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冥界と聖域の和解が成立してしばらくの後。 冥界の神々と元聖闘士達は、冥妃ベルセフォネーの転生体である龍神秋乃の洋菓子店エルミタージュで茶会と洒落込んでいた。 ちなみにこの日地上を訪れたのは双子神と夢の四神、ヘカーテとエリスという大所帯である。 コトの発端は店長秋乃の服装だった。白いブラウスに紺のスカート、きちんと糊付けされた白いエプロン、そして白いカチューシャ。見事なまでのメイド衣装である。 その服装に真っ先に喰いついたのはオタクを自認するエリスだった。 エリス 「お茶代だけでこーんなハイレベルなメイドさんにおもてなしされちゃうなんて、兄貴のコネ万歳って感じねー」 タナトス 「どうしてお前はそういつもいつも問題発言から会話が始まるのだ?」 ヘカーテ 「冥妃のお前が侍女の格好で給仕をして回るというのも妙な光景だな。面白いが」 秋乃 「うふふ、ちょっとした気分転換ですよ」 エリスはにこにこし、冥界の神々は複雑な顔をして、元聖闘士達は目の保養だなーとウットリする…そんな平和な時間は、今日は秋乃によって破られた。 女性が三人揃うと碌なことがないというのは往々にしてありうることである。 秋乃 「そうだ!メイドの衣装は他にもありますから、良かったら着てみます?エリスさんとヘカーテさんと…パンタソスさんも、かな?」 双子神+夢の四神 「(嫌な確信ビシビシ)」 星矢 「パン太のは見たくないけど他のふたりのはちょっと見たいかも!」 パンタソス 「パン太言うな」 瞬 「え、ちょ、神様にメイドって、それ、いくらなんでも…」 エリス 「私、着てみたい!(早速椅子から立ち上がる)」 ヒュプノス 「おいエリス!!」 ヘカーテ 「エリスが着るなら私も着ないわけにはいかないな(すっくと立ち上がる)」 タナトス 「ちょ…ヘカーテ様!悪ふざけはマウスパッドまでにしておいてください!」 秋乃 「大丈夫ですよ、タナトスさん」 タナトス 「?」 秋乃 「おっぱいマウスパッドよりメイドコスの方が悪ふざけレベルは下ですから(にっこり)」 男神一同 「(最強の天然は転生しても変わってない!!!!)」 秋乃がエリスとヘカーテを連れて部屋を出ていくと、冥界の男神達はズキズキと痛み始めた頭を押さえた。 その様子に星矢は怪訝そうに首を傾げた。 星矢 「皆、なんでそんな嫌そーなんだ?ヘカーテさんとエリスがちょっとコスプレするだけだろ?メイド喫茶でバイトする訳でもないのに」 タナトス 「コスプレして満足してそれで終わってくれれば良いが、なまじ気に入ったりしたら…。エリスはともかくヘカーテ様は本気でバイトすると言い出しかねん」 星矢 「ちょ…いくらなんでもそれは有り得ないだろ(笑)」 タナトス 「天馬星座よ、お前は例のマウスパッドの一件を考えても有り得ないと思うのか?」 星矢 「………(凍りつく笑顔)」 オネイロス 「下手に止めたら余計にやりたがりますよね、あの方は…(深刻顔)」 ヒュプノス 「ご自身の神殿でコスプレする程度で満足してくれればよいのだが…(深刻顔)」 星矢 「こうなったらもう神様に祈るしかないかぁ」 瞬 「星矢…神様ならここに大勢いるけど」 星矢 「………」 神々 「………」 星矢 「えーっと、ほら、その、何だ、神様も人間が思うほど万能じゃないんだなー、みたいなー…」 タナトス 「そんな苦しいフォローなぞいらぬわ!」 微妙な沈黙が落ちて、飲み物を啜りケーキやクッキーを齧り待つこと15分ほど。 「お待たせしました!ちょうどパイも焼けましたよ〜」 部屋の扉を開けて秋乃が焼きたてのアップルパイを持って戻ってきた。 その後ろからカトラリーやティーセットを持ったエリスとヘカーテがついてきている。 男神一同 「………(思ってたよりまともで少し安堵)」 元聖闘士 「………(思ってたよりまともで少し落胆)」 ヘカーテ 「お待ちかね、女神メイド参上っ!」 エリス 「ほらほら見て見て!どう?絶対領域〜!!」 メイド服のエリスがくるりと一回転して見せた。 エリスの服は胸元に大きなリボンがついて、ミニスカートの裾に控えめなフリルが付いたなかなか可愛らしいデザインだ。白いニーソックスや絶対領域も幼い顔立ちのエリスに良く似合う。 そしてヘカーテは、大方の予想に反して(?)リボンもフリルも過剰な肌の露出もないおとなしいデザインのメイド服を着ていた。飾りを兼ねているらしいボタンのたくさんついたブラウス、スカートはふわりと広がって丈は膝下まである(もちろんスリットは入っていない)。 