| 双子神達を見
送ったハーデスは、月と氷の女神ヘカーテを同伴して冥府の最深部へ降りて来ていた。 冥王ハーデス、死の神タナトス、眠りの神ヒュプノスの誰かの神殿最奥にある専用通路を通らなければ訪れることが出来ないその場所は、双子神の伯父エレボ スが管轄する闇の世界に繋がっている。冥王ハーデスですら滅多な事では足を踏み入れない、夜の一族の影響力が強く及ぶ領域だ。 ゆっくりと階段を下るハーデスの後を、らしくも無く真顔で口を噤んだヘカーテがついて行く。 ひたり…。 果ての見えない闇の中に朧な光が淡く流れる場所に着いた冥王は足をとめた。ヘカーテは己の小宇宙を凝縮させて椅子を具現化すると、無言のままハーデスに 腰を降ろすよう促した。 目線で感謝を伝えながら冥王が椅子に腰を降ろして待つことしばし。 淡い光のふたつが輝きを増して大きくなり、ハーデスとヘカーテの前にふわりと飛んでくるとそれぞれが人の形を為した。 穏やかな顔立ちの長髪の老人と、精悍な顔立ちをした青い髪の若い男…二百数十年前の聖戦において、己の命と引き換えに死の神タナトスを封印し、神の道で 散った教皇セージと蟹座の黄金聖闘士マニゴルドだ。 光がきちんと人のかたちを為したことにハーデスが満足そうに微笑むと、二人は事情を理解しかねる顔で二神を見遣った。 冥王は一度瞬きして鷹揚に口を開いた。 「余は、冥王ハーデスである」 「……………」 「今日は、そなたらに用事があって来た。魂の修復が終わっていなければ出直そうと思っていたが、どうやら無駄足にならずに済んだ様だな」 「…お目にかかれて光栄でございます、冥王ハーデスよ」 「……………」 教皇セージは事情が呑み込めないながらも礼に適った会釈をしたが、マニゴルドは無言のままハーデスとヘカーテをじろじろと睨みつけている。 その態度にヘカーテの機嫌がみるみる悪くなるのを見て、セージは穏やかに言葉を続けた。 「して、冥王自らがアテナの聖闘士である我々に用事とは…一体どのような?先程おっしゃっていた『魂の修復』と関係があると言う事は察しがつきますが」 「そうだな…まずは冥府の存在意義を説明した方が理解が早かろうか。そなたら、冥府が何のために存在しているか知っているか?」 「死者を罰するため、と認識しておりますが」 「その通りだ。しかし冥府の役目はそれだけではない。死者となった魂に生前の罪に応じた罰を与え、罪を償った者に新たな命と運命を与え送り出すのもまた冥 府の役目。仮に魂が砕け散ったとて例外扱いはせぬ」 「…つまり私とマニゴルドは、コキュートス行きの罰を与えられる為に魂を修復されていたということでしょうか」 セージの問いにハーデスが浅く顎を引くと、マニゴルドがそっぽを向いてボソリと吐き捨てた。 良い趣味してやがるぜ。 それ聞いたヘカーテが周囲の空気を凍えさせ始めたが、ハーデスは穏やかに彼女を制した。 「左様。そなたらの魂を修復した最初の目的はそれであった」 「…と、おっしゃいますと?」 「ここは冥府の最深部ではあるが冥府と切り離されているわけではない。二十数年前の聖戦で何が起こったかは、この場所にいても分かったであろう?」 「………。あなたと、あなたの臣下である双子神の小宇宙が急激に小さくなり、コキュートスに囚われていた大勢の同胞達の魂が遠ざかって行くのを感じました が、具体的なことまでは」 セージが慎重に言葉を選んで答えると、冥王は静かに笑んで、『最後の聖戦』で何があったか、そして今の冥界と聖域はどうなっているかを簡潔に話した。 …話を聞き終わったセージとマニゴルドはそっと顔を見合わせた。 客観的な状況はおぼろげに把握できたが、冥王自らがわざわざ自分達を訪ねて来た理由は分からないままだ。 そんなふたりを見てハーデスはクスリと笑い、本題を切り出した。 「前置きが長くなったが、ここからが本題だ」 「…………」 「先程説明した通り、そなたらの魂を修復した当初の理由は罰を与える為であった。