| 闇色の竜巻を呑み込んだ輝く竜巻が勢いを増し、荒れ狂う暴風となってシラーに襲いかかった。 「…来るなぁっ!!」 風に言葉が通じるはずもなく彼の身体は竜巻に巻きあげられ弾き飛ばされた。 眼下に見えるのは溶岩の池。 あれに落ちたら死ぬ。 死ぬ? …死にたくない。死にたくない! シラーはっきりと死の恐怖を感じた。 無意識の生存本能に動かされるまま、何も掴む物が無い空に向かって手を伸ばした時。 迷いない手が彼の手を掴んだ。 「!?」 驚いて顔を上げると、真っ直ぐな眼をした少女…今の今までシラーと戦っていた鷲座の聖闘士の顔が見えた。 「何故…」 「しっかり掴まって!あの溶岩の池に落ちたら、いくら黄金聖闘士でも助からないわよ!!」 「…………!!」 黄金聖闘士のプライドも恥もかなぐり捨てて、シラーは彼女の細い腕と小さな手に縋りついた。 …先程の戦いで力を使い果たしていたのだろう、シラーを崖の上に引っ張り上げた少女は肩で息をしながらその場にぺたりと座りこんだ。 崖っぷちにへたり込んだシラーは目を伏せたままボソリと尋ねた。 「…どうして僕を助けた。僕は君を殺そうとした、君の敵だよ?」 「あなたも戦災孤児だったんでしょ?落ちそうなものをつい拾っちゃう癖が残ってない?」 「………。そのジョークは笑えないよ」 「私のせいで死なれたら後味悪いし、ついでにあなたは化けて出そうなタイプだしね。それに、あなたにはバベルに囚われてる皆を助け出す方法を教えてもらわないと」 「…………」 どこまで本気か分からない顔でそう言って軽やかに立ち上がり、スカートに付いた汚れを払った彼女は実に勇敢な顔でシラーを見降ろした。 「今は時間が無いから皆を助ける方法はマルスを倒した後で聞くわ。さ、私と光牙を元の世界に戻してちょうだい。嫌だなんて言ったら今度こそ溶岩の池に蹴り落とすわよ」 「…それは困る。僕は死が嫌いだからね」 唇の端を微かに持ち上げてシラーも立ち上がった。 白い砂浜に波が打ち寄せる。 ひとり巨蟹宮に残されていた龍峰は、光牙に肩を貸して歩いてくるユナの姿にほっと安堵の息を漏らして駆け寄った。 「ユナ!良かった、帰ってこれたんだね!」 「ええ、何とかね」 「それで、彼は?」 龍峰の問いにユナが振り返った。その視線を追った龍峰は蟹座の黄金聖闘士が近づいてくるのを見て身構え、彼に戦う意思が無いことに気付いて怪訝そうな顔になった。 シラーは曖昧に彼らから視線を逸らしたまま口を開いた。 「君達が漂わせていた死臭が消えたね。一時的なものかもしれないけど」 「!…………」 「先に進みたいなら勝手にしたらいい。この先には僕より強い黄金聖闘士が待ち構えている、君達がマルス様のところまで行くことなんて不可能だからね」 淡々と言葉を紡いで彼らの横を通り過ぎたシラーはふと足を止めた。 「そうだね、でも…」 「…でも?」 「万が一、君達が生きて帰って来たら、その時はトゥーム・スクィーズに囚われている連中を助ける方法を教えてあげるよ。まぁ、絶対無理だけどね」 「…………」 「僕はしばらく、その鷲座の彼女が言った事について考えてみるよ」 ひらり、彼は芝居がかった仕草で片手を振った。 ユナが掴んだその手を。 |