| イチとシチの聞き間違いに端を発した奇妙な『ピザ会』が終わってひと月ほど経った頃。 城戸財閥関連会社での仕事を終えてヘトヘトになったマニゴルドが自分のアパートに帰宅してホッと一息ついた時、テーブルに置いてあった携帯が鳴りだした。 こんなちっこい道具で遠くにいる奴とも話が出来るなんて未だに不思議だぜ…と思いながら、マニゴルドはガンガン着信音を鳴らす携帯を取ってボタンのひとつを押した。 「もしもーし」 『俺だ』 「誰だよ」 『着信画面に名前が出ているだろう、タナトスだ!』 「電話を取るので精一杯でそこまで見る余裕なんてねーよ、文明の利器についてくだけで精一杯の俺にそんなことまで求めんな!…で、何の用だよ」 『次の日曜、午前10時までにエリシオンの俺の神殿まで来い。諸々はこちらで準備しておく故、手ぶらで構わぬぞ。ではな』 「ちょっと待てやクソ神」 ソファに寄りかかっていたマニゴルドは思わず身体を起こして電話にかじりついた。 タナトスの神特有の豪快さと言うか無茶ぶりには持ち前の順応力でそれなりに対応できている自負があったが、これは無茶ぶりのレベルを超えている。 マニゴルドの言葉に、電話の向こうからあからさまにムッとした声が返って来た。 『誰がクソ神だ、誰が!以前言ったであろう、俺の事はタナトス様と呼べと。お前はアテナの聖闘士の癖に言葉の使い方も知らぬのか』 「少々お待ちになってくれやがりませんかねタナトス様。無茶ぶりにも限度ってもんがあるんじゃごさいませんかぁ?」 『ん?次の日曜は予定が入っていたのか?』 「いや、まぁ、予定の確認も大事だけど…何でそんなとこだけ妙に常識的なんだ…。問題はそれ以前にあるだろ、何なんだよ『エリシオンの俺の神殿まで来い』って」 『フフフ…それは来てからのお楽しみだ!』 「ちげーよ!問題はそこじゃねーだろ!!」 マニゴルドは思わずテーブルを拳で叩いて怒鳴った。 「『俺んち来いよ!』みたいなノリで『エリシオンに来い』なんて言うんじゃねーよ!『来いよ』って言われてハイハイと行ける場所じゃねーだろ!そもそもあの神の道をどーやって超えるんだよ!?生身の人間があそこに入ったら別の形で冥界行く羽目になるだろーが!!」 『ああ、そう言えばそうだったな』 「そう言えばそうだったなってアンタ…」 『ならば、嘆きの壁の前に10時集合に変更だ。これから天馬星座達にも声をかける故、連中と一緒に来るが良い。嘆きの壁には俺からの使いを送っておく。これなら問題なかろう?』 「え?あ、うん、そっか、分かった。次の日曜の10時に星矢達と一緒に嘆きの壁だな」 話の流れで何となく納得してしまって電話を切ったマニゴルドは、どこか釈然としない気持ちで首を捻った。 確かにタナトスの言う通りエリシオンに行く事は何も問題なさそうなのだが、どこがどうとはハッキリ言えないのだが、それ以前の問題があるような無いような…。 マニゴルドは狐につままれたような気持ちで夕食の支度を始めたのだった。 そして、タナトスに一方的に指定された次の日曜。 半強制的にタナトスに呼び出されたマニゴルドと星矢と一輝・瞬兄弟が指定された時間に嘆きの壁の前に到着すると、何とも言えない微妙な顔をした冥界三巨頭が先に来ていた。 彼らの姿を認めた星矢は至って気さくに声をかけた。 「久しぶりだな、お三方!タナトスサマが言ってた使いの者ってあんたらか?」 「いや、我々もタナトス様に呼び出されたのだ」 「アテナの聖闘士と我々を同時にエリシオンにお呼びになるとは…一体どのような要件なのでしょうね?」 「バレンタインのチョコをラッピングする手伝いをさせるために冥闘士のバレンタインをエリシオンに入れるような神様達だからなぁ、真面目に考えるだけ無駄だと思うぜ」 「おいおい、そんなギャグの為にホイホイと人間をエリシオンに入れて良いのかよ…」 「いいじゃないかマニゴルド。ギャグの為に人間が神の御所に入れるほど平和になったんだって考えようぜ!」 二カッと笑って星矢が言った言葉に皆が納得の表情になった時、嘆きの壁の空間が歪んで開き、銀色の神と透明に透き通った紫の眼の若い男が姿を見せた。 …夢神オネイロスだ。 傅く三巨頭と突っ立ったままの聖闘士達を一瞥してオネイロスは懐から数珠のようなアクセサリーを取り出した。 「私は夢神オネイロス。タナトス様の命によりお前達を迎えに来た。…さぁ、この通行証を腕に巻いて私に付いて来るが良い」 「ハ」 「へーい」 「オネイロスサマがわざわざ俺らを迎えに来てくれるなんて光栄だけどさ、タナトスサマは一体何の用件でこのメンバーを呼び出したんだ?」 「それは『エリシオンに来てからのお楽しみ』と言われているのだろう?タナトス様に直接尋ねるがよかろう」 オネイロスは微かに唇に笑みを浮かべて踵を返した。 人間達は顔を見合わせ、おっかなびっくり神の道に入ってオネイロスの後をついて行った。 一行が案内されたタナトス神殿の中庭には既に神々が集まり、まるでオープンカフェのようなセッティングがされていた。 ひょっとしてこれは神々の茶会に招待されたのか…と人間達が期待に目を輝かせるのを見て微かに含み笑いしつつ、オネイロスは中庭と繋がった神殿の一室を指差した。 「三巨頭と蟹座、タナトス様があちらでお待ちだ。それから天馬星座達は好きに神殿内を散策して構わぬ、とのお言葉だ」 「お、そーなんだ。じゃあ有難く見学させてもらおうかな!」 「ハ」 「…………。冥界側の私達がタナトス様に呼ばれるのは分かりますが…」 「何で聖闘士のお前まで?」 「あのクソ神様は俺を自分の手駒だと思いやがってくださってるかんな。何か手伝わせる気なんだろ」 「我等冥界三巨頭の前でタナトス様をクソ神呼ばわりとは、いい度胸だな全く」 冥界三巨頭が苦虫を噛み潰したような顔でマニゴルドを睨みつつ、マニゴルドはそんな彼らの視線をしっかりと無視しつつタナトス神殿の部屋に入ると、トマトソースの良い香りが鼻をくすぐった。 彼らを出迎えたタナトスは満足げに笑って腕組みをした。 「漸く来たか、待ちかねたぞ。ではお前達、隣の部屋に用意してある服に着替えて手を洗ってからここに戻ってこい!」 「………………」 死神様のトンデモ発言や無茶振りには相応の免疫が出来ているはずの三巨頭とマニゴルドだったが、流石に今回ばかりは事情が呑み込めなかった。 四人が通されたのはどう見ても台所で、タナトスの服装はいつものローブではなく白いシャツに黒いスラックスに丈の長い黒いエプロンとまるでギャルソンの コスプレで、ぐるりと台所を見回せば、テーブルの上には小麦粉やオリーブオイルや大量の食材とチーズが並び、鍋の中にはトマトソースらしきものが入ってい る。 …辛うじて状況を把握したマニゴルドはガリガリと頭を掻いた。 「タナトス様…ひょっとしてアンタ、自家製ピザに目覚めたのか?」 「え?」 「ピザ?」 「あ、言われてみればピザが作れそうな食材ですね」 「先日お前に教わって作ったピザがなかなか美味だった故、色々と研究して皆に振る舞ったところ予想以上に好評だったのでな。せっかくだから親睦会も兼ねて ピザ会でもやろうかと思ったのだ。とはいえ人数が人数だ、俺ひとりで全員のピザを作るのは無理があるからお前達を呼んだと言う訳だ!」 「なるほど、親睦会ね…」 色々と突っ込みは入れたいが、『親睦会』と銘打たれては文句は言いにくい。 これも仕事と割り切るしかない…と無言のまま奇妙な意思疎通をしたマニゴルドと三巨頭が服を着替えて台所に戻ると、タナトスがにっこりと笑った。 「ほう…なかなか似合っているではないか。一人前の料理人に見えなくもないぞ」 「アンタ、神様なのに形から入るタイプだったのかよ」 「形から入る事を馬鹿にしてはならんぞ塵芥。たかが形、されど形。先人たちの知恵と経験とデータに基づき特定の仕事をこなすために最適の姿に整えられたのが形だからな。素人なればこそ形から入るのが合理的と言えよう」 「何かうまい事言いやがって…」 「あの、タナトス様。俺はピザなど作った経験は無いのですが、大丈夫でしょうか?」 調理台にずらり並んだ食材を見回したラダマンティスが不安そうな顔でおずおずと声をかけた。 