双子神2012・ 融合
EPISODE 5


 …ケーキと飲み物を堪能しながら雑談を交えつつ情報交換をして、皆は漸く『異世界の双子神を誘拐した犯人』の話題に入った。
 神の力を失って地上で生活していた小さな双子神を、世界と世界を隔てる境界すら越えてこの世界に連れて来た『何者か』…。その『誘拐犯』に心当たりがあると言うタナトス(大)が似顔絵を描き始め、ヒュプノス(大)は双子神(子)に話を聞き始めた。

「お前達は、この世界にお前達を連れて来た犯人を見たか?」
「ああ、見たぞ」
「白い帽子をかぶって白い日傘をさした、金髪の…何だか妙な雰囲気の女だった」
「その女は名を名乗ったか?」
「いや。何だか俺達とは知り合いみたいな感じで話しかけて来たのだ。ええと…何と言ったか…」
「『お久しぶりですわね、外の世界の神々』…一字一句正確ではないかもかも知れぬが、大体こんな言葉で話しかけて来た」

 双子神(子)の言葉に双子神(大)は頷いて僅かに眼差しをきつくした。
 ふたりが証言した『犯人の外見や発言』は、彼らが想像していた『何者か』に合致するものだったのだろう。
 タナトス(子)とヒュプノス(子)は記憶を手繰るような思案顔で話を続けた。

「『久しぶり』と言われても俺達はその女に見覚えは無くてな。誰だっけ?と思って戸惑っていたら、そいつは『あら失礼。そう言えばこちらの世界のあなた達とは初対面だったわね』とか何とか…」
「私達の反応は最初から分かっていたような口振りで、馬鹿にしたような顔でクスクス笑っていたな」
「それで?」
「『本来ならあなた達には関係ないことなんだけど、ちょっと協力してもらえるかしら。あちらの世界のあなた達に馬鹿にされたまま黙ってるなんて、私のプライドが許さないの』と言って、それで……」
「そいつがこう…スーッと手を動かしたら空間に裂け目が出来て、そこから伸びて来た黒い手が私とタナトスを掴んでその裂け目に引きずり込んだのだ。引きず り込まれた直後にこの世界に放り出されたから、あっちからこっちに襟首を掴まれて動かされたと言った方が正確かもしれぬが…。急に全然景色が違う場所に来 てしまって私とタナトスが戸惑っていると、そいつは『ここはあなた達から見れば未来の世界。この道をまっすぐ行ったところにあるエルミタージュという店に 行けば、あなた達に手を貸してくれる人がいるでしょう』と言って、私達が訳を尋ねる間もなく空間の裂け目にフッと消えてしまったのだ」
「うむ。それでその女の言った通りにこの店に来たら、秋乃がいたという訳だ」
「なるほどな。…で、お前達を攫ったのはこの女か?」

 似顔絵を描き終わったタナトス(大)が紙を渡すと、双子神(子)は『コイツで間違いない』と頷いた。
 好奇心から星矢達も紙を受け取って『誘拐犯』の似顔絵をしげしげと眺めた。なかなか上手く特徴を掴んでいて、その女が纏っていると言う異様な雰囲気も伝わってくる。

「それで、タナトスさんとヒュプノスさんはこの女性…八雲紫って言ってましたっけ…と、知り合いなんですか?」
「知り合いというほど親しくは無いですが、まぁその言葉が一番適切でしょう」
「一体何者なんだ、その女?」
「世界で幻になったものが向かう異世界『幻想郷』に棲む大妖怪だ。自称ではあるが、ありとあらゆる境界を操る力を持っているらしい」
「天馬星座達には話したことがあるな、『人間が神を信仰しなくなったことで、力を失った大和の神が消えている』と。その消えた神の行く先のひとつがこの幻想郷だ」
「じゃあ、その幻想郷に行って犯人を捕まえればいいんだな?」
「どうしてあなた達はその妖怪を馬鹿にした…と思われるようなことをしたんです?」
「そもそも何故そんな世界に棲む妖怪と接触したんだ?」
「同時に質問するな、順番に説明するから大人しく話を聞け!」

