双子神2012・例祭

 2012年10月30日、冥界。
 神々の御所エリシオンの中央にそびえるハーデス神殿に冥界の神々が勢揃いしていた。皆に集合をかけたのは、楽しいイベントには目が無い死神タナトスである。
 透明な銀色の目を楽しげにキラキラ輝かせたタナトスは、集まった冥界の神々…ハーデス、ヒュプノス、ヘカーテ、オネイロイを見回してふんぞり返った。

「明日10月31日、地上では『ハロウィン』という祭りが開催されるらしい。ケルトの神が支配する世界では、この時期に冥界と地上の間にある門が開いて冥 界から悪霊がやってくるため、それを追い払う儀式なのだそうだ。異国の神の文化とは言え、冥界に関する祭りなら我々も参加せねばなるまい!」
「素直に『面白そうだからやってみたい』と言えば良かろう、タナトス」
「そう身も蓋も無い突っ込みをするでない、ヒュプノス。…してタナトスよ、その祭りとは具体的にどのようなことをするのだ?そこに山積みになっているカボチャと関係があるのか?」
「その通りです、ハーデス様。ハロウィンとは、カボチャをくりぬいてランタンにする祭りなのです!」

 タナトスの知識は断片的で多少の勘違いも混じっていたが、地上の知識など禄に知らない冥界の神々は『そういうものなのか』と納得した様子で頷いた。変化に乏しい冥界の楽園では、皆で集まってカボチャランタンを作るだけでも立派なイベントになるのだ。
 




 …タナトスは手際よくカボチャをくりぬいて目鼻と口を作ると、中に蝋燭を立てて更に魔女の帽子をかぶせて満足げに微笑んだ。出来上がったランタンを棚に飾ると、早速次のカボチャを持ってきてまたくりぬき始めた。
 たいした時間もかけずに次から次へとランタンを作っているのに『これはイマイチ』と言う出来の物がひとつも無いのを見て、一つ目のカボチャを漸く仕上げたハーデスは感心したように目を瞬いた。

「おお、流石はタナトス。どれもこれも良い表情になっておるな」
「コツを掴めば簡単ですよ。…おや、ハーデス様は随分と可愛らしいデザインにされましたね」
「うむ…なんだか子供が作ったような仕上がりになってしまったな」
「ハーデス様にしか出せない味わい深さが出ていると思いますよ。…ところでどうです、僕とイケロスとモルペウスの作ったランタン!」
「テーマは『面白変顔』なんです!」

 イケロスとパンタソスとモルペウスが持っているランタンは『へのへのもへじ』『目がマルバツで口が波』『ムンクの叫び』というふざけた顔になっている。その何とも言えない愛嬌に冥王と死神も思わず笑み崩れた。

「おお、これは面白いな」
「似たような表情ばかりではつまらぬ故、ふざけた顔のランタンも作ってみるか。…ん?ところでヒュプノスはどうした?」
「ヒュプノス様なら…」

 イケロスとパンタソスとモルペウスは顔を見合わせ、何とも言えない表情で部屋の一角を指した。
 目だけ鼻だけ口だけ穴が開いたカボチャが山になり、その隣では、ヒュプノスとオネイロスが彫刻刀を手にカボチャに向かっていた。

「左右の目のバランスが悪い。これはダメだ」
「歯の形が不揃いだ。失敗作だな」

 声をかけるのも躊躇うほどの鬼気迫る真剣さのふたりの姿に、タナトスとハーデスは思わず小声になってイケロスとパンタソスに尋ねた。

「…たかが地上のお遊びに何故あそこまで真剣になっているのだ、あのふたりは」
「最初は『またタナトスは人間のつまらぬ遊びに感化されて』とかブツブツ言いながら適当にランタンをつくっておらなかったか?」
「それがいつの間にか職人魂に火が付いちゃったみたいで」
「ミリ単位で造形に拘ってるんですよ」
「ミリで拘ったところで、数日もすればカボチャが育って顔が変わるのですが…」

 クソ真面目系二柱の気迫に圧倒された神々がコソコソ囁きあっていると、勢いよくバーンと部屋のドアが開いて、マニゴルドとシラー(犬の入ったキャリー バッグを提げている)を同伴したヘカーテが入ってきた。同時にふわりと鼻をくすぐる甘い香りが漂ってヒュプノスとオネイロスも顔を上げた。
 何故か猫耳メイドコスをしているヘカーテはクッキーが山盛りになったトレイを掲げて皆を見回した。

