双子神2012・師走
EPISODE 4


 タナトスは香ばしく焼きあがった鰻を串から外して切り分け、一口サイズに握ったご飯に一切れ乗せて海苔と三つ葉を載せた。いわば鰻の手鞠寿司だ。
 薬味を変えつつ幾つか手鞠寿司ならぬ手鞠ひつまぶしを作って、タナトスは隣で鰻を焼いている弟神に声を掛けた。

「ヒュプノスよ、鰻で手鞠寿司を作ってみたぞ。ひとつ試食してみろ」
「そんなことをする暇があったら鰻を焼くのを少しは手伝ったらどうだ、タナトス。そもそも鰻料理を作ると言い出したのはお前だろう。どうして私やオネイロイがせっせと鰻を焼いてお前は遊んでいるのだ」
「そう堅苦しいことを言うな。毒見と言う名のつまみ食いも良いものだぞ?何しろハーデス様や冥妃様のお口に入るものだからな」
「お前はどうしてそう、妙な言い訳だけはうまいのだ」
「そんなことはどうでもよかろう。さぁヒュプノス、口をあけろ。ほら、あーん」
「…………」

 兄神の理屈に渋々納得した振りをしたヒュプノスが口を開けると、タナトスは満面の笑みを浮かべて手まり寿司を弟の口に入れた。ついでに自分の口にもひとつ放り込み、オネイロイ達にも手鞠ひつまぶしを差し出した。
 一つ目を食べ終わった皆が何も言わずに二つ目の手鞠ひつまぶしに手を伸ばしたのは『美味だった』ということ…と判断したタナトスがつまみ食いを続けながら手鞠ひつまぶしの製作を再開すると。

「何だタナトス、ひつまぶしを作るといいながらつまみ食いかっ?!ずるいぞ!」
「イギー!」
「…………」

 可愛らしい抗議の声に、タナトスは声の主…異世界の自分自身とシラーの愛犬を見遣った。どうやらアモールの一件が片付いたので手伝いをしにきたようだ、 と察しながらタナトスは一口サイズにご飯を握り、鰻と薬味を乗せながらわざとらしいジト目をタナトス少年とイギーに向けた。

「チビ助、それに犬」
「何だ」「アギ」
「口の周りに餡子と鰻のタレをつけたままそんなことを言っても説得力がないぞ。せめて口の周りくらい綺麗にしてから来たらどうだ」
「あうっ」「アウッ」

 タナトスとイギーは同時にギクッとして似たようなうめき声を上げて、慌ててタナトスはハンカチで口の周りを拭いき、イギーはペロペロと口の周りを舐め始めた。
 そんなふたりの姿に目を細めつつ、タナトスはわざとらしい真顔で続けた。

「それにこれはつまみ食いではない。毒味だ。味も確認せずにハーデス様ご夫妻に差し上げるわけには行かぬからな。…さ、お前達も毒味をするが良い。ほら、あーん」
「あーん」

 タナトスは出来上がったばかりの手鞠ひつまぶしをタナトス少年の口に入れた。
 たちまちご機嫌になる小さな死神の姿に目を細めつつ、口の周りを舐めて綺麗にしてお座りしているイギーの前にもひつまぶしをひとつ置いてやる。尻尾を振りながら握り飯に齧り付く犬の頭を撫でて、銀の死神は手鞠ひつまぶしを載せた盆を続いてやってきた皆にも差し出した。
 …皆が有難くひつまぶし握りをつまみ食いしていると、この世界のマニゴルドがやって来た。

「ん?タナトス様、鰻料理を作ってんじゃなかったのか。何でヒュプノス様とオネイロイがせっせと鰻焼いてアンタはつまみ食いしてるんだ」
「つまみ食いではない、毒味だ。それに毒味をしながらちゃんと鰻料理も作っているぞ。そう言うお前は何をしている?」
「そういえばお前は、餅もつかずにほっつき歩いているだけであったな」
「うっせーな。俺は幹事だから、滞りなくイベントが進行してるか見て回ってんだよ!」
「物は言いようだな」
「要するに何もせずブラブラしてここに来たということだな!」
「そこのちみっこい双子神様もうっせ!あんたらも食ってるだけじゃねーか。それに勘違いするなよ、俺は用もなく来たわけじゃないからな。年越し蕎麦がもうすぐできるから皆を呼んで来いって女神様達に命じられたんだよ」
「そうか、では蕎麦がのびる前に行かねばならぬな。鰻もこれだけ焼けば皆に行き渡るであろう。…では」

 タナトスは調理台の上に山積みになっていた重箱を指差して当たり前のような顔でマニゴルドに言った。

「あれに白飯を詰めろ。人数分だぞ」
「ハァ?何で俺がそんなことしなきゃいけねーんだよ!」
「幹事の癖に何もせずブラブラしてたからだ」
「だからブラブラなんてしてねーって…」
「タナトス様。先輩を説得するのは時間の無駄でしょうから、僕がお手伝いさせていただきます。詰めるご飯はこれですよね、全員同じ量でよろしいですか?」

 マニゴルドが抗議している間に、さっさとしゃもじを持ったシラーが炊飯器の蓋を開けてタナトスに尋ねた。

「うむ。餅や蕎麦もあるし、鰻や薬味とのバランスもあるしな。七分目程度に詰めればそれで良い」
「畏まりました」
「この赤い蟹は感心だな、タナトスよ。アテナが妃の身辺警護を命じるのも納得出来るぞ」
「シラーが女性にもててマニゴルドがからっきしなのも納得できましょう?ハーデス様」
「それは関係ねーだろ!分かった分かった分かりましたよ、飯を詰めればいいんだろ!!」

