双子神2012・ 融合
EPISODE 3


 この世界の双子 神と聖闘士の到着を待ちながら、秋乃と小さな双子神は店の喫茶スペースで紅茶を飲みながらケーキを食べていた。
 秋乃が雑談がてらに『彼らのいた世界で何が起きたのか』を尋ねると、ふたりは互いの発言や記憶を補い合いながら身振り手振りを交えて経緯を話し始めた。
 二十世紀に起きた聖戦で、冥王軍は今生のアテナである城戸沙織率いる聖域軍と激突した。双方に多大な犠牲を出しつつ、星矢達青銅聖闘士は神の道すら越え て神の御所エリシオンに到達し、冥王の片腕たる双子神は彼らを迎え撃った。いや、彼らには『迎え撃つ』と言う認識すらなかった。楽園に相応しくない幾つか の異物を排除する程度の感覚。分かり切った結果に興でも添えようかと遊び心を出して…『まさか』が起きた。
 神をも凌駕する神聖衣の出現。
 …そこまでは秋乃の知る神々が語った聖戦と同じだったのだが、そこから先は大きく違っていた。
 口に頬張ったケーキをごくんと飲み下して、タナトスは幼い顔をしかめて見せた。

「そして、俺とヒュプノスは星矢達に殺されたのだ」
「え…ええっ?殺された!?タナトスさんとヒュプノスさんが?星矢さん達に?」
「そうだ」
「え?え?私、ずっと神様は死なないと思ってたんですけど…じゃあおふたりは、一度死んで、生き返ったって事ですか?それとも生まれ変わったんですか?」
「打ち砕かれた身体と魂が数年かけて再生された故、生まれ変わったと言う方が適切かもしれぬ」
「………。そっか…おふたりが子供の姿になってるのはそういう訳だったんですね」

 小さな双子神の話を理屈では理解したものの、実感を伴った理解とは言い難く、彼女は『神様とはそういうものなのね』と半ば無理矢理自分を納得させた。異 世界から神が やってきたり、その犯人が妖怪だったりと言う時点で、今回の出来事を人間の基準と科学と脳味噌で完璧に理解しようという方が無茶なのだ。
 分かったような分からないような気分のまま秋乃が頷くと、タナトスはケーキを崩しながらぶつくさと続けた。

「身体が小さくなっただけならともかく、神の力まで子供並みに戻ってしまってな。小宇宙も無くなって不便で仕方がないのだ」
「それは大変ですね。あ、ヒュプノスさん、紅茶のおかわり如何ですか?」
「む、頂こう」
「俺もお代りをくれ。しかし秋乃、このケーキは美味いな!」
「うふふ、お褒めにあずかりまして光栄です。今シーズンの人気商品なんですよ」

 紅茶のお代りを受け取ったふたりは、顔を綻ばせてケーキを口に運んでいる。
 その姿は外見相応の子供っぽいもので、秋乃は微笑ましさに目を細めながらもうひとつ気になっていた事を尋ねた。
 
「さっきから気になってたんですけど、あなた達の連絡先は星華さんでしたよね。ひょっとしてタナトスさんとヒュプノスさんは星華さんの家にホームステイし てるんですか?」
「ああ、そうだ。より正確に言うなら、沙織が用意した小さな家に星矢と星華姉ちゃんと我々が住んでいる」
「それってつまり…おふたりは星矢さんに殺されたのに、星矢さん姉弟と一緒に地上で暮らしてる…ってことですか?」
「ん…まぁ、色々あったのだ」

 秋乃が素朴な疑問を口にすると、タナトスは曖昧に言葉を濁して視線を逸らし、ケーキをぎこちなく突ついた。
 この世界のタナトスも詮索されたくない事を質問された時にこんな反応をする。…と言う事は、余り積極的に話したくない理由…恐らく彼のプライドが傷つく ような出来事が、双子神が再生されて星矢達と一緒に暮らすまでの間にあったのだろうと察しがつく。聖域と冥界の間で和解が成立したのは間違いないだろう が、小宇宙を無くした小さな双子神が…しかも人間など塵芥よ蛆虫よと蔑んでいたタナトスが…よりによって自分達の命を奪った星矢の家にホームステイするな ど余程の事情があったとしか思えない。
 曖昧にはぐらかされた『色々』が気になるけど突っ込んで聞くのは悪いかしら…と秋乃が迷っていると、何やら考えていたらしいヒュプノスが口を開いた。