「皆、ランタン作りはいったん休憩して一息入れぬか?ちょうど蟹座共も来た事だし、お前達がくりぬいたカボチャで菓子を作ってきたぞ!」
「何だタナトス、蟹座共をエリシオンに呼んでいたのか?」
「ああ。ランタン作りに夢中で言い忘れていたが、地上のイベントをする時は人間も混ぜた方が面白いと思ってな」
「人を調味料みたいに言うんじゃねーよクソ神。来るなり菓子作りに借り出されるし、俺らは客じゃねーのかよ全く」
「ご招待に預かり光栄でございます、皆様。アテナからハロウィンの菓子を預かって参りましたのでどうぞお納めくださいませ」
「わんわんわうぅぅぅ!イギ、イギギーッ!」

 くりぬいたカボチャを棚のあちこちに飾り、テーブルにカボチャ尽くしの菓子と紅茶を並べ、キャリーバッグをバリバリ引っかくシラーの愛犬イギーを部屋に 出し、神々と蟹座達はじゃれる犬をあやしながらハロウィンの卓についた。カボチャのクッキー、ケーキ、スコーン、マフィン、プリンを味わいながら和やかに 歓談している時、イギーにケーキのひとかけらをやりながらシラーが尋ねた。

「ところで皆様は仮装もされるのですか?聖域でも明日、仮装イベントがありますのでよろしければおいでになりませんか?」
「仮装?」
「ハロウィンとは仮装もするイベントなのか?」
「何言ってんだよタナトス様。ハロウィンつったら仮装してお宅訪問して菓子を貰うイベントだろ?」
「え?そうなのか?」
「魔女やゴーストに仮装した子供が民家を訪ねて、『トリック・オア・トリート』と合言葉を言ってお菓子を貰うのもハロウィンのイベントですよ。最近は大人も仮装するようですが」
「ほう…なかなか面白そうではないか」

 シラーの言葉に、面白いことには目が無いタナトスとヘカーテとパンタソスが興味深げに身を乗り出した。
 仮装するのは魔女や幽霊、西洋妖怪などが本来の趣旨に沿うのだろうが、最近は好きなアニメやゲームキャラのコスプレをする者も多い、と聞いたタナトスは思案顔で腕を組んだ。

「ふむ。ならば我々も一風変わったコスプレを披露すべきか」
「そうだな。冥界の神が参加するなら冥衣以上の面白さとインパクトが要求されよう」
「いやヘカーテ様、誰もそこまで期待してねーから」
「何を甘えたことを言ってるんだ!やるからには全力!それが神と言うものじゃないか!…ん、何だ?イギー」
「アウアウ、クゥンクゥーン」

 パンタソスの足を前足で引っかいていたイギーが、声をかけられると尻尾を振りながらちょこんとお座りした。どうやら菓子をねだっているらしい。
 うわぁ困ったなぁと嬉しそうに笑いながらパンタソスはシラーを見遣った。

「君の犬がお菓子を欲しがってるんだけど、あげてもいいのか?」
「ええ、たまになら構いませんよ。お手をさせてから、ひとかけらだけ与えて頂けますか」
「そっか。じゃあイギー、お手!」
「イギッ!」
「よく出来ました。ほら、ご褒美」

 ひとかけらと言うより一口分のケーキを与えると、イギーは尻尾をピルピル振りながらケーキを食べ始めた。
 そんな犬を目を細めて眺めながらタナトスがふと呟いた。

「ゲームやアニメのコスプレも有りならば、ジョジョ三部のコスプレでもしてみるか。特徴的な小物だけ作ればあとは市販品で衣装が揃いそうだしな」
「いいんじゃね?あんたらがやればあの濃ゆいキャラも違和感なさそうだし」
「きっと壮観でしょうね。その時には是非、イギーもお供させてください」
「ハーデスもクリスマスの時に使った仮初の肉体を使えばイベントに参加できそうだな」
「では早速、誰がどのキャラをやるか決めねばな。承太郎は俺がやるとして…」
「おいタナトス様、俺が言うのも何だけど冥王様差し置いてアンタが主役取るのかよ」
「余はあまり中心で目立つのは好まぬゆえ、タナトスが主役で構わぬぞ」
「いいのか…。冥王様、寛大だな」
「俺が承太郎をやるとなると、だ」

