| 聖域との和解が成立して数カ月、そろそろ夏の名残も消え始め秋めいて来た頃。 冥王の片腕、死の神タナトスは冥闘士達を嘆きの壁に呼び出していた。例によって彼の傍らにはヘカーテとエリスがくっついてきている。 現在の冥界における事実上の最高責任者は、集まった冥闘士達をぐるりと見回し社長の訓示のごとく口を開いた。 「先日、日本の城戸沙織より我が冥王軍に協力要請があった。城戸財閥が自社の宣伝の一環としてハロウィンのイベントをするから、我々冥王軍にも参加してほしい…要約するとこういう事だ」 タナトスの言葉に冥闘士達はきょとんとした顔を見合わせた。 キドサオリって誰だっけ?今生のアテナの人間界での名前だろ。そもそもハロウィンって何だ?そんな囁きがあちこちで聞こえる。 ざわめきが静まるのを待ってタナトスは言葉を続けた。 「お前達のハロウィンに関する知識や認識はバラバラだろうが、ハロウィンが何か知らぬ者は知らなくても差し支えは無い。知っている者は、自分の知るハロ ウィンと今回依頼のあったハロウィンは別物だと考えろ。日本の…ああ、『日本の』とひと括りにしては問題か…城戸財閥が主催するハロウィンは、コスプレし て菓子を貰って回る仮装イベントだと思えば良い。日程などの詳細は追ってヒュプノスかオネイロスから書類を配るが、何か聞いておきたい事は有るか?」 ワイバーンのラダマンティスが挙手した。 目で指されて一歩前に出たお祭り騒ぎとは無縁そうな男は困惑顔で尋ねた。 「あの…我々のイベント参加は既に決定している、という事でしょうか?」 「コスプレイベントへの参加をハーデス様が拒否すると思うか?」 「兄貴もヘカーテさんもノリノリだったじゃん」 バコッ。 妹の頭を一発小突いて、タナトスは集まった冥闘士達を見遣った。 「聖域とのより良い関係を維持するためにも、療養中のハーデス様以外の冥界の神々は参加を承諾した。故にお前達も参加することが望ましいが、強制するものではない。…が、イベントに参加すれ ば地上におられる冥妃様にもお目にかかれるぞ。ベルセフォネー様…の、転生体で有られるお方もイベントに参加される故な。後は俺個人の意見だが、たまには 馬鹿馬鹿しいイベントで息抜きするのも良いのではないか?企画を聞いたが、なかなか面白そうであったぞ」 「なるほど。…ですが、その、イベントに参加するからには何かしらの仮装をせねばならないのですよね?」 敬愛する冥王ハーデス最愛の妃とやらにはお目にかかりたいが、仮装には抵抗があるらしいラダマンティスがますます困惑顔になって質問を重ねると、タナトスはクスリと笑った。 「わざわざ仮装衣装を作らずとも冥衣で参加すれば良いだろう。我々の冥衣は現代日本の基準で言えば十分仮装だ。一体何のコスプレかと聞かれたら、地獄の番 人だとでも答えれば問題ない。どうしても仮装に抵抗があるなら白い布を頭からかぶって『これは幽霊だ』と言い張れ。どっちも嫌ならタキシードにシルクハッ トとマントを付けてドラキュラだと主張しろ。それで何とかなる」 「な…なるほど…。大変ためになりました、ありがとうございます」 明らかにホッとした顔でラダマンティスが下がると、タナトスはちらりと美貌の女神を見た。 「ちなみに、仮装衣装に関する相談はヘカーテ様が親身になって受けて下さるそうだ。ヘカーテ様の衣装デザインのセンスはオリンポスの女神達をも唸らせるレ ベルのものだからな、衣装に妥協する気のない者や仮装はしたいが自分に似合う衣装が分からぬ奴は知恵を拝借すると良かろう」 「ふふふふふ、私は遊びには全力投球する主義だからな。とことん相談に乗ってやる故、遠慮なく相談に来るが良い!」 ヘカーテは立派な胸を強調するようにドヤ顔でふんぞり返った。 遊び『には』全力投球って…遊び『にも』じゃないのかよ…と、内心で突っ込んだ冥闘士もいたが。 ラダマンティスは冥妃に謁見できる光栄に預かるため、アイアコスは面白い事は楽しむべき、ミーノスは神々が乗り気なら部下も参加するのが処世術というもの…という三者三様の意思意向で、冥王軍は総出で城戸財閥主催のハロウィンイベントに参加することになったのである。 そして城戸財閥主催のハロウィンイベントの当日。 企業PRの一環という事で、イベント参加者達が『突撃訪問』する家も事前に打ち合わせ済みの社員宅である。身も蓋もない言い方をすれば壮大なヤラセなの だが、和解が成立した聖域と冥界の交流という意味合いもあるのでその点に文句を言う聖域・冥界の関係者は誰もいなかった。 「しっかし冥王軍が総出でイベント参加するとは思ってなかったなー。