| 西暦2012年11月11日、夕方。 ヒュプノス神殿の私室でパソコンを触っていたヒュプノスは、一直線に部屋に近づいてくる兄神の小宇宙と足音に顔を上げた。 …タナトスが地上に出向いたことはニンフから聞いている。イベント好きの兄神が何をしに地上に行ったのか、そして自分を訪ねる理由が何なのかも概ね察しがつく。 (さて、どうしたものか) ヒュプノスが金色の睫毛を伏せて考えを巡らせると同時に、遠慮の欠片も無い勢いで部屋の扉が開いてタナトスが姿を見せた。しかも両手には大きな紙袋を提げている。 実に楽しげな笑みを浮かべたタナトスは挨拶も前置きも無しにヒュプノスに勢いよく歩み寄って尋ねた。 「ヒュプノス!今日は何の日か知っているか!?」 「……………」 紙袋に大量に詰め込まれたポッキーとプリッツを隠す努力もせずに何を言っているのか。 ヒュプノスは溜息をついて椅子から立ち上がり、紅茶を淹れる準備をしながら淡々と言葉を返した。 「お前は私に何と答えて欲しいのだ、タナトス?『地上で話題になっているイベントくらい知っている』か?それとも『地上の菓子メーカーが勝手に作った記念日など知らぬ』か?」 「知っているなら話は早い。CMでナントカという人間が『思う存分、分け合うが良い』などとほざいていた故、これでもかと言うほど色々な奴とポッキーやプリッツを分け合って来たのだ。最後はお前と一緒にポッキーとプリッツの食べ比べをして記念日を締めようかと思ってな」 「…そうか」 記念日の最後にここに来たということは、時間を気にせずゆっくりできると言う事だ。兄神の言葉にヒュプノスは口元を綻ばせ、ティーポットとカップをトレイに乗せた。 長椅子に腰を降ろしたタナトスは弟がトレイを置くのも待たずに紙袋をひっくり返した。数種類のポッキーとプリッツ、そしてポッキーとは何の関係もなさそ うな菓子やアクセサリーや瓶がごろごろとテーブルに転がり出た。ヒュプノスはテーブルから落ちかけた小瓶を受け止め、美しい砂が入ったそれを見て怪訝そう に目を瞬いた。 「ん?これは確か、聖衣の修復に使う砂ではなかったか?何故こんなものが入っているのだ?」 「十二宮の牡羊座にポッキーを分けた時に返礼で貰ったのだ。冥衣に使えるかどうかは分からぬが、見た目が美しいから飾っておくだけで も良いだろう。それからこれは牡牛座から貰ったカルシウムサブレ、これは双子座から貰った恋愛成就祈願ネックレス、これは蟹座から貰った死臭の香水、これは…」 「タナトス、お前…律儀に十二宮を登って来たのか?」 「ああ。第一宮から徒歩で登るのが聖域の規則だからな。和解が成立した以上、冥界の神が聖域の規則を無視するわけにはいくまい?今の時代の黄金聖闘士と改めて話をする良い機会になったし、皆なかなかの個性派ぞろいで面白かったぞ」 「ほう…」 ヒュプノスが紅茶をカップに注ぐと、タナトスはポッキーの封を開けながら楽しそうに笑った。 「地上の菓子メーカーが勝手に作った記念日とは言え、乗るからにはお約束は押さえねばなるまい。と言う訳で、ポッキーゲームをするぞヒュプノス」 「前々から思っていたがタナトス、お前は地上の文化に影響を受け過ぎだぞ」 「フ…面白いイベントを楽しんで何が悪い?」 タナトスは銀の眼を眇めてポッキーを一本口にくわえて差し出した。ヒュプノスも笑顔で反対側からポッキーを齧り、タナトスと軽く唇を触れ合わせた。 お約束を一回やって気が済んだらしいタナトスは他のポッキーの袋も手当たり次第に開けて食べ比べを始めた。ヒュプノスも初めて見るポッキーを口に入れながら兄に尋ねた。 「ところでタナトスよ。私を相手にポッキーゲームをしてはヘカーテ様がご機嫌を損ねるのではないか?」 「その点に抜かりはない」 「?」 「ここに来る前に、ヘカーテ様を相手にハート型苺ポッキーでポッキーゲームをして来た」 「…………」 ボキッ。 ヒュプノスの顔から笑みが消えてアーモンド付きのポッキーが噛み砕かれた。 「タナトス、……」 「ヒュプノスよ、折を見て言おうと思っていたのだがな」 たちまち機嫌が急降下して眉を吊り上げ何か言いかけた弟の口に、タナトスは極細ポッキーを10本ほど押し込んだ。ヒュプノスが文句を言ってくることは予想済みだったので鮮やかな手際である。 