しかし先の聖戦までに命を落とした聖闘士は新たな命となり、此度の聖戦で 命を落とした聖闘士は女神ニュクスの力で地上に蘇った。そうなると、そなたらふたりだけが罰を与えられコキュートスに堕とされるのは不公平になろう?」 「…………」 「…へ?」 「そこで、余はそなたらに選択肢を与えようと思う。新たな命となって生まれ変わるか、その魂のままこの時代に蘇るか。どちらか好きな道を選ぶが良い」 「…………」 思いもよらぬ冥王の言葉に二人はただ驚き沈黙していたが、冥王の無言の促しにセージは穏やかに目元を和ませた。 「私はあの聖戦で本懐を遂げ、共に戦った同士も兄も既に新たな命として旅だったとのこと。ならば、老兵がこの時代に蘇っても出来る事はありますまい。新た な命となる道を行こうと思います」 「そうか。…して、お前は?」 「俺?」 ハーデスに目を向けられたマニゴルドは、どこかきまり悪そうな顔で頭を掻いた。 「あー…俺も生まれ変わりますよ。平和になった地上に蘇ったところで、お師匠がいないんじゃ…戦うしか能の無い俺に出来る事なんざ無さそうだし」 「そうか…」 ハーデスがどこか残念そうに呟くと、セージが静かな眼差しを弟子に向けた。 「いや、マニゴルド。お前は蘇るが良い」 「え?」 「お前が命をかけて戦い抜き、次の時代に繋いだ戦いがどんな結果を生んだのか、世界はどうなったのか…その眼でしかと見てくるのだ。お前にはその責任と義 務がある」 「…………」 「お前はまだ若い。未来も、希望もある。平和になった時代で自分の出来ることを模索するのも良い。自分の為に存分に生きるも良い。自分の道は自分で決め て、自分の生きる意味を見つけるのだ」 「…………」 「お前は生きよ、マニゴルド。生きて、命を全うして、叶うならば幸せになれ。それが私の最後の望みだ」 「…お師匠……」 師の言葉に、マニゴルドは唇を噛み締めて浅く顎を引き、分かった…と呟いた。 セージは嬉しそうに微笑むと、幼い子供にそうするように彼の頭を撫でた。 ハーデスは師弟に穏やかな眼を向けて尋ねた。 「心は決まったようだな。別れの挨拶も済んだか?」 「はい。私は思い残す事はありません。冥王のお心づかいに感謝いたします」 「じゃあ、お師匠。達者でな…っつーのも変か」 「はは。新たな命を貰った暁には達者に生きようと思うぞ」 「…では」 ハーデスは椅子から立ち上がり、セージにそっと手を翳した。 …穏やかな笑みを浮かべた老人の姿は淡く透き通りその輪郭を朧にしながら淡い光になり、光は尾を引きながら闇の上空に向かって飛び去って行った。 寂しげな顔でその光を見送ったマニゴルドに、ハーデスは静かに声をかけた。 「お前の師の魂は、運命の女神モイライの元に向かった。いずれ彼女らが新たな運命を与えて送り出してくれよう」 「そう、か…」 「さて、次はお前に肉体を与えねばな」 冥王はマニゴルドの額に軽く指を触れて小宇宙を注ぎ込んだ。 …曖昧だった五感が実感を伴って戻ってくる。一度眼を瞬くとカメラのピントが合うようにハーデスの貌がはっきりと見え、冴え冴えした空気が嗅覚を刺激 し、風が流れる音が耳を打ち、二神の小宇宙がビリビリと肌に伝わって来た。 ハーデスの小宇宙は『冥王』という肩書の割には弱々しい気がするが、意識して踏みとどまらないと後ずさってしまいそうな迫力だし、彼の隣で不機嫌そうな顔 をしている女神はアテナと互角にやりあえそうな強大な小宇宙を纏っている。 冷たい汗をかきながらマニゴルドがじっと直立不動で絶えること数分間。ハーデスはスッと指を離した。 「…よし、これで良かろう。では行くか」 「行く?」 「先程言ったであろう、ここは冥府の最深部。冥闘士でもない生者が滞在して良い場所ではない。そなたが帰るべき場所はアテナの元であろう」 「………!」 目を見開くマニゴルドに薄い笑みを見せて冥王は踵を返した。 