実にゴモットモな心配だったが、タナトス様は自信満々でふんぞり返った。 「問題ない。俺も、そこの人間の話を聞きながら見よう見まねでピザを作ったが、ちゃんと食べられるものが出来た故な!マニュアル通りの配合で生地を作り、余計な味付けをしなければ素材の良さで押し切れる!」 「な…なるほど」 「そういやベースはトマトソースだけなのか」 「照り焼きチキンはチキンにソースが付いているようなものだし、カレー味やマヨネーズ味にしたければ焼いた後に調味料をかければ良いからな。最初からかっちりと味を決めてしまう必要もあるまい。故にトマトソースにも必要最低限しか味をつけていない」 「何か一流シェフみたいなコメントだな。…んじゃちょっとお手並み拝見と行きますかね」 鍋のトマトソースをひと匙すくって味見したマニゴルドは思わず感嘆のため息をついた。 なんだこれ、美味い。滅茶苦茶美味い。確かに必要最低限しか味はついていないが、素材のトマトの美味さが半端ではない。 驚愕を顔に貼りつかせたままマニゴルドはタナトスを振り返った。 「おいタナトス様、このトマトソース滅茶苦茶美味いんだけど。神様パワーで細工でもしたのか?」 「失礼なことを言うな。クロノスに頼んで出来の良い野菜を分けてもらっただけだ」 「ああ…そう言えばエリシオンには農耕神クロノスがおいでなのでしたね」 「うむ。野菜と小麦とオリーブオイルはクロノスに、肉の類とチーズはアリスタイオスに頼んで良い物を調達したのだ!」 「さっすが神様、凝り方が神がかり的だな。けど、材料にそこまで凝ってるのにオーブンは普通のもんなんだな。つか、あの人数のピザ焼くとなったらオーブンが足りないんじゃねーか?」 「フ…その点に抜かりはない。俺は凝る時はとことん凝る主義だ!」 タナトスがドヤ顔で指差した先を見たマニゴルドと三巨頭はあんぐりと口を開けた。 …石窯だ。 煉瓦を積み重ねた本格的かつ馬鹿でかい石窯が中庭にデンと鎮座している。 呆気にとられる人間達を満足げに見ながらタナトスは鼻の穴を膨らませて話を続けた。 「俺の従兄弟、冥界の鍛冶屋キュクロプス達に頼んで、『美味いピザをたらふく馳走する』と言う条件でピザを焼くのに最適な石窯を作ってもらったのだ」 「…………」 神様のスケールの豪快さに絶句していたマニゴルドは、ズシンズシンという足音と共に姿を見せた巨人達にまた絶句した。 無数の眼と腕を持つ巨人が三人と、一つ目の巨人が三人、山のような薪を抱えて台所を覗きこんだ。 「タナトスよ、薪はこのくらいあれば足りそうか?」 「そうだな、さしあたりは問題なかろう。そろそろピザの仕込みを始める故、窯に火を入れておいてくれ」 「了解した」 「出来上がりが楽しみだな!」 会話だけで周囲の空気をビリビリと震わせた巨人達は、ままごとでもするように石窯に薪をくべて火を起こし始めた。 本日何度目か分からない絶句状態の人間達を見て、タナトスは無邪気な笑みを見せた。 「ああ、心配はいらぬぞ。奴らは身体は大きいが食事の量は我々とさほど変わらぬ」 「あ、そう…」 「…………」 心配するのはそこではないと言うか、最早どこからどう突っ込んでいいのか分からないと言うか。 つかあんな強そうな奴がいるなら何故聖戦に参加させなかったんだとか全然違うところに突っ込みを入れたくなってきたので、人間達は黙々とピザの作成に取り掛かったのだった。 「うめぇーーー!!おーいマニゴルド、そのピザくれよ!それからこのハムがのっかったピザもう一枚な!」 「うっせ!星矢この野郎、お客様気分で気軽にオーダーしてんじゃねーよ!」 「すいませんマニゴルド先輩、僕は野菜のピザをお願いします」 「丁寧に頼めばいいってもんじゃねーだろ!つかお前ら、先輩で黄金の俺がほとんど飲まず食わずでコック兼ウェイターやってんのに良くもまぁ図々しく座って飲み食い出来るな!」 「だって俺達ピザなんて作れないからさぁ。あ〜〜でもホント、このピザうまいなぁ!親睦ピザ会万歳!だぜ、タナトスサマに感謝しなくちゃな!」 