| 西暦2012年2月3日。 死の神タナトスは、自身の神殿に冥界の神々を呼びだしていた。集まった面々は、ハーデス、ヘカーテ、ヒュプノス、夢の四神、そしてエリスだ。 実に嬉しそうに笑みを浮かべたタナトスと2月3日と言う日付からして、節分に絡んだ遊びでもやりたいのだろう…と彼のキャラを良く知る神々が考えていると、その予想を裏切らない言葉が死神の口から飛び出した。 タナトス 「細々した説明はせずとも皆分かっているだろうから、簡単に言うぞ。これより豆まきと鬼退治をやり、その後は皆でエホウマキを作って食そうではないか!(超ドヤ顔で)皆、エホウマキを食べたいかー!!(ウルトラクイズ風)」 ハーデス+ヘカーテ+エリス+パンタソス+イケロス 「(片手を突きあげて)おー!!」 エリス 「豆まきか恵方巻を食べるイベントやるんだろうと予想はしてたけど、兄貴ってばすっかり日本オタクだねぇ」 ハーデス 「日本の文化やイベントは面白いものが多いな。皆でワイワイ楽しむことに余は何も異議は無いぞ(にこにこ)」 ヒュプノス 「で、豆まきと鬼退治のルールはどんなものだ?お前の事だ、ただ豆をまいて食すだけでは満足するまい」 オネイロス 「いつぞやの恋文泥棒の時のように、私達が鬼に変身して逃げ回るのですか?」 タナトス 「いや、神の力を使っては面白くあるまい。豆まきは日本の文化ゆえ、日本の流儀に合わせるべきであろう」 そう言ってタナトスが持ち出して来たのは、紙に印刷された鬼の面と一口分ずつ個包装された節分用の豆だった。彼はハーデスに携帯と豆の小袋を十個渡し、他の神々には豆の小袋だけを五個ずつ渡した。怪訝そうな顔をする皆を得意気に見回して、彼は偉そうにふんぞり返った。 タナトス 「ルール説明を兼ねて、最初の鬼は俺がやろう」 エリス 「最初ってどゆこと?」 タナトス 「俺は今からタナトス神殿のどこかに隠れる故、皆は十分待ってから俺を探し始めろ」 ヒュプノス 「タナトスよ、それは節分ではなくかくれんぼではないのか」 タナトス 「話は最後まで聞け、ヒュプノス。皆は俺を見つけたらその豆を投げて攻撃するのだ。無論俺は全力で逃げるし避ける、そうそう簡単には当たってやらぬぞ」 ヘカーテ 「…では、最初にお前に豆をぶつけた者が勝利するのか?」 タナトス 「(人差し指を立ててちっちっちと動かし)逆です、ヘカーテ様。最後まで俺に豆をぶつけられなかった者が敗者となり、次の鬼になって逃げるのです。豆を一つもぶつけられなかった者が複数いる場合は、最初に『弾切れ』になった者が敗者です」 日本の節分のルールとは色々違うようだが、遊びとしては面白そうなので皆は特に突っ込むことなく頷いたが、パンタソスがふと首を傾げた。 パンタソス 「あれ?でもタナトス様、そのルールだとハーデス様が不利なような気がするんですけど…」 タナトス 「だからハーデス様にはハンデを差し上げている」 ハーデス 「余は豆の袋が十個あるから、『弾』の数は皆の倍だな。それと、この携帯は何だ?」 タナトス 「この鬼の面には発信機がついていまして、その携帯で『鬼』の居場所を確認することが出来るのです」 ヘカーテ 「なるほど、走り回れないハーデスは鬼の行く先を予想して先回り迎撃戦法で行く訳か」 タナトス 「ハーデス様が鬼になった時は盾に使える盆をお渡ししますので、そうそう簡単に豆をぶつけられることは無いと思いますよ。…さて、ここまでで何か質問は?」 イケロス 「優勝賞品とかあるんですか?」 タナトス 「参加することに意義がある!(きっぱり)…と言いたいところだが、そうだな…。一度も鬼にならなかった者、あるいは『残弾数』が一番多かった者はエホウマキ作成に参加せず食べる事に専念して良い、と言うのはどうだ?」 エリス 「『あなた作る人、私食べる人』って訳だ。オッケー、異議なーし!」 エリスの言葉に皆が『賛成』と頷いたので、タナトスは満面の笑みを浮かべて大きく頷いた。 タナトス 「ではゲーム開始だ。いいか?神の力の行使は一切禁止だぞ!変身したり眠らせたり変な物を出現させたり廊下や扉を凍らせるなど、全て禁止だ!」 ハーデス 「せんせーい、姿を隠す兜は『神の力の行使』に入りますかー?(楽しげ)」 タナトス 「入ります!」 真顔できっぱりと言い切ったタナトスは鬼の面を顔の横に付け、もう一度『神の力の行使は禁止』と念押しして勢い良く部屋を出て行った。 …予想外に節分豆まき隠れ鬼ごっこは盛り上がった。