双子神2012・ 融合
EPISODE 11


 ヘカーテはハー デスの私室の前まで来ると、嬉しそうに弾む声で部屋の中に声をかけた。

「待たせたな、ハーデス!異世界のタナトスとヒュプノスを連れて来たぞ!」
「うむ、待っていたぞ。入ってくれ」
「………」

 冥王の声に小さな双子神が緊張する気配に目を細めて、ヘカーテは漸くふたりから手を離して扉を開けた。
 小さな双子神と、数歩遅れて部屋に入って来た双子神が恭しく一礼すると、豪奢な椅子にゆったりと身を預けた冥王は優しく口元を綻ばせた。

「そんなに堅苦しくする必要はないぞ。…ふむ、そなたらが異世界のタナトスとヒュプノスか」
「「はい」」
「何やら大変なことに巻き込まれたそうだな。地上にいる間は気の休まる暇もなかったであろうが、エリシオンならばその奇妙な妖怪がやってくることもないで あろう。安心してくつろいでくれ。…タナトス、ヒュプノス」
「「は」」
「事の経緯を詳しく聞かせてもらえるか。…ああ、遠慮はいらぬぞ。皆、かけてくれ」

 ハーデスの言葉に双子神が長椅子に腰を下ろすと、小さなヒュプノスはふたりの間にちょこんと座り、タナトスはおもむろにタナトスの膝の上によじよじと 登って当たり前のような顔をして座った。彼の弟神は多少不満そうな顔をしながらも口を噤み、ヒュプノスは柔らかく目元を綻ばせ、タナトスは一瞬きょとんと したがすぐに笑み崩れて膝に乗った小さな死神に自然な仕草で手をまわした。
 その光景を見たハーデスは『彼らはすっかり打ち解けているのだな』と正しく解釈したが、ヘカーテは一度腰を降ろした椅子から即座に立ちあがるとずかずか と小さなタナトスに近づいてわざと怒った顔で腕を組んだ。

「おいチビタナトス。何故当たり前のような顔をして『私の』タナトスの膝に乗っている?」
「何故って…ここは俺の特等席だからですが」
「一体いつ誰が許可したのだ、そんなこと」
「え?」

 きょとんと眼を丸くするタナトスの可愛らしい仕草に思わず頬が緩みそうになるのを必死に堪えながら、ヘカーテは殊更に怒った顔で片手を腰に当てて前屈み になると彼に指を突き付けた。
 
「さっき言っただろう、役とは言え私はタナトスの恋人だぞ。故にタナトスの膝の上は私の指定席だ、私の許可なくして座るなど赦さん!」
「えええええっ!!!」

 ガーン!と効果音が聞こえそうな表情でタナトス少年が驚いた。
 ああもう、一々反応が可愛いなぁぁぁぁ。さーて、どんな反撃をしてくれるかな?
 ヘカーテがきゅんきゅん高鳴る胸を押さえてタナトス少年の反撃を待っていると、彼はしょんぼりした顔でタナトスの膝から降りて片割れの隣に座った。

「ヘカーテ様、どうぞ」
「え」

 電車の優先席を譲るような手つきでタナトスの膝の上を指されて、ヘカーテは目を丸くした。
 予想の真逆をいく対応に戸惑っていると、双子神とハーデスがわざとらしく非難するような視線を向けた。

「ヘカーテ、そなた…。子供相手に少々大人気ない気がするが…」
「一体いつ、俺の膝の上がヘカーテ様の指定席になったのです?」
「子供のお気に入りを取り上げるなど恥ずかしいとは思いませんか、ヘカーテ様?」
「え、あ、いや、その、私はそんなつもりじゃ…」

 ヘカーテは慌てて両手を振って、ムスッとした顔で俯いているタナトス少年を見て、何とも困った顔になって、大袈裟に顔の前で両手を合わせて謝る仕草をし た。

「すまん、タナトス!タナトスの膝の上が私の指定席というのは冗談だ。驚かせて悪かった!」
「…冗談?」
「ああ、冗談だ。私の冗談にお前が鋭い突っ込みをいれて、私が逆切れして、軽く喧嘩して仲直りってお約束の展開をやりたかったんだ。お前がこんなオトナな 対応するなんて予想外で…この世界のタナトスは売られたケンカは即座に買うからさ、てっきりお前も同じだと思って。本当にごめんな。好きなだけ座ってく れ」
「え…。いいんですか?」
「ああ、いいぞ。タナトスの『彼女』の私が許す」