壮観ではあるけどさ」 カボチャを模した飾り付きの幅広帽子をかぶって白いマントを羽織るという無難なハロウィン衣装の星矢が集まった冥闘士を眺めて呟いた。 似たような格好の瞬と一輝も同意だと言うように頷く。 「しかもみんな、結構気合い入れてしっかり仮装してるしね」 「この歳になってコスプレイベントなど…と思ったが、この歳だからこそ中途半端ではなく真面目にやった方が逆に場に馴染むようだな」 「ま、冥王軍の今のトップは面白い事に目がないタナトスサマとヘカーテさんだもんな。部下があれだと本人達はどんな格好で来るんだか」 「おーい、星矢ーーー!!」 噂をすれば何とやら。 聞き覚えのある争いの女神の声に振り向いた星矢達は、冥界の神々の格好に目を丸くした。 エリスはオレンジ色のタートルニットに首からゴーグルを下げて緑のショートパンツ。龍神秋乃は和服をイメージしたような白い服に黄色い帯を結び、紺のス カート、足元は黒いブーツで蝶をかたどった杖を持っている。ヘカーテは相変わらず豊かな胸元を惜しげなく晒した漆黒のロングドレスで、髪を結い上げ簪を挿 し、ついでにぬいぐるみを抱いていた。 …どっかで見た覚えのある三人組だ。 よくよく見れば、女神達の後ろを複雑な顔で付いてくるヒュプノスの衣装はやはり和服を大胆にアレンジした黒いローブで、これまた見覚えがある格好だった。ついでにヒュプノスの後ろについてきているオネイロスとモルペウスはヒュプノスと似た傾向の衣装だった。 星矢は思わずボソリと突っ込んだ。 「…ハロウィンでFFXのコスプレかよ。つか、著作権的にどーなんだよ」 「私達は『偶然カメラに映った外国からの参加者』ってタテマエだからね。大丈夫、大丈夫」 「確かに、ヒュプノス様の老師コスを含めて滅茶苦茶ハマってるから、企業としても文句は言わないかもねぇ」 「うふふ。ハロウィンは日本で言うところのお盆みたいなものだから、死者を送るキャラのコスプレはある意味ドンピシャでしょう?」 杖をくるりくるりと回しながら龍神秋乃が笑った。 星矢は、楽しげな女神達の後ろで微妙な顔をしている男神達を見遣った。 「つか、タナトスサマはともかくヒュプノスサマまで参加するとは思わなかったな。あんた、こーゆーイベント興味なさそうだし」 「ハーデス様をおひとり残してくるのも気が進まなかったし、私は辞退したかったのだがな…」 「タナトスは今回のイベントでメインとしてカメラに映る役だからな。あいつと別行動をとるベルセフォネーの護衛役を出来るのはお前しかいないだろう、と説得したんだ」 「なるほど、説得という名の強制だった訳か」 パコッ!! ヘカーテが抱いていたサボテン型のぬいぐるみが星矢にタックルしてきた。神様パワーで動かしているせいか、普通に痛い。 これ以上何か言ったら本当に氷の魔法が飛んでくるかもしれない。ブリザド程度なら冷てぇで済むが、ブリザガまで行ったら流石にまずい…と思った星矢はさらっと話題を変えた。 「そーいや、そのメインのタナトスサマはどこだ?あと、パン太とイケロスもいないみたいだけど」 「タナ兄ならアテナと最終打ち合わせやってんじゃないかなぁ。あ、パンタソスとイケロスは兄貴と一緒にカメラに映る役なんだ」 「じゃあ沙織さんへの挨拶もかねてタナトスさんの仮装を見に行きましょうか。私達もアイデア段階から参加したから、相当の出来栄えですよ」 「へぇ…」 秋乃の言葉に聖闘士達は今更ながらタナトスの仮装が気になって来た。 家を回ってお菓子を要求し、『お菓子くれなきゃ悪戯しちゃうぞ!』という行動は子供がするもの、というイメージがある。精神年齢はともかく(………)外見的には立派な成人男性のタナトスがそれをやったら相当イタイ気がするが、その辺はどうクリアしたのだろう? などと思っていた聖闘士達は、スタッフ達との打ち合わせを終えたらしいタナトスを見て絶句した。 つばの広い大きな帽子。丈の長いポンチョと裾の長いローブ。ぴるぴる動く猫(犬か?)の耳。ゆらり、ぴょこりと尻尾が揺れると先端に結んだ鈴が涼やかに鳴った。肩に担いだ銀色の大鎌には何故かピンクの大きなリボンとジャック・オ・ランタンのマスコットがついている。 この格好を大人の男がしていたら(いくら仮装イベントでも)痛いを通り越して警察を呼ぶレベルなのだが。 女神達に気付いたタナトスが小走りに近づいてきた。 「これは秋乃様。御挨拶が遅れて申し訳ありません」 「気にしないでください。プライベートよりお仕事を優先するのは当たり前ですから」 「痛み入ります」 …秋乃の言葉に恐縮した様子のタナトスは、どう目をこすって見ても、小学校低学年の子供にしか見えなかった。