く家族を見るような眼ですちゃっと敬礼した。 はぁぁぁぁ。 地獄の底まで届きそうなため息をついて、刹那は色々な心のスイッチを全部オフにした。 栞が両手をぎゅっと握って刹那を見上げた。 「刹那殿、ご武運を!」 「いらん」 すーはー。 深呼吸して、 「ゴムゴムの、銃!」 右手を突き出してみた。 「……………」 「……………」 「…伸びねぇな」 「失敗かな」 「気合いが足りないんじゃ」 「おかしいわね」 おかしくない。 つか別の意味でおかしいだろう。いいトシした大人がワンピースごっこ(しかも一人で)なんて。 誰も笑わなかったのが救いのような逆にいたたまれないような気分で刹那は顔を赤くした。 恥ずかしいったらありゃしない。 「所詮は漫画だろうが」 「理論上は伸びるはずなんだけど…」 「やっぱ気合い不足か」 「もうルフィごっこは嫌だからな、俺は!」 「再チャレンジの前によ、悪魔の実の能力がちゃんと発動してるのか確認しようぜ。それを想定してプールに呼んだんだろ?」 「そうね、そっちが先かしら」 「…確認?」 嫌な予感がした。 ちなみに、プールに呼び出されたとは言え刹那は水着など着ていない。黒のノースリーブにブルージーンズ、総額幾らか考えたくもない高級品のブラドブランドのシルバーアクセじゃらじゃらという普段着だ。 クリスは至って真剣な顔を刹那に向けた。 「悪魔の実の能力者はカナヅチになるのよね」 「おい…」 「いっちょ試してみるか。刹那がカナヅチになってたら腕が伸びなかったのは気合い不足でFAだ」 「ふざけ…がっ!」 べしょ。 抗議しようとした途端、身体に凄まじい重力がかかって刹那は床に押し潰された。 ガデスがその身体を掴んで持ち上げた。 「待たんか貴様ぁぁ!!!」 「おーらよっと!」 どっぱーん!! ガデスに派手に放り投げられてプールに水柱が立った。 「せ、刹那殿ーーっ!」 心配してプールサイドに駆け寄ったのは栞だけ。 残りの皆は刹那が浮くか沈むかじーっと見ていた。死ぬことはないだろうと思っているとは言え、結構薄情である。 ごぼごぼ…ざばーっ! 何やら擬音が多いが、何が起きたかその辺は話の流れで想像して頂きたい。 プールに投げ落とされた刹那は普通に(?)サイキックパワーで空を飛んで水から出て来た。 「つーか、サイキッカーなんだからそうなるわな」 「結局泳げたの?泳げなかったの?」 「判断つかないわね」 「つかないけど、泳いでみてとは言えないねぇ」 のほほん、とブラドが言った。 散々な目に逢ったせいで刹那は滅茶苦茶怒っている。無理もないが。 「ガデス、貴様な…!」 「え、俺?」 「刹那の脳味噌だからね。直前のことしか覚えてないんじゃないの」 「ジュース飲ませたクリスでもなくルフィごっこさせたブラドでもなくプールに投げ込んだ俺に怒ってんの?」 「普段が普段だからじゃない?」 「えー」 ガデスは肩を竦めて。 「八つ当たりされるなんて御免だからな、刹那の怒りが収まるまで隠れてるとするか」 「逃がすかぁぁ!」 「とっておきだぜぇぇ!(←→→強)」 刹那が殴り掛かって来ると同時にガデスはグラビティ∞を発動した。 ごごごごごご。 重力に引っ張られて間合いが離れ、ガデスがにやりとした時、刹那がヤケクソで叫んだ。 「ゴムゴムの、銃ーーーーーっ!!」 その瞬間。 普通ならボタンを押したら絶対ショット技が出る間合いで、刹那の手がガデスに届いた。 がしっ、ガデスの胸倉を掴んだ手が伸びた反動で一気に戻る。 「なんじゃこりゃぁぁぁ!!」 「えええええーっ!?」 「嘘!」 ガデスもブラドもエミリオもびっくりしていたが、当の刹那が一番びっくりしていて、飛んで来る色々なものに気付かなかった。 ごん。 実に小気味いい音がしてプールサイドにあったパラソルが刹那に当たり、その拍子にガデスを掴んでいた手が離れ、ガデスがほっとしたのもつかの間、 がん。 プールの注意書きを書いた看板がガデスに当たり。 どぱーん。 