双子神2012・ 融合
EPISODE 27


  ハンズで買い物した大きな袋は沙織が寄越した使いの者に預け、双子神達は美術館と動物園に向かう途中の駅で降りて昼食を済ませ、再度電車に乗って目的の駅 で下車した。駅前の大通りをしばらく歩き、別れ道で彼らは足を止めた。道を右に行けば美術館、左に行けば動物園がある。
 大人の双子神は時計を見て待ち合わせ時間の相談を始めた。

「駅まで歩く時間も考えると、一時間後に待ち合わせでは少々慌しい気がするな」
「うむ。美術館も動物園も大きなイベントを開催しているようだし、ゆっくり見て回りたいだろう。二時間後でいいのではないか?」
「そうだな、それで良かろう。何かあったら携帯に連絡を入れてくれ」
「分かった。私も着信があればすぐ分かるようにしておく。…では行くか」
「その前に、タナトス」

 ヒュプノス(子)がタナトス(大)を見上げた。
 何だ?と怪訝そうな顔をするタナトス(大)に、彼はどこか猜疑心の見え隠れする眼を向けた。

「間違っても、私のタナトスに妙な真似はするなよ」
「………………」

 ビシッ!!
 タナトス(大)は凄まじく不愉快そうな顔になり、ヒュプノス(子)の額を指で弾いた。六芒星の徴を外したのはせめてもの情けだ。
 タナトス(大)がマニゴルドに似たような疑いをかけられていたことなど知らないヒュプノス(子)は、デコピンされた額を押さえて顔をしかめた。

「乱暴な奴だな…」
「やかましい!子供、しかも男に手を出す趣味のある男など早々おらぬわ。そうやってあらぬ疑いをかけるからあの蟹座も逆切れしてこのチビに絡んでくるのだ!」
「んなっ!な…何を知ったような口を!」
「フン」

 とりあえず彼らの世界のマニゴルドがこの世界に来ていた事は黙っていた方が良いだろうと思ったタナトス(大)は、ふいっとヒュプノス(子)から眼を逸らしてタナトス(子)の手を引いた。

「さあ行くかチビ助。この動物園にはパンダの夫婦がいるらしいぞ」
「おおっ、パンダか!それはぜひ見たいな!じゃあなヒュプノス、パンダの写真を取ってきてやるから楽しみにしているのだぞ!」
「…ん」

 ハンズでの別行動に特別問題が無かった為か、今度はヒュプノス(子)も微かに笑みを浮かべて兄神に手を振った。



 …恐らく庭も芸術作品の一部なのだろう、綺麗に手入れされた植木に囲まれた美術館は大きな建物が幾つも建っていて、それぞれが魅力的な展示物を披露して いる。ヒュプノス(子)はどこから見て回ろうかと金色の眼をキラキラさせて建物を見まわし、ヒュプノス(大)はそんな彼の姿に穏やかな笑みを浮かべて『総 合案内所』と看板が下がった建物を指差した。

「異世界の私よ、まずはあそこで情報収集といこうではないか」
「うむ!」

 ヒュプノス達は手を繋いで案内所に向かうと美術館や博物館の展示内容を確認し、案内所から一番近い建物に向かった。
 …展示されている絵画や彫刻、歴史を感じる諸々は、永遠を生きる神であるヒュプノス達をも感心させるほど充実していた。一口に芸術品や文化的遺産と言っ ても世界各地に玉石混合で散らばっているので、一定レベル以上の物が一堂に集まっている美術館や博物館は神にとっても便利な施設なのだ。





 興味を引かれた企画や展示物の鑑賞を一通り終えて大満足でふたりが美術館を出ようとした時、ヒュプノス(大)は携帯にメールが届いていた事を思い出し た。電話でなくメールだから急ぎの用事ではないのだろうと思ってその時は確認しなかったが、丁度良いタイミングだし内容を確認しておいた方が良いだろ う…。
 そう思ったヒュプノス(大)が携帯を取り出してメールを確認すると、タナトス(大)から『チビと一緒にミスドで茶をしている。詳しくはツイッターを見ろ』という短いメッセージが届いていた。
 どうせミスドに行くなら合流してからにすればいいものを…とヒュプノス(大)が呆れ交じりの溜息をつくと、ヒュプノス(子)が怪訝そうな顔で彼を見上げた。

