| エルミタージュ洋菓子店を出た双子神達は、店から歩いて数分のところにあるミスタードーナツのショップに向かった。 駅からそれなりに離れているせいか、駅前に似たような店が乱立しているせいか、二階建ての店は混み過ぎずガラガラ過ぎずそこそこの客の入りだった。 …店に入るなり、ドーナツがずらりと並んだ棚を見て小さな双子神(子)は目を輝かせた。タナトス(子)は涎を垂らしそうな顔で棚の端から端を往復すると嬉しそうにヒュプノス(子)に声をかけた。 「見たことないドーナツが一杯だぞ、ヒュプノス!どれにしようか迷ってしまうな、一日では食べ切れないかもしれぬ!」 「ええと…ここにトレイとトングがあるが、ひょっとして自分で取るのか?」 「ひょっとしなくても自分で取るのだ。さ、好きなのを選べ。手が届かないなら代わりに取ってやるから無理に取ろうとするなよ」 タナトス(大)がトレイとトングを渡すと、双子神(子)はウキウキとドーナツを選び始めた。 「あ、ハニーディップはまだあるのだな。むむ、ポン・デ・リング?…これは初めて見るぞ」 「焼きド…?焼いてあるドーナツという事か?」 「面白いな、食べてみようではないか」 「タナトス、私はこの米粉ドーナツが気になるぞ」 「やはりオールドファッションは外せぬな!」 「…おいお前達、一体いくつ食べる気だ?連絡が入ったらすぐ戻らねばならぬのを忘れたか?食べ切ってまだ欲しかったら改めて買えばいいのだ。持ち帰りも出来るのだしそんなに欲張るな!そこそこにしておけ、そこそこに!」 トレイにあれもこれもとドーナツを乗せて行くふたりに、流石にタナトス(大)が待ったをかけた。トレイの上には、四人で食べるにしても少々多すぎる数のドーナツが乗っている。 見たことの無い『新作ドーナツ』にテンションが高まるままドーナツを取っていたらしいふたりは、タナトス(大)の言葉にハッとした様子で伸ばしかけた手を引っ込めた。 そんな双子神(子)の様子を笑顔で見ていた店員は、レジでトレイを受け取るとお約束の質問を口にした。 「こちらでお召し上がりですか?」 「「はい!」」 「畏まりました。お飲み物も一緒に如何ですか?」 「俺はホットコーヒーで。お前は子供だからミルクで良いな」 「子供扱いするなっ。…俺はこのイチゴ味のミルクにする」 「私はカフェオレのホットで。お前は?」 「ホットカフェオレがあるのか。じゃあ私もそれがいい」 会計を済ませて、飲み物と大量のドーナツを持って神々が二階に上がると、まばらに席を埋めている人間達が好奇心を孕んだ目を向けて来た。ウキウキと先頭に立って階段を上ったタナトス(子)は、自分達が客の注目を集めていることに気付いてサッと双子神(大)の陰に隠れた。 …こいつは見知らぬ人間の注意が自分に向くのが怖いのか。 小さな死神の行動の意味を正しく察したタナトス(大)は、銀色の少年を自分の体で隠すようにして二階フロアの壁際の席に向かった。奥の席にふたりを座ら せ、他の客の視線を遮るように通路側の席にヒュプノス(大)と並んで腰を下ろすとイチゴ味ミルクとホットカフェオレを差し出した。 肩から掛けていた鞄を椅子に降ろして、どこか遠慮がちな仕草で飲み物に口を付けた双子神(子)は不安そうに尋ねた。 「何だか、俺達は妙にジロジロ見られていないか?」 「そうだな。私達がいた世界ではこんなにも注目されることは無かったのだが」 「…フッ」 ふたりの心配そうな言葉をタナトス(大)は鼻で笑い飛ばした。 椅子の背もたれによりかかり肘をかけるとわざと尊大な態度で口を開いた。 「人間どもが見ているのは、『只者ではないオーラをバリバリ出している』俺とヒュプノスであろう。小宇宙も持たぬガキに注目している人間などひとりもおらぬわ。自惚れるなよチビ助ども」 「秋乃様がおっしゃるには、この国では我々は突っ立っているだけでも目立つのだそうだ。タナトスは城戸財閥ブランドのモデルもしているから余計注目を集め るのであろうな。…まぁいつものことだ、もし人間が話しかけて来てもタナトスが適切に対応する故、お前達は日本語が分からない振りでもしていれば良い」 「俺達をガキ扱いするなと言っただろう!