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冥界と聖域の和解が成立して数か月、吹き抜ける風に秋の気配が混じり始める頃。 星矢、一輝、瞬の三人は復興途中の冥界の「視察」に訪れていた。タナトスをモデルに起用した木戸財閥系列のブランドアクセが順調に売り上げを伸ばすのと 反比例してタナトスが地上で使う金の額は減っていたので、心苦しく思った沙織が労働力での報酬…つまり冥界復旧に協力することを提案したのだ。 冥界にアテナの聖闘士が入り込むなどハーデスが了解するだろうか?と聖域側は心配したが、冥王は「好意を有難く受け取る」とあっさりと了解した。そういうわけで先遣隊としてやってきたのがすっかり冥界の神々と打ち解けた星矢達だったのだ。 アテナの聖闘士達のガイドを買って出たのは死の神タナトスと氷の女神ヘカーテである(最初はタナトスひとりで出向くつもりだったが、ヘカーテが『彼女』 の私を同伴しろとせがんだためだ)。一行はようやく復旧の目途が立った第一獄を通り、瓦礫の山のまま放置状態の第二獄からジュデッカを抜けて嘆きの壁へ到 着していた。 事実上現在の冥界を仕切っている双子神の片割れとそこにいるだけで目の保養と癒しになる美貌の女神の登場に、仕事の手を止めて挨拶をしに来た冥闘士達 は、後ろにくっついてきた聖闘士達に何とも複雑な顔になった。冥界と聖域で和解が成立して親交が始まったことは知識として知っているが、色々と複雑な感情 は残っているのだ。 星矢達もその辺の複雑な心情は察することができたので、おとなしく口を噤んだまま死と氷の神の後をついて行った。 …タナトスとヘカーテは嘆きの壁の一角に設えられた簡素な休憩スペースに腰を下ろし、三巨頭を呼び寄せた。傅く三人に畏まる必要はないと告げて椅子に掛けるよう命じた。 タナトス 「以前通達したと思うが、我々は冥界復興に関してアテナの聖闘士の手を借りることにした。これはハーデス様のご決断だ」 三巨頭 「承知しております(複雑顔)」 タナトス 「聖闘士をどこに向かわせるかはまだ決まっておらぬが、お前達か三巨頭直属の部下を監督としてつけることにはなろう。その旨、心に留めておくように」 三巨頭 「ハッ」 タナトス 「…アテナからは『どんな環境の重労働も聖闘士にとっては修行の一環。存分にこき使ってください』と言われている故、お前達が行きたくない場所に優先的に派遣することになろうな(ニヤリ)」 星矢 「念のために言っとくけどタナトスサマ、俺達は『元』聖闘士だからな。修行の必要ないから、その辺考慮してくれよ」 タナトス 「安心しろ。存分に考慮して、涼しくて見晴らしの良い場所をあてがってやるぞ(にっこり)」 星矢 「それコキュートスじゃねーかよ!!」 三巨頭 「(タナトス様にツッコミを入れるとは…さすがは天馬星座、あなどれん)」 …休憩スペースのインスタントコーヒーとエルミタージュ洋菓子店の焼き菓子を口にしながら世間話をするうちに、三巨頭と聖闘士達はそれなりに打ち解けてきた。 星矢 「そーいやさ。冥闘士の皆って何か若いよな、見た目的に」 瞬 「だね。聖戦から二十年経ってるのに全然老けてない」 ミーノス 「羨ましいですか?」 アイアコス 「羨ましいだろう(ドヤ顔)」 一輝 「………。冥界が崩壊した時、偉大な女神ニュクスの力で肉体と魂を救われたのは聖闘士も冥闘士も同じと聞いていたが…何故年の取り方が違うのだ?」 ヘカーテ 「ニュクス様の力で救われたのは同じだが、その後が違うのだ」 星矢 「?」 タナトス 「聖域の神であるアテナは聖戦後も健在だった故、その力で聖闘士もすぐに蘇った。しかし冥界の神である我々は聖戦後二十年眠り続けていた。故に 冥闘士達も時が止まった状態で二十年眠っていたのだ」 星矢 「聖戦が終わって二十年も経ってる割に復興が進んでないなと思ったらそういうわけかぁ」 瞬 「それにしても…聖戦が終わったのにちゃんと冥界に戻ってきて復旧作業にあたってるなんて。冥闘士ってもっとビジネスライクなのかと思ってたから意外です」 三巨頭 「………」 瞬の言葉に三巨頭は複雑な顔を見合わせ、チラッとタナトスとヘカーテを見て、もそもそと焼き菓子を口に入れた。 色々と思うところ考えるところはあるが、冥王の側近達を前にそれを言うのは…というところだろう。 そんな三巨頭の態度にタナトスはフンと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。 タナトス 「…俺は何も聞かなかったことにしてやる故、思うところがあるなら正直に言えば良い。腹を割って話をすれば親交も深まろう」 ヘカーテ 「私は聞きたいぞ、お前達の本音。