声も子供のそれだ。 ちなみにタナトスの後ろに控えたイケロスとパンタソスは分かりやすいフランケンとミイラ男…いや、パンタソスは女性に化けているからミイラ女か…の仮装をしている。 死神様は女神達の後ろに突っ立っている星矢達を見て眉根を寄せた。 「何だお前達。アテナ主催のイベントだと言うのにやる気の無い格好だな」 「いやいや、アンタらが気合い入れ過ぎなんだよ。つか何のコスプレだよソレ?魔法使いか?狼男か?死神か?」 見た目も声も子供だが、尊大な物言いはまぎれもなくあのタナトス様だ。 余りにも驚いたせいでタナトスが子供の姿をしている事はスルーしたまま星矢が尋ねると、死神様はふんぞり返って大イバリで答えた。 「全部だ!いわゆるハイブリッドという奴だな!」 「はぁ…」 「っていうか、その、猫耳?狼耳?を付ける事に抵抗は無かったんですか?」 やはり子供の姿には突っ込む勇気がなかった瞬が別の事を尋ねると、タナトスはうーんと唸った。 ぴるぴるぴる。 帽子にくっついた耳が動いて、尻尾がパタリパタリと揺れた。 「無くはないが…。これは衣装の飾りだ、ハロウィンとはそういう仮装をするイベントなのだから気にするなと秋乃様に言われてな。いまいち釈然としなかったが冥妃様のご要望だから拒否する訳にも行くまい」 「子供の姿をしているのも秋乃さんの要望なのか?」 「そっちはアテナの要望だ。ハロウィンは子供のイベントだから子供の姿で参加してほしいと。ま、俺も普段の姿でこの格好は流石に嫌だから好都合と言えば好都合だったが」 「『子供の姿で参加しろ』って言われて、はいオッケーって出来るもんなのか?」 「神を馬鹿にするなよ、天馬星座」 タナトスはムッとした顔で星矢を睨んだが、何せ小さな子供が見上げる格好なので怖くもなんともない。 悪い悪い、と謝罪しつつ星矢はフォローの言葉を口にした。 「馬鹿になんてしてないって。ほら、タナトスサマは大人の格好でそれなりに有名になってるだろ。子供の姿になってんのも不思議だけど、その辺の矛盾みたい のはどう説明するつもりなのかなーって思ってさ。マジモンの神様だって公表するのは、日本にいる八百万の神様の手前まずいんだろ?」 「フッ…見た目を変えるなど神にとっては造作もない事。この姿をどう説明するのかは俺も不思議だったが、アテナが言うには『ハンドパワー』と『イリュージョン』という二つの単語で人間達は納得するそうだ。全く…この国の人間は良く分からんな」 「………そーだな、俺もその理屈は良くわかんねーよ」 星矢達は複雑な顔で頷いた。 その説明で納得して子供の姿になって萌え系狼男のコスプレするあんたの事も良くわかんねーけど。 そして城戸財閥主催のハロウィンイベントが始まって。 タナトスは誰よりもイベントを満喫して山のような菓子を抱えて御満悦、『偶 然カメラに映った外国からの参加者』だったはずの冥界の神々もしっかりお菓子を貰うイベントに参加し(ヘカーテに至っては『氷の魔法』までお披露目し た)、とにかく目立つ!をコンセプトに冥衣で参加したアイアコス一派は思わぬ注目を浴び、無難にシル クハットとタキシードでドラキュラを演じたラダマンティスとミーノスは何だか悔しそうな顔をしていた。 …城戸財閥から冥王軍に、クリスマスイベントへの参加要請があった事は言うまでもない。 |
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季節物を押さえられるときは押さえないとね!というわけで、ハロウィンのSSです。ああいうお祭り騒ぎってタナトス様は好きそうだなーと思って。ハロウィ
ンのネタをぼんやりと考えている時にピクシブに以前サイトで公開したサイキックフォースのSSを投稿していたのですが、その時に某大好きサイト様の『マジカル★せつな』を思い出しまして。前々から刹那とタナトスはキャラかぶってるよなーと思った途端、マジカル★せつなが頭から離れなくなってこんなSSになりました。 ちなみに冥界神々のコスプレですが。龍神秋乃→FFXのユウナ、エリス→リュック、ヘカーテ→ルールー、ヒュプノス→シーモアです。神様達のコスプレ衣装は何にしようかな、普通に西洋の妖怪にしようか、DQのコスプレにしようか悩んでいる時に相方がFFXをやってまして。あ、ちょうどいい感じにキャラかぶってるじゃん!と思ってこうなりました。 この話の前半に、『ヒュプノスにも猫耳を付けろと要求するヘカーテ』ネタを入れようかと思ったのですがうまくつながらなかったのでまたの機会に。 |