| 「君は本当に『パラドクス』だね」 青空色の長い髪を梳いてサラサラと指先から零し、指に残ったひと房に口付けてシラーが言った。 意を問うようなパラドクスの視線を受けてシラーは寝室を見回した。 …双児宮の最奥にあるパラドクスの寝室は端的に言えば『メルヘンチック』だ。壁紙は真っ白、大きな窓にはレースやフリルがふんだんにあしらわれたカーテ ンが掛かり、家具は白とピンクで統一されて、あしらわれた小物はリボンか花がモチーフ、部屋の真ん中に置かれたベッドは天蓋付きで幾重にもレースとフリル のカーテンがかかっている。 「この場所はまるで童話の舞台のようなのに」 シラーはパラドクスの頬、唇、首筋、鎖骨、そして豊満な胸にキスを落としながら言葉を続けた。 「君の行為は童話とはほど遠い生々しいものだ」 「あら。博識なあなたらしくない発言ね」 赤い唇を妖艶に微笑ませて、パラドクスはシラーの頬に手を伸ばした。 「実は童話は、酷く生々しくエロティックな側面があるのよ。塔を登って来た男と交わり続けたラプンツェル、実の父と禁断の関係にあった白雪姫、糸を紡ぎに行って兵士にその純潔を奪われた眠り姫、狼に食べられてしまった赤頭巾…」 「それは初耳だな。僕がベッドの中で母さんから聞いたお伽話はもっと夢とロマンに溢れたものだったよ。…こんな、本能に基づく行為の話なんて聞いた事がなかった」 寝台に横たわるパラドクスの胸の谷間に顔を埋めるようにして身体を預けたシラーは、緩慢な仕草で柔らかな膨らみを愛撫している。しなやかな赤毛が素肌に触れる感覚は心地よくて、パラドクスはシラーを優しく抱いて彼の赤毛をそっと撫でた。 「ん、もう。お母さんのおっぱいが恋しいのかもしれないけど、私はあなたのママじゃないのよ?シラー」 「分かってるよパラドクス。僕はね、こうして誰かのぬくもりを感じて心臓の音を聞くのが好きなんだ。美しい命の響き…」 「あらあら。他人の死が大好きと言って憚らない死体愛好家の王子様の台詞とは思えないわね」 「僕が好きなのは『他人』の死だよ。君は他人じゃないだろう?」 「うふふ。確かに『他人じゃない』仲にはなっているわね」 胸の中に抱き留められたまま、シラーは完璧な曲線を描くパラドクスの身体に手を滑らせた。 抱きしめる腕に力が入っていない事を感じつつ上体を起こして、赤く色づく胸の先端に口付ける。肩から零れ落ちた長い赤毛をパラドクスの白い肌に這わせながら下半身に向かってキスを落としていく。くすぐったさにパラドクスが体をよじるのと同時に脚の間に手を差し入れた。 敏感な部分に触れた指が濡れる。指と掌を一度滑らせて、シラーは蜜でべったりと濡れた手をパラドクスに見せつつわざとらしく顔をしかめた。 「ちょっとはしたないんじゃない?お姫様」 「失礼ね。誰と比べて言っているのかしら」 「ベッドの中で他の女性の事を尋ねる方が失礼だと思うけどな」 「なぁに、その理屈」 気恥ずかしさを誤魔化すように睨んでくるパラドクスに口付けながら、シラーは雑な手つきで彼女の胸を掴んだ。刺激に敏感に反応する先端を片手で摘まみつ つ、もう片方の手は脚の間に押し込んで濡れそぼる秘部に触れた。形にそって指を滑らせ、花弁をくすぐり、押し開き、とめどなく蜜を流し続ける『口』をまさ ぐりながら花芯を弾く。 「ちょっと!女の子はもっと丁寧に扱うもの…んんっ!」 噛みつくようなキスで抗議の言葉を封じ込め、舌を割り入れて逃げるパラドクスの舌を追いかける。舌で彼女の口内を、指で体内を散々掻き混ぜてからシラー は唇を離した。糸を引く唾液を指で拭ってスティールブルーの眼を細めると、何も言わずにパラドクスの柔らかな胸に歯を立てた。 「っ…はぁ…」 鋭い痛みに甘い吐息が漏れて身体がビクリと震えた。 シラーはクスクスと笑いながらとろとろと蜜を零す秘部をゆっくりと愛撫した。そんな緩慢な動きでは物足りない、と言いたげにパラドクスが身体をよじって腰を動かすが、意地悪くするりするりと指を逃がす。 「はしたなくて、女々しくて、あられもなくて…とても綺麗だよ、お姫様」 「ん、もう…覚えていらっしゃい、シラー。次はこうはいかないんだから」 「ふぅん。『次は』ね」 微かに笑みを浮かべてシラーはパラドクスの頬に口付けた。 