 ヘカーテがにっこり笑って言うと、タナトス少年はパッと顔を輝かせていそいそとタナトスの膝の上に戻った。
 膝に乗った銀色の男の子の髪をくしゃりと撫でてタナトスが嬉しそうに微笑むと、一連の流れを見ていたヘカーテは赤く染まった頬を両手で挟んで濃い紫の眼 をウルウルさせた。
 はうぅぅ…と、甘い吐息にも似た声を漏らして、彼女は小さな双子神を交互に見た。

「なぁなぁ、チビタナトスかチビヒュプノスか、どっちか私の膝に来ないか?」
「俺は特等席から離れる気はありません!」
「私も、私のタナトスの横から離れる気はありませんので…諦めてください」
「え、ええー…」

 すげない返事にヘカーテは顔文字の『ショボーン』そっくりの(´・ω・`) な顔になり、初対面でいきなり抱きしめてコネコネしたのがまずかったかなぁと反省しつつ、諦めきれずに子供のヒュプノスに声をかけた。

「じゃ、じゃあ、私がチビヒュプノスを抱っこしてタナトスの隣に座ると言うのはどうだ?」
「私は子供の姿はしていますが、それなりに重さはありますので。か弱い女性の膝の上には乗れません」

 小さなヒュプノスがヒュプノスのローブの袖をぎゅっと握ってきっぱり言うと、その言葉を聞いた双子神が大袈裟に眉間に皺を寄せた。

「え?」
「ヘカーテ様が『か弱い』?ヘカーテ様が??」
「…………」

 ヘカーテは途端にムッとした顔になり、小さな双子神を抱っこ出来なかった腹いせとばかりに大人の双子神の足をサンダルの踵でこれでもか!と踏みつけた。

「いたっ!何をなさるのですヘカーテ様!?」
「タナトスはともかく何故私の足まで踏むのです?私は『え?』と言っただけではありませぬか!」
「うるさい!私の味方をしない時点でお前も同罪だ!!」
「そんなご無体な…」

 ため息交じりのヒュプノスの言葉に、ヘカーテは子供のように唇を尖らせてぷいっとそっぽを向いた。
 小さなタナトスとヒュプノスはヘカーテと双子神のやりとりに目を丸くしたが、ハーデスが何も言わずニコニコしているのを見て『喧嘩するほど仲が良い』と いう事なのだろうと納得した。
 そんなふたりの頭を優しく撫でて、ヘカーテは名残惜しそうにハーデスの隣の椅子に戻った。
 やっと状況が落ち着いたのでハーデスはにこりと笑って臣下達を見遣った。

「では改めて、事の経緯を聞こうか」

 …………
 双子神達が事情を説明すると、ハーデスとヘカーテは深刻な顔を見合わせた。
 この世界の双子神が推測した通り、異世界の双子神を連れて来た妖怪は遅かれ早かれ姿を見せるだろう。しかしそれがいつなのかは全く見当がつかない。犯人 からの接触を待つために双子神が地上に行きっぱなしでは、いずれ冥界の運営にも支障が出てくるだろう。そうやって冥界の神々を困らせることが犯人の狙いな のかもしれないが…。
 …という意味合いの事をハーデスが言うと、タナトスが迷いなく言い切った。

「それは無いでしょう。八雲紫は明日にも姿を見せると思います」
「何故そう言い切れる?」
「『馬鹿にされてムカついたからちょっと仕返しで悪戯をしてやった』で話が済むタイムリミットは、明日か、精々明後日まででしょう。それ以上解決が長引け ば、チビ達の世界の…こいつらが誘拐された事情を全く知らないハーデス様は…聖域との和解を破棄して戦を起こしかねない。そんな取り返しのつかない事態が 起きてからチビ共を帰しても、『悪戯だった』では済まされません。八雲紫は馬鹿ではない、神に対して洒落で済まない喧嘩を売るような真似はしないはず」
「しかしその大妖怪は幻想郷の中にいるのだろう?そこにいる限り我々は奴に手出しは出来ないのではないか?」