仮にタナトスが機嫌を損ねても私がとりなしてやるから好きに話すが良い(にこにこ)」 ラダマンティス 「………。実は俺は、目覚めた時に自分が何故生きているのか全く分からなかった。冥界に戻れば何か分かるだろうと思ってここに来たのだ」 アイアコス 「俺もそんな感じだな。戻ってきたら冥界はしっちゃかめっちゃかでハーデス様の小宇宙も感じられない、大変なことが起きたらしいとしか分からなかった」 ミーノス 「かなり早くに目覚めて冥界に戻ってきた私達が状況を把握できずに戸惑っているところにヘカーテ様と夢の四神がお出ましになり、事の次第を教え て下さったのです。そして『双子神の母ニュクスの名において冥界と聖戦は停戦状態にあるが、いつまでもニュクス様の名を借りるわけにもいかぬから全力で冥 界を復興するように』とご命令が下った。何を言っても冥王配下の冥闘士である我々です、冥界の神のご命令なら従うしかない」 ラダマンティス 「目覚めた108の冥闘士が全員揃った頃だろうか、ハーデス様と双子神がお目覚めになり、間もなく聖域との和解が成立した」 星矢 「和解が成立してもう聖戦は起こらなくなったんだよな?言っちゃ悪いけどあんたらはお役御免なわけだろ?何で真面目に冥界に残ってんだ?」 ミーノス 「ハーデス様のありがたいお言葉に心を打たれたのもありますし…地上に戻って一人の人間として働いて暮らすより、ずっと価値のある報酬を頂けるからでもあります(笑顔であっさり)」 ミーノスの言葉にラダマンティスは複雑な顔になったが否定はせず、アイアコスはうんうんと頷いた。 星矢 「報酬?って言うと、一生遊んで暮らせる大金を貰え…ないか。経済への介入は出来ないとかってタナトスサマが言ってたもんな」 瞬 「じゃあ報酬って具体的に何なんです?」 ラダマンティス 「冥界の神々の力と権限で与えられるものをひとりにつきふたつ、だ。正確には去る者にはひとつ、残る者にはふたつと言うお話だったが、全員が残ったのでな」 一輝 「冥界の神が与えられるものと言ってもピンとこないが…あんたらは何を貰ったんだ?」 ミーノス 「私は死ぬまでの若さを所望しました。もう一つは保留しています」 ラダマンティス 「俺も若さを頂いた。年を食っては思うように体が動かなくなって冥界復興の肉体労働に支障をきたすからな。寿命が尽きるまでに冥界を復興できなかったら、復興できるまでの寿命を頂こうと思っている」 アイアコス 「不老不死!(得意気)」 星矢 「はぁっ!?不老不死ぃ!?」 一輝 「永遠の若さといい、胡散臭さ爆発だな…」 瞬 「冥界の神々に不老不死を与える力があるんですか?(半信半疑)」 タナトス 「『不老不死を与える力』を持つ冥界の神はおらぬ。ただ、死を司る神の俺が死を奪い、老いを司る弟神のゲラスが老いを奪えば、実質的に不老不死になるというだけだ」 星矢 「『だけ』って…さらっとすごいこと言ったぞこの死神様」 瞬 「冥闘士の皆はすごいご褒美貰ったんですねぇ(感心)」 アイアコス 「そういえばヘカーテ様にデートを申し込んだ猛者もいたぞ。ま、ヘカーテ様に『タナトス以上に私を満足させる自信があるなら受けてやっても良い』って言われてしおしおと引き下がってたがな」 星矢 「彼氏のタナトスサマ前にして勇気のある奴だなー」 ミーノス 「その時はおふたりの仲など我々は存じませんでしたからね(苦笑)」 タナトス 「………(複雑顔)」 星矢 「ふぅーん…」 ひたすら無言でインスタントコーヒーを啜っている死神と、妙に御機嫌麗しくにこにこしている美貌の女神を交互に見て、星矢は我慢できず疑問を口にした。 星矢 「なぁなぁタナトスサマ。もしも、だけど、その冥闘士が『タナトスサマ以上にヘカーテ様を満足させる自信があります!!』ってマジでデートに誘ったらどーするつもりだったんだ?やっぱ止めに入ったのか?」 三巨頭+ヘカーテ+瞬+一輝 「(どう答えるか興味津々)」 タナトス 「………。プライベートならともかく此度の一件は『仕事』の一環だ。ヘカーテ様が冥闘士にどのような褒美を与えるかに関して、俺はつべこべ口を出す立場にはない」 星矢 「いやいやいや、あんたヘカーテさんの彼氏だろ?思いっきりつべこべ口出す立場じゃねーか」 タナトス 「………(面倒くさいなコイツ…)」 ミーノス 「いい年をして碌な恋愛経験がないようですね、天馬星座。恋人に愛されている自信のある男は、彼女が取るに足らない男と出かける位の事で目くじら立てたりしないものです。自分に自信のない男に限って嫉妬深く、女性を束縛したがるものなんですよ(爽やか笑顔)」 ラダマンティス 「俺は、神々の恋愛事情は人間とは違うのだと解釈したがな」 星矢 「ふぅーん…」 タナトスが微妙な不機嫌顔になったのを敏感に察したミーノスとラダマンティスのフォロー発言に星矢が納得しかけた時。 