「どうした?タナトスがまた変な事を言って来たのか?」
「当たらずとも遠からずだな。待ち合わせ時間まであと30分ほどなのに、ふたりだけでミスドに行っているそうだ」
「ふたりだけでミスド?30分くらい待つか、店に行く前に私達に声をかければ良かろうに…」
「全くもって同感だが、タナトスのやることに文句を言っても不毛であろう。残り時間も中途半端だし、私達は私達で喫茶店にでも入るか?ミスドに行きたいのならタナトス達のいるミスドに行くが」
「…………。いや、私達だけでお茶にしよう。お前に聞きたいこともあったしな」
「…そうか」

 それはタナトスのいないところで聞きたい事か?と尋ねかけ、わざわざ聞かずとも分かっていることだなと思い直し、ヒュプノス(大)はヒュプノス(子)の手を引いて美術館の敷地内にある喫茶店に向かった。



 
 ヒュプノス(大)はアイスコーヒーにミルクとシロップを入れて優雅な所作で混ぜながらヒュプノス(子)に声をかけた。

「…それで、お前の聞きたい事とは?」
「ヘカーテ様の事だ」

 …ああ、やはりそれか。
 ヒュプノス(大)はアイスコーヒーに目を落としたままヒュプノス(子)の言葉を待った。
 小さな眠りの神はドーナツパフェに山と盛られた果物が落ちないように慎重にクリームを掬いながら真剣な眼で言った。

「お前はあの方をどう思っているのだ?」
「昨日言った通りだ。あの方がいなくなれば冥界の運営に多大な悪影響が出るし、我々も寂しくなる。我々にとってなくてはならない存在…」
「わざとらしく話をはぐらかすな。私がそんな綺麗事の建前を尋ねているのではない事くらい、分かっているだろう」
「…………」
「答えたくないのなら答えなくても良い。ただ、はぐらかすな」
「…もう少し具体的に問うて貰いたいのだが」
「ならばはっきり問おう」

 ヒュプノス(子)は手を止めてじっとヒュプノス(大)を見つめた。

「お前は何故、最愛の兄を自分から奪っていく最大の脅威を放置しているのだ」
「…………」

 カラン…。
 ヒュプノス(大)がコーヒーを混ぜる手を止めると、氷がグラスにぶつかって涼しげな音がした。

「ヘカーテ様はお前のタナトスを本気で愛している。そしてタナトスもヘカーテ様に愛情を持っているのは昨日の一件ではっきりした。なのにお前は、別の男を追って別の世界に行こうとしたヘカーテ様を引き留めた。何故だ?」
「…『私のタナトス』ではない。『私の兄のタナトス』だ。…それが私の答えだ」
「?」
「お前は『恋の相手として』タナトスを愛している。私は『兄弟として』タナトスを愛している。お前はタナトスの弟であると同時に恋人でもあるから、お前か ら見ればヘカーテ様は脅威的な恋敵になろう。しかし私はタナトスの弟だが恋人ではない。弟としての私の立場と恋人としてのヘカーテ様の立場は全く別の物、 私がヘカーテ様を疎んじたり脅威に感じる理由などない…」

 そこまで言ってヒュプノス(大)はコーヒーを一口飲んで、苦く微笑した。

「…と、考えるようにしている」
「ではやはり、お前はヘカーテ様をライバル視しているのではないか」
「タナトスの身体はひとつしかない故な、タナトスがヘカーテ様と一緒にいれば私と共に過ごす時間は減る。それが好ましくないと感じている事、タナトスにはもっと私と一緒に過ごして欲しいと思っている事は事実だ。…だが」
「だが?」
「ヘカーテ様が本当にタナトスを愛している事、そしてタナトスがヘカーテ様に好意を持っている事もまた事実。それは決して無視できぬ」
「…………」
「私が『兄をひとり占めしたい』と言う理由でヘカーテ様に害を為せば、タナトスは決して喜ばぬ。『俺はお前のこともヘカーテ様の事も好きなのに何故争うのか』と心を痛めるだろう。それは私の望む事ではない」
「…………」

 でもそれは、ヘカーテがこの世界を去るのを引き留める理由にはならないのではないか。
 パフェに乗っていたドーナツをもぐもぐしているヒュプノス(子)の無言の疑問を察し、ヒュプノス(大)は静かに言葉を続けた。

