| 「刹那、ちょっと手を見せて」 ブラドが突然そんなことを言ったのは、いつも通りのサイキッカー部隊幹部の会議がいつも通りに終わり、ガデスとエミリオが早々に部屋を出ようと立ち上がった時だった。 怪訝そうな顔をする刹那にブラドはにっこり笑って手を差し出し、エミリオとガデスは御丁寧に椅子に座り直した。 「…手?」 「手」 手相占いでもする気だろうか。 言われるまま手の平を上にして差し出すと、いきなりその手をひっくり返された。 「おい…」 「やっぱり!刹那、手が綺麗だよね。手って言うより指かな。爪の形も整ってるし、銃ばっかり扱ってたとは思えないなぁ」 「…………」 ブラドは刹那の手をしげしげ眺め、指を引っ張り、爪を摘んだ。 彼の行動もだが、エミリオとガデスの微妙な視線が滅茶苦茶痛い。 相手が普通の男なら即座に蹴り倒して全力で逃げるのだが、相手は筋金入りの天然大魔王(大王ではなく大『魔』王なのがポイントだ)ブラド様だ。 寛大にも1分ほど我慢した。 「…で、何なんだ」 「あ、ごめんごめん。説明がまだだったね」 ブラドは刹那の手を両手で捕まえたままにっこり笑った。 もういいだろう、離せ。 そっと手を引いたが離してくれない。 「刹那、モデルになってよ」 「…………。は?」 追加説明を待ったが何もない。 「いいでしょ?」 「待て」 流石に突っ込んだ。 ブラドはきょとんとしている。 ようやく彼の手を振払って刹那はもう一度尋ねた。 「俺の手とモデルと何の関係があるんだ」 「刹那に手タレになれってことか?」 「秘密兵器の刹那にモデルって何?」 3人に続けて説明を求められ、ブラドはようやく最初から説明を始めた。 「皆、僕が宝石デザイナーやってるのは知ってるよね」 「結構有名らしいな」 「年令とわず女に大人気らしいぞ、キルステンブランドは」 「そそ。今までは女性向けのアクセサリーばっかりデザインしてたんだけど、男性向けジャンルにも進出することになってね」 「そういえばこの間のワイドショーで話題になってた。キルステンブランドが『オトナの男×シルバーアクセ』ってコンセプトで新ジャンル作るから大注目!とかって」 「エミリオお前、ワイドショーなんて見てるのか」 「うるさいよ」 「…で、新しいジャンルに進出する時は、そのジャンル専用のモデルとかイメージキャラクターを用意するんだ」 「ふんふん」 「今回も、プロのモデルさんとか、芸能人とか、色々探してみたんだけどいまいち『この人だ!』ってピンと来る人がいなくて困ってたんだけど」 「へー」 「ふっと気が付いたんだ、刹那ならイメージぴったりだ!って」 「……………………」 嬉しそうに語るブラドに3人は目と目で会話した。 さーて、どこから突っ込もうか。 誰から突っ込む? お前行けよ。俺は2番目に行くから。 そんな会話に気付くはずもないブラドは嬉しそうに爆弾を落とした。 「あ、そうそう何も心配はいらないよ」 「何が」 「少将の許可は取ったから」 突っ込む前に突っ込み返された。 つか。 「許可取ったって何だ」 「刹那がお前のブランドのイメージキャラかモデルで世間に顔を出すことに、少将がOK出したってのか?」 「うん」 「どこの少将?」 「ここの基地のに決まってるじゃない」 「つーか秘密兵器のツラを一般公開してどうするんだよ」 「ブランドのモデルやる人が秘密兵器なんて誰も思わないから構わないってさ」 「いや、それは…」 「むしろ軍のイメージアップのために頑張れって言ってたよ」 「マジか…」 「って、言う訳だからさ」 ブラドは刹那の手を握り直して言った。 「いいでしょ?」 本当に本気でマジだったのか。 出来上がったポスターとパンフレットを見せられて、3人は思った。 『オトナの男×シルバーアクセ』のキャッチコピーと、ブラドがデザインしたシルバーアクセサリーと、素材の良さは文句無しの刹那をプロがとった写真が組み合わさったそれは、ファッションに興味のない彼らが見ても相当なセンスを感じさせた。 一言で言えば『ものすげぇカッコイイ』のだ。 ブラドは実に嬉しそうに報告した。 「刹那のおかげですっごく評判よくてね。パンフレットで刹那がつけてたアクセは予約で完売で、このポスターとか非売品なんだけど、お店に『ポスター売ってくれないんですか』って問い合わせが殺到してるんだって。