ついて来い、と言うように氷の女神が顎をしゃくってハーデスの後に続き、マニゴルドは筋肉痛のように軋む身体を叱咤しながらふたりの後をついて行った。 ゲンナリするほど長い階段を上り切り、重厚な扉をくぐった先は塵ひとつないほど清められた神殿だった。 ここも冥府の一角だろうが具体的にどこなんだ、とキョロキョロしながらハーデスとヘカーテの後をついて歩いていたマニゴルドは、廊下の反対側からやって 来た見覚えのある二神の姿に思わず身体を緊張させた。 五芒星の銀の死神と六芒星の金の眠り神。 急ぎ足にハーデスに歩み寄ったふたりは恭しく一礼した。 「ハーデス様、ヘカーテ様。死の神タナトスと眠りの神ヒュプノス、只今御前に帰還いたしました」 「うむ、御苦労であった」 「お姿が見えず、どこにおられるかと探していたのですが…」 「少々気になることがあってな、冥府の最深部まで赴いていたのだ」 「気になる事…ですか?」 「それはさておき、そちらはどうだったのだ。その様子だと何事もなく無事に終わったようだが」 人間の存在を素通りで話をするのは神様のデフォなのかね。 マニゴルドが居心地の悪さにムズムズしながら床に視線を落として突っ立っていると、双子神の視線が向く気配がした。 「はい。我々と八雲紫は和解して今後の交流を約束し、チビ共も無事に自分の世界に帰りましたが…」 「先程から気になっていたのですが、何故その男がまだこの世界にいるのです?しかもこのような場所に」 「ひょっとして、我々に見つかったことが原因で元の世界に帰れなくなったのか?ならば俺が八雲紫と話を付けるが」 「…は?」 どうやら自分に向けられたらしいタナトスの言葉に、マニゴルドはきょとんと眼を瞬いた。 ヤクモユカリ、チビ共、元の世界、『まだ』この世界にいる、帰れなくなった…双子神の発した言葉は、彼の感覚から二百数十年の時間が抜け落ちている事を 考えても意味不明だった。 マニゴルドがポカーンとしているのを見たタナトスが、ふと眉間に皺を寄せて彼の顔を凝視した。 「ん?ひょっとしてお前、チビのいた世界の蟹座のマニゴルドとは別人か?」 「『チビのいた世界』??」 「…………。ハーデス様、まさか彼は…」 「察しの通りだヒュプノス。彼は『この世界』の蟹座のマニゴルドだ。異世界のそなたらの話を聞いているうちに、彼と教皇の魂を修復していた事を思い出して な。この世界の蟹座も蘇らせたら色々と面白くなるのではないかと思ったのだ」 「ふふ。ハーデスも順調にタナトスの影響を受けているな。喜ばしいことだ」 「そこは喜ぶ場所ではありません。むしろ悪影響を受けていると嘆く場所です、ヘカーテ様」 「何だとヒュプノス」 「そう言う訳なので、ふたりとも。帰った早々で済まぬのだが、彼をアテナの元に送り届けてはくれぬか」 「「…畏まりました」」 双子神が頷くと、ハーデスはマニゴルドを振り返って、さぁ…と促した。 マニゴルドが複雑な顔で歩み出ると、負けず劣らず複雑な顔をしたタナトスが無言で彼を促して先に立って歩き始めた。ヒュプノスがすぐ後に続き、マニゴル ドは少し距離を取ってふたりの後をついて行った。 …冥界の神が地上に出向くにはアテナの了解がいる。タナトスは懐から携帯を取り出して歩きながら沙織の携帯に電話をかけた。 『はい、沙織です』 「タナトスだ。急で申し訳無いのだが、訳あってもう一度今から地上に向かうことになった。準備をして頂けるだろうか」 『それは構いませんが、黄金聖闘士は聖域の施設に戻ってきておりますの。おふたりの目的地に向かわせるには少々時間を頂くかもしれませんけれど、よろしい かしら?』 「ああ、むしろ好都合だ。我々は貴女のいる場所に行きたかったのでな」 『………?私に用事ですの?』 「ああ。そうだな…ハーデス様から貴女への贈り物を届けに、と言っておこうか」 『あらっ、それは楽しみですこと。承知しました、準備をしておきますね』 通話を終えると同時にハーデス神殿を出た双子神は朝と同じように神の道を開き、マニゴルドに神の道の通行証を差し出した。 