 ヘカーテが怪訝そうに尋ねると、タナトスは首を横に振った。

「神奈子…あ、いえ、八坂神と洩矢神は奴の力を借りずに幻想郷に入りました。彼女らの他にも、大結界を超えて幻想郷に自力で侵入した者が僅かながら存在す ると聞きました。ですから、奴の手を借りずとも幻想郷に入りこむ手段は存在すると思われます」
「つまりその大妖怪は、『双子神を本気で怒らせた結果、彼らが自分を締め上げる為に幻想郷に乗り込んで来るという事態は避けたい』と思っていると…そうい うことか?」
「ええ、恐らく」
「ふむ…タナトスがそう言うのならそうなのであろう。良かったな、異世界のタナトスとヒュプノスよ。そなたらは遅くとも明後日には自身の世界に帰れるぞ。 それまでの間はこの世界のエリシオンを見て回るが良い。そなたらの世界には無い面白いものがあるやもしれぬぞ」

 確かな自信に満ちてハーデスが優しく言うと、小さな双子神もホッと安心したように頷いた。
 …が。

「よし!ではこのヘカーテ様がガイドとなってエリシオンを案内してやろうではないか!!」

 小さな双子神に絡みたくて絡みたくて絡みたくてウズウズしているヘカーテが大イバリで椅子から立ち上がった途端、ふたりはビクッと身体を緊張させて困っ た顔を見合わせた。
 ヘカーテにガイドされるのはちょっと嫌なんだけど、何だか断りにくいしどうしよう…と言いたげな顔だ。
 その反応に、ヘカーテはしおしおと椅子に腰を下ろしていじけたように指を咥えた。彼女の凹み具合に流石に双子神達が心配そうな顔になると、ハーデスがふ と何かを思いついた様子でそっと彼女の耳に口を寄せた。

「ヘカーテ、………」
「…そうか、その手があった!」

 ハーデスに何か耳打ちされたヘカーテは、パッと顔を輝かせて勢い良く部屋を出て行った。
 バターン!
 勢い良く閉まった扉を呆然と見て、双子神達はハーデスに視線を向けたが、冥王はニコニコ笑っているだけだ。
 何か尋ねても答えは貰えなさそうだ、と思った彼らが怪訝そうな顔を見合わせて待つこと数分。
 キィ…。
 部屋の扉がわざとらしく遠慮がちに開かれて、ヘカーテが戻って来たのかと扉を見た双子神達は揃って目を丸くした。

「あ…」

 少しばかり開いた扉の隙間から、トナカイ(の着ぐるみを着たヘカーテ)が顔を半分ほどのぞかせていた。
 たちまちタナトス少年は顔を輝かせて身を乗り出し、ヒュプノスも隣に座ったヒュプノスの服の袖を握ったまま目をぱちぱちさせてトナカイを見つめた。
 よし、掴みはOKだ!
 確信したトナカイヘカーテはスキップをしようとして失敗したような足取りで部屋の中に入ってきた。ミトンの両手には、実に漫画チックなペロペロキャン ディーが握られている。

「ふん、ふん、ふ〜〜〜ん♪」

 ハーデス様が耳打ちしたのはこれだったのか、しかし子供に絡みたい一心で着ぐるみまで着てくるとは…と感心するやらあきれるやらの双子神の前で、ヘカー テは鼻歌を歌いながらぴょこたんぴょこたんとステップを踏んでくるりとターンし、じゃーん!と両手を広げて見せた。

「おおおおおおっ!」

 タナトス少年は目をキラキラさせて感激し、一方のヒュプノス少年は、一体どう反応すべきか迷っているような顔で隣に座った双子神(こちらも反応に困った 顔をしている)をそっと見上げた。
 ヘカーテはぴょこぴょこと双子神達が座っている長椅子に近づくと、小さな双子神にペロペロキャンディーを差し出した。