…ま、まぁ、注目されているのがお前達だけなら別に構わんが」 双子神(大)の隙間から他の人間達の様子を伺って、客が視線を向けているのはあくまでもこの世界のタナトスとヒュプノスだと分かったのか、双子神(子)は安心した様子でドーナツに手を伸ばして齧りついた。 「この『ポン・デ・リング』というドーナツは美味いな。グニュグニュした噛みごたえが何とも言えず面白いぞ」 「ああ、それか。何でもミスドの中でも一二を争う人気商品らしいぞ。次から次から新作が出ているしな…何でも一日二千個ドーナツが売れる店で、売れたドーナツの半分がポン・デ・リングだった時期があったそうだ」 「それは凄いな。しかし納得できるぞ、確かにこれは癖になる味だ」 先ほどエルミタージュ洋菓子店で少なくとも二つケーキを食べたはずのタナトス(子)は、そんな過去などなかったような様子で三つ目のドーナツを平らげた (本人いわく、『ドーナツなら十個や二十個は朝飯前』らしい)。ヒュプノス(子)は楽しげに話をしているふたりのタナトスを横目で見ながらどことなく不機 嫌そうな顔で黙々とドーナツを齧っている。 金の神が無口なのはいつものことなのでどちらのタナトスも大して気にしていないようだったが、ヒュプノス(大)は異世界の自分が不満そうにしている理由 を薄々察することが出来た。大好きな兄が自分をほったらかしにして他の誰かと楽しそうにしているのが気に入らないのだろう。何故それが分かるかというと、 彼自身もタナトスが他の誰かと仲良くしていると面白くないからだ。 ふたりのヒュプノスが言葉少なにカフェオレを啜っている隣で、タナトス(子)は四つ目のドーナツを齧りながら大人のタナトスが口に運んでいるカスタード入りのドーナツを指差した。 「あとタナトス、そのドーナツ一口くれっ」 「一口ってお前…」 タナトス(大)は銀色の睫毛を瞬かせ、三分の一ほど食べたカスタードクリーム入りのドーナツを見て、いいのか?と言いつつ正面に座ったタナトス(子)に差し出した。 銀色の男の子はテーブルに身を乗り出してパクッと一口齧ると満足そうににっこり笑って椅子に腰を降ろした…その途端、ヒュプノス(子)が明らかにムッと した顔で頬を膨らませてカフェオレカップ越しにタナトス(大)を睨んだ。何だか男の子の背後に焼きもちのオーラが見える気がして、ヒュプノス(大)は軽く 暗澹とした気分になった。 (ひょっとして私も、タナトスが誰かと睦まじくしていて不快感を覚えている時はこんな雰囲気を纏っているのだろうか…) 妙な形で『自分を客観視』する羽目になったヒュプノス(大)が半ば本気でへこんでいると、ふたりのタナトスが彼の漂わせるどよーんとしたオーラに気付いたのか怪訝そうな顔になった。 「どうしたヒュプノス?」 「気分でも悪くなったか?」 「あ…いや…」 「「これでも食べて元気出せ」」 見事に同じタイミングで同じセリフを言って、ふたりのタナトスは食べかけのドーナツを同時にヒュプノス(大)に差し出した。 眠りの神(大)は一瞬絶句して金色の目を見開き、乱暴にカフェオレカップをトレイに置いて思わず大声を出した。 「何故そこで齧りかけのドーナツを差し出すのだ!出すなら齧ってない物を出せ!!」 「せっかく心配してやったのにその言い分は何だ?こちらの世界のお前も変なところで神経質だな」 「同じものを分け合って食べた経験など数えきれないほどあるのに何故嫌なのだ?」 「齧りかけの残り半分を渡す事は『分け合う』とは言わぬわ!」 「あーあ、嫌だ嫌だ。ヒュプノスは男の癖に細かいことでグチグチと」 「言いたいことが伝われば言葉の正確な定義など二の次で良かろうに。些細な事に拘る弟を持つと苦労するな」 「ああ、全くだ」 「………お前ら…。では聞くがな」 変なところで意気投合したタナトス達の発言に頬を引き攣らせたヒュプノス(大)は、チョコクリーム入りのドーナツを乱暴に一口齧って兄神コンビに差し出した。 「この状態で差し出されても、お前達は『弟と分け合って食べよう』と思えるのか?」 