僕は君の事が大好きだから、君の希望を叶えてあげる。たっぷりと勿体ぶって、焦らして、意地悪してあげるよ…可愛いお姫様。 この『行為』を知ったのはいつだったか。戦災で家も家族も全てを失い、地べたを這いずり死と隣り合わせの日々を生きていたあの頃だと言うのは間違いないのだが。 僅かばかりのパンを求めて教会を訪ねた時、身なりの良い婦人がシラーに声を掛けて来たのがきっかけだった事は覚えている。顔は覚えていないが、妙につばの大きな帽子をかぶっていたのが印象的だった。 …ねぇ坊や。私の家に遊びに来ない?ご飯もお菓子も好きなだけ食べさせてあげるし、お風呂にも入れてあげるわよ。 金持ちそうな大人に声を掛けられてそれっきり帰って来なかった孤児の話を聞いていたから少しばかり逡巡したが、結局シラーは婦人の申し出を受け入れた。危険を嗅ぎ分けることと逃げ足には自信があったからだ。何かがおかしいと思ったら逃げればいい。 立派な邸宅にシラーを連れてきた婦人は彼を風呂に入れ(使用人が大勢いるのに何故か自身も一緒に風呂に入って来た)、豪華な食事とデザートを振る舞い、そして、シラーをベッドに招き入れた。 …ことが終わった時にシラーが感じたのは、快楽でも嫌悪でもなく得心と理解と少しばかりの驚きだった。 ああ、そうか。お金持ちの大人が孤児を家に招くのは、この行為の相手をさせるためだったんだな。 ――こんな簡単なことをするだけで食べ物と寝床が手に入るんだ。 その婦人とは一度限りの縁しかなかったが、彼女は有益な情報をシラーに教えてくれた。美少年を愛でる趣味を持つ人間が集まる秘密の場所。 そしてシラーは、自分の端正な容姿と上品な雰囲気が強力な武器になる事を知った。 女性を十分に悦ばせる事が出来ればより長く食べ物と寝床が確保できる事、飽きられた時にも次の上客を紹介してもらえる事も知った。 だから、女性を悦ばせるにはどうしたらいいかを必死に考え、観察し、実践した。不手際があっても『子供ゆえの未熟さだから』と赦されるうちに生きる術を身につけなくては、と。 主導権を握りたいのか、握られたいのか。支配したいのか、されたいのか。丁重に扱われたいのか、ぞんざいに扱われたいのか。身体のどこをどう触れると快 楽を感じるのか。そして、相手には何を求めているのか。我を忘れるほどのめり込んで欲しいのか、余裕たっぷりにあしらって欲しいのか。 気がつけばシラーは、一度か二度身体を重ねただけで相手の好みを把握できるようになっていた。 シラーにとって身体を重ねるのは生きる手段だった。 黄金聖闘士になって死を恐れる必要が無くなり、もう誰とも交わる必要は無いと思っていたシラーに、『愛と運命を司る』双子座の黄金聖闘士パラドクスは言った。 『身体を重ねるのは絆を深めるコミュニケーション手段のひとつでもあるのよ?』 …仲間と絆を深めることに特に問題はない。 シラーがパラドクスの誘いに応じたのはただそれだけの理由だった。 パラドクスの吐息に甘い掠れが混じる。 深く、浅く、彼女を抉りながらシラーは揺れる胸を弄び耳朶を噛んだ。 「――あっ、はぁ…ん……」 背中に爪を立てるほど強くシラーを抱きしめてパラドクスは絶頂を迎えた。 熱くぬめって絡みつく肉の感触に刺激されたシラーの身体も正常に反応して、パラドクスと繋がりあった状態のまま達した。 (…ああ) (身体を離すのが間に合わなかったな) まるで他人事のようにそんな事を思って、青空色の髪が漆黒に染まるのを視界の隅に捕えながらシラーはパラドクスの唇に口付けた。 ガリッ。 唇に鈍い痛みが走った途端、パラドクスの蹴りが飛んできた。 …予想通りの反応だ。 シラーは難なく蹴りを避けると、空を切った彼女の足首を捕まえてベッドに押し付けた。 「ダメだよ、全裸の女の子がそんなはしたない攻撃をしちゃ」 「この馬鹿ガキが!私の体に傷を付けた上に中で出すなんて!」 「…ひどいなぁ。僕が離れようとした時に捕まえて離さなかったのは『君』なのに。大体、そんなところの傷を僕以外の一体誰が見るのさ?胸元の開いた服を着たって見えない場所だろ?」 噛まれた唇から流れる血を拭ってシラーが肩を竦めると、漆黒のパラドクスはキリキリと眉を吊り上げた。 「ソニアと一緒に風呂に入ることもある!」 