 勢い込んで尋ねる聖闘士達を制して、双子神(大)は紅茶を一口飲んでふっと息を吐き、考えつつ口を開いた。

「我々が八雲紫と接触したきっかけは、『人間に信仰されなくなったことで力を失った神が異世界に移住した』という噂の真偽を確かめたいと思っていた事であ ろうな。その噂が事実であるなら、何とかその『異世界に移住した神』に会って話を聞けないだろうか…と思っている時に、いつの間にか…そう、『いつの間に か』としか言えぬ、あちらから我々に接触して来たのだ」
「その女が只者ではない事は会った瞬間にはっきりと分かった。ありとあらゆる境界を操れると言う事は、神と人の境界すら曖昧にできると言う事。この女は神 にも匹敵する力を持つ危険な存在、深入りすべきではないと直感してな。幻想郷への道案内を頼む以上に関わるつもりはないと言う意味で『あなたが何者である かは瑣末な事』と言ったのだが、その言葉を奴は『馬鹿にされた』と受け取り、大妖怪のプライドが傷つけられたと感じたのだろう」
「じゃあ、その大妖怪サマは自分の力を誇示するためにわざわざ異世界の双子神サマを連れて来たって訳か?」
「恐らくな。この世界の我々を別世界に放り込むより、別世界の我々をこの世界に放り込んだ方が効果的だと思ったのだろう」
「…つまり俺とヒュプノスはとばっちりを食らったと言う訳か?」
「身も蓋もない結論だが要するにそういう事であろうな」

 大妖怪の八つ当たりの被害者になってしまった小さな神々が何とも複雑な顔で沈黙すると、星矢がにっこり笑ってふたりの肩を叩いた。

「ま、そんなに気にすんなよ。犯人も、犯人の居場所も分かったんだから、後はそいつをとっ捕まえて元の世界に帰るだけだろ?面白い経験が出来て良かったじゃねーか」
「ん…まぁ、そうだな」
「で、その幻想郷はどこにあるんだ?」
「分からん」
「え?だってあんたら、行ったことあるんだろ?何で分からないんだ?」
「…そう言えばタナトスさんは、『犯人は厄介な場所に棲んでいる』と言っていましたけど…」
「その通りです。八雲紫は幻想郷に棲む妖怪だが、我々が幻想郷に行くには八雲紫の力が要るのです。ついでに言えば我々が奴にコンタクトを取る手段もありません」
「………へ?」

 タナトス(大)が静かに言った言葉を皆が理解するまで多少の時間があった。
 双子神(子)を誘拐した犯人八雲紫は幻想郷の中にいる。そして幻想郷に入るためには八雲紫の力が要るが、こちらから彼女にコンタクトを取ることは出来ない。
 …それは、つまり…。
 星矢は目をぱちぱちしてボソッと呟いた。

「それってアレか、車の中に鍵を閉じ込めちゃったけどJAFも呼べないみたいな状況か?」
「そうだな、その例えが適切だろう」
「ええと…つまり、お手上げってことか?」
「現時点ではこちらが打てる手は無いな」
「…………」

 あっさりとタナトス(大)に言われて皆は一瞬唖然として、直後、涼しい顔をしている双子神(大)に食ってかかった。

「ちょ、さらーっと『打てる手は無い』なんて言うなよ!このちみっこい双子神サマと違って、あんたらはちゃんと神の力があるんだろ!?」
「どどどどどどういう事だそれは!俺もヒュプノスも元の世界には帰れぬと言う事かっ?!」
「私達が消えた理由などあちらの世界のハーデス様もアテナも知らぬのだぞ!冥界と聖域の関係が悪化して和解が白紙に戻ってしかも聖戦が起きたりしたらお前達はどう責任を取るつもりなのだ?!」
「この子達がこの世界に来てしまったそもそもの原因を作ったのはあなた達でしょう?ちょっと無責任じゃありませんか!?」
「お前達には無理でも、世界と世界を隔てる壁をこじ開ける力を持った神のひとりくらい知らないのか?」