「我々の身を真剣に案じて下さったハーデス様が、『我々が数百年人間と触れ合い生きてみた後、やはり人間は不要だと判断すれば、アテナは大人しく 地上をハーデス様に献上する』という条件で聖域と和平条約を結んだのだ。詳しい経緯は話すと長いので端折るが、我々が留学するに一番ふさわしいのが星矢の 家だろうと言う結論になったのでな」
「ああ、それで」

 今度はきちんと得心がいって秋乃は頷いた。
 滅びか存続か…人間の運命を決定する役目を委ねられたのは、一度は人間によって命を奪われ神の小宇宙も失った小さな双子神。そんな『重要人物』を責任 持って受け入れられるのは、アテナの聖闘士の中でも星矢しかいないだろう。確かに彼なら、和平成立をきっかけに『かつての確執は全て過去の事』とすっぱり と気持ちを切り替えて 未来に目を向けてくれそうだ。人類の未来が自分の双肩に託されたプレッシャーに押し潰されるどころか、逆に張り切って双子神の意識改革に乗り出してもおか しくない気がする。
 周囲も呆れるほどの熱血さで行動する星矢を想像して秋乃がクスリと笑うと、ところで…とタナトスが少し心配そうに口を開いた。

「俺達のいた世界では冥界と聖域は和解したが、こちらの世界ではどうなのだ?」
「それは私も気になっていた。この世界の我々と星矢達をあなたが同時に呼んだと言う事は、険悪な仲ではないようだが」
「ああ…この世界の冥界と聖域も、なんやかんやあって和解が成立したそうです。タナトスさんヒュプノスさんはエリシオンに住んでいますけど、ちょこちょこ 地上に遊びに来るし、都合が合えば星矢さん達とも飲みに行ったりして仲良くしてるみたいだし…。あ、そうそう。この世界のタナトスさんは、城戸財閥ブラン ドのアクセサリーのモデルをやってて、ちょっとした有名人なんですよ。星華さんもタナトスさんのファンなんですって」
「この世界の俺が、アクセサリーのモデル??」
「一体何がどうなってそんなことに?」
「そもそもはタナトスさん達が地上で使うお金を提供してもらう見返りだったらしいですけど、最近は手段と目的が入れ替わってるような気がしなくもないか な…」
「秋乃さん、こんちわぁ〜。表に『準備中』の札が下がってたけど入って良かったんですよね?」

 双子神がケーキを食べ終わるタイミングを見計らったように、喫茶スペースと売り場を仕切るレースのカーテンを開けて星矢が顔を出した。その後ろには一輝 と瞬がいる。
 …小さな双子神と聖闘士達はしげしげと互いを見つめた。

「沙織さん経由で話は聞いたけど、何か不思議な感じだな。パラレルワールドのタナトスサマとヒュプノスサマが来てるなんてさ。…あ、一応自己紹介した方が いいのかな?俺、天馬星座の星矢っす」
「不死鳥座の一輝だ」
「アンドロメダの瞬です」
「俺は死を司る神タナトス」
「私は眠りを司る神ヒュプノス」
「………ふぅーん…」

 星矢は無遠慮にじろじろと小さな双子神を見つめ、うーんと唸った。

「俺の知ってる双子神様とは別人だ、って聞いてたせいかもしれないけど、確かに何か違う気がするな。外見もなんだけど、雰囲気とかさ」
「あまり神の小宇宙を感じないな。俺達の知っている双子神は、抑えていても隠しきれないオーラをバリバリ出しているが」
「このタナトスさんとヒュプノスさんは、聖戦で星矢さん達に殺されて生まれ変わったんだそうです。神の力もその時にリセットされて無くなってしまったんで すって。聖戦が終わったのが七年前らしいから、おふたりは七歳ってことかしら」
「あーなるほど。言われてみれば小学校入りたてのお子様って感じだな。どれどれ、オニーサンがお子様セットでも奢ってやろうか?」