「『任務中にちょっと強くぶつけた』って言えば誤魔化せるよ、ソニアは恋愛にとんでもなく疎いから。それより、久しぶりに会ったんだから…ね?」 淡く笑いながらパラドクスの内腿に指を這わせると、乱暴に払いのけられた。 何故拒否されるのか分からない…と言いたげな表情をシラーが浮かべると、漆黒の双子座は唇の端を持ち上げて優雅にクッションに身体を預けた。 「その前にする事があるだろう?自分の失敗の後始末だ」 「…畏まりました、女王様」 シラーは芝居がかった仕草で手を胸に当てて恭しく一礼すると、身を屈めてパラドクスの秘部に唇を寄せた。 ぺろ、ちゅっ… 滴り流れる二人分の液体を舐め取り、花弁や花芯に口付け舌でくすぐりながら丁寧に『後始末』を始めた。 …愛のパラドクスが流した蜜とは違う蜜が溢れて来た事に気付きながら奉仕を続けていると、乱暴に髪を引っ張られた。後始末はもう終わっていい、と言う事だろう。 髪を引っ張られるまま身体を起こすと、二の腕を掴まれ引き寄せられて突き飛ばされて、シラーは仰向けにベッドに倒れ込んだ。 「相変わらず乱暴だなぁ。もうちょっと優しくしてくれてもいいんじゃない?」 「ふん。もう一人の私は十分に優しくしてやっただろう」 憎しみのパラドクスはシラーを跨いで上を取ると、彼の顔を覗きこんでニヤリと笑った。目にかかった髪を払おうとした手とベッドに投げ出された手を掴んで両手首を纏めてクッションに押し付けると、パラドクスはぐいとシラーの顎を掴んだ。 「舌を出して乞うてみろ、犬め」 「…………」 シラーが素直に口を開けて舌を出すと、パラドクスは紅い唇に弧を描かせて舌を摘まんだ。ぐいぐいと引っ張った後に舌ごと口腔に指を押し込んで、舌と口内を弄んでから喉の奥に指を突っ込んだ。 「ゲホッ、ゲホ…――んーっ!」 反射的に嘔吐いた途端に唇を塞がれた。 シラーがむせているのなどお構いなしに舌を絡め気が済むまで深く口付けて身体を離したパラドクスは、咳き込んで苦しげな呼吸を繰り返すシラーの姿に満足げな笑みを浮かべた。 掴んで押さえつけていた両手首から手を離して胸を押しつけるようにシラーに覆いかぶさると、下半身に手を伸ばしてゆるゆると彼自身を愛撫し始めた。 …は、と熱い吐息が唇から洩れる。 熱に浮かされたように潤む蒼い目と素直な反応を返してくるシラーの身体に、パラドクスの眼がスッと眇められた。ベッドに横たわるシラーに文字通り体を重ねて、漆黒の双子座は喉の奥で微かに笑った。 「全く、お前は本当に狸だな。いや、赤毛だから狐か?」 「…犬の次は、狐?どういう…こと?」 「ばれていないとでも思ってるのか?最初から私が目当てだったと言わんばかりの物言いも、『気持ち良く感じています』と言わんばかりのその表情も仕草も、全て演技だろうが」 「ひどいなぁ。僕は、演技なんてしてるつもりは全くないのに」 パラドクスの頬に触れて髪を耳にかけてやりながらシラーは笑った。 …演技をしているつもりはない、と言う発言は本心だ。 相手の望む反応をしようと意識して考えなくても、無意識のうちに身体が動いているのだけなのだから。 何も言わず妖艶に笑んだパラドクスは、身体を起こして長い黒髪を背に払った。少しばかり体をずらして、十分に熱を孕んだシラー自身に秘部を押し付けるように腰を降ろして身体を動かし始めた。 蒼い視線の先で、豊満な胸が扇情的に揺れている。 シラーはその柔らかな膨らみに手を伸ばした。壊れ物でも扱うように、丁寧に手と指を動かして愛撫して、先程自分が噛みついた痕も慈しむように触れる。 腰を動かしながらパラドクスが身を屈めて唇にキスをした。 今までの乱暴なそれとは違う甘く優しい口付け。 …シラーは目を眇めてパラドクスを抱きしめると、そっと体勢を入れ替えた。 ………… 彫刻のライオンの口から惜しみなく湯が溢れ、バスタブには甘い香りを漂わせる色とりどりの薔薇が水面を埋め尽くすほどに浮かんでいる。 見ている分にはとても美しいけど、花びらが肌に張り付くのは鬱陶しいなぁ。 肌についた花びらを落としながらシラーがそんな事を考えていると、長い髪を湯に浸したままバスタブの縁に頬杖をついたパラドクスが話しかけて来た。 「ねぇ。明後日からの任務だけど、どんな作戦で行く?」 「作戦を立てるのはリーダーである君の仕事。