| ポッキーと鯛焼きとうまい棒の配達を終えた皆が巨蟹宮に戻ってくると、白黒ツートンでブサカワ顔のボストンテリア…イギーが弾丸のように飛び出してきた。たちまちシラーは笑み崩れて片膝をつき愛犬に手を差し出した。 イギーは大はしゃぎで主人の手に纏わりついてペロペロと舐め始めた。 「わんわんわわんわんわん!アウアウアウウッ!」 「ただいま、イギー。いい子にしてたかい?」 「イギッ!」 「こんにちわ、イギー」 「邪魔するぞ」 「よっ、クソ犬」 「アウゥ!」 細くて短い尻尾を千切れるほど振りながら、イギーはシラーに抱きついて顔を舐め、パラドクスに甘えて撫でてもらい、玄武の足に纏わりついて鼻をクンクン言わせ、ハービンジャーの腕を伝って駆け上がると髪に噛み付きブチブチと毟り抜き、そして。 プ…。 三人がクスクス笑う前で、お約束のネタの被害者になったハービンジャーがベリッとイギーを引き剥がした。 「うがー!このワン公!!また顔面に屁ぇかましやがったな!しかも何で俺だけなんだよ!ったくよー、次にやったら元ネタの漫画みてーにブン投げるからな、このクソ犬!!」 「アウ…」 「何だよ犬の癖に『えー?』みたいな不満そうな顔しやがって!うぉいシラー!飼い犬の躾くらいしっかりしてくれよ!」 「してるよ?それはイギーなりの君への親愛の情の表現さ。だよね、イギー?」 「イギッ!」 イギーが尻尾をピルピルと振りながら『あっちに行きたい』と言いたげにシラーに向かって足をバタバタしたので、ハービンジャーはムスッとしたまま犬をシ ラーに押し付けた。シラーは愛犬の頭をよしよしと撫でて床に降ろすと、足に纏わりつくイギーに笑顔を見せながら飲み物の準備を始めた。 …テーブルに飲み物と菓子を広げてソファに座ると、皆は鯛焼きやポッキーの食べ比べを始めた。それを見たイギーは戸棚の下から『IGGY』と名前が書か れた自分用の食器を引っ張り出した(犬が咥えられるように布製の持ち手がついているのだ)。カタン、カタンと食器を引っ張っていくと、シラーの足を前足で ちょいちょいと引っかいた。『自分にもオヤツをちょうだい』という催促である。 その可愛らしい姿を見たパラドクスが思わず目を潤ませた。 「あらぁ、あなたもお茶会に参加したいの?イギー」 「アウッ!」 「ま、目の前で皆が美味そうなもん食ってたら自分も食いたいよな」 「そうは言っても犬にやれる物があるか?チョコもクリームも塩味のプリッツも犬に食べさせるのはダメだった気がするが」 「大丈夫。ちゃんと皮だけの鯛焼きを用意してあるから。…今日は特別だから一口じゃなくて一匹あげるよ。イギー、おすわり」 「イギッ!」 「お手」 「イギッ!」 「よし、OK」 「アウ!…グ、ガガ」 シラーが鯛焼きを犬用の食器に入れると、イギーは尻尾を振りながら鯛焼きに齧り付いた。その姿に目を細めながら、シラーはスマホを取り出して愛犬の姿を撮影した。勿論、動物好きのタナトスに送るためである。 あのワン公も顔面に屁をかます芸さえやめれば可愛気があるのになぁ。 シラーとイギーの姿を眺めてそんなことを思いながらうまい棒の袋を開けたハービンジャーは、不意に名案を思いついてシラーを見遣った。 「なぁなぁシラー。今日はポッキーの日なんだよな?だったらポッキーの日らしい事しねぇか?」 「と、言うと?」 「うまい棒でポッキーゲーム!!」 「……………」 シラーは思いっきり微妙な顔になったが、今更その程度でへこたれるハービンジャーではない。うまい棒を口に咥えて、さぁさぁ!とシラーに詰め寄った。ちなみにパラドクスと玄武は、『そんなことシラーがOKするはずがない』と確信していたので無視を決め込んでいたのだが。 はぁ、と盛大な溜息をついてシラーはハービンジャーを見遣った。 「仕方ないなぁ…。今日だけだからね?」 え。 玄武とパラドクスだけでなく言いだしっぺのハービンジャーまで驚いて絶句する中、シラーはふわりと目を閉じてハービンジャーが咥えているうまい棒を食べ始めた。驚きのあまりフリーズしている玄武の隣で、パラドクスは光速でスマホを取り出して写真を撮り始めた。 …うまい棒を半分ほど齧ったシラーは『義務は果たした』と言う顔で唇を拭い、ハッと我に返ったハービンジャーは残り半分のうまい棒をバリバリと噛み砕いて頭を抱えた。 「しまったぁぁぁ!予想外の展開過ぎてポッキーゲームするの忘れてたぜ!畜生、シラーちゃんにチュー出来るチャンスを逃しちまったじゃねーか!!」 