「理由は他にもある。ヘカーテ様は冥界の運営に欠かせないとか、冥妃様の親友だとか、そう言う理由もあるが、何よりも私自身があの方を好きなのだ。勿論、恋愛感情と言う意味ではなく、仲間として、友人として、だが」
「ふぅん…」
「それに…これが一番の理由だが、ヘカーテ様の存在がタナトスの心にもたらすプラス効果が多大であるから…だろうな」
「…どういう事だ?」
「タナトスは、神が人間の前に姿を見せていた神話の時代はずっと、人間から疎まれ嫌われ『忌まわしい死神』と言われ続けて来た。大地の一族の神々もタナト スを直接知らぬ者は『死そのものの神』という肩書だけで気味悪がり、余程の事情が無ければ会おうともしなかった。タナトスは『人間や大地に好意的に受け入 れられたいとは微塵も思わぬ。むしろ願い下げだ』と言っていたし、それは本心だったと思う。だが、タナトスが自覚も意識もしていないが、その事実はタナト スの心に影を落としていたのは間違いない。タナトス本人に会った大地の神々が『誤った先入観に囚われていた』と気付いてタナトスに対する認識を改めても、 タナトスはそれを信じなかった。『俺が冥王ハーデスに少なからぬ影響力を持つと知って懐柔しに来たか、死神とはどんな奴か気になって面白半分の野次馬根性 で関わりに来たのだろう』と考えて、本当の意味で大地の神々に心を開くことはなかった。『友人』と呼んだアレスにさえも、な。タナトスが心を開き受け入れ た大地の血筋の神々はたったの三人しかいない。我々の『弟』ハーデス様とその妃ベルセフォネー様、そして」
「ヘカーテ様…か」

 ヒュプノス(大)は無言で頷いてコーヒーを飲んだ。心地よく冷たい苦みが喉を滑り落ちて行く。
 しばしの沈黙を挟んで金色の神は話を続けた。

「最初は、私もタナトスも疑っていたのだ」
「?」
「ヘカーテ様の『私はお前達が好きだ』という言葉だ。ヘカーテ様は魅力的な方、あの方に憧れ求愛する男は数知れず、その中には…性格にはやや難があるが… 私やタナトスとは比べ物にならぬほど神格や身分の高い神も大勢いた。ヘカーテ様が彼らより私達に魅力を見出したと言われてもピンと来なくてな、『天界や海 界の男には飽きたから冥界の男と付き合ってみよう』程度の好奇心だと…ある程度のところで気が済んだら天界か海界に帰るだろうと思って、我々は程々の距離 を保ってあの方に接していた」
「その予想は外れた訳か」
「ものの見事に、な」

 ヒュプノス(大)はどこか面白そうに苦笑した。

「ヘカーテ様は天界にも海界にも地上にも戻らなかった。ベルセフォネー様と一緒に地上と冥界を行き来することもせず、冥界に腰を落ち着け、タナトスに狙い を絞り、一途に無邪気にあっけらかんとタナトスを想い続けた。『私はお前が好きだ、だから私と付き合え』と言い続けた。タナトスが心を開いて自分からあの 方に歩み寄るまでな。いや、心を開き歩み寄っても言い続けている」
「…………」
「タナトスにとってヘカーテ様は『特別』なのだ。本人は『別物』などと失礼な物言いをしていたが、あの方の変わりはいない特別な存在であることに違いはない」
「ヘカーテ様が特別なら、お前は一体何なのだ?ヒュプノス」
「私もまた特別だ」

 ヒュプノス(子)の問いにヒュプノス(大)は笑みを浮かべて迷いなく言い切った。
 そうだ。
 自分もまた、兄にとっての『特別』なのだ。

「以前、タナトスは私にこう言った。『俺にとって一番大事で可愛いのがお前だ』と。タナトスが一番大事に思っているのは私だ。ヘカーテ様ではない」
「…………」
「私は、それでいい。私が『一番の特別』ならば、大好きな兄から『私以外の特別』を奪おうとは思わぬ」
「…………」
「…あまり適切な例えが浮かばぬのだが、仮にタナトスを椅子としようか」
「………?」

 分かったような分からないような顔をしているヒュプノス(子)に、ヒュプノス(大)はテーブルにおいてあったアンケート用紙をひっくり返してペンを取り椅子の絵を描いて見せた。
 座面を支える支柱のような足が一本あり、その先が複数に分かれて車輪が付いている、事務用の椅子に良くあるデザインだ。

