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日本屈指の名旅館の一番高級な部屋で観光ガイドブックを熱心にチェックしている銀色の死神様を視界の端に捕えつつ、ルームサービスのメニューを眺めていたマニゴルドは彼に声をかけた。 「なぁタナトス様。酒のつまみでも頼もうかと思うんだけど、食べたいものあるか?」 「温泉饅頭」 「ねーよ。そもそも饅頭はつまみじゃねーだろ」 「温泉旅館の癖に温泉饅頭が無いのか?日本の文化は良く分からぬな…。まあ良い、ならば苺」 「要するに果物の盛り合わせだな。俺はこの『名物ハタハタ』でも頼もうかね」 「ところでマニゴルド、明日はこの『忍者寺』に行こうではないか。トラップだらけで面白い場所らしいぞ」 「ハァ?忍者寺ァ?今日通り過ぎたじゃねーかその周辺。明日もこの旅館に泊まるんだからこの周辺で行きたいところ決めろよ。確か水族館とかあっただろ、夏休みだし何かイベントとかやってねーの?」 「水族館には余り惹かれぬが…とりあえずググってみるか」 タナトスは荷物からノートパソコンを引っ張り出して慣れた手つきで操作を始めた。 マジで時代は変わったんだなぁ…としみじみ感じながらマニゴルドがルームサービス注文の電話を終えた時、電話の横に鎮座した壺…タナトスが町の胡散臭い占いの店で買って来たシロモノだ…が彼の眼に入った。 ヘンテコな物を見つけるタナトスの才能はある意味大したものだが、『ドラクエの占い師のコスプレか!』と突っ込みたくなるような格好をした胡散臭い女店主に『この 地ゆかりの戦国武将ゆかりの九谷焼で、普段なら五十万は頂くのだけど、これも何かのご縁だから特別に外箱付き五万円で』とか何とか、何とか鑑定団に出品した らコケること間違いなしの胡散臭い説明をされて嬉々として買ってしまうあたり、世間知らずと言うかバカと言うか…。しかも彼は、その胡散臭い壺を(芸術品にはうるさそうな)弟神ヒュプノスへの土 産にする気らしい。 無論マニゴルドは止めた。ゴヒャクマンとゴヒャクエンの違いを尋ねられて『文字がひとつ違う』と真顔で答えるような、盛大に金銭感覚のズレた神様がこんな物を買 う必要はないだろう。信頼のおける店でそれなりの額を出して鑑定書付きの正真正銘の本物を買えばいいではないか、と言って止めた。 そんな彼の非の打ちどころのない正論に、タナトスは楽しげに笑ってこう答えた。 『そんな優等生な品物を買っても面白くもなんともなかろう。胡散臭い店で胡散臭い人間から胡散臭い曰くつきの品を買った、という経緯も含めて土産なのだ』 国宝レベルの芸術品を普段使いの食器にしてる神様には面白いエピソードが何よりの土産という訳だ。その理屈に反論の余地はなく、女店主も二束三文の 壺が五万で売れれば喜ぶだろうし何も問題はない…そう考えたマニゴルドは早々にタナトスの説得を諦めたのだった。 …などと、壺購入の経緯を思い出しつつ振り返るとタナトスがいない。立ちあげたままのパソコンの画面には「開館30周年記念『さかなクンの魚ギョ講座』開催!」という水族館のイベントのページが開きっぱなしになっている。 パソコンの画面を覗きこんだマニゴルドは周囲を見回した。 (…明日の予定、これで決まりだな。で、タナトス様はどこ行った?) 何せホテルでいうところのロイヤルスイートに相当する客室だ、中庭まで付いているし無駄に部屋数も多い。 ぐるりと部屋を覗いて回ると、タナトスは和室に敷かれた布団の上で寝転がっていた。