「ほら、お近づきの印に私からプレゼントだ。とっておきのペロキャンだぞ!」
「おおっ、トナカイからのプレゼントだ!」
「………。ありがとうございます…」

 タナトスは膝から落ちそうなほど身を乗り出して大喜びでキャンディーを受け取り、ヒュプノスは微妙な顔で礼を言ってキャンディーを受け取るときちんと鞄 に入れた。
 無事にキャンディーを受け取ってもらえたトナカイヘカーテがふたりの頭をよしよしと撫でると、タナトス少年はタナトスの膝から飛び降りてトナカイにが ばっと抱きついた。
 ちみっこと着ぐるみの正しいスキンシップである。
 はふーん☆と感激の吐息を漏らして、トナカイヘカーテはミトンの両手でタナトスを抱き上げたり抱き締めたり抱っこしたままくるくる回ったりひとしきり じゃれてから、ぴょこんと身体を傾げた。

「こほん、では改めて…。タナトス、ヒュプノス。私がエリシオンを案内するから一緒に来ないか?」
「うんうん、行く行く!」
「そうか、来てくれるか!うふふ、この姿になった甲斐があったなぁぁ」

 嬉しそうに片足でくるくる回ってから、ヘカーテはぴょこぴょこと双子神に近づいてチャックの付いた背中を向けた。

「お前達、着ぐるみを脱ぎたいから手伝ってくれ」
「脱ぐ?何をおっしゃるのです、ヘカーテ様?着ぐるみに中の人なんていないでしょう」
「タナトスの言う通りです。子供のロマンを壊してはいけませんよ」

 タナトスとヒュプノスは胡散臭さ炸裂の爽やかスマイルを浮かべてヘカーテの頼みを拒否した。
 そんなやりとりを聞きながらヒュプノス少年が複雑な沈黙を続行していると、タナトス少年が怪訝そうに口を開いた。

「貴様ら何を言っているのだ?着ぐるみに人が入っているわけないだろう」
「えっ……………………」
「それにしても、こちらのエリシオンにはトナカイがいるのだな!!羨ましいぞ!!」

 小さなタナトスに嬉しそうに言われて、妙に可愛く内股で身体を傾けたままヘカーテが硬直した。
 大真面目に真顔で『中の人』の存在を否定されて、着ぐるみを脱ぐに脱げなくなってしまったのだろう。
 トナカイのとぼけた顔が困り果てているように見えて、何かフォローをした方が良いだろうかと双子神が思った時、タナトス少年がふと首を傾げた。

「あれっ?でも、さっきお前達はこのトナカイを『ヘカーテ様』と呼んでいたな。そう言えば声もヘカーテ様にそっくりだが…」
「えっ…あっ…それは…」

 トナカイヘカーテが明らかに動揺した。タナトスの純真無垢な視線から眼を逸らすようにぎこちなく双子神を見遣った。
 バッテンの目から『助けて光線』をビビビビビと出されて、流石に彼女が気の毒になった双子神は、子供の夢を壊さずにどうこの状況を言い訳するか必死に考 えて苦し紛れに口を開いた。

「あー…何だ、妖怪に誘拐されて異世界に放り込まれるなどとトンデモな事件に巻き込まれたお前達に話しても要らぬ混乱を招くだけと思って黙っていたのだが な…。実は、その、この世界のヘカーテ様は、稀にトナカイに変身するのだ」
「ええっ?!変身?何故そんな事に?」
「そっ…それは、だな…」
「ヘカーテ様は魔術の神であり、冗談にも全力投球されるお方だ。これを踏まえて聞いて欲しいのだが」