「「…………」」 タナトス達は顔を見合わせ、フンと鼻を鳴らし、何も躊躇わず順番に一口ずつヒュプノス(大)の差し出した(齧りかけの)ドーナツをぱくりと齧った。 唖然とするヒュプノス(大)に見下すような視線を向け、ふたりのタナトスは唇についたチョコクリームをぺろりと舐めて平然と言った。 「「思えるぞ」」 「……………そう、なの、か………」 負けた。 何がどうとははっきり分からないが、完敗だ。 意味不明の敗北感に打ちのめされたヒュプノス(大)が呆然としていると、眠りの神(大)が差し出したままのドーナツからクリームが零れ落ちそうになって いるのに気付いたタナトス(子)が彼の手を掴み、齧り残しのドーナツをぱくぱくと平らげてついでに指についていた粉砂糖もぺろりと舐め取った。 その姿にタナトス(大)が思わずククッ…と笑い出し、ヒュプノス(大)がますます目を丸くすると、それまで黙りがちだったヒュプノス(子)がやおらテーブルをガンと叩いてフロア中に聞こえるような大声で怒鳴った。 「さっきから何をやっているのだ!お前は私のものだろう!!」 …その瞬間、店内はシーンと静まり返った。タナトス達もヒュプノス(大)も、まばらに席を埋めた客も、コーヒーとカフェオレのお代わりを注ぎに来た店員も見事に固まっていた。明るくポップなミスドのテーマソングだけが見事なKYっぷりで流れている。 数秒の沈黙の後、他の客や店員がクスクス笑い始め、ヒュプノス(子)は拳を握ったまま半べそと不機嫌がマーブル状になった顔で自身の片割れを見つめ、タ ナトス(大)は笑いを堪えるあまりに俯いて肩を震わせ、ヒュプノス(大)は恥ずかしさで死にそうになりながら壁を掴むようにして半ばテーブルに突っ伏して プルプルし、タナトス(子)は目をぱちぱちしてからはぁっと呆れた溜息をついてイチゴミルクのコップに口を付けた。 「何を今更。わざわざ大声で言う事か、そんな分かり切った事」 「だって、………」 ヒュプノス(子)は口籠り、フロア中に聞こえるような大声を出したことが今更ながら恥ずかしくなったのか頬を染めてもそもそとドーナツを齧った。 …聞いた?お前は私のものだろう、だって。最近のお子様は大人びてるね。 …外国の子は早熟なんでしょ。 …あっちの金髪の子は女の子だったのかな。 …お兄ちゃん大好きな妹かな?可愛いねぇ。 そんな囁きが聞こえて来て、ヒュプノス(子)はますます顔を赤くしながら齧りかけのドーナツに顔を埋めるようにしてボソッと呟いた。 「私のどこをどう見たら女の子に見えるのだ!」 「どこからどう見ても男の子だ!と言い切れるほど男らしい外見でもないだろう」 「………」 「異世界の私よ、もう何も言うな。お前が女の子と勘違いされたからこの程度で済んだのだ。お前まで男の子だと分かったらますます要らぬ注目を集める。これ以上奇異な目で見られるよりは勘違いされていた方がいくらかマシであろう…」 「ん、まぁ…確かにな…」 壁に身体を預けたままヒュプノス(大)が絞り出した言葉に、眠りの神(大)は大人しく口を噤んだ。 笑いを堪え過ぎたタナトス(大)の腹筋が痛み始めた頃、店員が営業用ではないスマイルを浮かべて双子神達のテーブルにやってきた。 「コーヒーとカフェオレ、おかわり如何ですか?」 「ああ、コーヒー頂きます。カフェオレはどうする?」 「「…………」」 「ん、二人とも全部飲んでしまったのか。それなら貰っておけば良かろう」 タナトス(大)が笑いを堪えるあまり涙目になって尋ねたがどちらのヒュプノスからも答えが返って来なかったので、タナトス(子)が二人分のカップを差し出した。 …飲み物のお代わりを注ぎ終えた店員が口を手で押さえながら下のフロアに降りて行ってもまだ、ヒュプノス(大)は壁に寄り掛かって俯いていた。タナトス (大)は面白くて仕方がないと言いたげな顔でコーヒーにミルクを入れて混ぜていたが、更なる悪戯を思いついたと言う顔でにやりと笑った。 銀の神はテーブルに肘をつきわざとらしく声を潜めてふたりに尋ねた。 「ひょっとしてお前達、『恋仲』か?」 「!」 「え…分かるのか?」 「そうでなければ『お前は私のものだろう』などとは言うまい。…で?