補佐役の僕に意見を求めるならまず作戦を立ててからにしてほしいな」 「意地悪」 頬を膨らませたパラドクスは、湯に浸っていた髪のひと房を摘まんで顔をしかめた。 「ああん、もう!きちんと手入れしてたのに枝毛が出来てるわ!次の任務先は碌にお風呂にも入れない僻地だし、また髪が傷んじゃうじゃない!」 「入浴剤や植物の入ったお湯に髪を浸けてるのも良くないんじゃないの?バスタブに浸かる時は髪をまとめたら?」 「なーに、その女の子みたいな発言。なーに、その女の子みたいな髪のまとめ方」 「僕は髪をお湯に浸けるのが不快なだけだよ」 後ろ髪をざっと束ねてバレッタで留めたシラーがムッと言葉を返すと、パラドクスはざぶざぶと湯をかいて近づいてくるなり、バレッタを奪い取って髪をほどくとひと房掴んで引っ張った。 「いたたっ」 「あなたは綺麗な髪をしてるわよね。手触りもいいし、枝毛もないし…特に手入れをしてる訳でもないのに、どうしてかしら」 「浴槽に髪を浸さないからじゃないの」 シラーは自分の髪を他人に触られるのは好まない。 自分の髪を掴んだパラドクスの手をほどきながら彼女の髪に手を伸ばし、湯に濡れて重くなった髪の水を絞りながら纏めて、パラドクスに取られたバレッタで彼女の髪を留めた。 半強制的に髪を結われてしまったパラドクスは、纏め髪に触れながら長い睫毛を瞬いた。 「お湯に髪を浸すのはそんなに良くないのかしら?」 「試しにしばらくは髪を留めて浴槽に入ってみたら?…ああ、ところでパラドクス。明日は一緒に買い物に行かない?」 「買い物?」 「そう。今日は君の誕生日だったのに、パーティーをしただけで何もプレゼントを渡してなかったからね」 「プレゼントなら貰ったわ、あなたを独占する権利をね。…二週間限定になっちゃったけど」 「それは皆からのプレゼントだろ。僕からも何かプレゼントさせてよ。そうだな、素敵な髪留めなんてどう?」 「そうねぇ…あなたがそこまで言うなら貰ってあげてもいいわ」 漸くパラドクスがにこりと笑った。 柔らかく微笑んだシラーは彼女の手を取り、浴槽に浮かぶ薔薇を一輪取って青空色の髪に挿した。 「誕生日おめでとう、パラドクスお姉様」 |
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| 当サイトのシラーさんとパラさんはマウストゥマウスのキスもナチュラルにする仲、と言う設定があるのですが、何を思ったか「じゃあナチュラルに一線越え
てる仲でもいいんじゃない?」という発想からこの話が出来ました。二人がコトに及んでいるだけと言う、正にやまなし・おちなし・いみなしの話です(汗)。
当サイトシラーさんは「金持ちの御婦人の愛玩動物(夜のお相手)をしながら食い繋いできた」という設定なので、シラーさん背景紹介の側面もあるかもしれま
せん。初体験が初体験だったので、シラーさんにとって『身体を交える行為』は本能的な欲求を満たすものでもなく、恋人同士が愛情を確認するものでもなく、
快楽を得るものでもなく、生きるための手段でしかなかった。生きるための手段だから、必死に『スキル』を磨いていたんじゃないかなと。生来の無自覚天然タ
ラシと言うのも多分にあると思いますけどね(笑)。 ちなみに『身体を重ねるのは絆を深める手段』と言ってるパラさんですが、シラーさんとしか関係を持っていません。念の為。 あとは細かい部分の解説なんですが、第二人格パラさんが指摘している通り、シラーさんは無意識に相手に合わせた演技をしてます。第一人格パラさんはシ ラーさんに甘えられつつ、意地悪されたり多少荒っぽく扱われるのが好きなのでそのように。第二人格パラさんはプライドが高くドSな反面、丁重に扱われるの が好きなので、シラーさんは『第一人格パラさんの相手をしたのは第二人格パラさんに逢うため』と言わんばかりの物言いをしてパラさんの暴力につきあってい ます。 でも、女性の機嫌を取らなくても生きていける状況になったシラーさんがパラさんの嗜好に合わせて『奉仕』してるのは、パラさんに対する(無意識の)一定以上の好意があるから、と考えています。 一応、ハビさん誕生日SSの後の時間軸を想定していますが、今まで書いて来たSSと明確に同じ世界の話、とは考えていません。 |