 口籠った兄神に変わってヒュプノスが口を開いた。
 脳味噌をフル回転させながらあくまでも真顔で淡々と言葉を続けた。

「神話の時代、ヘカーテ様は『トナカイに変身できる薬』を作ったのだ。冗談かつ真剣にな。そして、何をどう間違えたのか分からぬが、その変身薬をうっかり 飲んでしまったのだ。そのトナカイが冗談のような外見なのも、ヘカーテ様が冗談で薬を作られたため」
「な…そんな事があったのか!」
「無論ヘカーテ様は解毒剤を作ろうとしたが、冗談で作った薬だから細かい材料までは覚えていなくてな。故に解毒剤の効果も完全ではなかったのだ」
「そう、そうなのだ。今までの傾向から推測するに、ヘカーテ様の感情が極端に浮き沈みすると発作が起きて変身してしまうらしくてな。お前達を相手に散々は しゃいだ後、ガイドを断られてガッカリしたことで久々に発作が起きたのであろう。しかしこの姿ならお前達も心を許すかもしれぬと思って出て来られたのであ ろうな」

 ヒュプノスの咄嗟の言い訳にタナトスがすかさず調子を合わせた。
 タナトス少年は何も疑わず『そうなのか…』と頷き、双子神の話が嘘っぱちだと気付いているはずのヒュプノス少年は、空気を読んでかヘカーテを気遣ってか それとも最早突っ込む気にもなれないのか、何も言わず黙っていた。
 そんな皆を優しい目で見回して、ハーデスが場を纏める言葉を口にした。

「異世界のタナトスとヒュプノスよ。この世界のヘカーテは盛大に羽目を外すことがあるのが玉に傷だが、優しくて一緒にいて楽しい女性だ。そなたらを好まし く思うあまり羽目を外してしまったが、トナカイに変身するほど反省したようだ。今後はそなたらを困惑させるような羽目の外し方はせぬだろうし、仲良くして やっては貰えないだろうか」
「…分かりました」
「分かりました!そんな大変な事情があったとは知らずに失礼しました、ヘカーテ様」
「え?いやいや、気にしなくていいんだぞ。私も気持ちのアップダウンが落ち着いたら元に戻るし…それよりお前達に敬遠されなくなった事の方が私は嬉しい な!」
「…では、ヘカーテ様が元の姿に戻るにはまだ時間がかかりそうですか?」

 タナトスの質問を『まだしばらくは着ぐるみを着ているつもりですか』という意味だときちんと解釈したヘカーテは、トナカイのあたまをこくんと上下させ た。

「チビタナトスとチビヒュプノスと仲直りできて嬉しくなってしまったからな、もう少しこのままだろう。まぁエリシオンを一周する頃には戻れるのではない か?」
「分かりました。では、ガイドの途中で何かハプニングが起きても困りますから我々も同行しましょう」
「ハプニング?」
「ああ、それは…その、さっき言ったであろう、『ヘカーテ様が作った変身薬は不完全だった』と。時々身体の一部だけ元に戻ってしまう事があるのだ。大抵は 手足の先だけだが、酷い時は首から上だったりする」
「それは大変だな」

 何かのはずみで着ぐるみの頭部が外れたり、ミトンの手が取れたりした時(手首から先は着脱式に改造したのだ)の事を考えてタナトスがそれっぽい言い訳を すると、タナトス少年は何も疑わず素直に信じた。
 双子神とヒュプノス少年だけでなくハーデスまで立ちあがったので、ヘカーテは可動範囲の狭い腕を無理に曲げて両手を腰に当ててふんぞり返った。

「では私がエリシオンを案内してやろう!皆、迷わずについてくるんだぞ!」

 そう言って足取りも軽く扉に向かった途端、ヘカーテは足をもつれさせて盛大に前のめりに転んだ。
 ずべっ!!
 …見事に床に突っ伏したトナカイ(お色気系美貌の女神入り)の姿に、これはわざとなのか素なのか笑っていいのか助けるべきなのか皆が決めかねて微妙な沈 黙を続けていると。

「おーこーしーてーぇ〜〜〜」

 ヘカーテが床にキスをしたままミトンの手で床をペシペシと叩いた。
 メタボ体系の胴体が変な形でつっかえた上に腕の可動範囲の狭さが災いして、自力で起き上がれないらしい。
 倒れたトナカイを起こすには体力的に少々無理があるハーデスは一生懸命困った顔を作り、タナトスは笑い出しそうになるのを堪えるのに精一杯で、ヒュプノ スとヒュプノス少年は妙な躊躇が邪魔をして突っ立ったまま、タナトス少年は頬を染めて『あ、何か可愛い…』としばらく眺めてからハッとした。