「これが神話時代のタナトス。タナトスを支えているのは『夜の一族』という太く頑丈な一本の柱だ」
「うん」
「そして次…ハーデス様が冥王として冥府にいらしてからベルセフォネー様を妃として迎えるまでの期間のタナトスを椅子に例えるとこんな感じだな」
「三本脚の丸椅子か」
「私とタナトスはハーデス様に付き従ってエレボスの闇に拠点を移した。母上の元を離れたことで私とハーデス様の存在意義は増している。脚の一本は私、一本 はハーデス様、一本は夜の一族だ。三本脚の椅子は足場が悪く傾斜のある場所でもきちんと自立する故、椅子の中では一番安定してバランスが良いと言えよう」
「…うん」
「そしてこれが、ベルセフォネー様とヘカーテ様に心を開き受け入れたタナトス」

 ヒュプノス(大)が描いたのは、四本足の至って一般的な椅子だ。
 小さな眠りの神はパフェを食べる手を止めてじっとその絵を見つめて、ポツリと尋ねた。

「ヘカーテ様に心を開いて受け入れたことで、タナトスは『普通』になれたということか?」
「そうだな…『普通になれた』と言うより、『周囲から普通だと認識されるようになった』と言う方が正確かもしれぬ。そして重要なのはこの椅子の脚だ」
「ベルセフォネー様とヘカーテ様が加わったのに脚は四本なのか?」
「椅子の内訳は、夜の一族・私・冥王夫妻・ヘカーテ様だ」
「ああ、なるほど」
「さて、異世界の私よ。この状態で脚の一本が無くなったら椅子はどうなる?」
「…………。三本脚の丸椅子に戻れないのなら、立つ事が出来ずに倒れてしまうな。代わりの脚がすぐに見つかればいいが…」
「代わりが見つかったところで、それはきっと本来の物とは違う『代用品』にすぎぬ。代用品の違和感をごまかして無理に椅子を支えたところで、いつ倒れるか分からぬ不安定な物になるだろう。…私がヘカーテ様を引き留めた理由は、つまりはそういうことだ」
「…………」
「ヘカーテ様はもはや我々の『家族』だ。家族で一緒に暮らしたいと思うのは、当たり前のことだろう?」
「…凄いな、ヒュプノスは」

 ヒュプノス(子)は呟いてパフェのクリームを口に運んだ。
 怪訝そうな顔をするヒュプノス(大)の金色の眼差しを見遣って、だって…と彼は続けた。

「周りの皆は『タナトスは弟がいないと何もできない』と思っているらしいが、実際は逆だ。私が、タナトスがいないと何も出来ぬのだ」
「…………」
「私は、いつまでもタナトスの『一番の特別』でいられる自信が無い。だから少しでも好意を持ってタナトスに近づく奴は排除したいし、自分が『タナトスの一番の特別』だと確認したくて『お前は私のものだろう』と言うのだ」
「…凄いな、お前は」

 同じ言葉を返されて、ヒュプノス(子)はきょとんと大きな目を瞬いた。
 そんな自分自身に柔らかな笑みを見せてヒュプノス(大)はコーヒーに目を落としてポツリと言った。

「私もお前と同じだ。私も、タナトスがいないと何もできない。しかし私はタナトスに近づく者を排除する勇気も、『お前は私のものだろう』と尋ねる勇気もない。羞恥心やプライドが邪魔をするのだろうな」
「最愛の兄を取られることを考えれば羞恥心とかプライドなど言ってられないと思うが」
「そう…だな。つまりは私は、そこまで切羽詰まったことが無いのかもしれぬ」
「それはつまり、自分がタナトスの『一番の特別』で居続ける自信があると言う事だろう?十分凄いではないか」
「いや…正直、自信はない。そこまで私は私自身を信じる事は出来ない」
「え?自信もないし自分も信じられないのに、邪魔者を排除することも、自分が一番だと確認することもしないのか?何故?」
「自分自身を信じられなくとも、タナトスは信じられるからだ」

 ヒュプノス(大)は迷いなく確かな自信と確信に満ちて静かに言った。
 
「タナトスは『俺にとって一番大事で可愛いのがお前だ』と言った。『我々の立場や肩書が何になろうと、俺がお前の兄である事、お前が俺の弟である事、俺に とって一番大事で可愛いのがお前だと言う事もまた変わらぬ』と私の前で迷いなく言い切った、そのタナトスの言葉は信じられる」
「タナトスは、信じられる…」
「そうだ。タナトスがヘカーテ様と結婚したり、本気の愛情を持った何者かがタナトスに近づいたりした時に私が冷静さを失っても、必ずタナトスが私を諫めて くれる。当たり前のことを、当たり前の顔をして、当たり前のようにさらりと言うだろう。他の何を疑っても、タナトスは信じられる。…だから」
「だから?」
「感情でまで納得する必要はない」