ネットオークションとかに出ると物凄い値段ついてるらしいよ」 「…ちょっとした芸能人並みだな…」 「ちょっと待て、この指輪がこんな値段するのか!?」 パンフレットに紹介されている指輪の値段は、一兵士の月給よりも高い。 ブラドに『イメージが浮かびやすいからできるだけいつもつけてて』と渡されるまま、刹那はいくつもアクセサリーをつけていたが、自分がつけているアイテムを全部足すと幾らになるのか考えかけて恐くなった。 「ん?これは安い方だけど」 「これが安いのか」 「今刹那が右手の人さし指につけてるそれは、この指輪の倍の値段、するし」 「何!」 「お前、そんな高級品くっつけたまま戦闘訓練やったり飯食ったりしてたのか…」 思わず外そうとしたら、ブラドに止められた。 「いいよいいよ、気にしないで」 「いや気にするだろ…」 「刹那がそうやって僕のアクセつけてるのを見るのが新作のデザイン考えるいい刺激になるんだから。汚れたらちゃんとプロにクリーニングしてもらうし大丈夫」 「指輪、3500ドル。チョーカー、3200ドル。バングル、5000ドル。二人の友情、プライスレス」 エミリオがパンフレットを見ながら淡々と言った。 「どこのCMだ」 「刹那のギャラ、一体いくらなんだよ…」 「あくまでも『友情出演』扱いだからな、タダだ」 「うん、そういうことになってるね」 「『なってる』?」 「さすがにノーギャラはまずいと思って、規定の報酬、こっそり刹那の口座に振り込んでる」 「…………」 刹那は近くにあったパソコンを立ち上げて、ネット口座の残高を調べた。 …桁が大きすぎていくらあるのか分からなかった(ガデスが『俺ら、仲間だよな』とガッシリ肩を抱いたが無視した)。 「ああ、それからね」 「まだ何かあるのか」 「刹那、TVに出るから」 「………………………」 「ちょっと待て」 「大丈夫、少将の許可は取ったから」 「俺は全く身に覚えがないが」 「正確にはね、TVで僕のブランドが特集されて、そこで刹那出演のCMが流れるの」 「いつ撮ったんだ」 「雑誌用の写真撮影の待ち時間に刹那がヘッドフォンで音楽聞きながら何か歌ってたからそれを隠し撮りした」 「ちょ、おま」 「な……」 「あ、時間だ」 抗議しようとした途端、ブラドがTVをつけてチャンネルを合わせた。 何となく見覚えのある司会者が映った。 『皆さんこんにちわー!今日の特集は、話題沸騰の大人気ブランド、キルステンブランドのシルバーアクセです!』 『本名素性一切謎のイメージキャラ刹那さんの秘密にも迫りまーす!』 「…………」 「おい秘密兵器さんよ、秘密に迫られてるけど?」 「大丈夫、『僕の友達』ってことしか明かしてないから」 思考回路停止状態で刹那は番組を見ていた。 キルステンブランドの人気商品とか(ポスターやパンフレットで刹那が付けたものは凄い人気らしい)、名前以外全部秘密の上にめちゃくちゃカッコイイ刹那 は若い女性に大人気とか(ガデスがものすごく羨ましそうにしていた)、軍のショッピングモール内にキルステンブランドの直営店ができるとか(軍関係者しか 入れないのに誰が買いに来るんだ?)、そんな映像が流れて、司会者が画面に映った。 『CMの後は、謎のベールに包まれた刹那さんの正体を教えて下さる方が登場です!』 ブラドの顔を見ると、彼もきょとんとしていた。 「おい、ブラドの友達って事しか明かしてないんじゃなかったのか?」 「うん、僕もこれは知らない」 「どうせ『昔の友達』とか適当な人連れて来るんじゃないの」 「そういうの絶対しないでって頼んだんだけど…」 CM明けに画面に映った人物に、皆が絶句した。 …少将だ。 マイクを握ったレポーターが横から画面に割り込んだ。 『なんと!その方とは国軍○○基地の将軍です!早速お話を伺ってみましょう!将軍!話題の刹那さんはこちらの基地の軍人さんと聞きましたが?』 『そうです。私の有能な部下で、現在は中尉の地位におります』 『軍人の方がアクセサリーのモデルと言うのは珍しいと思いますが…』 『そうですね。私も最初は驚いたのですが、彼の親友でもあるキルステン氏の熱意に負けて、まぁ写真だけならと』 『なるほどー。では視聴者の方から頂いた質問をぶつけてみましょう!