 口々に非難されたタナトス(大)がたちまち眉間に皺を寄せて何か怒鳴りかけた時、秋乃が立ちあがって皆を制した。
  
「ちょ…ちょっと待って、皆さんちょっと待って!タナトスさんもヒュプノスさんも『ふたりを元の世界に帰す方法は無い』なんて一言も言ってないですよ!」
「んん…?」
「え、でも、打てる手が無いってことはおチビさん達が帰れる方法は無いとイコールなんじゃ…」
「その言葉の前には『現時点では』と『我々が』という二つの単語があったでしょう?私が電話をした時点でタナトスさんはおふたりを攫った犯人が誰で、どこ にいて、どんな能力を持っているか気付いていました。気付いた上でここに来ているんです。それは何故だと思います?おふたりを元の世界に帰す方法があるか らじゃないですか?」

 秋乃の言葉に聖闘士と双子神(子)がハッとして、話を最後まで聞かずに文句を言ってしまった事に申し訳なさそうな顔になった。
 皆の反応を見回して秋乃は椅子に座り直し、目線でタナトス(大)に話をするよう促した。
 冥妃が仲裁したせいで文句を言うタイミングを逃した死神(大)は、ひとつ息を吐いて説明を始めた。

「………。こちらからコンタクトが取れなくても、八雲紫が我々に接触してくる可能性は十分ある。奴の目的が我々への『仕返し』なら、俺とヒュプノスの困った顔の一つくらい拝んでやりたいと思うだろうからな」
「あ…」
「なーる、言われてみりゃその通りだ」
「じゃあ、向こうさんが出てくるのを待つしかないけど、事件解決そのものは時間の問題ってことか」
「そうなるな」

 ヒュプノス(大)が淡々と頷いて、その無表情さが皆に妙な安心感を与えていた。
 この眠りの神様がうろたえていないのなら事態はさほど深刻でないのだろう。問題は八雲紫がいつ現れるか、そして彼女が現れた時にタイミング良く双子神(大)が地上にいるかどうかだが…。
 その疑問に先回りする形でタナトス(大)が口を開いた。

「幻想郷の神から聞いた話だが、いかな境界を操る大妖怪といえども神の領域を侵すことは出来ぬらしい」
「えーと…じゃあ、その八雲紫はエリシオンに入る事は出来ないってことか?」
「エリシオンどころか、神の小宇宙で結界が張られている冥界や聖域にも入れぬだろう。つまり奴が姿を見せるならこの地上しかないと言う事だ」
「ふんふん、それで?」
「我々は可能な限り地上に来てそこのチビどもと一緒に過ごし、八雲紫からの接触を待つ。冥界に帰還する必要が生じた時はそいつらも一緒に連れて行く。我々が知らぬ間に消えられても、元の世界に帰ったのかこの世界で誘拐されたのか判別が出来ずに困るからな」
「ああ、なるほど」

 打つ手がないなどとしれっと言われた時には無責任にも程があると思ったが、双子神(大)がきちんと対策を立ててこの場に来たと分かり皆は感心したように頷いた。
 ぬるくなりかけた紅茶で唇を湿らせてタナトス(大)は話を続けた。

「それに八雲紫も万能ではない。これは俺の推測だが、奴は厄介な移動能力を持ってはいるが千里眼や予知能力を持っているわけではないようだ」
「つまり?」
「俺やヒュプノスが地上にいるか否か、いるとしたらどこにいるか…この重要な情報を知る術を八雲紫は持っていないと言う事だ」
「ああ、だからタナトスさんは私に『八雲紫と名乗る女が来たら引き留めておいてくれ』って頼んだんですね。入れ違いになったら困るから」
「そういうことです。八雲紫がこの店の近くにチビを放り出したのも、あなたが我々に直にコンタクトを取れる人物だと知っていたからでしょう」
「…という事は、だ。その大妖怪サマがあんたらの困った顔を拝みに地上に来た時はこの店を訪ねる可能性が高いと…」
「そうなるだろうな。故に、奴が現れたらすぐ捕まえる為にも可能な限りこの店に滞在するのが一番だが、それは現実的に無理があろう」
「確かに…朝から晩まで店にいたら迷惑であろうな」
「私は別に構いませんけど、タナトスさんやヒュプノスさんは退屈でしょう?何かあったら携帯に電話しますから、気分転換に『未来世界』の観光でもしてきたらどうですか?」

