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日本某所、大通りから一本外れた裏路地にとても控えめな店構えの店がある。名前はエルミタージュ洋菓子店。『隠れ家』の名の通り、知る人しか知らない密かな名店である。 その隠れ家の最奥にある個室に、双子神と関わりの深い女神達が集まっていた。冥妃ベルセフォネーの転生体である龍神秋乃、今生のアテナ城戸沙織、月と氷の女神ヘカーテ、そして双子神の妹で争いの女神、エリスだ。 ちなみに彼女達は、双子神+αのBL同人誌を作成・購読・議論することを活動内容とするサークル『藤吉会』の構成員である(ちなみに、異世界の双子神が暮らす世界の女神達も藤吉会の構成員で、皆は時々集まっては同人誌作成の打ち合わせをしている)。 自作の小説を皆に読んでもらったエリスは、少しばかり不安な面持ちで皆を見回した。 「…どうかな、私の書いた小説?普段とちょっと変わった雰囲気を目指してみたんだけど」 「文章はまだ改善の余地がありそうだが、全体的には良いんじゃないか?私は好きだぞ」 「この世界のタナトスさんとマニゴルドさんでのマニタナ、しかもダーク系…その発想はなかったなー。普段と違うカップリングやシチュエーションというのも新鮮だし、私もアリだと思いますよ」 「直接的な表現は少ないですけど、『口の中が不快に粘つく』とか『足の内側を流れ落ちる汗ではない液体』とか、色々深読みできますわね。次回の藤吉会の会合に持って行きましょう」 「やった!…あ、ところでひとつお願いがあるんだけどさ」 「何だ?」 「これを書いたのは私以外のメンバーってことにして欲しいんだ。私がこんな話を書いたこと、兄貴達に知られたらシメられるだけじゃ済まないと思うんだよねー。タナ兄だったら拳骨グリグリで終わりそうだけど、ヒュプ兄は陰湿じゃん?」 エリスがぼやくと、皆は納得の表情で苦笑した。 同人活動が人間達の信仰心を高める効果もあるので双子神は藤吉会の活動は黙認している。が、同人誌の内容にムカつくことも無いわけではなく、そういう時 に双子神の怒りを一身に受ける…と言うか八つ当たりのとばっちりを食らう羽目になるのがエリスなのだ。双子神が遠慮なくシメることが出来るのが妹神の彼女 だけと言う理由も大いにあるだろうが。 にこりと笑って片手を挙げたのは沙織だった。 「マニゴルドが出ていることですし、これを書いたのは私ということで如何かしら」 「いいんじゃないか?アテナの作品だと言えばタナトスもヒュプノスも蟹も文句は言えまい」 「私も異議なしです」 「ありがと!じゃあ細かい修正は沙織さんに任せるね!」 「ところで話は思いっきり変わりますけど、エリスさん。どこからこの話の着想を得たんですか?確かにタナトスさんとマニゴルドさんは仲が良いけど、あのふたりを見てても…見てるからこそ、かも知れないですけど、マニゴルドさんを攻にするって発想は私には無かったから」 「ふっふっふ。良く聞いてくれました秋乃さん。実はねー、マニマニ自身からネタを聞き出したんだよっ!」 エリスがドヤ顔で言った言葉に、皆が『な、何だってー!』とお約束の反応を返した。 ちなみにマニゴルドも藤吉会の存在は知っている。迂闊なことを言うと同人誌のネタにされることもよーく知っている。なので、仕事だろうがプライベートの遊びだろうが、タナトスと会った時の事は当たり障りの無い話題しか口にしないのだ。 「マニゴルドは口が堅くて、タナトス殿に会った時の事を尋ねても『可もなく不可も無しッスよ。仕事もプライベートも問題ないです』とはぐらかされますのに…」 「はぐらかされるならまだいいだろ。