本当に嬉しそうな顔でピザに齧りつき、幸せ一杯の顔で頬張る星矢の姿にマニゴルドは苦笑した。 まぁ確かに、ここまで美味い美味いと連呼しながら嬉しそうに食べてくれたら作りがいもあるしホスト冥利に尽きると言うものだろう。マニゴルドがピザを一切れつまみ食いして最高のワインで喉を潤し作業に戻ろうとした時、両手にピザを持ったラダマン ティスとミーノスがやって来た。二人の突き刺さるような視線の先では、アイアコスがジョッキのビールをぐいぐい飲みながらピザを齧っている。 「何をサボっているのだアイアコス」 「サボってるとは人聞きが悪いな。タナトス様から休憩の許可が出たから有難く休憩してるだけじゃないか。つーかお前らも休んで良いって言われただろ?何を真面目に働いてんだよ」 「タナトス様が休みなく働いておられるのに我々が休んでいられるか!」 「ハーデス様もこの場においでだと言うのに、タナトス様が働いておられる横でくつろいで酒まで飲めるあなたの図太さにはある意味感心しますよ」 ラダマンティスとミーノスの言葉を聞いてマニゴルドはタナトスを振り返った。 銀色の死神は、顔も手も粉まみれになりながら実に楽しげに弟達にピザの作り方を教えている。皆を招待した当事者と言うのを差し引いても、ピザのつまみ食いすらしないで働いているのでは部下達も休むに休めないだろう。 …ああ、全く。 マニゴルドは盛大に溜息をつくと、丁度ピザを食べ終わった星矢の襟首を捕まえて強引に立たせた。 「ん?なんだ?」 「交代だ、星矢。瞬と一輝、お前らもだ」 「ん?」 「交代って、何を?」 「さっきも言ったが先輩と神様が休みもせずにピザ作ってんだぞ。いつまでもお客様してんじゃねーよ、お前達も作る側に回れ!」 「僕、ピザなんて作ったこと無いですけど」 「心配すんな、お前と同じ事言ってた三巨頭様もちゃーんと食えるレベルのピザ作ってんだ。さぁ立て、世の中はギブアンドテイクだぜ!」 椅子にかけてあったアイアコスのエプロンを無断で拝借したマニゴルドが急かすと、一輝と瞬も苦笑しながら立ち上がった。 …後輩三人を連れたマニゴルドは台所に入るなりタナトスにズカズカと歩み寄った。 「うぉいタナトス様!そろそろメンバーチェンジと行こうぜ!」 「ん?メンバーチェンジ?」 「俺もアンタも作ってばっかりで碌に食ってねーだろ。弟さん達もピザの作り方覚えたみてーだし、そろそろアンタも俺も食うことに専念していい頃だ」 「ああ、そう言えばお前にも休憩をやらねばな。休んで良いぞ、マニゴルド」 「アンタも休めって言ってんだよ。親分が先頭切って働いてたら、『休んで良いぞ』って言われた部下が落ち着いて休めねーだろうが!ほれ、交代交代!!」 マニゴルドはピザ生地を伸ばしていたタナトスの手を掴んで調理台から引きはがし、持っていたエプロンを有無を言わさず星矢に押し付けた。ついでにタナトスと自分のエプロンも外して瞬と一輝に渡してやる。 いざキッチンに入ると俄然ピザ作りに興味がわいたのか、星矢達はさっさとエプロンを腰に巻いて腕まくりをした。 「ピザ作りって何か面白そうだな!よーし、腕によりをかけて作ってやるぜ!」 「お前の場合、ピザ職人と言うより魚屋みたいだけどな」 「どっちも同じ料理人だぜ!へいらっしゃい、てなもんだ!」 「子供の頃ホットケーキを作ったのを思い出すなぁ。ねぇ兄さん?」 「そうだな」 「ではピザ生地の作り方を俺が教え…」 「教えなくていいっつーの!弟さん達が覚えてるんだからそいつらに任せろって!アンタはや・す・め!!!」 マニゴルドはタナトスの腕を掴んで強引に台所から引きずり出した。 星矢達が座っていたテーブルをざっと片付けてタナトスを開いた椅子に座らせ、『絶対に立つんじゃねぇ』ときつく念押しして、マニゴルドは石窯から出て来 たばかりのピザをタナトスの前に置いた。ついでにビールもジョッキに溢れるほど注いでデンと目の前に置いてやる。アツアツのピザを慎重に切り分けてチーズ と格闘しながらマニゴルドは一切れ自分の皿に乗せた。 「さー食おうぜタナトス様。