「あっ!今起こしますよ、ヘカーテ様」
「すまない…」

 慌ててタナトス少年が駆け寄ってヘカーテを起こそうとしたが、碌に関節が曲がらない着ぐるみに入った大人を子供が助けようとしても上手くいかず、腕を 引っ張ったり肩を貸したり格闘していると、漸く笑いの発作が治まったらしいタナトスが助けに来た。
 着ぐるみの脇の下に両手を入れてあっさりとヘカーテを起こすと、実に楽しそうに声をかけた。

「ヘカーテ様、少しダイエットされてはいかがですか?先日も『体重が増えて来たから痩せないと』とお菓子を召し上がりながらおっしゃっていたではないです か」
「うるさい!大きな世話だ!だ、だからウォーキングを兼ねてガイドをするのだ!」
「ああ、なるほど」
「ではそろそろ行きましょうか。ガイド様、まずはどこからです?」
「そうだな…イルカもいるし、タナトスの神殿からかな」
「イルカ?!」
「イルカがいるのですか?」
「ああ、いるぞ。イルカの調子が良ければタナトスがイルカのショーも見せてくれるだろう。…さあ皆、私についてこい!」

 気を取り直したらしいヘカーテは意気揚々と部屋を出て、その後ろを目を輝かせた小さな双子神と、楽しげな冥王と臣下達がついて行った。

蝶様に描き下ろして頂いた素敵挿絵 はピクシブで閲覧できます!



NEXT

名前の後ろに大・子付きはこちらか らどうぞ。


星矢部屋
総合目次
SS・2012時代
SS・神話時代
SS・蟹座達


 11話目で、つ いに、ついに!トナカイ様参上です!!!アンテナやら羽やらメタボなお腹まで再現して頂いて嬉しさが溢れて止まらないんだZE…!!
 …さて、解説ですが。
 八雲紫は明日にも現れるだろう、もしくは何らかのアクションを起こしてくるだろう…とは当サイトタナトスの直感ですが、当サイトタナトスの直感=ほぼ間 違いなく的中する予言、とハーデス様は認識しています。なのでタナトスの予想した通りの展開になるだろうと確信しているし、そのハーデスの自信に満ちた態 度に蝶様双子神も安心する、という流れにしました。大人が落ち着いて「絶対に大丈夫」と言ったら、その大人を信頼している子供は心からその言葉を信じるだ ろう、と。
 蝶様双子神に絡みたくて絡みたくて、でもしょっぱなのコネコネが災いしてイマイチ振り向いてもらえず、ついにトナカイ装着と言う暴挙に出るヘカーテ様ネ タもツイッターのネタ合わせから出てきました。蝶様タナトスは素で「着ぐるみに中の人なんていない」と信じているそうなのでこんな展開に。そして蝶様ヒュ プノスは空気読み過ぎて空気になってて申し訳ない…。12話以降はきちんと活躍して頂きます。
 そして蝶様タナトスが素直に膝から降りた理由は、「好きな人や特等席を取られる辛さが分かるから」だそうです。なんて大人なんだ蝶様タナトス様!タナト スやヘカーテでなくてもメロメロです(笑)。
 ヘカーテ様が素でずっこけて起き上がれないネタもツイッターから…書きながらその場面を想像してプッとなっていました。コケタおかげで(?)蝶様タナト スとの距離も縮まってます。
 後は小ネタなんですが…「お菓子を食べながらダイエット宣言」はSS「冥妃」11話で使ったネタです。神話時代からやってることが変わってない(笑)。 そしてイルカですが。今のタナトス神殿にいるのは、SS「午睡」で出てきた「神話時代にタナトスが海界に行った時にアンフィトリテから貰ったイルカ」の子 孫です。
 ちなみにトナカイのモデルは↓動画の8:30くらいから出てくる着ぐるみです。他の動画(終盤の方)で、この着ぐるみでバトルやってるシーンも見れま す。とてもかわいいのでお暇な時に鑑賞してみて下さい(^^)