派手な水柱が二つ上がった。 「せせせせせ刹那殿ーーーーっ!」 プールサイドにへばりついた栞が心配するのは刹那だけ。 まぁ、27歳イケメンと33歳筋肉オヤジ、13歳乙女がどっちを心配するか考えるまでもない。 ざばっ。 しばらくして刹那とガデスが水面に顔を出した。 2度もプールに落ちたせいで流石の刹那も頭が冷めたらしい。いや、さっきのあり得ない現象のせいか。 普通に泳いでプールから上がって来た。 クリスが目をぱちぱちさせた。 「普通に泳げてる、わね」 「そうだな」 「でもさっき、あなたの手が伸びたような…」 「伸びてたよなぁ」 「やっぱり、気合い?」 「………」 「………」 彼らは複雑な顔を見合わせた。 これだけの人数がいて、皆同じ現象を見たのだから錯覚と言うのはないだろう。 と、いうことは…。 ブラドが刹那を見て、皆が思っていることを言った。 「もう一回、やってみる?」 「それが確実かな」 「もう無理じゃないか?さっき落ちた時に大分水を飲んだ勢いで胃の中のものを大分吐いたし…」 「じゃあもう1回あのジュース飲んでみるとか」 「それは駄目」 クリスが首を振った。 「一度飲むと耐性ができて、二度と効果は出ないの」 「壮絶な一発芸だった訳か」 「あーあ、残念」 「そう思うならエミリオ、お前が飲んだらどうだ?」 「え、僕?」 一斉に注目を浴びて、エミリオは一歩後ずさった。 「な…何、バカなこと言ってるんだよ。あれは生粋のサイキッカーには効果ないんだろ?」 「やってみないと分からないよ」 「エミリオの研究データも保存してあるし、今回の結果を研究すればより良い結果が出せるかも…」 「そういえばルフィの年令は17らしいから、年齢的にも近いな」 「結構イケるんじゃねぇか?」 「ちょ…」 大人達は真顔で話している。 冗談じゃない! ここは何としても逃げないと。 大人達を見ながらバックダッシュしてエミリオは両手を広げた。 「光よ!(←→→強)」 大人達に気を取られる余り、後ろを見ないままエミリオはアークエンゼルを発動した。 咄嗟にブラドはクリスを、刹那は栞を庇ってバリアガードを張ろうとして、同時にガデスがエミリオを止めようと突っ込んで来たその時。 「なんでやねん!(追加入力:→→弱)」 いつの間にか栞が設置していた連炎符から鬼の脚が飛び出してエミリオを背後から蹴飛ばした。アークエンゼル、発動失敗。すかさずガデスが吹っ飛んで来たエミリオを掴み上げ急上昇した。 さっきのグラビティ∞でプールに落ちたパラソルや看板も一緒に上空に持ち上げて、エミリオをプールに叩き落とした。 「受けとりなぁ!(レバー1回転+弱)」 どぱーん、どぱどぱどぱどぱーん!! 水柱が幾つも上がった。 飛び散る水でブラドもクリスも栞も派手に水を被った。刹那?彼はもう既にぐしょ濡れなのであまり変化はない。 見事なコンボを決めたガデスが鼻歌まじりに降りて来ると、さっきの刹那に負けず劣らず怒り心頭のエミリオがプールから出て来た。 「痛いなぁ…痛いよ…」 「ガハハハ!遠慮するなよエミリオ!お前もゴム人間…いや、ゴムサイキッカーになろうぜ!」 どこがどう遠慮なのか不明だが、ガデスが親指を立ててぐっ!とキメたが、エミリオの返答はプリズムシールだった。 「砕けろぉ!(←↓→強)」 「うがぁ!何しやがる!」 「死んでしまえ!」 乱闘を始めた二人に微妙な視線を向けて。 「…戻るか」 「そうですね」 「あ、アイス最中を買ってあるんだ」 「4個しか残ってなかったからちょうどいいわね」 彼女(?)持ちの野郎二人はそれぞれのパートナーを同伴して戻って行った。 ちなみに、ガデスもエミリオも結界を張らずに戦ったせいで、サイキッカー部隊のプールが今年の夏は使用不可能になってしまったが、その修理代を誰が出すのか揉めたのも含めて、それはまた別の話である。 |
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