どうやらここが寝室らしく、当たり前と言えば当たり前だが布団が二組 敷いてある。布団一枚に枕が二つ置いてあるのを見てマニゴルドは一瞬ギョッとしたが、羽根枕と蕎麦ガラ枕の好きな方を選べと事らしいと気付いてホッと息を吐いた。空いている方の布団に座ってみれば、自宅のベッドが岩に思えるほどふかふかで座り心地が良かった。 「…で、何やってんだよタナトス様。ルームサービス頼んだのにもう寝るのか?寝るなら寝るで良いけど声くらいかけろよな」 「寝室の場所を確認するつもりでここに来たら既に布団が敷かれていたのでな。布団が敷かれていたら、まず寝心地を確認するものなのだろう?」 「誰情報だよ、それ」 「ヒュプノスだ」 「あ、やっぱり」 「お前も寝心地を確認してみたらどうだ?なかなか悪くないぞ」 「寝心地確認は良いけどよ。アンタ、俺のこと襲うなよ?」 「……………」 マニゴルドがお約束の冗談を言うと、タナトスは一瞬ぽかんとして、半べそのような顔になって枕に突っ伏した。続いて、はぁぁぁぁ〜〜〜〜…と、地獄の底まで届きそうな深いため息。 え、何だよこの予想外の反応。鼻で笑って『俺にも好みくらいあるぞ』とお約束の台詞を返してくるか、冗談にも程があるとブチ切れるかと思ってたのに。もしかしてひょっとしてタナトス様はその気があったのか? …という恐ろしい考えが頭をよぎったが光速で追いだして、何があっても対応できるように身構えつつマニゴルドはそっと身を乗り出した。 「おーい、タナトス様ァ?」 「………。確かに大神ゼウスやポセイドンの相手の種族性別関係なく手を出す節操の無さは有名だが、彼らと血縁関係にあると言うだけで大本の血筋が違う俺まで同類だと認識されているのか…異国の神話に疎い日本人だけでなくアテナの聖闘士にまで…」 「え?ちょ、冗談を真に受けた挙句に何マジ凹みしてんだよ」 盛大にギャグが空振ったマニゴルドが微妙な気分になりながら声をかけると、タナトスは枕から顔を上げて布団に身体を起こした。 「…冗談?」 「冗談だよ、決まってんだろ。アンタにそんな趣味があるかも、って本気で疑ってたら旅行になんか誘ってねーって」 「そ、そうか…」 「そーだよ。つかさ、噂には聞いてたけどゼウスとポセイドンってそこまで節操ねーのか?」 「ない」 「きっぱり即答キタコレ!」 マニゴルドのツッコミを鮮やかにスルーしたタナトスは、眉間に皺を刻んで『考える人』のようなポーズになって続けた。 「あのふたりは、外見さえ美しければ相手の種族どころか性別も気にせぬのだ」 「穴さえあればいいって奴か…」 「品の無い物言いをするな」 「あー悪い悪い。アンタそーゆー変なとこで潔癖だよな」 変な心配は不要だと分かって安心したマニゴルドは、タナトスの横顔を眺めてふと思った。 そーいやタナトス様も外見レベルの高さは半端ねぇよな。下手な人間の女より綺麗なんじゃねーかなぁ。 …ん?じゃあひょっとして…。 彼は純粋で素朴な疑問を何気なく口にした。 「じゃあひょっとしてアンタもゼウスに掘られた事とか、あんの?」 「……………」 タナトスは目を丸くして、口を半開きにしてマニゴルドを見た。 見開かれた銀色の目には瞳孔らしい物はなく、どこまでも透明で底が見えず、引きこまれるほどに美しい。 (俺がやったらただの間抜け面なのにそれなりに絵になるなんてイケメンは良いよなぁ。俺もこのくらいイケメンだったら女運ゼロ運命もねじ伏せてイイ女をゲットできてたかも…) ドベシィッ!!!! マニゴルドの取りとめもない思考は、顔面にクリーンヒットした枕で遮られた。 