 双子神の大きな目やぷっくりと丸い頬のラインや、フォークを握った小さな手を見遣って星矢が笑うと、タナトスがムッとしたように唇を尖らせた。

「何がオニーサンだ。オジサンの間違いであろう」
「んなっ!ちょ、おま…人が地味に気にしてる事を!少しはオブラートに包んで発言しろよな!こっちの世界のタナトスサマはその辺気ィ使って年齢ネタには触 れないんだぞ!」
「…すっかり大人のダンディズムを身に付けたな、星矢」
「うっわー…ちみっこいけどこの厭味な物言いは確かにヒュプノスサマだぜ…」
「立ち話もなんですから、星矢さん達もケーキとお茶は如何ですか?タナトスさんヒュプノスさんも、遠慮なくお代わりして下さいね」

 秋乃がサラッと話を逸らすと、小さな双子神はにっこり笑って椅子から降りて来た。
 …双子神と一緒にケーキを物色しながら、星矢はふたりが着ている黒と黄色の服をしげしげ眺めた。指先が出るほど長い袖や半ズボンと絶対領域など、この世 界の双子神は(子供の姿になったとしても)積極的に着そうにはないデザインだ。

「なーなー、ふたりの着てるその服って自前なのか?」
「ん、これか?沙織に貰ったのだ」
「何でまた黄色と黒?」
「沙織がタイガースファンだから、らしいぞ」
「へー、そっちの世界の沙織さんはタイガースファンなのか」
「こっちの世界の沙織は違うのか?」
「ドラゴンズファンだった気がするぞ。球団が、と言うよりドアラが好きだからとか言っていた気がするが」
「私は鬼太郎のちゃんちゃんこが元ネタかと思ってたんですけど。………」

 皆の会話を聞きながらじーっと小さな双子神を見ていた秋乃が、ふとポンと手を打った。
 怪訝そうな顔で見上げるタナトスとヒュプノスに、彼女はにっこり笑うと目玉おやじの声色を真似て声をかけた。

「おい、銀太郎。おい、金太郎」
「…………」
「…………」

 小さな双子神と聖闘士は微妙この上ない顔を見合わせた。
 銀の神と金の神をキタロウにかけてギンタロウとキンタロウとボケたのは分かるが、正直笑えるほど面白くもないし、目玉おやじの口調も感心するほどは似て いないし、ネタにされた双子神も腹を立てるレベルではなく、余りにも中途半端すぎて皆が反応に困ったまま固まっていると。
 カランカラン…。
 絶妙のタイミングで店のドアを開けてこの世界の(大人の)双子神が入ってきた。

「遅くなりました、秋乃様」
「タナトスから話を聞いたのですが、異世界の我々が訪れているとは本当……の、ようですね」

 言葉の途中で小さな双子神に気付いたヒュプノスが金色の睫毛を瞬き、弟神の言葉にタナトスも頷いた。
 予め事情は聞いていたからなのか、特に驚いた様子も見せない『この世界』の双子神をまじまじと見つめて、異世界からやってきたタナトスとヒュプノスがぽ そっと呟いた。

「元の俺らがいる…」
「無駄にでかいな」
「無駄とは何だ、無駄とは。お前達の為にわざわざ地上に来てやった我々に対して真っ先に言うセリフがそれか?」

 タナトスが片眉をそびやかして異世界のヒュプノスを軽く睨むと、やおら小さなタナトスが彼の服を掴んで噛みついた。

「ずるいぞ!俺も早く元に戻りたい!」
「何がどうずるいのだ。そもそも何故お前は子供になっているのだ?小宇宙もほとんど感じぬが抑えているわけでもないようだし…」
「う…それは…」
「このちっこい双子神サマは、あっちの世界の俺らに殺されたらしいぜ。で、生まれ変わったから子供で小宇宙もないんだってさ」
「は?神が殺されただと?」
「一体どういう事だ?」
「私も話を聞いた時、びっくりしたんですけど…」

 秋乃が双子神と聖闘士達に事情を説明し始めたので、お代りのケーキを選ぼうとタナトスがショーケースを眺め始めると、ヒュプ ノスが兄神にそっと声をかけた。

「元に戻れば、あの蟹座は遠慮なくお前にちょっかいをかけてくるだろうな」
「元に戻れば返り討ちにしてやるわ」
「タナトスよ…よもや昔、襲われかけた事を忘れたわけではあるまいな?」