職人たるもの、自分で作ったもんはちゃんと味見しなくちゃな!」 「ああ、その前に」 「まだ何かあるのかよ!」 「ピザ親睦会の成功を祝って乾杯をしようではないか」 「…はいはい」 こんな笑顔でジョッキを差し出されては嫌とは言いにくいよなぁ、と内心で呟きながらマニゴルドはビールのジョッキを持ち上げてタナトスのそれにぶつけた。 「んじゃまぁ、かんぱーい」 「乾杯!」 ビールを半分ほど一気に飲んだタナトスは、ピザを一口齧って満足げに目を細めた。 …吹き抜ける風に美しい銀髪をなびかせ、皆が楽しげにピザを作ったり食べたりしている姿を目を細めて眺めながらピザを口に運んでいるタナトスを見て、マニゴルドは素直な疑問を口にした。 「タナトス様さぁ、実は皆でワイワイやるのが好きだったりするのか?」 「ああ、大好きだぞ」 「へー。ちょっと意外だな」 「フ…死の神とはもっと陰気くさいものかと思っていたか?」 「いや、『皆でワイワイのどこが良いのだ、そんなもの下らん』ってタイプかと思ってた」 「『皆でワイワイ楽しむ』の良さが分からぬ奴の方が余程下らんと思うがな」 「……………」 「何だその顔は」 「あ、いや、色々意外過ぎてよ。予想外デース、って感じだぜ」 「どこの携帯会社のCMだ」 フフ…と笑うタナトスの横顔は、冷たい死を司る神とは思えないほど明るく柔らかい。 マニゴルドは胸の奥からこみ上げてくるモヤモヤをビールで押し戻して焼きたてのピザにガブリと齧りついた。 和解が成立したとは言え、タナトスは長らくアテナと敵対していた冥界の神だ。最低限の警戒心は緩めてはならないと思っていたのに、『皆でワイワイするの が楽しいから』という理由で聖闘士を自分の神殿に招くタナトスや、冥界の神々と一緒になって実に楽しそうにピザを作っている星矢達を見ていると、万が一に 備えて身構えている自分が馬鹿馬鹿しくなってくる。 (俺はガキの頃は死神に憧れていた。でも、それ以上に、俺から大事なものを奪って行った死が憎かった。その憎悪、死が憎いという感情は絶対に忘れちゃいけねぇと思ってたんだけどなぁ…) (…もしもお師匠がここにいたら何て言ったのかねぇ) (『死を憎んで死神を憎まず』…かな?ちょっと違うか) あれこれ考えても自分の中で答えは既に出ているのにそれには気付かない振りをして、最高に美味いピザに感嘆の溜息を漏らしながらマニゴルドは想いを巡らせ続けた。 |
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| サイトのカウンタ5555のキリリク用に書き始めたSSなのですが、このSSを更新した時点でカウンタは12840という…。いやほんと、長らくお待た
せして申し訳ありませんグハッ(吐血)。頂いたお題は『タナトスとマニさんのコメディ』だったのですが、コメディと言うよりいつものマッタリ日常になった
気がしないでもなかったり。こんな経験をしながらタナトスとマニさんは仲良くなっていったんだな、と思って頂ければ。 このSSの時点で、タナトスは『自分とこの人間(マニさん)の間に確執は全く残っていないし、マニは自分に憧れ崇拝している。素直でないのはツンデレだ から』と素で思っています。マニさんはまだ完全に警戒心は解いてない、100%気を許してしまうのは駄目だ、と意識して身構えています。けど、タナトスの ペースに巻き込まれていつの間にかズルズルしてる状態。で、今回のピザの一件を通して『冥界の神々を警戒する必要は本当にもう無いんだな』と実感と決心 (と言うほど大袈裟でもないですが)してます。そして同時に、『タナトスには憧れていたがそれ以上に憎かったはずなのに、憎かった事を忘れてタナトスに好 感を持っている自分』にも薄々、渋々、気付いています。でも気付いてる自分を認めたくない、最後の意地と言うか強がりと言うか、そんなフクザツな心境が最 後の『あれこれ考えても自分の中で答えは既に出ているのにそれには気付かない振りをして』という文章で表したかった事です。 |