 タナトスは顎に手を当てて銀色の目をくるりと回すと、実に楽しげな笑みを浮かべて弟を見遣りズビシッと指を突きつけた。

「DIOはお前だな、ヒュプノス!」
「は!?」

 我関せずと言う様子で紅茶を飲んでいた眠りの神は素っ頓狂な声を出した。どうやら仮装イベントに参加する気は全くなかったらしい。
 驚いて目を見開いた金の神は些か乱暴にカップをソーサーに戻して身を乗り出した。

「馬鹿を言え、タナトス!何故私が仮装などしなくてはならぬのだ!しかも全身黄色でハートモチーフのアクセサリーを幾つもつけた救いようの無いファッションセンスでドヤ顔で時を止める厨二の塊のようなラスボスなどを!」
「随分と詳しいですね、ヒュプノス様」
「タナトス様にごり押しされて読んだみたいだぜ」
「何故と言われても…。俺が承太郎をやるのだぞ?主人公と対になるラスボスはお前以外の誰がやるというのだ。お前とDIOは髪の色も同じだし問題なかろう」
「いや問題はそこではなく」
「そうなるとハーデス様は誰の役かな?主役とラスボスは父上と叔父上で埋まっちゃったけど、半端なキャラにするわけにはいかないし」
「ちょっと待てパンタソス。私がDIOをやるのは確定事項と言う前提で話をするな」
「冥王とは組織のトップですよね。そうなると主人公パーティーで一番偉い人…」
「ジョセフか?でもあいつジジイじゃねぇか。ハーデス様の仮初の肉体はガキの外見だったろ」
「蟹座共も私の話を聞け!」
「むしろ逆だろう。子供がジジイのコスプレをするから良いのではないか」
「ではハーデス様はジョセフ・ジョースター役で。…キャラが多いゆえ、一度整理するか。承太郎が俺、DIOがヒュプノス、ジョセフがハーデス様。主人公 パーティーの残りは花京院とポルナレフ、アヴドゥル、イギーだな。敵のメインはヴァニラ、ホル・ホース、エンヤ婆あたりだろうか。他にも個性的な敵キャラ がいたが」
「…………」

 ウキウキとノートとペンを取り出して配役を書き始めたタナトスの横で、もう何を言っても無駄と気付いたヒュプノスが頭を抱えて黙り込んだ。
 冥界の神を偉い順に配役していくと次はヘカーテの番になるのだが、ジョジョ三部の女性キャラは少なすぎるので、彼女の配役は後回しにして先に夢の四神に役を割り振ることになった。
 ペンをくるりと回してタナトスは甥達に目を向けた。

「お前達、やりたいキャラはあるか?」
「俺、ホル・ホースやりたいです!」
「じゃあ僕はエンヤ婆で。あえて若い女の姿で露出高めのエンヤやりますよ」
「イケロスがホル・ホースでパンタソスがエンヤ婆…オネイロスとモルペウスはどうする?」
「どうすると言われましても」
「私達はその漫画を見たことがありませんので…」
「ではお前達も後回しだ。次、蟹座共」
「え?」
「主人公パーティーは残り三キャラなんだしヘカーテ様とオネイロスモルペウス割り振ればちょうどじゃねーか。何で俺らまで参加なんだよ」
「面白いからに決まっているだろう」
「「…………」」