 眼差しをきつくするヒュプノスの姿に、タナトスは怪訝そうな顔になった。

「ヒュプノスよ、何をそんなに怒っているのだ」
「タナトスに言っても分からぬであろう…」
「何だと?」
「お前達、何をコソコソ話しているのだ。俺達に会って、元の世界に戻る手掛かりでも見つけたのか?」

 小さな双子神の喧嘩一歩手前ムードはタナトスの言葉でウヤムヤになり、銀色の少年は傍らの弟に思案顔で尋ねた。

「ヒュプノスよ…何か分かったか?」
「現時点では判断材料が足りん」
「そうか…なら取る行動はひとつ」
 
 タナトスは腕を組んで幼い顔に精一杯の厳かな表情を浮かべ…にっこりと笑ってショーケースのケーキを指差した。

「ケーキ、お代り!」
「ケーキではなくここは紅茶だろう」
「畏まりました、タナトス様、ヒュプノス様」
「……………」
「………。ヒュプノスよ、どこから突っ込んだものであろうな?少しは遠慮しろ、か?」
「我々に会っただけで解決策が見つかるなら苦労は無いわ、ではないか?」
「ああ、それか」
「そう言えば…。秋乃が言うには、お前達は私とタナトスをこの世界に連れて来た犯人に心当たりがあるらしいな」

 ヒュプノス少年の言葉に、双子神が軽く顔をしかめた。

「秋乃『様』だ、呼び捨てにするな」
「この方は冥妃べルセフォネー様の転生体で有られるのだぞ。まさかお前達、そんなことも知らぬのか?」
「それはさっき聞いたが、私達の世界のお妃はこのお姉さんではないからな…」
「あ、でも…この世界のハーデス様のお妃なら『秋乃様』と呼ぶべきか?」
「呼び捨てで良いですよ、あなた達にまで『秋乃様』なんて呼ばれたら何だか恥ずかしいから。…ところで、大人の方のタナトスさんヒュプノスさんと聖闘士の 皆さんは何がいいですか?」

 …双子神達と聖闘士がそれぞれ希望のケーキと飲み物を頼むと、秋乃は笑顔で頷いて準備をしに行った。

蝶様に描き下ろして頂いた素敵挿絵 はピクシブで閲覧できます!



NEXT

名前の後ろに(子)(大)がついたバージョンはこちらからどうぞ。     




星矢部屋
総合目次
SS・2012時代
SS・神話時代
SS・蟹座達



 三話目にして漸 く当サイトの双子神と星矢達の登場となりました。ネタはあるし話を描くのも楽しくてたまらないのに何故か思うように筆が進まず難産だったエピです。
 当サイト双子神の到着で、タナトスとヒュプノスがふたりずついるのでどっちがどっちか分からないかな?と思って名前の後に(子)(大)とつけてみたので すが、予想外に目に煩わしく感じたので、話の流れや前後の分で分かるだろうと思う部分は表記していません。が、どっちの双子神か分かりにくいかもしれませ んので、名前の後に(子)(大)と書いたSSも同時に上げて行くことにしました。読みやすい方でお読みくださいませ。
 蝶様双子神に何があって星矢・星華の家に居候してたのか?は秋乃と蝶様双子神の会話と言う形でざっと紹介しましたが、詳しくは蝶様のサイトにGO!で す。そしてハーデス様の優しさにじーんとして、可愛すぎる双子神に萌え死んでください。
 細かい解説は…今回は特にないかな?強いて言えば「店の入り口に準備中の札が下がってた」でしょうか。これは「只今貸し切り中」の意味です。込み入った 話の最中に事情を知らない他人が入って来ると色々面倒なので(聞かれたくない話も多分にあるでしょうし)、部外者をシャットアウトするために客が途切れた タイミングで入り口にプレートを出したんだと思います。エルミタージュ洋菓子店は採算度外視の趣味の店の為、営業はかなりイイカゲンなのです。そして客も それを承知で通っているので特に問題になる事は無い、という設定があります。