どっちが『女役』なのだ?」 タナトス(大)の質問に死神(子)はモジモジと顔を赤くして、眠りの神(子)は涼しい顔でカップを口に運んでいる。 …恥ずかしさで魂が半分抜けかけている弟神に追い打ちをかけようとして盛大に自爆して、今度はタナトス(大)が恥ずかしさで顔を赤くして俯きプルプルす る羽目になった。片手でコーヒーカップを握り締め、片手で膝を掴み、笑いを堪えるのとは違う理由で肩を震わせている兄神の姿を見て、漸く立ち直ったヒュプ ノス(大)が壁から身体を離した。 つまらぬ悪戯をしかけようとするからこうなるのだ…と冷ややかにタナトス(大)を見遣ったヒュプノス(大)は、ここぞとばかりに厭味を言ってやることにした。 「タナトスよ。余計な質問をして派手に地雷を踏むのは最近のお前の趣味なのか?それともいわゆるマイブームというやつか?」 「…黙れ」 「しかし意外だな」 ヒュプノス(大)は恥ずかしさで固まっている兄神からしれっと視線を逸らして、頬を赤くしながらイチゴミルクを飲んでいるタナトス(子)に声をかけた。 無論、弟に悪戯の追い打ちをしようとした兄に対する仕返しが目的である。 「プライドの高いお前が『そっち側』とは…不満や抵抗感はないのか?」 「それは…その、………。気持ち良いから、別に、い…モガッ!」 ぶちゅ。 何とも間抜けな音と同時にタナトス(子)の頬や鼻に白いクリームが飛び散った。 別世界の自分自身の発言で恥ずかしさが限界突破したタナトス(大)が、咄嗟に彼の口を塞ぐために皿の上に残っていたドーナツを掴んで死神(子)の口に 突っ込んだのである。とは言え、タナトス(子)はほとんど口を開いていなかったから口元にドーナツをぶつけたと言う方が正確だろうか。 ドーナツをぶつけられたタナトス(子)は潰れた挙句にクリームが盛大に飛び出したドーナツを掴み(紙ナプキンを使わず素手で掴んだので手もクリームでベタベタになった)、クリームまみれの顔で眉を吊り上げてタナトス(大)を睨んだ。 「何をするんだ!せっかくのエンゼルクリームドーナツが台無しになったではないか!」 「『何をする』はこっちの台詞だ!公衆の面前で何を言いだすのだお前は!恥を知れ、恥を!お前が子供でなければ殴って黙らせているところだぞ、ドーナツをぶつけられる程度で済んだのだから有難く思え!!」 声を潜めつつ怒鳴ると言う器用な芸当をして、半ば腰を浮かしかけていたタナトス(大)は乱暴に椅子に座りなおして苛々と足を組んだ。 先に質問して来たのはそっちではないか…と文句を言いつつ、頬や手にべったりと付いた白いクリームにはお構いなしで、銀色の男の子はぶつけられた拍子にひしゃげたドーナツをぱくりと齧った。 皮を齧る前に顔と手に付いたクリームを何とかしたらどうなのだ?と思った双子神(大)が紙ナプキンに手を伸ばした時、やおら彼の隣に座っていたヒュプノス(子)が兄を引き寄せて兄の手や頬に付いた白いクリームを舐め始めた。 「……………………」 「ちょ、何をするっ、くすぐったい、くすぐったいぞ、あはははははは」 頬と言わず鼻と言わず手と言わず弟に舐められてそのくすぐったさに笑いながら、タナトス(子)はヒュプノス(子)の行動に抗議することなくドーナツを食べ続けている。 周囲の客がクスクス笑う声が聞こえて来て、双子神(大)はまたしても顔を赤くして俯く羽目になった。 ヒュプノス(子)がこんな行動に出た理由は、『タナトスは私のもの』アピールをしたいからだろう…と察しがついてしまって恥ずかしさ更に倍率ドン状態のヒュプノス(大)は、半ば八つ当たり気味に兄神を横目で睨んだ。 「タナトスよ、黙らせたかったのは分かるが何故ドーナツをぶつけたのだ?」 「子供が相手だ、乱暴な手は使えまい?」 「だからと言ってこんな白いクリーム入りのドーナツでなくとも!」 「これしか残っていなかったのだから仕方なかろう。そもそもお前が妙な質問をしたのが悪いのだ!」 「一番最初におかしな質問をしたのはお前であろう。私に責任をなすりつけるな!」 「あは、あははははっ、くすぐったいと言っているであろう!」 「………」 「………」 ガタッ! 