 秋乃の提案に双子神達は顔を見合わせてなるほどと頷いた。
 エルミタージュ洋菓子店の中でいつ現れるか分からない八雲紫を待つよりも、積極的に外に出て双子神が姿を見せた方が彼女に対して何らかのアピールになる可能性が高い。言い方は悪いが自分自身を撒き餌にするようなものだ。

「ではお言葉に甘えてガキどもに二十一世紀の地上を見せてやるとしましょうか。…お前達、どこか行きたい場所はあるか?八雲紫が現れたらすぐ戻らねばならぬから、映画館や遊園地は難しいが…」
「そうなるとハンズとかゲーセンとか動物園とかかな?」
「後は喫茶店とか…割と最近日本に出来たクリスピークリームドーナツとか」
「ドーナツ…あっ!そうだ、ミスド!」

 瞬の言葉にタナトス(子)が目を見開いてハタと手を打った。
 きょとんとする皆に彼は身を乗り出して力説した。

「そうだ、思い出した。俺とヒュプノスはミスドの新作を食べに行こうと思って家を出て、あの変な女に掴まったのだ!」
「はぁ…ミスドの新作…」
「おふたりはミスドがお好きなんですか?」
「ああ、大好きだ。行きつけの店の店員とはすっかり顔見知りだし、グッズは一通りゲットしている」
「へぇ…そりゃ筋金入りだな」
「ならばミスドに行くか。あそこなら何かあったらすぐに店を出られるし、それなりに長居もしやすかろう」
「うふふ、おふたりから見たら今のミスドの商品は半分以上新作でしょうから、どれを食べようか迷っちゃいそうですね」
「!!」

 半分以上新作、という秋乃の言葉に小さな神々はぱぁっと顔を綻ばせて目をキラキラさせた。余程ミスドのドーナツがお気に入りらしい。
 タナトス(子)はぴょんと椅子から飛び降りると、椅子にひっかけてあった白い鞄をいそいそと肩にかけて双子神(大)に駆け寄り袖を引っ張った。

「そうと決まれば善は急げだ。さぁ行くぞ、今すぐ行くぞ、この世界のミスドに行くぞっ!」
「分かった分かった、そんなに急かすな」
「では秋乃様、もし私達が出かけている最中に八雲紫が来たら引き留めておいて頂けますか」
「分かりました」
「じゃあ俺らは沙織さんに事の次第を報告しておくか。ついでにこの女を見つけたら捕まえておいてくれって頼んでおくぜ」
「任せたぞ」

 双子神(子)に早く早くと引っ張られて店を出て行く双子神(大)の姿を見送って星矢はふと思った。
 あっちの世界の人類がどうなるかはあのちっこい双子神サマの胸先三寸で決まるらしいけど、『人間がいなくなったらミスドも無くなるぜ』と言ったら人類滅亡を思いとどまってくれるんじゃないかなぁ…?

蝶様に描き下ろして頂いた素敵挿絵 はピクシブで閲覧できます!


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星矢部屋
総合目次
SS・2012時代
SS・神話時代
SS・蟹座達



 漸く八雲紫の動 機と一話目での蝶様双子神との会話内容を開かせました。いやいや長かった…。今回の五話目は話そのものが解説回なので解説すべきことは特にないかな?本番 は次の6話目W双子神inミスドだし!(笑)
 ひとつ解説するなら、八雲紫に誘拐された時の状況を話そうとして口籠る蝶様タナトスでしょうか。蝶様タナトスは人間恐怖症で、『無数の眼と手』にトラウマがあるそうで…それを思い出して口籠り、蝶様ヒュプがすぐに話を引き取ったと、そんな感じです。
 そして当サイトのタナトス様、似顔絵うめえぇぇ!(笑)当初は蝶様双子神が似顔絵を描く展開を考えていたのですが、なんとなく彼らは似顔絵を描いてもへ のへのもへじになりそうなイメージがあったので当サイトのタナトス様に変更したのですが…後程伺ったら、蝶様双子神の画力は壊滅的なんだそうです(笑)。 蝶様とはイメージがシンクロしやすいので嬉しい限り…エヘヘヘヘ(=^^=)