ネックレスのようなそれに怪訝そうな顔をする彼に、タナトスは無愛想な声をかけた。 「それは人間が神の道を通るための道具だ。腕に巻いて我々の後について来い。我々も暇ではない故、グズグズするな」 「…………」 マニゴルドはムスッとした顔で渡された通行証を腕に巻き、恐る恐る神の道に足を踏み入れた。ビリッと足が痺れる感覚があったが、あの時のように脚が消し 飛ぶことはなかった。 彼がきちんとついてきているか振り返って確認することも無くさっさと先を行く双子神の後を、マニゴルドは必死について行った。 …地上に到着した双子神とマニゴルドは、特に大きなトラブルも無く城戸財閥の施設内にある応接間に通されていた。 地上への扉が開いた時、出迎えに来ていた聖闘士の一人が『小宇宙を抑えずに地上に出てくるとは、貴様らアテナに害を為すつもりか!』といきなりタナトス に攻撃を仕掛けた途端に顔面キックを食らってあえなく昏倒すると言う『些細なハプニング』はあったが。 ソファにゆったりと腰かけた双子神は、出されたコーヒーを飲みながら呑気にお喋りしている。 「しかし、小宇宙を封じずに地上に出向いてしまうとは…迂闊だったなヒュプノスよ」 「うむ。地上から戻ったばかりで、何となく小宇宙はまだ封じたままという感覚でいたのだろう」 「目的地がアテナの膝元だったのは不幸中の幸いだな」 「そうだな。私達も少々平和ボケしているようだ、己を戒めねば」 ふたりと同じテーブルに着くのは遠慮したマニゴルドは、彼らの会話を聞くでもなく聞きながら窓から外を眺めていた。 乱立する高層ビル、道を埋め尽くす車、時折空を飛んでいくヘリコプター…目に入る全てが珍しくて興味は尽きず、飽きもせず眺めていると応接間の扉が開く 音がした。振り返ったマニゴルドは一度眼を瞬いた。 慈愛に満ちた気高き小宇宙、麗しく気丈な貌と絹糸のような藤色の髪。 …彼女こそこの時代のアテナだ。 確信と同時に膝を折ると、高潔な女性の声がした。 「ようこそおいで下さいました、タナトス殿、ヒュプノス殿。先程は私の聖闘士が無礼を働いたそうで…お詫びの言葉もございませんわ」 「気にするな、アテナよ。原因を作ったのは小宇宙を封じることを失念していた我々にある故な」 「そう言って頂けると…。ところで、ハーデス殿から私に贈り物があるというお話でしたが…」 「ああ、あの塵芥…ゴホッ、人間だ」 タナトスとアテナに視線を向けられて、挨拶をしようと顔を上げたマニゴルドは中途半端に口を開きかけたまま目を瞬いた。 女神の後ろに控えた教皇とその補佐らしい聖闘士…重ねた時を確かに感じる彼らの顔が、記憶にしっかりと残っている仲間の顔と重なった。 マニゴルドの顔を見た教皇と聖闘士も同じ事を思ったらしく、彼に駆け寄って来て顔をまじまじと見つめた。 「まさか、マニゴルド?マニゴルドか!?」 「おお、そうじゃ!間違いない、マニゴルドではないか!どうしてお主がここに!?」 「え?ちょ、おい、童虎…にシオンか!?ええっ!?ちょっと待て、ハーデスの話だと、俺らの時代の聖戦から二百年以上経ってんだろ?何でお前達がその程度 の老け方でピンピンしてんだ?つかシオンはともかく童虎は何でまだ生きてんだ!?」 無遠慮なマニゴルドの言葉に童虎は情けない顔で眉根を寄せ、シオンは教皇のマスクを外して穏やかに笑った。 「『何でまだ生きてるんだ』って…あんまりな言われようじゃのう…」 「色々あったのだ。お前が逝った後も、この時代でも、語りつくせないほど色々な事が」 「色々…」 「それは折をみて話そう。まずはこの時代のアテナにご挨拶を、マニゴルド」 「!……」 シオンの言葉にマニゴルドはハッとして、慌てて女神に向き直って一礼した。 「懐かしい顔に驚いて失礼いたしました。えっと…『初めまして』で良いんでしょーか、アテナ?」 「この時代では『初めまして』ですね、マニゴルド。