秋乃が切り分けたパイを楽しそうに給仕する女神達の姿に、冥界の男神達はほっと安堵の顔になり、聖闘士達は微妙な顔になった。 星矢 「なんつーか、エリスはともかくヘカーテさんは意外だなー。もっとこう、胸の谷間バーン!スリットから太腿チラ見せ!なお色気バリバリなデザインで来るかと思ってたのに(ちょっと落胆顔)」 男性一同 「(自分もそう思ってた)」 エリス 「何よそのガッカリ顔。アテナの聖闘士のくせにやらしーなぁ、星矢」 星矢 「べっ…別にガッカリなんてしてねーよ!意外だなって思っただけだって!」 ヘカーテ 「私はガッカリだぞ(真顔)」 一同 「?」 ヘカーテ 「もっとこう、拍手喝采大感激!な反応を期待してたのに、お前達ときたら揃いも揃って微妙な反応なんだもんな(ちょい不満顔)」 一同 「………」 皆の反応が期待外れだったらしいヘカーテは少し唇を尖らせてパイにバニラアイスを乗せて回っている。 …卓の下で、ヒュプノスがそっと『ヘカーテの彼氏』タナトスをつついた。何かフォローしろ(でないと後が面倒だぞ)と言いたいのだろう。 そんなことは弟に指摘されずとも皆の目配せや雰囲気で分かっているが、今から褒めても白々しいしどうしたものかと考えたタナトスは、正直な感想を言うことにした。 タナトス 「ヘカーテ様のその服、お似合いだとは思いますよ」 ヘカーテ 「そんな取ってつけたようなフォローは要らぬ。大体なんだ、そのお似合い『だとは』思います、ってセリフは」 タナトス 「お似合いだとは思うのですが、どこかこう…違和感と言うか、チグハグな印象を受けるのです。ですから今一つ感激しきれぬのですよ。具体的にどこに違和感がある、とは言えぬのですが」 ヘカーテ 「違和感?」 エリス 「あ、それ私も思ってた。似合ってるのに似合ってないっていうか、どっか違うっていうか…」 秋乃 「ヘカーテさんのキャラと服の方向性が合ってないのかなぁ…?」 服を選んだ秋乃も似たような違和感を感じていたらしく、ヘカーテの頭から足元までしげしげと眺めた。 言われてみれば確かにどこか違うような気がするなぁ、と星矢達もヘカーテを眺めたが、どこが?と言われると分からないのがもどかしい。 ヘカーテは大人びた美人でプロポーションも文句なしだし、秋乃が見立てたメイド服も上品で洗練されたデザインで、似合っているのにどこか違和感があるのだ。 あまりにも皆から見つめられて恥ずかしくなったのか、ヘカーテが少し顔を赤くして皆から視線を逸らすと。 秋乃 「あ。ひょっとしてあれかな、完璧すぎるのかな」 一同 「?」 秋乃 「完璧すぎて隙が無さ過ぎるのが不自然に見えちゃうのかも。少し崩してみましょうか、ちょっと待ってて」 言い残して秋乃は部屋を出て、しばらくして戻ってきた彼女が持っていたものを見て、その場にいた全員が何とも言えない顔を見合わせた。 …彼女が持っていたのは、シャム猫をモデルにしたらしい猫耳のヘアバンドだった。根元部分の毛は銀色で、耳の先端は淡い紫色だ。 皆の微妙な視線などものともせず、秋乃はにっこりと笑って見せた。 秋乃 「実はこれ、ただの猫耳じゃないんですよ。ぴるぴるぴるーって動くスグレモノなんです!」 一同 「(果てしなくどうでもいい解説来た!つーか何でそんなもの持ってるんだこの人は!)」 秋乃 「って、説明するより見せた方が早いですね。本当、可愛いんですよ」 彼女はにこにこ笑いながらそう言って、猫耳のヘアバンドをスポッと被せた。 …タナトスに。 一同 「………(あまりにも予想外すぎる展開に思考回路停止)」 秋乃 「わ、予想以上に似合ってますよ、タナトスさん!」 タナトス 「………(パーフェクトフリーズ)」 冥界神々(タナトス以外)+聖闘士 「………(確かに似合ってるけど…違和感なさ過ぎてびっくりだけど…何て怖いもの知らずなんだこの人は!)」 ぴるぴるぴる。 凍りついた空間でタナトスにくっつけられた猫耳だけが動いた。 わぁ可愛い、と頬を染めて微笑む秋乃と正反対に、タナトスは卓の上で拳を握りしめて俯いた。 いくら相手が冥妃とはいえ、ヘアバンドをかなぐり捨ててブチ切れるのではないかと皆は思ったが、もうそのレベルも超えてしまったのかタナトスはひたすら無言だった。 ぴるぴるぴる。 凄まじく微妙な空気が流れる中、一輝が口を開いた。 一輝 「あー…俺がこういうこと言うのもナンだが…。タナトスあんた、いくら相手が冥妃サマでも怒っていいと思うぞ」 冥界神々(タナトス以外)+星矢+瞬 「(うんうん)」 タナトス 「…俺は…エリスの影響で、それなりに日本の文化に関する知識を得ている…(ぼそ)」 一同 「?」 