良くも悪くも空気の読めないアイアコスがそういえば…と口を開いた。 アイアコス 「考えてみればさ。彼女が自分のおっぱいマウスパッドを作るのをOKするようなお方が、冥闘士とデートもどきのお出かけする程度のことでギャーギャー言うはずないよなぁ」 聖闘士達 「っはぁぁぁ!!??何それ!!??」 アイアコス 「ちょっと前にな、エリス様とヘカーテ様から慰労品で貰ったんだよ。そうだ!まだちょっと残ってるし、こいつらに冥界土産であげてもいいですか?」 ヘカーテ 「もちろん構わんぞ。な、タナトス?」 タナトス 「どうぞお好きなようにしてください(全てを諦めたため息)」 神々の言葉を真っ正直に受け止めたアイアコスがバックヤードらしい場所から段ボールを出してきた。 ヘカーテのマウスパッドを受け取った聖闘士達は何とも言えない顔で、ひたすら無言のタナトスと得意満面なヘカーテを見遣った。 瞬 「あのう…これ…(ちょっと赤面)」 ヘカーテ 「私の自信作だ。良くできているだろう?お前達はアテナの聖闘士だが、特別に私の胸を揉むことを許してやるぞ(大イバリ)」 星矢 「………。タナトスサマさぁ…デートのお誘いの方は事実上お断りしてるからいいとして、これは流石にどーなんだ?彼女が胸を揉んでもいいとか言ってるけど」 ミーノス+ラダマンティス 「(我々が気になっても怖くて聞けないことをズバズバ聞く奴だな…)」 タナトス 「(ものすっごい渋い顔)…古来より、人間は様々なものを媒体にして神を信仰してきた。絵画であったり、彫刻であったり、最近は印刷物やネットのイラストであったりする。今回はそれがウレタンの塊のくっついたマウスパッドだっただけの事」 聖闘士+三巨頭 「はぁ……」 タナトス 「女神がそれらのモデルになる時は…処女神のアテナやアルテミスや、冥妃ベルセフォネー様であっても…一糸まとわぬ姿であることも少なくない。 仮に、それを如何わしい目的で愛でる人間がいたところで、ひとつひとつに一々反応していられるか。神々はお前達人間が思うほど暇ではない」 そっぽを向いたままタナトスは吐き捨てるように言って、じろりと人間達を睨んだ。 タナトス 「念のために言っておくが、俺はやめるよう進言したからな。俺だけでなくヒュプノスもオネイロイもハーデス様も、真剣に、馬鹿げた真似はやめてくれと、ヘカーテ様に頼んだからな!」 三巨頭 「(つまりこれ以上グダグダ言ったら俺はキレるぞと言うことだな…)」 星矢 「……(この話題にはこれ以上触れない方がよさそうだな…)……じゃあさ、冥闘士の皆はこのマウスパッド使ってんの?」 ミーノス 「私は仕事場に神棚のようなものを作って祀っていますよ。何を言っても女神様から賜ったものですから(そつのない笑顔)」 ラダマンティス 「俺は、畏れ多くて使えないから金庫に入れているな」 ヘカーテ 「なんだ、せっかくの慰労品なのに全く有効活用していないのだな(ガッカリ顔)」 アイアコス 「俺は有難く使ってますよ(あっさり)」 聖闘士+ミーノス+ラダマンティス 「(命知らずの爆弾発言!!!)」 ヘカーテ 「ほほう、それは感心だな。具体的にどのように?」 星矢 「やっぱり揉んでんの?」 アイアコス 「いや、ベッドに置いてその上に寝るんだ。肩とか背中とか腰とか疲れた時にこれでマッサージしてみろ、効くぞ〜。湯船の壁にくっつけてツボを押しながら泡風呂もお勧めだな!」 ヘカーテ 「………ふぅーん……(釈然としない複雑顔)」 タナトス 「………(笑いを堪えている)」 星矢 「言われてみればツボ押しマッサージにちょうどいいかもな!サンキュ、その方法で使ってみる!」 ミーノス+ラダマンティス 「(自分達もマッサージに使ってみようか…)」 …後日。 マウスパッドをマッサージに使ったら本当に抜群のツボ押し効果で、ヘカーテはますます釈然としない複雑な顔になっていたらしい。 |
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| 双子神2012・再会シリーズ後の冥界です。あれこれ考えなくても三巨頭のキャラがうまく立ってくれて話を作りやすかったです。 星矢には皆の疑問を代弁して頂きました。 星矢に『彼女いないの?』と聞かれて、勢いと見栄でヘカーテを彼女と紹介しちゃったので、タナトスは自分のプライドと見栄の為にその嘘をつきとおさなく ちゃいけない、メンドクサイ状況な訳で。都合良く冥闘士達も『タナトスとヘカーテは恋仲』と勘違いしているので、その勘違いを続行させるために冥闘士の前 でもタナトスはヘカーテを彼女として扱ってます。ヘカーテがご機嫌なのは、タナトスが自分を彼女として扱ってくれるのが嬉しいからです。 |