私がこの時代のアテナ、城戸沙織です。死の神に強い憧憬を持ちながら私の聖闘士となったあなたの事はよ く覚えていますし、異世界のあなたの話も聞いていますよ」 「異世界…?」 「ええ、異世界です」 怪訝そうな顔をするマニゴルドに、沙織はにこりと笑って見せた。 「先ほどシオンが言った通り、色々なことがあったのです。先の時代の聖戦も、この時代の聖戦も、そしてここ数日でも。…そうですわね?タナトス殿、ヒュプ ノス殿」 「ああ、その通りだ」 「さぁ皆、いつまでも突っ立っていないで座りましょう。飲み物も冷めてしまったようですし淹れ直させますわ。コーヒーでよろしいかしら?それとも紅茶?」 「俺は紅茶を貰おうか」 「私も紅茶で」 にこやかに言葉を交わすアテナと双子神の姿にマニゴルドがただ絶句していると、シオンが笑顔でそっと肩をたたき、童虎は一瞬片目を瞑って、空いた椅子に 腰を降ろした。 …ああ、そうか。 聖戦が終わって平和になったから、アテナとタナトスとヒュプノスが談笑しているこの光景はおかしくも何ともないってことなんだな。 複雑な気持ちでマニゴルドが椅子に座ると、アテナは穏やかに微笑んで皆を見回した。 「では、会議を始めるとしましょう。議題は『マニゴルドが加入した聖域と冥界のこれからについて』で如何かしら?」 沙織の提案に異を唱える者はいなかった。 …さぁ、これからの時代の話をしよう。 新たな世界と、新たな出会いと、そこから繋がり広がって行く新たな時代の話を。 |
| 星矢部屋 |
総合目次 |
SS・2012
時代 |
SS・神話時代 |
SS・蟹座達 |
| コ
ラボSSもここで完結となりました。一年前は、まさか自分が蟹師弟を書く日が来るとは思っても見ませんでした。蝶様とツイッターでお話をして、蝶様マニさ
んの魅力にKOされ、それまで見る専で自分で書くことはないだろうと思っていたタナトスとマニさんのネタが出て来るようになり、遂に当サイトでもマニさん
登場の流れとなりました。本当、コラボSSを書き始めた当初はマニさんが復活する(当サイトのSSに登場する)予定はなかったのですが…当サイトの世界を
広げてくれた蝶様に感謝感謝です。 双子神が地上に行く時は、黄金聖闘士が『着地点』である魔法陣の前で待っている、という設定があります(SS『聖夜』参照)。Ωの蟹座の黄金聖闘士シ ラーさんに見事に惚れこんでしまったので、当サイトの2012年時間軸における黄金聖闘士はΩの黄金聖闘士とイコールである(星矢以外)という設定で確定 しようと思います。タナトスに顔面キック食らった黄金は誰なのか、本命ハービンジャーさんで大穴玄武君かなとか妄想させて頂きました。 そして、色々時系列無視でマニさん登場SSを書いてきましたが、時系列で並べると 融合(コラボ)→感嘆→林檎→生誕→驚愕→七夕→溜息 と、なりま す。 それでは、長らくのお付き合いありがとうございました&次のコラボ企画『戦隊(仮)』も楽しみにして頂けると嬉しいです! |
| マニゴルドが『ハーデスの計らい』と言う名目の思い付きで21世紀の
地上に蘇ってしばらく経った頃。 いわゆる『同期』であるシオンや童虎に話を聞いたり実際に街に出たりして、21世紀の世界をどうにかこうにかマニゴルドが把握し始めた頃、今生のアテナ こと城戸沙織からお呼びがかかった。マニゴルドの身の振り方について、シオンや童虎を交えて相談したいと言う事らしい。 マニゴルドは経験も実績も実力もある聖闘士だが、現時点で黄金の席に空きは無く、誰かを降格する理由もない。かと言って彼を白銀や青銅にするのも現実的 な話ではなく、後進の育成に当たらせるにしても彼の能力は特殊すぎるから弟子になる聖闘士にも相応の適性が要求される。更に、突然現れた『新顔』を師と仰 いで教えを請えと言われても聖闘士候補生も戸惑うだろう。