タナトス 「成人男子に動物の耳や尻尾をつけて、それが似合うことが魅力と認識される文化が存在していることも、知っている…(猫耳ぴるぴる)」 エリス 「うん、まぁ、あるけどね、動物耳萌えっつーのは」 タナトス 「その文化は俺には理解できぬが、理解できぬという理由で異国の文化を否定したり拒絶したりするのは、神としてあってはならぬと、俺は思う…(猫耳ぴるぴるぴる)」 星矢 「すげぇ!この状態でそんなこと言えるなんてタナトスサマってば漢だな!見直したぞ!つか俺、初めてあんたの事尊敬したぜ!流石神様は違うな、器がデッカイぜ!!(本気で感激)」 タナトス 「…と言うわけで秋乃様、俺は猫の耳を否定しませんが理解もできないのでそろそろ外したいのですが…」 秋乃 「もう外しちゃうんですか?せっかく似合ってるのにもったいないなー」 ヒュプノス 「私からもお願いします。このままだとタナトスの心が折れます(真顔)」 ヘカーテ 「つかベルセフォネー、その猫耳は私用ではなかったのか?何故タナトスに被せたのだ?(呆れ顔)」 秋乃 「え?似合うかなって思って。実際すごく似合ってるでしょう?」 一同 「(天然すぎて手が付けられない!!)」 ヘカーテ 「なら、似合うと分かったからもういいな」 形ばかり確認して(秋乃はまだ名残惜しそうな顔をしていたが)、ヘカーテはタナトスの頭からシャム猫耳ヘアバンドを取り、自分の頭につけていたカチューシャを取って猫耳ヘアバンドを被り直した。 ぴるぴるぴる。 ヘカーテ 「…どうだ?」 エリス 「すごい似合ってる!全然違和感ない!え、ちょ、何、すっごい可愛いんですけどー!?」 瞬 「本当だ、さっきまでのチグハグ感が消えましたね」 パンタソス 「ヘカーテ様にメイド服に猫耳って…合わないものばっか集めたのに馴染んでる…」 秋乃 「やっぱり完璧すぎるのが違和感の原因だったみたいですね、ちょっとハズしてちょうどよくなりましたよ」 星矢 「おー、似合う似合う。これならアリだぜ!」 タナトスの猫耳はさっさとなかったことにしよう…という奇妙な一体感もあって、皆が猫耳メイドコスのヘカーテを絶賛した。 事実、カチューシャから猫耳に変えただけで全体の印象ががらりと変わって、文句なしに可愛らしくなっていた。 心が折れる寸前だったタナトスも感心したようにヘカーテを見つめている。 ヘカーテは皆の賛辞の声に満足げに微笑んで、『彼氏』のタナトスの傍らに立った。 ヘカーテ 「タナトス。猫好きのお前から見てこれはアリか?似合っているか?(猫耳ぴるぴる)」 タナトス 「…ええ、アリだと思います。良くお似合いで、素敵ですよ(にっこり)」 ヘカーテ 「ふふーん(満面の笑み)。お前がそこまで言うなら、この猫耳は土産に貰って行こうかな」 秋乃 「それはダメですよ、ヘカーテさん(真顔)」 ヘカーテ 「ん?ああ、これはお前のお気に入りだったか」 秋乃 「そうじゃなくて!猫耳が気に入ったのなら、中古品を貰うんじゃなくて、自分が気に入ったのを買わなくちゃ!(真剣)」 ヘカーテ 「言われてみれば確かにそうだな。じゃあタナトス、帰りに猫耳が買える店に寄っていくとするか(猫耳ぴるぴる)」 タナトス 「そうですね、では秋葉原に行ってみましょうか。欲しいのは猫耳だけですか?メイド服もですか?(割と真顔)」 ヘカーテ 「せっかくだからメイド服も買おうかな(楽しげ)」 秋乃 「そういうことなら私も行きたいです!一緒に選びたいし!」 エリス 「あ、じゃあ私も行くー!」 パンタソス 「じゃあ僕もー!」 イケロス 「パン太、お前もか(笑)」 パンタソス 「パン太言うな」 聖闘士達 「(こいつら天然すぎてもう突っ込みようがねぇーーーーー!!)」 ヒュプノス+オネイロス+モルペウス 「(タナトス(様)が猫耳装着されたショックを忘れただけで良しとしないと…いちいち真面目に付き合っていたらこっちの心が折れる…)」 …ヘカーテの猫耳はエリシオンでも予想以上に好評で、すっかり気を良くしたヘカーテが仕事中でも猫耳ヘアバンドをつけるのをヒュプノスとオネイロスとモルペウスが拝み倒して(タナトスとハーデスに惜しまれつつ)辞めさせることになるのは、これから数日後のことになる。 |
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| ずーっと前から、タナトスに猫耳を付けたいなぁと思ってまして。長年の野望が叶ったSSです(笑)。 短気な死神様に猫耳を付けられるのは彼女しかいないだろう、ということで龍神秋乃嬢の登場となりました。ヘカーテも猫耳を付けたのは予定外でしたが、この一件でタナトスは猫耳萌えを発症しました(笑)。 |