「!?!?!?」 「ないわ!あってたまるかそんな事!!」 顔を真っ赤にして怒鳴るタナトスと、ボールを投げ終わった直後のピッチャーみたいなポーズと、胡坐をかいた膝の上に落ちている枕を見て、マニゴルドはタナトス様に枕をぶつけられたとようやく気付いた。 一瞬遅れて怒りが込み上げて来て、彼は投げつけられた枕を引っ掴んで全力投擲しつつ怒鳴り返した。 「ちょ、おま…好奇心から出た素朴な疑問にマジギレしてんじゃねーよ!しかも顔面に向かって蕎麦ガラ枕投げつけるってどこまで大人気ねーんだ!せめて羽根枕にしとけよな!!」 「やかましい!そのような無礼な物言いに対して神罰を与えなかっただけ有難く思え塵芥!それ以上俺に近づくな気持ち悪い!」 「言うに事欠いて気持ち悪いとは何だコラァ!俺にそっちの趣味はねーぞ!!」 「そういう発想が出てくる時点でお前も大神やポセイドンと同類だ!!」 「俺とあんな色ボケオヤジを一緒にすんじゃねぇぇぇ!!」 …ここがロイヤルスイートクラスの客室で、ついでに寝室が廊下から一番遠い位置にあったのは僥倖と言えた。一般客室で神と黄金聖闘士が怒鳴り合いの枕投げなどをしてたら、最初の一撃の段階で従業員がすっ飛んで来ただろう。 幸か不幸か従業員の仲裁が入る事はなく、マニゴルドとタナトスの蕎麦ガラ枕飛び交う怒鳴り合いはヒートアップする一方で、タナトスの『そんな事を冗談でも言うからお前は女に逃げられるのだ!』という発言にマニゴルドはブチ切れた。冗談抜きのマジギレである。 マニゴルドは左手の中指を立てつつ右手で枕を掴んで全力投擲しつつ叫んだ。 「ンなこと言ってるとマジで掘るぞこのクソ神ィィィィィ!!!」 「なっ…やはりお前そういう趣味が!!」 「今後そう言う趣味に走って欲しくなければ妹を説得して俺の女運ゼロ人生を変えろやぁぁぁぁぁ!!!!」 「………え?」 タナトスが素で驚いた顔をして、予想外の反応にマニゴルドは続けて投擲予定だった羽根枕を掴んだ手を降ろした。 「何だよ、『え?』って。何を驚いてるんだよ」 「マニゴルド、お前…俺の言った事を信じていたのか?『我が妹、運命の女神モイライがお前には女に縁のない人生を与えたと言っていた』というあの言葉を?冥界の死神であるこの俺が言った、お前にとって不愉快な情報でしかない言葉を?」 「…思いっきり信じてましたけど」 予想外にも程がある発言に思わずマニゴルドが敬語になると、タナトスはますます目を丸くした。 え、ひょっとしてもしかしてあの発言は冗談だったのか? 混乱するマニゴルドにタナトスは真顔で尋ねた。 「本当か?本当に信じていたのか?」 「ああ、信じてたぜ。アンタ、そーゆーとこで冗談言うキャラじゃねーと思ってたし」 「………信じていた…信じていた…」 タナトスは枕を抱え込んだままひとりごとのように呟いて、どさっと布団に寝転がった。 立て続けの予想外すぎる展開に戸惑いつつ、マニゴルドはそーっとタナトスににじり寄ってその顔を覗きこんだ。 …彼は、笑っていた。 「何なんだよ、一体」 「人間から『信じていた』などと言われたのは初めてでな、少々戸惑っていた」 「へ?」 「信じていた…心地よい言葉だな」 「……………」 「神話の時代から、俺は不思議でならなかった。大神ゼウスを始めオリンポスの神々は何故、取るに足らぬ人間と関わり交わるのかと。あのような愚かで下等な生き物と関わって何の益があるのか、とな」 人間の俺を目の前にして『人間は取るに足らない愚かで下等な生き物』と言いやがるかこの野郎。 …とは思ったが、タナトスが嬉しそうに笑って話すので、マニゴルドは黙って聞いてやることにした。こう見えて彼は空気を読める男なのだ。 「その答えを教えてくれたのは、三百年ぶりに再会した旧知の大和の神だった」 「人間から信仰されれば神の力が強くなる…ってアレか?」 「そうだ。俺は、それが…それだけが答えだと思っていた。だが答えはそれだけではなかったのだな。人間は神に対する信仰を『信じている』という言葉に乗せ る。その心地よい言葉が神を動かし、神は人間に神徳を与え、神徳を与えられた人間はより一層神を信仰し、そして神は強くなるのだ」 「その理屈は分かんなくもねーけど、聖闘士の俺が信仰してる神はアテナになるんじゃねーの?俺がアンタの発言を信じてたのは事実だけどよ、それがアンタを信仰してたって事になんのか?」 「それは…」 タナトスが口を開きかけた時、部屋の『玄関』の戸が開く音がした。 さっきの枕投げの音に気付いた従業員が様子を見に来たのかとドキッとしたが違ったらしい。 「失礼します。ご注文の品をお持ちしました」 「あーはいはい、ありがとさーん。…タナトス様、ルームサービス届いたから話の続きはあっちで聞くぜ」 「ん」 マニゴルドが居間に戻ると、従業員が焼き魚の皿と果物の皿をテーブルに並べていた。 注文に間違いが無いことを確認した従業員が部屋を出るのと入れ替わりにタナトスが缶ビールを持って入ってきた。 焼き魚の良い香りに釣られて早速一匹齧ったマニゴルドの前に缶ビールを置き、タナトスは座布団に腰を降ろした。 「…先ほどのお前の質問に対する答えだが」 「おう」 「これも大和の神の受け売りだが。信仰とは、人間を平伏させて『我は神だ、 敬えよ崇めよ畏れよ称えよ奉れよ』とふんぞり返っているような堅苦しい物である必要はないそうだ。…こうして」 コツン。 マニゴルドが飲もうとした缶ビールに自分の缶ビールを乾杯のようにぶつけて、タナトスは銀色の眼を細めて面白そうに笑った。 「共に酒を飲み交わす…その程度の信頼関係があれば、それで十分なのだ。人間から『この神様は困った時に力になってくれる友達だ』と信頼される事、それが既に立派な信仰の形…らしいぞ」 「ふーん…大和の神様ってーのは随分人間に対してフレンドリーなんだな。アンタも結構フレンドリーだけど」 「古い常識に囚われず、時代の変化に適応した結果だな」 受け売り情報を得意気にお披露目してドヤ顔してんじゃねーよとか、アンタの俺に対する認識は友達じゃなく子分とか手下とか下僕とか碌でもねーもんだろと か、そもそも俺が信じたのはアンタ自身じゃなくアンタの発言だけだとか…色々突っ込みたい事はあったが、マニゴルドはその突っ込みをビールで腹の中に押し戻した。 せっかく神様がご機嫌麗しくなってるんだ、わざわざ余計なこと言ってガッカリさせることはねーだろ。むしろこの上機嫌と酒の勢いに乗って極秘情報ゲットと行きたいところだぜ。 そんな事を考えながら、マニゴルドはタナトス様にハタハタを勧めながらさりげなく本題を切りだした。 「じゃーさ、タナトス様。俺はアンタを信じたわけだから、ちょっとばかし神徳と言う名の耳より情報を与えてくれねぇ?」 「耳より情報?」 「アンタの妹神が俺に与えてくれた女運ゼロ人生を変えるにはどうしたらいいんだ?ヒントでも良いから教えてくれよ、俺はそれを信じて精進するからさ!」 「……………」 ハタハタを一口齧ったタナトスがスーッとマニゴルドから視線を逸らした。 凄まじい嫌な予感をビシビシ感じながら、マニゴルドはタナトスの肩を掴んで揺さぶった。 