刹那さんの本名は?』 『軍事機密です』 『年令は?』 『軍事機密です』 『血液型は?』 『軍事機密です』 『好きな女性のタイプは?』 『軍事機密です』 『家族構成は?』 『軍事機密です』 『誕生日は?』 『軍事機密です』 『要するにお名前以外は全部…』 『軍事機密です』 『…と、いうことです。将軍、ありがとうございましたー!』 画面がスタジオに切り替わり、コメンテーター達が『結局全部秘密じゃないですかー』『そうなんですよー』などとコメントを飛ばしている。 TVの前でフリーズしていた4人はようやく動きだした。 「少将、だったね…」 「嬉しそうだったな…」 「普段TVに出る時はバッシング受ける時だもんね」 「……………」 「まぁ…これで終わりみたいだし…」 「あれ、刹那が出るCMは?」 エミリオがそう言った直後。 『ではでは世界初披露、キルステンブランド・オトナの男×シルバーアクセのCMを御覧下さい!歌う刹那さん、必見です!』 画面が切り替わった。 映っているのはスタジオの袖、機材がむき出しに置いてあり、壁際に置かれた脚立に腰を下ろしてヘッドフォンで音楽を聞いている刹那が映った。 「やめろぉぉぉ」 思わず頭を抱えた。 カメラがズームすると、ヘッドフォンを押さえた指に嵌まった指輪、手首のバングル、微かに唇を動かして歌っている横顔が映った。マイクはあからさまに近付けなかったのだろう、声はあまり綺麗に取れていなかったが、逆にそれがCMとして効果的な演出になっていた。 サビの部分で刹那はヘッドフォンを押さえていた腕を片方だけ立てた膝に乗せた。首から下げた鎖のネックレスと十字架のモチーフ、手首のバングルが天井の照明を反射してキラリと光った。 そこでスタジオに呼ばれたのだろう、脚立を降りる刹那の姿に『オトナの男×シルバーアクセ・キルステンブランド』の文字が重なった。 打ち合わせでは出来ない、自然な、しかしアピールする部分はしっかりアピールした完璧な出来だった。 「わー、予想以上にカッコいい!大人気間違い無しだね、刹那!」 ひとりはしゃいでいるのはブラドだけ。 空気が抜けてしまった刹那はテーブルに倒れ込んでひしゃげている。 そらそうだ、ヘッドフォンで音楽聞きながら歌ってるところなんて見られるだけでも嫌なのに隠し撮りされて全国放送されちゃな。 ガデスとエミリオは同情に溢れた手付きで刹那の肩を叩いた。 「うん、そう、カッコよかったぞ、確かに」 「刹那、歌うまいじゃん」 「このCM以上に度胆抜かれることなんて、今後はもうねぇよ」 「そそ。今が山だって」 二人がひしゃげた刹那にせっせと空気を入れているのに。 ワイドショーの司会がせっかく入れた空気を抜くような発言をした。 『さてここで、先ほどの将軍から重大なお知らせです!』 今度は何だ。 心配げな視線の先で、再度少将とリポーターが画面に映った。 『来月の1日から10日まで、基地でイベントを行います。一般の方も事前に手続きをすれば基地内に入れますのでどんどんお越し下さい』 『…と、言うことはひょっとしたら刹那さんにも会えるかもしれないんですか!?』 『そうですね、上官命令で必ず基地のどこかにいるようにしますので』 「するなぁぁぁ!!」 思わずTVの少将に突っ込んだ。 『彼の仲間も一緒にバンドの練習でもさせて、コンサートでも開こうかと思ってるんです』 「待てやオッサン!」 「ちょ…僕も!?」 「バンドって、4人で足りるのかなぁ?ウォンも入るの?」 「「「問題はそこじゃなーーーーい!!!」」」 3人一緒に突っ込んだ時。 「おや皆さんお揃いで。しかもちょうど良くその番組を見ていましたか」 ウォンがにこやかな顔で入って来た。 「少将からの命令を伝えに来ましたよ。あ、私は頭数に入ってませんから御安心を」 「あ、俺、これから武者修行の旅に行って来ますわ」 「僕は両親の墓参りにロシアまで」 「俺もちょっと早いけど影高野の壊滅行って来ます」 3人が同時に立ち上がった時、ウォンは両手を広げた。 「時よ!」 …気が付いた時、3人のポケットには、少将直筆の命令書が入っていたらしい。 |
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