私はタナトスに『何か面白いネタは無いか』と聞いたら『藤吉会のネタにされるかと思うと、心配で心配でヘカーテ様にお話など出来ません』とキッパリ拒否されたぞ」 「私はシラーさんから情報を聞き出そうとしたら、『そんな話をしたら藤吉会のネタにするんだろう?エロ同人みたいに。エロ同人みたいに!』って笑いながら返されました…」 「くそっ、何気に手強いなあの赤い蟹は。有力な情報源だと思ったのに」 「熱血筋肉馬鹿のハービンジャー、不器用真面目の玄武、チャラい変態アモール、ヤンデレ巨乳美女のパラドクス、高嶺の花の神様タナトス、ノリは合うけどソ リは合わない先輩マニゴルド、ツンデレ師匠のデスマスクと、ネタにするには申し分ない人間関係がシラーにはありますのに…」 「勿体無いなぁシラー君。兄貴の生写真とかで懐柔出来ないかなー?」 「シラーさんの攻略は改めて考えるとして、話を元に戻しましょう。エリスさんはどうやってマニゴルドさんから情報を聞き出したんですか?」 「ああ、それ?簡単なことだよっ」 エリスはアイスティーのストローを噛んでニヤリと笑った。 「女で釣って酒で口を軽くしたんだよ」 「…はい?」 「何だそれは」 「つまり合コン、ですか?」 「そそ。『合コンやるんだけど男性が足りないからマニマニ来ない?』って声かけて呼び出して、お酒飲ませて口が軽くなったところで情報聞き出したんだよ。 ほら、兄貴とマニマニ、この間温泉旅行に行ってきたじゃん?『うちの馬鹿兄貴ってば温泉饅頭を山のように買ってきたけど、他に何か面白いことやらなかっ た?』って聞いたらネタになる話が出てきたんだよねー」 「へぇ」 「どんな話です?」 「泊まった旅館でさ、当たり前だけど二人分の布団が同じ部屋に敷いてあったんだって。で、マニマニが『俺を襲うなよ?』ってジョーダン言ったら兄貴が真に 受けてマジ凹みして、そこから大神やポセイドンは節操無しだとか色ボケ連中と冥界の神を一緒にするなとか枕飛び交う口喧嘩になって、『そんなことを言うか らお前には彼女が出来ない』って兄貴が言ったのにマニマニがマジ切れして『ンなこと言ってるとマジで掘るぞこのクソ神ィィィィィ!!!』って叫んだんだっ て。ま、その後に『今後そう言う趣味に走って欲しくなければ妹を説得して俺の女運ゼロ人生を変えろ』って続けて、何だかんだで信仰心がどうとか言う話に なって終わったらしいんだけどさ。その、マニマニの『ンなこと言ってるとマジで掘るぞこのクソ神』発言のインパクトが凄くてねー」 なるほど、と頷いた女神達は思案顔になった。 双子神やマニゴルド本人から話のネタを引き出すのは難しいかと思ったが、情報を聞き出す相手を選べばやり方次第でまだまだ何とかなりそうだ。 「では今後は、マニゴルドから情報を聞き出す役目はエリスに任せるとするか。私はハーデスからネタを引き出してみよう」 「じゃあ私はパラドクスさんと仲良くなってシラーさんを探ってみますね。彼自身をネタにするのは無理でも、シラーさんからタナトスさんやマニゴルドさんの情報は聞けるかも」 「ならば私は黄金聖闘士を懐柔してみましょう。ハービンジャーや玄武はガードが甘いですから案外すんなりとネタが出てくるかもしれませんわ」 「ふっふっふ、次の藤吉会総会が楽しみになってきたねー」 エリスの言葉に女神達は顔を見合わせ、ふふふふふ(腐腐腐腐腐?)と笑った。 そしてその頃。 遠く離れた場所で、双子神とハーデスとマニゴルドとシラー、そしてハービンジャーと玄武とアモールが背筋に悪寒が走るのを感じながら盛大なくしゃみをしていた。 |