彼に相応しいポジションが今の聖域のどこにあるか、シオンも童虎も見当がつかずにいたので沙織の 意見を聞きたいと思っていたのだ。 …会議の席に着いた沙織は穏やかな笑みを浮かべて口を開いた。 「結論から申し上げますわ。マニゴルドには冥界担当の窓口になってもらおうと思います」 「へ?」 「聖域と冥界が和解して親交が始まった事はシオンや童虎から聞いていますね?」 「それは聞きましたけど」 「冥界の皆様も聖域と親交を深めることには積極的で、それはとても喜ばしいことなのだけど、冥界専任の『担当者』がいないせいで何かと不都合を感じていま したの。今までは私や星矢達が窓口になっていたのだけど、私達は自分の仕事があるからきちんと対応も出来ないことが多くて…冥界の皆様は気にするなと言っ てくれますけど、わざわざ地上に出向いて下さるのにまともに応対も出来ないのは心苦しいでしょう?」 「はぁ…」 沙織の微笑みは穏やかだが、有無を言わせぬ威圧感を放っている。 …何か、俺の知ってるアテナと随分雰囲気が違うな。 マニゴルドが隣に座ったシオンと童虎を横目で見ると、彼らは何とも言えない顔で口を噤んでいる。 女神はにこにこと笑いながら話を続けた。 「その点、マニゴルドは聖域の冥界担当者として申し分ありませんわ。元黄金聖闘士で、冥界に通じる能力があり、現教皇のシオンとも同期、タナトス神とも顔 見知り。正に適任じゃありませんこと?」 「え?ちょ、ちょっと待って下さいよアテナ。つまり俺は、あのクソ神が地上に来やがる予定を伺って、お出迎えする準備をして、更に接待までしなくちゃいけ ねーって事ですか?」 「あなたはタナトス殿に憧れていたのでしょう。憧れの方と接するお仕事なのに不服があるの?」 「確かにガキの頃は憧れてましたよ。でも俺は、それ以上にあいつが憎かった!お師匠を殺したのもあのクソ神ですよ!?」 「『これは戦争なんだから死人が出て当たり前』と言ったのはあなた自身でしょう。それから、私の提案に不服があるなら代替え案をお出しなさい。この21世 紀の地上を碌に把握していない、二百数十年ぶりに聖域に戻って来たあなたが責任持って一人 前に遂行できる仕事が何なのか。白銀や青銅に降格してもいい、あるいは弟子をとって立派に育成する自信があると言うならそのように対応しますわ」 「…………」 穏やかに微笑みながらピシリと言われた沙織の言葉にマニゴルドが返答に詰まると、シオンと童虎がそこで初めて口を開いた。 「マニゴルドよ。まだピンと来てないだろうが、聖域と冥界の間で成立した和平は形だけのものではない。本当に、神も人間も親しく交流しているのだよ」 「シオンの言う通りじゃ。わしも初めて冥界の神と会う時は身構えたもんじゃが、実際に会って話をしてみたらタナトス神もヒュプノス神も非常に気さくで好感 の持てる 方じゃった。直接拳を交え命の取り合いまでした天馬星座が仲良く交流しているのにも納得したもんじゃ。マニゴルドよ、いつまでも過去に囚われ先入観で目を 曇らせていてはいかんぞ」 「童虎の言うとおりだ。今や冥界は敵ではない、むしろ今の聖域が一番友好を深めるべき相手なのだぞ。その窓口としてアテナ自らに任命されるなど、大変な名 誉ではないか」 「……………」 「…それにな」 シオンがふと真顔になり、会議室には彼らしかいないのに声を潜めた。 「和平が成立したとは言え、それが破られる事が絶対にないとは言い切れぬ。万一に備えて冥界の状況にも常に探りを入れておきたいのだ。これは星矢達が聞き 出し た情報だが、冥界の神々は、大和の神や世界中の死神達と交流を深め、日本の冥界に相当する霊界とも同盟を結び、更には魔界と言う場所に棲む強力な妖怪達を も従えているらしい」 「え?何だよそれ。あちらさんは着々と勢力を拡大してるってことじゃねーか!」 「だからこそ、友好関係が保たれるよう冥界と親交を深め、不穏な動きがあれば即座に対応できるようにしておきたいのじゃ。