最初こそ付き合い程度の気分で参加していたはずのヒュプノスやオネイロスが本気でヒートアップして (エリスに『あいつら超マジ』と言わせるほどだった)鬼になったハーデスに全力で豆を投げつけ、顔を引き攣らせて盾代わりの盆で豆をガードする冥王の姿 に、他の神々が豆を投げるのを遠慮するほどだった。 そして終わってみれば優勝者は発案者のタナトスと言う、ある意味お約束の結果になっていた。 無論と言うべきか、『恵方巻作成』という面白イベントをタナトスが辞退するはずもなく、結局冥界の神々総出で巻寿司を作ることになった。 卓の上には大量の酢飯と海苔、刺身に干瓢に卵焼きに胡瓜、ツナマヨ、蟹カマ、レタス、更には焼き肉やナムルや生ハムや海老フライと、伝統の巻寿司やサラダ巻から変わり種巻寿司まで何でも作れそうな材料が山積みになっている。 エリス 「ま、ここはやっぱり定番を押さえないとね!」 ヒュプノス 「ツナマヨと蟹カマが入った巻寿司が定番か?」 エリス 「そーよ、定番のサラダ巻きだよっ!」 パンタソス 「ウニ、いくら、サーモン…えへへへ、トロも入れちゃえ!」 ハーデス 「余は焼き肉とナムルとキムチを巻き込んでみようか」 ヘカーテ 「生ハムと、レタスと胡瓜、それから海老…ふふふ、私は生春巻風だ」 タナトス 「皆が変わりネタに行くなら、俺は干瓢と卵焼きにするか。逆に斬新であろう」 神々はワイワイ言いながら中巻や太巻を作り、山のような巻寿司ができたところで、さて!とタナトスがコンパスを取り出した。 タナトス 「今年の恵方は北北西らしいぞ」 ヘカーテ 「エホウとは何だ?」 タナトス 「幸福がやってくる方角の事らしいです。その恵方を向いて、巻寿司を一本食べ切ると幸福が訪れて一年幸せに暮らせるのだとか」 モルペウス 「ものすごく素朴な疑問なのですが、方角と寿司に一体どのような因果関係があるのですか?」 タナトス 「知らん。大和の神に聞け」 モルペウス 「……………」 ヒュプノス 「『そういうものだ』で納得しておけ、モルペウス。先ほどの鬼ごっこも含めて皆で楽しめたのだから良いではないか」 ハーデス 「うむ、ヒュプノスの言うとおりだな」 タナトス 「では、最初の一本だけは作法に則って食べるとしよう。北北西はあちらだ。それから食べている時は無言でなければいけないそうだ。声を出さぬよう気をつけるのだぞ」 タナトスの言葉に皆が頷いて、自分が作った巻寿司を手にとって北北西を向いた。 頂きます、とハーデスが音頭を取って、神々は一斉に巻寿司に齧り付いた。 …………………。 神様渾身の巻き寿司はかなりのボリュームで、一本食べるだけでもかなりの時間がかかる。 一同 「(全員揃って壁を見ながらひたすらもぐもぐ寿司食べてるって、妙な図だよなぁ…)」 むしろ、エリシオンの花園でピクニック感覚で食べたほうが良かったんじゃないか…などと思いつつ、『食べている時は無言でなくてはいけない』と言うルールのために誰もそれを口に出せないまま微妙な雰囲気で一本目の巻寿司を食べ終わると、皆一斉にはぁーっと溜息をついた。 ヘカーテ 「何と言うか、珍妙な風習だな」 タナトス 「同感です」 ハーデス 「何と言うか、これは、恋人同士か家族が見晴らしの良い場所で仲良く並んで食すなら風情もあるが、室内で壁を見ながらというのは味気ないな」 ヒュプノス 「そうですね」 エリス 「それか、ものすごい大人数で同じ方角向いて食べるかだね。そこまで行けば絵的にギャグになるけど」 オネイロス 「何だかペンギンのようですね」 パンタソス 「ま、とりあえず最初の一本は儀式に則って食べたんだし、残りは普通に食べて良いですよね?」 タナトス 「そうだろうな。では緑茶と吸い物でも用意するか」 二本目以降の巻寿司は普通に味わって美味しく食べた神々は、節分のもうひとつのイベント『豆を食べる』に移行し始めた。 …が。 先ほどの隠れ豆まき鬼ごっこに使った豆を卓に山積みにして、神々はうーんと唸った。 タナトス 「本来なら、豆は年齢の数だけ食べねばならぬのだが…(複雑顔)」 ヒュプノス 「私やお前は年齢の数だけ食べようなどと思ったら、食事の全てを豆にしても何日かかるか分からぬぞ(困惑顔)」 エリス 「年の数だけ食べ切る前に飽きるか来年の節分が来そうだよ(ゲンナリ顔)」 ハーデス 「百年を一粒にしてはどうだろうか(真顔)」 オネイロス 「それでも相当な数です、十や二十ではありませんよ(うんざり顔)」 ヘカーテ 「これは人間の文化なのだろう?だったら、『私達が人間だったら何歳くらいか』で食べる数を決めてはどうだ」 ヘカーテの提案に皆は感心した顔で頷いた。 