「ちょっと待て、何だその不吉極まりない反応は!おいこらタナトス様!眼ェ逸らしてんじゃねーよ!」 「あー…マニゴルド。世の中には知らない方が幸せなこともあってだな…」 「ンな言われ方したら余計に気になるじゃねーか!アンタのことだ、どうせ遅かれ早かれ口を滑らせるんだから素直に吐きやがれ!運命を変える方法が無いわけじゃねーだろ!!」 「!………」 「ちょ、何でそこで『ギクッ』って顔して黙るんだよ?え、おい、まさか、無いのか?運命を変える方法?」 「…人間の運命を決める権限を持つのは運命の女神モイライ三姉妹のみ。お前の人生は既に紡がれ糸は断ち切られて運命は定められた。我が妹が定めた運命を変える権限は大神ゼウスすら持っていない」 「いやいやいやいや、そーゆー建前はいいから!ゼウスに権限がなくても、兄貴のアンタの口添えがあったら何とかなんねーの!?ほら、アポロンの友達のナントカっつー王様みてーにさ!」 「無理だ」 タナトスは大きく息を吐いて肩を掴んだマニゴルドの手を引き剥がすと、真剣な眼で彼を見据えた。 「アドメトス王は自身の運命そのものを変えたのではなく、妃の運命と交換したに過ぎぬ。夫の死を肩代わりした王妃は冥妃様のお慈悲で寿命を延ばされたが、それとて運命を変えたわけではない。後から新たに運命の糸を繋いだのだ」 「じゃ、俺と運命を交換しても良いって誰かが現れたら…」 「それに、だ。お前も知っているかもしれぬが、王と王妃が運命を交換したこの一件が原因で俺がとばっちりを食らってな、大神やハーデス様も巻き込む騒ぎに なった。それを聞いて猛省したモイライは『人間同士の運命の交換は今後一切行わぬ』とスティクスに誓ったのだ。妹が立てた神の誓いを、兄である俺が破れと は言えぬ」 はあぁぁぁぁぁ〜〜〜〜… 今度はマニゴルドが地獄の底まで届きそうな溜息をつく番だった。タナトスの言い分はゴモットモ過ぎて反論の余地はこれっぽっちもない。 マニゴルドがテーブルに突っ伏してベッコリと凹んでいると、タナトスがくしゃりと彼の頭を撫でた。 「そう落胆するな、マニゴルド」 「女運ゼロ人生が確定して落胆しない方がおかしーだろ」 同情なんざいらねーやガキ扱いすんじゃねーよ…と呟きつつ、頭を撫でるタナトスの手はあたたかくて不快ではないからマニゴルドがされるがままになっていると、死神の手が離れるのと同時に穏やかな声がした。 「確かにモイライは『マニゴルドには女と無縁の運命を与えた』と言っていた。それは事実だ。しかし、その発言内容まで事実とは限らぬ」 「…………?」 マニゴルドがタナトスの言葉を理解するまで数秒かかった。 発言内容まで事実とは限らない…ということは、つまり…。 「運命の女神達が兄貴のアンタに嘘を言ったってことか?」 「その可能性もゼロではない」 「??…なんで嘘を言う必要があるんだ?」 「俺がうっかり口を滑らせたら色々と面白いと思ったのではないか?実際、お前の女運ゼロ人生は何かにつけネタになって色々と面白いことになっているだろう」 「あ、スゲー納得」 タナトスに励まされたというのは何だか妙な気分だったが、一気に気持ちが軽くなったマニゴルドはフルーツの皿からオレンジを取りながら死神に尋ねた。 「んじゃさタナトス様。運命の女神様は事実を言ってて、マジで俺の女運がゼロだったとしたらどーしたらいいか、ありがてぇご神託でもくれませんかね?あ、男に走れっつーアドバイスは無しで頼むな」 「単純なこと」 タナトスは唇の端をスッと持ち上げて面白そうに笑った。 