最も恐ろしい敵は、味方に出来れ ば何より頼もしい味方になるからのう」 「それは分かるけどよ…俺は良いとして、問題はタナトス様だろ。あのクソ…死神様の俺に対する印象はサイアクだろ?俺が冥界の窓口になるって聞いたら機嫌 損ねるんじゃねーの?」 「それは大丈夫ですわ。タナトス殿を納得させる魔法の言葉がありますの」 自信に満ちた顔で沙織は言い切って、輝くような笑みを浮かべた。 数日後。 沙織とシオン、童虎、そしてマニゴルドは城戸財閥の施設で死の神タナトスを迎えていた。 お世辞にも好意的とは言えない目をマニゴルドに向けるタナトスに、沙織はにこやかに切り出した。 「ハーデス殿のご厚意で蘇られて頂いたマニゴルドの配属先が決まりましたの。だからあなたにもお知らせしておこうと思いまして」 「わざわざ律儀なことだ、アテナよ。伺った話はハーデス様にも報告しよう。…それで?」 「彼には冥界の窓口の役割を与えましたわ。マニゴルドの能力は冥界と相性が良いですし、何より幼い頃から死であるあなたに憧れを持っていましたから。本人 も『憧れのタナトス様と関わる仕事なら喜んで』と二つ返事で引き受けてくれましたの」 「ほう…」 「んなっ!?ちょっと待って下さいよアテナ、俺はそんな事ひとこともいってぇっ!!」 「あらあら、相変わらず素直でないわね?マニゴルド」 テーブルの下で童虎とシオンに力一杯足を踏まれ、にこやかな笑みを浮かべた沙織の『余計なことは言うな』オーラに圧倒されてマニゴルドは渋々口を閉じ た。 たちまち上機嫌になったタナトスに笑顔を見せて沙織は話を続けた。 「御覧のようにマニゴルドは少々意地っ張りでツンデレが過ぎますの。和解が成立したことは頭では理解できても感覚がついて来ないらしくて…しばらくは素直 になれずにツン状態で可愛気の無い事を言うかと思うのですけど、大目に見て頂けますかしら」 「なるほど、今はやりのツンデレだったのか。そう言う事なら過去の無礼は許してやる故、遠慮なく俺を崇め信仰するが良い」 「はいはい、そりゃどーも」 ぶっきらぼうに言い返した言葉をどう解釈したのか、タナトスは満足げに笑みを浮かべた。 何だよその、面白そうな玩具をプレゼントされた子供みてーな笑顔はよ。アンタ本当にあの冷酷非情な死神様かよ?確かに童虎は『話してみたらいい奴だっ た』とか言ってたけど。 過去に対峙したタナトスと今目の前にいるタナトスのギャップに少なからず戸惑うマニゴルドの存在はほぼ素通りで聖域と冥界の話し合いは終わり、タナトス は席を立ちながらマニゴルドに声をかけた。 「そこの塵…マニゴルド、と言ったな」 「…へーい」 「お前の役どころが決まった祝いにハーデス様の妃に会わせてやるぞ。有難く思え」 「は?」 「…とは言えいきなり冥妃様と俺と三人で会うと言うのは居心地が悪いだろう。天馬星座達も呼んでやる故、連中とも交流を深めておくが良い。聖域の石頭共よ りあいつらの方がよほど今の地上に詳しいし一緒にいて面白いからな」 「おいちょっと待て、勝手に話を進めるんじゃねーよ」 「まずは秋乃様の都合を伺わねばな…店を訪ねて不在だったら無駄足だ」 マニゴルドの抗議を右から左に受け流したタナトスは携帯を取り出して、電話をかけながら応接間を一歩出たところで振り返った。 「何を突っ立っている。ついて来い、塵芥」 「塵芥言うんじゃねーよクソ神!俺にはちゃんと『マニゴルド』って名前があるんだからな!名前で呼びやがれ名前で!」 「ならば貴様も俺を呼ぶ時は『クソ神』ではなく『タナトス様』と呼ぶのだぞ。いいな、『様』は必須だぞ必須」 「っはぁ!?誰がアンタを様付けでなんか…」 「…秋乃様、タナトスです。今、お電話よろしいですか?…ええ、実は紹介したい奴がいまして、今からお伺いしようかと…」 …聞いちゃいねぇ。なんつーハタ迷惑な神様なんだよ畜生。 マニゴルドは内心で盛大に毒づきながら、さっさと先を行くタナトスの後ろを急ぎ足に追いかけて行った。 |