目の前の光景と周囲のクスクス声にいたたまれなくなったタナトス(大)は椅子を蹴立てて立ち上がった。きょとんとしているタナトス(子)の襟首を引っ掴 んで自分が座っていた椅子に些か乱暴に移動させると、手近にあった紙ナプキンで彼の顔に付いたクリームをゴシゴシゴシゴシ!!と拭き始めた。その傍らで ヒュプノス(大)がひたすら無表情のまま手に付いたクリームを拭っている。 大人ふたりに押さえつけられて顔と手を拭かれているタナトス(子)は、半ば涙目になってドーナツを持っていない方の手をバタバタさせた。 「ちょ、痛い、痛い!」 「この程度でピーピー喚くな見苦しい!」 「お前っ、何をする?!タナトスが痛がっているではないか!」 ヒュプノス(子)が驚いて立ち上がり、兄神の顔をゴシゴシやっているタナトス(大)の腕を掴んだ。 タナトス(大)は眠りの神(子)をじろりと睨んで袖を掴んでいる小さな手をさりげなく振り払った。 「十分手加減してやっているぞ。お前も少しは考えて行動しろ、余計に要らぬ注目を集めるではないか!」 「ああっ、まだ食べていたのに!拭いてしまったらクリームが食べられないではないか!」 「だからと言って弟に舐め取らせる必要はないだろう」 「食べ物を粗末にしちゃいけないって星華姉ちゃんがいつも言っているぞ!」 「それはそうだが、食べ物に気を取られて自分の誇りを粗末にしては本末転倒であろうが!」 「う…。……でも、クリームの入っていないドーナツなんて苺の乗っていないショートケーキと同じではないか…あーあー、最後の一個だったのに…」 タナトス(子)はしょんぼりした顔で残っていたドーナツの皮を口に入れた。その姿を見て少し気持ちが落ち着いた銀の死神(大)はふーっと息を吐いた。 「まだ食べたいのなら追加で買ってくればいいであろう。ほら、行くぞ」 「え、いいのか?」 「秋乃様からの連絡もまだないしな、別に構わん」 「では、さっき気になっていたドーナツを買ってこよう!」 新しくドーナツを買っていいと言われてあっさりと機嫌を直したらしいタナトス(子)がタナトス(大)の手を引いて一階に降りて行った。 漸く状況が落ち着いてホッとしたヒュプノス(大)は、ヒュプノス(子)がタナトス達が降りて行った階段を複雑な表情でじーっと見ていることに気付いた。怒っているような、拗ねているような、それでいてどこか悲しそうな、色々な感情が縺れて絡まった顔をしている。 …彼の複雑な心境を察することが出来たヒュプノス(大)は小さな自分自身を労わろうとそっと手を伸ばしたが。 ぱしっ。 同情など要らぬと言いたげに、頭を撫でようと差し出した手は無造作に払いのけられた。 「!………」 「…………」 驚いて目を丸くするヒュプノス(大)から意図的に視線を逸らすようにして、ヒュプノス(子)は不満気に頬を膨らませ唇を尖らせたまま、椅子に置いてあった鞄を掴むと乱暴な足取りで階段を下りて行った。 難しい年頃だな。 ヒュプノス(大)は浅く溜息をついてカフェオレカップを口に運んだ。 店の一階に降りたヒュプノス(子)は階段の降り口で後ろを振り返った。 …この世界のヒュプノス(大)は追いかけてこない。椅子にタナトス(子)の荷物が置きっぱなしだから席を離れられないと思ったのか、それとも追いかける必要が無いと思ったのか。 ドーナツの棚に目を向けると、棚の前を行ったり来たりしているタナトス達が見えた。 眠りの神(子)は唇を噛み締めた。 (タナトスよ、私とお前はこの異世界でふたりぼっちなのだぞ?秋乃はペルセフォネー様ではないし、あの星矢達も私達の知っている星矢ではないのだぞ。この 状況で確かに信じられるのは自分達だけではないか…なのに…どうしてお前はそんなに呑気にしていられるのだ?タナトス…!) じっと見つめても、ふたりのタナトスはヒュプノス(子)には気付かない様子でドーナツを選んでいる。 …お前達など、私がいなくなった事に気付いて慌てればいいのだ。 肩から掛けた鞄の紐をギュッと掴んで、ヒュプノス(子)は無言のまま店を出た。店の出入り口で左右をきょろきょろ見回して、彼は自信なさげな様子で足を右側に向けて歩きだした。 |