 タナトスが真顔で言い放った言葉に蟹座コンビが絶句していると、パンタソスがニヤニヤしながら口を開いた。

「シラーはさ、マライヤとかどう?美脚・褐色肌繋がりで」
「ジョークは程々にお願いしますパンタソス様。エンヤ婆ならネタになりますがマライヤではネタにもなりません、痛いだけです」
「真顔でマジレスするな、シラーよ。イベントなのだからジョーク満載で良いではないか」
「無責任なこと言うなよタナトス様。聖闘士連中が集まるイベントで現役黄金がアイタタ系のコスプレするのはダメだろ、ヘタしたら聖域で会議が起きるぜ」
「ネタでもアイタタでも構いませんのが男性キャラでお願いします」
「でもさ、褐色肌の男性と言ったらブ男のアヴドゥルしかいないぜ?」
「それはダメだ、イケロス。シラーがアヴドゥルをやっても『ブ男』と言えぬでは無いか」
「シラーアヴドゥルを却下する理由がそれかよ。『神々を差し置いて人間を主人公パーティーに入れるのはダメだ』じゃねーのかよ」
「あ、では僕はアヴドゥルでお願いします。タナトス様の承太郎やヒュプノス様のDIOやハーデス様のジョセフと比べれば僕は十分ブ男ですから、存分にブ男と呼んで下さい」
「そうか?まぁ、そこまで言うのならシラーはアヴドゥルにしてやろう。さて次はマニゴルドだが、お前はイギーでいいな?」
「うぉい!花京院にしろとは言わねーが何で犬なんだよ!」
「何が不満だ?作中どころかシリーズでトップを争うイケメン…いや、イケワンか?ではないか、イギーは」
「その前にイケワンのトップ争いするほど犬のキャラは出てねーだろ!つかイギーって名前の犬がここにいるんだからこの犬同伴すりゃいいじゃねーか!」
「ああ、それもそうか。ではイギー役はイギー、お前で良いな?」
「イギッ!」
「そうなるとポルナレフは先輩だね。イギーに会うなり『何だこのワン公は』って言って、飛びつかれて髪毟られてオナラされたし」
「…あーハイハイ、敵の変態野郎や犬の格好させられるくらいなら三枚目で構いませんよ」
「では消去法ではあるがヘカーテ様が花京院だな。ヘカーテ様ともあろうお方を主人公パーティーから外すには行かぬし、承太郎の友人と言う立ち位置ならば問題ないだろう」

 放心状態から漸く立ち直ったヒュプノスがボソリと言うと、タナトスは何か抗議をしたそうに口を開き、これといった反論が見つからずに曖昧に口を閉じた。
 面白そうに皆のやり取りを聞いていたヘカーテは不思議そうに首を傾げた。

「カキョウイン?それはどんなキャラなのだ?」
「学ラン着てサクランボを『レロレロレロ』と舐めてから食べる主人公の友人だぜ」
「先輩さぁ、もうちょっとキャラ紹介の言葉を選びなよ。そういう言い方するからいつまでもたっても彼女が出来ないんだよ?」
「う、うるせぇーーーーー!!俺だって、俺だってなぁ、努力してるんだぞ!!来週だってエリス主催の合コンに参加するし!!」
「頭数合わせで?」
「んなっ、シラー、おま!…ちょっとツラ貸せ、表に出やがれ」
「別にいいけど?…神様方、少しだけ失礼致します」

 大股で部屋を出て行くマニゴルドと、優雅に一礼して後に続くシラーを面白そうに見送って、タナトスは携帯を取り出した。

「…エリスか?俺だ。実はな、折り入って頼みがあるのだ。明日のハロウィンまでにコスプレ衣装を調達して欲しいのだが…」

 …そして翌日。
 急ごしらえとは思えない完成度の高いコスプレ衣装を身に纏った冥界神様ご一行と蟹座コンビが、『菓子を寄越さねばオラオラするぞ!』と決め台詞を言いながら十二宮を回る姿があったらしい。


END


星矢部屋
総合目次
SS・2012時代
SS・神話時代
SS・蟹座達


 よりによって10月31日にネタが浮かび、11月1日に一気に書き上げたハロウィンSS・冥界版です。11月2日までハロウィンらしいので遅刻じゃないよね!と言ってみます(笑)。
 冥界のハロウィンネタは以前も書いたのですが、その話との整合性は気にしない方向でお願いします。冥界の皆でカボチャランタン作ったらどうなるかな?そ こに蟹座コンビを入れて皆でコスプレするならどの作品がいいかな?と考えているうちに、ASBが出たり三部のアニメ化が決定したりしたジョジョはどうだろ う?シラーさんの飼い犬にイギーもいるし!という安直な発想によりこのSSが出来ました。ちなみに作中では書いていませんが、オネイロスはンドゥールのコ ス、モルペウスは『こいつは絶対外せない』と言う理由でヴァニラ・アイスを押し付けられています(笑)。