 怪訝そうに首を傾げるヒュプノス(子)にヒュプノス(大)は穏やかに言った。

「最愛の兄を誰かに奪われるのが嫌だとか、最愛の兄に自分以外の誰かが近づいてくるのが嫌だとか…そういう、『兄をひとり占めしたい自分の心』を無理に押 さえつけなくても良い、ということだ。心まで偽れば己が歪む。偽りない自分の心を知り、頭で律し、自力で律せない時は言葉にして口に出して良い。そうすれ ば、必ず誰かが受け止めてくれる。ヘカーテ様や、ハーデス様や…タナトスが、な」
「感情でまで納得する必要はない…」
「ああ、そうだ。異世界の私よ、お前にもいるだろう?自分の全てを受け止めてくれる片割れが」
「…うん」
「さぁ、そろそろ店を出ねば待ち合わせの時間が来てしまう。パフェも溶けてしまうから、食べる事に専念すると良い」
「ああ、そうだな」

 …半ば溶けかけたパフェの掬える部分は掬って食べたヒュプノス(子)は、溶けて掬えなくなったアイスとパフェグラスの底に残ったシロップを混ぜるとグラ スに口をつけてジュースのように飲みほした。が、グラスの底に残ったサクランボがグラスを傾けても出てこない。パフェスプーンで取りだそうとしたが僅かに 届かず、ヒュプノス(子)がもどかしくサクランボと格闘していると、ヒュプノス(大)がクスリと笑って手を差し出した。

「私に任せろ。秘策がある」
「秘策?」

 怪訝そうにしながら小さな眠りの神がパフェグラスを差し出すと、ヒュプノス(大)はグラスを受け取ってストローをサクランボのヘタに差し込んだ。スト ローの先を実に密着させて軽く吸うと、サクランボの実はうまくストローに吸いついた。ヒュプノス(大)はストローの端を指で押さえたまま、パフェグラスか らサクランボの実を取り出してヒュプノス(子)の手の上にサクランボを落とした。

「おおっ!こんな方法があったのか!」
「タナトスの見よう見まねだが、うまくいったな」
「ならば、今度は私が私のタナトスに教えてやろう」

 嬉しそうにサクランボを口に入れた別世界の自分自身の姿に、ヒュプノス(大)は微かに目を細めた。
 私のタナトス、か。
 …私も一度くらいは、羞恥心もプライドも捨ててタナトスに叫んでもいいのかもしれない。『お前は私のものだろう』と。

蝶様に描き下ろして頂いた素敵挿絵 はピクシブで閲覧できます!


NEXT


星矢部屋
総合目次
SS・2012時代
SS・神話時代
SS・蟹座達


 コラボSS最難 関と思っていたヒュプヒュプコンビの会話です。脳内にある漠然としたイメージを文章にするのは難しいですね…。とりあえず、当サイトヒュ プの当サイトタナとヘカーテに対する考え方と言うかスタンスが漠然と出も伝わればいいなと思います。とどのつまりは、当サイトヒュプも(当サイトタナ程で はないけど)ヘカーテが好きで一緒にいたいと思ってるのです。ヘカーテの事は好きだし尊敬もしてるし一緒にいたい、でも彼女は最愛の兄タナトスを自分から 奪い取って行くかもしれない…とフクザツな想いがグルグルしてたわけです。神話時代はタナトスとヘカーテの距離は微妙なままだったのでヒュプもあまり真面 目に考えないと言うか問題を先送りしてる感で、聖戦やってる間はヘカーテと関わる時間が短くヒュプはタナトスをひとり占め出来ててその問題が棚上げされて る状態。それが2012年になって和解が成立した途端、タナトスとヘカーテの仲に大きな変化と言うか進展があってヒュプは内心焦っていた訳ですが、SS 『兄弟』の一件を経て自分なりに心の折り合いの付け方を見つけたと言う感じでしょうか。
 次の28話はタナタナコンビがミスドでお茶+だべりな話です。