「そんなことしたら積尸気冥界波ぶちかますからね」 「真顔で言うな真顔で!」 「シラーお前…何でまた牛の馬鹿げた遊びに付き合ってやったんだ?」 「だって、今日がポッキーの日だって教えて下さったのはタナトス様だし、うまい棒を下さったのもタナトス様だし。頂くだけ頂いてイベントらしいことを何もしないのは失礼かなって」 「…………」 それは一体どういう理屈だ。 突っ込む言葉も見つからない玄武はあんぐりと口をあけたが、パラドクスは楽しげに苺味のジャイアントポッキーを取り出してシラーの袖を引いた。 「シラー、次は私とポッキーゲームしましょ。教えて頂いたイベントをきちんと楽しむのがタナトス様へのお礼になるものね?」 「ああ、そうだね」 「!」 「…………」 パラドクスの提案を快く了承したシラーを見て玄武が何かを思いついたのに気付き、ハービンジャーは眉間に皺を寄せて鯛焼きの頭を齧り取った。 パラドクスに続いて玄武が『次は俺とポッキーゲームを』と言い出すのは間違いない。パラドクスならともかく玄武がシラーと普通にポッキーゲームをするの は面白くないことこの上ないので邪魔してやりたいが、普通に邪魔をしたところで三人の顰蹙を買ってポッキーゲームのやり直しと言うオチで終わるだけなのは 目に見えている。 なーんかいい方法はないもんかね、と鯛焼きを齧るハービンジャーの隣でシラーとパラドクスはポッキーゲームを始めた。両端からポッキーを食べていって普通にキスをして二人のポッキーゲームはつつがなく終わった。 玄武に撮影して貰った写真をチェックしているパラドクスとシラーを横目で見ながら玄武がジャイアントポッキーの袋を開けた時、いつの間にか近くに来ていたイギーに足を引っかかれた。 「ん?どうしたイギー。鯛焼きは食べ終わったのか?」 「アゥ。クゥーンクゥーン」 イギーは玄武の足に捕まるようにして後足で立ち上がり尻尾を振った。どうやらポッキーが欲しいと訴えているらしい。 足に縋ってクゥンクゥンと鳴かれてはダメとは言いにくくて、玄武はポッキーの袋を開けかけたポーズのままシラーを見遣った。 「おいシラー。イギーが菓子を催促してるがどうする?ポッキーをやるのはダメだよな?」 「仕方ないなぁイギーは。僕にお菓子をねだってもダメって言われるのが分かってるから他の人のところに行くようになっちゃって。…イギー、さっき鯛焼きをひとつ食べただろ?それ以上オヤツを食べたら夕飯を食べられなくなるよ。今日のオヤツはおしまい」 「アギ、アギギ!」 「何だか、『ちゃんと夕飯は食べる!』って言ってるみたいだな」 「全くもう…」 仕方ないなぁ、ともう一度言いながらシラーは苦笑した。 「じゃあ玄武、ポッキーのチョコがついてないところを『これで最後』って言ってひとかけらだけあげてくれる?それをあげたらお菓子を片付けるから」 「了解。じゃあイギー、これが最後だぞ。いいな?」 「イギッ!」 ポッキーのクッキー部分をほんの少しだけ折って玄武が差し出すと、イギーは一口で平らげてちょこんとお座りした。どうやら『これで最後(二度目)』を期待しているらしい。 イギーと目を合わさないようにして、ついでにポッキーゲームをしようと言い出すタイミングを探しながらポッキーを齧っている玄武を眺めていたハービン ジャーはふと名案を思いついた。自分が邪魔をしても顰蹙を買ってポッキーゲームの仕切り直しになって終わるが、イギーなら…。 (おい、ワン公) テレパシーを送る勢いでハービンジャーがイギーをジーッと見つめると、視線を感じたらしいイギーと目が合った。 他三人に気付かれないようにそっと手招きすると、イギーはテーブルの下を潜ってハービンジャーの足元にやってきた。ちょっと耳かせや、と指をクイクイと 動かすと、ぴょんとソファに飛び乗ってハービンジャーの脚に前足をついて後足で立った。実は中身は人間なんじゃないかと思うような賢さである。 ハービンジャーはイギーの耳に小声で囁いた。 (なぁワン公。お前、もっとポッキー食いてぇよな?チョコのついてる部分も食いてぇよな?) イギーは無言で尻尾を振った。 (そんならよ、俺と取引しねぇか?報酬はお前の大好物のコーヒー味ガムでどうよ?OKなら握手だ) ハービンジャーがそっと手を差し出すと、イギーがちょいと前足を出してお手をした。 よしよし、とイギーの前足を握ったハービンジャーは、イギーを抱き上げて耳元で何やら囁き始めた。 …何をコソコソやってるんだろう。 尋ねようとシラーが口を開きかけた時、残ったポッキーをパラドクスと一緒に片付けていた玄武が彼の肩を突いた。 「牛と犬の動物同士の会話なんてどうでもいいだろう。それより、最後に俺のポッキーゲームに付き合ってくれないか。俺も定番のイベントは抑えておきたいからな」 「あ、うん」 パラドクスがカメラを構える前でシラーと玄武がポッキーゲームを始めた途端、黒い塊が二人の間を横切ってポッキーの真ん中が消えた。 バクッ、ボキッ!! 予想外すぎる展開に玄武とシラーが折れたポッキーを咥えたまま『黒い塊』が飛び去った方を見ると、チョコポッキーの真ん中部分を咥えたイギーがニヒヒと笑った。 パラドクスはすかさずイギーにカメラを向けてシャッターを切り、玄武は呆然とし、ハービンジャーはガッツポーズをして、シラーは慌てて立ち上がった。 「っしゃー!!ファインプレーだぜイギー!お前の勇姿はバッチリ写真に撮ったからな!」 「ちょ、イギー!チョコはダメだよ、チョコは!ペッして、ペッ!ほら、いい子だから!」 「アゥゥ」 チョコポッキーに噛み付いて離さないイギーの口に手を突っ込んで、シラーは涎まみれのポッキーを引っ張り出せるだけ引っ張り抜いた。 ガルルル!! 食べかけの物をどうして無理矢理取り上げるのか、と抗議の唸り声を上げて引っ掻き攻撃を仕掛ける愛犬にシラーは困った顔になった。 「チョコはダメなんだってば。それに、オヤツはさっき玄武に貰った分で最後だよって言ったろ?約束を守れない子にはもうオヤツはあげられないよ」 「イギ、イギギ」 「おいシラー、いくら賢くても所詮犬は犬じゃねーか。ワン公相手にんーなマジ説教してどーすんだよ」 「でも」 「要するにチョコポッキーから気が逸れりゃいいんだろ」 ハービンジャーがポケットをごそごそやってコーヒー味のガムを取り出すと、シラーに縋って文句を言っていたイギーがピクリと鼻を動かした。尻尾を振りな がらハービンジャーに駆け寄ってちょこんとお座りしたイギーの鼻先に散々ガムをちらつかせてからハービンジャーは思いっきり隣の部屋までガムを放り投げた。 ダダダダダダ!! イギーが猛ダッシュでガムを取りに行ったその隙に、シラーは手早くテーブルの上のポッキーと鯛焼きを片付け始めた。食べ物は無い、と分かればイギーも菓子の催促を諦めるからである。 玄武とシラーのポッキーゲーム妨害に成功したハービンジャーは上機嫌でくるりと目を回した。 「『将を射んとするならばまず馬を射よ』とはよく言ったもんだよなー」 「何の話?」 「この場合の例えとしてはちょっと違うと思うけど、ハービンジャーさんの言わんとすることは分かるわよ。ねぇ玄武?」 「…………」 ポッキーゲームをやり直そう、と言い出すタイミングを見事に逃した玄武は、ムスッとした顔でハービンジャーを睨んだ。 …今日は痛み分けにしておいてやるが、次はこうは行かないからな。 …望むところだ、かかってきやがれ。 無言のまま視線で会話して火花を散らすハービンジャーと玄武を見て、パラドクスはそっと含み笑った。 …あらあらうふふ、面白くなってきたわねぇ。面白いからもっと引っ掻き回しちゃおうかしら? 自宮に戻ったパラドクスは早速、野郎共のポッキーゲームの写真を親交のある女神達に送信した。その際に指が滑って『うっかり』黄金聖闘士達と教皇と老師にも写真を一斉送信してしまったが、それには気付かなかった。と、いうことにしておいた。 …翌日、教皇宮。 常識人の黄金聖闘士達には一歩引いたところから微妙な顔で見られ、涙目になったアモールにポッキーゲームイベントをするなら何故自分を誘ってくれなかっ たと詰め寄られ、教皇シオンと老師童虎に『悪ふざけにもほどがある』とガミガミ叱られているところを陰からパラドクスに撮影されているシラーとハービン ジャーと玄武の姿があったらしい。 |
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最後のオチに悩みに悩んだ一本だった気がします。最近、オチ担当がパラさんになりつつあるような。 イギーのモデルは実家のワンコです。人間がお菓子を食べていると足元に来て足を『ねぇねぇ』と前足で引っ掻いてお菓子を催促するのが凄く可愛いのです(´▽`)。あ、あと犬にチョコを与えると本当に命に関わることがあるらしいのでご注意ください。 |