タナトス 「ああ、それはいいアイデアですね。…では俺は二十か三十食べておけば良いな」 ヒュプノス 「では私もそのくらいか」 エリス 「私は女子大生だから二十でいいや」 ハーデス 「余はタナトスヒュプノスの弟分故、間を取って二十五個にしておくか」 ヘカーテ 「じゃあ私もそのくらい」 夢の四神 「そうなると我々は二十ちょっとでしょうか」 ポリポリと節分の豆を食べ終わると(それにしても妙な図だ)、神の腹も十二分に満たされた。が、神様お手製の豪華な巻寿司と節分用の豆は大量に残っている。 エリスは卓に頬杖をついて巻寿司と豆を見遣った。 エリス 「で、巻寿司も豆も大量に残ってるけど…どーすんの、あれ?」 ヘカーテ 「少々張り切って作りすぎたな」 ハーデス 「また夕食にでも食べれば良いのではないか?」 ヒュプノス 「巻寿司はともかく豆はもう十分、という気分ですが」 タナトス 「寿司も時間をおいたら味が落ちるだろう。…そうだ、いっそのこと豆ごと冥闘士達に差し入れてやったらどうだ?」 エリス 「おっ、兄貴ってばナイスアイデアじゃーん!」 オネイロス 「しかし巻寿司は百八本も残ってないでしょう。せいぜい五十本ではないですか?」 タナトス 「半分に切ってやれば問題ない。最近は『はーふさいず』という巻寿司も多いらしいしな。それでも足りなければ足りない分だけ巻いてやれば良かろう」 …タナトスの提案に皆が賛成したので、双子神は冥闘士達に嘆きの壁に集まるよう呼び掛けに行き、ハーデスは巻寿司の数を確認し、夢の四神は寿司を切って箱に入れ、エリスとヘカーテは足りない分の巻寿司を作って豆を用意した。 しばらく後。 嘆きの壁には、冥界の神々に呼び出された冥闘士達が集まっていた。『飲み物持参で来ること』という指示があったので、各々水筒を持ってきている(凄まじ く妙な図である)。冥界の神々がすっかり日本の文化に感化されたことは冥闘士達も知っていて、三巨頭を始め一部の者は呼び出しの理由を薄々察していた。 そして、冥闘士全員集合を見計らって登場した神々が持っていた物は概ね皆の予想通りの品だった。 サンタの袋のごとく小袋入りの豆を担いだタナトスは、実に楽しそうに集合をかけた理由を説明した。 タナトス 「今日は、日本の『節分』という日だ。豆を投げ、年齢の数だけ豆を食べ、エホウマキという寿司を特定の方向を向いて食べると、良い一年になると いう習わしだそうだ。このような面白いイベントは皆で楽しむべき、というハーデス様の方針により、我が冥界も『節分』を行うぞ!」 冥闘士 「(ハーデス様の方針の前にアンタがやりたいだけだろ。ま、面白いから良いけどさ)」 神々 「では豆を投げるぞ!皆しっかり受け取れ!せ―の…福は内ー!鬼は外ー!!」 神々が実に楽しそうな掛け声とともに豆をばらまくと、冥闘士達は飛んでくる小袋の豆をキャッチしてポリポリと食べ始めた(それにしても妙な図である)。ちなみにヘカーテが投げる豆が一番人気だった。 豆を投げ終わると恵方巻が配られ、冥闘士達はタナトスの指示に従って全員揃って北北東を向き、無言のまま神様お手製の巻寿司をもぐもぐと食べた。 …後にエリスは、百八の冥闘士が全員揃って同じ方向を向いて巻寿司を食べる光景を、『絵的にギャグになるかと思ったけど、何だかペンギンの大群みたいでシュール過ぎて逆に笑えなかった』と語ったと言う。 |
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| 節分SSを書く予定なんて全然なかったのに、某様の節分SSが素敵過ぎてそれが刺激になって出来た一本です。一日遅刻したけど、思い立って一日で出来た
のだからよしとします。何だか色んなSSをつぎはぎしたような出来ですが楽しかったので自分的には満足です。「聖域と冥界の和解が成立したのは『2012
年の初夏』のはずなのに、なんで2012年の2月に節分やってるんだ」って突っ込みは無しの方向でお願いします(笑)。 今回、特に解説する事は無いかな…って気はするのですが、本編に特に関係ない設定で、双子神の外見は『人間で言うと27歳』というのがあります。何で 27かというと、私が星矢にハマるきっかけになった『サイキックフォース』という格ゲーに出てくる刹那というキャラ(外見的に双子神に似てる)が27歳だ からです(笑)。ちなみにハーデスとヘカーテは25歳、エリスは20歳かな…と思っています。 |