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一の山場「双子神inミスド」です。本当に蝶様双子神はナチュラルにいちゃついてくれてうらやま可愛らしい…。タナタナ+ヒュプヒュプでミ
スドに行って、「子供扱いするな」と言いながら苺ミルクを所望するちみっこタナトス様、蝶様タナトスの問題発言にドーナツで突っ込む当サイトタナトスと、
蝶様タナトスの顔についたクリームを舐める蝶様ヒュプというのはコラボSSの話が立ち上がる前からありました。労わろうとしたヒュプの手を振り払う蝶様
ヒュプや、クリームを舐められるちみっこタナトス様の絵は(今回描き下ろして頂いた挿絵とは別に)蝶様サイトで拝見出来るので見るべし見るべし!です
よ!!(力説) 当初、当サイトタナトスがドーナツを突っ込む理由は「お前は私のものだろう!」と言ったヒュプに対して「お前も俺のものだ!」と大イバリで言おうとした から…でした。それが色々あってこんなことに。そりゃタナトス様もドーナツ突っ込むZE!(笑)ちみっ子双子神の問題発言+行動に恥ずかしくて死にかける 当サイト双子神、書いてて本当に楽しくて楽しくてニヤニヤが止まりませんでした(=^^=) ネタ帳を見ながら「大人タナトスが食べてるドーナツを一口要求するちみっこタナトス」「大人双子神がタナトスばかりに構うので焼きもちから問題発言する ヒュプ」「焼きもちオーラバリバリのちみっ子ヒュプを見て、自分もこうなのかとへこむ大人ヒュプに齧りかけのドーナツを差し出すタナタナコンビ」「拗ねて るちみっこヒュプを気遣って撫でようとするけど振り払われる大人ヒュプ」のネタをどこにどう入れるか悩むのは楽しかったです。 最初の予定ではヒュプがひとりで店を出て行くエピはなく、タナタナコンビが人間に関する感情について話をしたり、ヒュプヒュプコンビが自分から兄貴を取 るかもしれないライバルについて語り合ったりしつつ、冥界に帰還して色々あった後、翌日に八雲紫が現れて蝶様双子神が自分の世界に帰る…という「一 泊二日プラン」を考えていました。が、「当サイトヒュプが蝶様ヒュプをおんぶする」ネタを蝶様に提案したところ、「ヒュプがひとりで店を飛び出して、大人 双子神が本気で心配してくれたと分かればおんぶされる事を拒否しない」とアドバイスを頂いたのでこういう展開になりました。ヒュプは頭が良い分用心深いか ら、無条件で当サイトの神々や聖闘士を信用はしないかも…と思って「蝶様ヒュプ家出+迷子」エピを入れることになりました。 そのおかげという訳ではないですが、話の展開上タナタナコンビとヒュプヒュプコンビの会話を入れられなくなったので、蝶様双子神の滞在期間を「一泊二 日」から「二泊三日」に変更する運びとなりました。そうなったら、丸一日「失踪した」双子神の行方が分からない蝶様世界は大混乱だろうなぁ…と思いまし て、色々検討して、マニさん視点の話を入れさせてもらえることになりました!蝶様マニさんの立ち位置って便利で使いやすいんですよね…(・ω・) そして解説。 ・椅子にふんぞり返る当サイトタナトス→蝶様双子神から他の人間達を、他の人間達から蝶様双子神を見えにくくするためのさりげなーい心遣い。 ・ポン・デ・リング→意外にもデビューは2003年(もっと早いと思ってた)。一日2000個売れる店でryは、テレビでそんな事言ってた気がするの で…。 ・「ミスドに苺ミルクなんてあった?」→昔、「氷コーヒー」の同類で「氷イチゴ」があったのでそれかなぁ…と。ミスドのメニューについては、2012年2 月現在実在しない物もありますが、まぁその辺はナァナァで(笑)。 ・蝶様ヒュプが店を出て行ったことに蝶様タナトスは気付かなかったの?→それについては七話目で。 そして今回頂いた挿絵も…グハァ!!(吐血)タナトス様イケメンすぎるし足細いし!!恥ずかしがってるヒュプヒュプはもんどりうつほど可愛いしクリーム 舐めてる双子神なんてアナタ!!(机ばしばし)小宇宙が必要以上に萌え上がってしまいますよ!! |