バリバリバリ。 ポッキーを乱暴に噛み砕きながら『言いたい事は何だ』とヒュプノスが目顔で尋ねると、満面の笑みを見せてタナトスは抹茶ポッキーを口に入れた。 「俺とヘカーテ様の仲に関する文句は、お前がパシテアを呼び戻してからでないと聞く耳持たぬぞ」 「…………」 「前も言ったであろう。俺とヘカーテ様に関して要らぬ心配をする暇があるなら妻を呼び戻す計画でも立てろと…おわっ!?」 不意に脚を蹴りあげられたタナトスが身体のバランスを崩すと、ヒュプノスはその勢いで兄神を長椅子に押し倒した。何か文句を言おうとタナトスが口を開いたので、すかさずポッキーを掴んでその口に押し込んだ。 「むが!」 「聞く耳持たぬ?大いに結構。お前が聞く耳を持っていようといまいと、私は自分の言いたい事を言わせてもらうだけだタナトスよ。ヘカーテ様はお前の見栄の 為に『彼女の役』を演じて下さっているに過ぎぬ。なのに最近のお前の行動は何だ?まるで本当の恋仲のように何かにつけて絡んでいるではないか。ネトゲでも ツイッターでも彼女彼女と…偽りの彼女で人間の羨望を集めるなど行儀が悪いと思…んぐ!」 長椅子に押し倒された態勢のまま、タナトスは器用にテーブルの上のポッキーを掴んでヒュプノスの口に突っ込んで。 バリバリバリバリバリバリ!! 猛烈な勢いで口に押し込まれたポッキーを噛み砕いて怒鳴り返した。 「思わんわ。神が人間の羨望を集めて何が悪い?羨望、それは即ち信仰だ。俺が集めた信仰は半身であるお前の神力にもなるのだぞ!文句を言われる筋合いがどこにある!」 ボリボリボリボリ!! ヒュプノスは口に突っ込まれたポッキーを半ば手で押し込みながら咀嚼し、紅茶で流し込みながらポッキーとプリッツを掴んで、更に何か言おうとしていた兄神の口に押し込んだ。 「文句なら大いにあるわ!信仰を集めるならもっと行儀のいい方法で集めろ!嘘で信仰を集めるなど…お前は我が一族の長兄なのだぞ、恥を知れ!」 「ケホッ…ちょ、ヒュプノス!抹茶味のポッキーとトマト味のプリッツを同時に口に入れる奴があるか!もう少し組み合わせを考えろ!お前はそう言うところで配慮が足りぬから妻ひとり呼び戻す事も出来んのだ!」 叫びながらタナトスは塩味のプリッツとチョコポッキーを纏めて弟の口に突っ込んだ。 ヒュプノスが反論を考えながら猛スピードでプリッツとポッキーを噛み砕くと、途端に口の中に絶妙のあまじょっぱさが広がった。適当に突っ込まれたものが 変に美味いのが妙に腹立たしくて、ついでに気のきいた反論も思い浮かばなくて、逆切れした勢いでヒュプノスはタナトスに噛みついた。 ガブリ。 ギャー――――。 …噛みつかれたタナトスの悲鳴はハーデスにもヘカーテにも夢の四神にも届いていたが、誰ひとり助けに来る者はいなかったらしい。 |
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| 11月11日はポッキーの日だから双子神がポッキーゲームする話でも書きたいよね!と思い立って三日で作ったSSです。ポッキーゲームはしたけど、ヒュ
プが(やめときゃいいのに)ヘカーテの事を聞いたら「もうポッキーゲームして来た」と帰ってきて、逆切れからポッキーを互いの口に押し込み合い喧嘩にな
る…という流れまで考えて、最後の一文で悩んで12日になってしまったと言うオチが付きました。 タイトルはなかなか決まらなくて、メーカーが漢字二文字だったらメーカー名にしたんですが無理だったので、苦し紛れで「11月=霜月」にしました。 片方が片方を押し倒して「ガブリ。」と噛みつき、噛まれた方は「ギャー――。」と悲鳴を上げるのは、東方の神奈子&諏訪子の同人誌が元ネタです。 そしてΩの黄金がみんな濃ゆくていい味出してくれてるのでちょっと入れてみました。貴鬼は羅鬼ちゃんと半分こしてポッキー食べそう。ハービンさんは「甘 い物を食べると骨に悪い!」とか言って、牛乳パック片手に。パラさんは紫龍を想いながら苺のハート形ポッキーを優雅にポリポリ。シラーさんは紙ナプキンで ポッキーをつまんで飲み物と一緒にお上品に。ミケさんはお付き合い程度かな。学園長はああ見えて甘党で、無表情のままバリバリ食べてても良いと思います。 |