「お前が、モイライの与えた運命を覆した史上初の人間になれば良いだけの話だ」 「さらっと無茶言うんじゃねぇよ神様」 「フッ…人間が時に神すら凌駕する奇跡、それを実際にやってのけて来た聖闘士が何を今更。それとも何か、お前は自分の甲斐性の無さを神のせいにして逃げる気か?」 「うっわ、失恋して心が傷だらけの俺にそーゆーキツイ事言ってくれちゃう?」 「耳触りのよい言葉など甘い毒薬だ。お前が俺を信じたからこそ、神徳として耳に痛い有益な助言を与えてやったのだぞ。有難く思え」 「へいへい、ありがとうございますぅ」 結構本気でタナトスに感謝していたが、素直にそれを伝えるするのは癪だったから、マニゴルドは嫌みたっぷりに礼を言った。 勝手に笑いが込み上げてくる口にオレンジを押し込んで、マニゴルドはタナトスに指を突き付けた。 「見てろよクソ神、アンタが羨むような良い女ゲットしてやるからな」 「それは楽しみだ。結婚式には必ず俺を招待するのだぞ」 「ああ、いいぜ。その代わり祝儀は弾めよ!」 「良かろう。家の一軒くらいくれてやるぞ」 「お?本当だな?その約束、忘れんなよ?」 「神は約束を違えたりせぬ。なんなら証になる物を渡しておくか。何が良いか…」 タナトスは思案顔になり、部屋の床の間に無造作に置いてある例の胡散臭い壺を指した。 「では、今の約束の証と結婚の前祝いを兼ねて、あれをお前にやろう」 「へ?あの壺は弟さんへの土産じゃねーのかよ」 「ヒュプノスへの土産は別に探すさ。あの壺にまつわる話だけで十分な土産話になる。…お前の宣言も含めて、な」 「壺なんて飾る趣味は俺にはねーんだけど…ま、約束した証拠って事なら有難く貰っとくとしますかね」 どうせ二束三文の壺だ、自宅か職場の適当な場所に置いときゃいいだろ…と、この時のマニゴルドは安易に思っていた。 …ちなみに。 軽い気持ちでアテナに頼んで専門の業者にあの壺を鑑定してもらったら、ナントカという言う戦国武将ゆかりの正真正銘の本物で、五百万は下らない値がつくなどという結果が出て、マニゴルドが驚愕の余りひっくり返るのはこれからしばらく後のことになる。 |
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こちらの「後編」が、アンソロに投稿した話です。投稿作品ではマニさんの一人称視点で書かせて頂きました。私の他の作品をご存じない方でも支障なく読めるように…と、いかに短い文章で当サイトのマニさんの設定を紹介するか考えつつ書いた覚えがあります。 当初は別のネタを寄稿するつもりだったのですが、洒落にならないページ数になりそうだったので、マニさん誕生日SSでチラと触れた「タナトスとマニさん二人の傷心旅行」をテーマにアイデアを膨らませて行きました。 そして、この話を書いた時点では漠然と「石川県にある日本屈指の名旅館(という噂)の『加賀屋』に宿泊している」とイメージしていました。参考資料を探 しがてら加賀屋のホームページにアクセスしたら、宿泊料金が記載されていなくて「おおう…(汗)」となった覚えがあります(笑)。ちなみに「トラップだら けで面白い場所・忍者寺」は金沢市にあり、加賀屋や水族館は能登地方にあります。マニさん達が住んでいる東京から石川県に向かった場合、金沢市街を通り過 ぎて能登地方に向かう形になるなと思いましてこんな会話を入れてみました。そしてタナトスが買った「胡散臭い壺」にゆかりのある戦国武将とは、やっぱり前 田利家かなーと思っています。 |