 何だかんだで黄金聖闘士達もひつまぶし作成を手伝い始めて、出来上がった鰻重を蕎麦屋の出前よろしく持った一行が会場中央に設置されたテーブルに向かう と、異世界のマニゴルドが山のような天ぷらや山菜や蒲鉾や卵をテーブルに並べていた。ちなみにイオニアのヘンテコな茶会に参加しなかった男性陣は一足先に テーブルについてバケツリレー方式で箸や湯のみを配っている。
 一行に気付いたマニゴルドは二カッと笑って椅子を指した。

「おっ、いらっしゃぁ〜い。もうすぐ蕎麦ができるから適当に座ってくれよ!」
「ひょっとして先輩、女神様達に頼まれたからとかじゃなくて、自発的に手伝いしてるの?」
「ったりめーだろ。異世界から土産も持たずに遊びに来てタダ飯食わせてもらうんだ、手伝いくらいするのが礼儀ってもんだろ。いわゆるギブアンドテイクだな」
「感心だな」
「異世界のマニゴルドが女性にもててこちらのマニゴルドがからっきしなのも…」
「そのネタはもういいっつーの!」
「何を言うのだカニゴルド。ギャグの基本は繰り返しだぞ」
「旬を過ぎたネタをいつまでも引っ張るなって言ってんだよ!いいからさっさと座れよ、ミニタナトス様!今日は汁物が多いからちゃんと一人で椅子に座ってくれよっ!!」

 ガタン!
 マニゴルドが乱暴に子供用の椅子を引くと、異世界の双子神がよじよじと上ってちょこんと座った。二人のシラーが恭しく小さな双子神の首にナプキンを巻く隣で、聖闘士達は神様お手製の鰻重を配り始めた。
 目の前に置かれた鰻重にウットリと頬を染めて、ジュルリと涎を垂らしながらタナトスが両手を膝の上に置いて皆が揃うのを待っていると、女性陣が蕎麦を持ってやってきた。

「待たせたな!神と聖闘士とオマケが腕を振るった年越し蕎麦だ、ありがたく食べるが良いぞ!」
「蕎麦つゆも置いておきますから、味が薄かったら調節してくださいね」
「トッピングはセルフサービスだぞ!好きなものを好きなだけ乗せるのだ!」
「…これで全員に渡ったな」

 蕎麦を配り終わった女性陣が席について改めて『全員集合』となったところで、沙織がタナトス少年を見遣った。

「では、食事の挨拶はそちらのタナトス殿にお願いしてよろしいかしら?」
「うむ、任せろ。こう見えて俺は給食当番が得意なのだ!」

 にこりと笑ってタナトス少年は皆を見回した。

「では皆、好き嫌いなく美味しく全部食べましょう。…いただきます!」

 タナトスが両手を合わせて大きな声で言うと、皆がそれに倣った。
 いただきまーす!




 …………
 天井まで届く窓ガラスにぺたりと手をつけてタナトスは城戸邸の中庭を見つめていた。
 皆が餅をついたり茶会をしたり食事をしたりしている間も雪は降り続け、庭は降り積もった雪で真っ白に覆われていた。タナトスにべったりとくっついて回るイギーも窓ガラスに鼻を押し付けてソワソワしている。

「雪やこんこ、霰やこんこ…犬は喜び庭駆け回り…♪…イギー」
「イギ」
「やはり、犬のお前は雪が降ると庭を駆け回りたいと思うのか?」
「アウ!」

 にっこりと笑って(いるように見える)ピルピルと尻尾を振るイギーにタナトスはにっこりと笑った。

「よし!では庭を駆け回りに行くぞ!ついて来い、イギー!ヒュプノスやハーデス様も誘おうではないか!」
「イギッ!」

 



 温かい格好をしたタナトスが中庭に続くドアを開けた途端、犬用コートを着たイギーが真っ先に庭に飛び出した。

「ワウワウゥ〜、わんわんわんわん!!」 
「あっ、ずるいぞイギー!俺が最初に雪に足跡をつけようと思っていたのに!」
「見事に先を越されたな、タナトスよ」

 楽しげに雪の中を走り回る犬に真面目に文句を言いながらタナトスが雪の上を歩き始めると、弟がクスクス笑いながら後をついてきた。その後ろを、さりげなく羅喜を気遣いながらハーデスが続く。

「雪が降ると犬が喜んで駆け回るのは本当だったのだな。もしエリシオンに雪が降ったらケルベロスも走り回るのであろうか」
「イギー、そんなにはしゃぐと転んでしまうのだ!」
「ワンワン、アウゥ〜!アウッ、キャイン!!」
「あ、転んだ!」
「あーあ、だから言ったのだ」
「大丈夫か、イギー?」
「クゥーン、アウ〜ン…」

 転ぶぞ、と言われた矢先に盛大に転んでしまったのは犬でも恥ずかしかったらしい。耳と尻尾を垂らしてしょんぼりと雪の上に座り込むイギーを、ハーデス含むちみっこ達は順番に撫でてやった。
 …庭で遊んでいる子供達と愛犬の姿を、ガンガンに暖房のきいた部屋の中から眺めながらシラーは浅く溜息をついた。

「イギーがタナトス様に懐くのはいいんだけど、何だか妬けちゃうなぁ。僕がここにいるのにずっとタナトス様の後をくっついて回って…飼い主は僕なのにさ」
「あのワン公もまだガキなんだろ?ガキはガキ同士で気が合うってことだろ。大体シラー、お前だってタナトス様が地上に来た時は牛も玄武もほったらかしてタナトス様に引っ付いて回ってんじゃねーか」
「前提がおかしいよ、先輩。そもそも僕は犬じゃないし、ハービンジャーや玄武は僕の飼い主じゃないし」
「なーに言ってやがる。お前は自他共に認めるタナトス様のワンコじゃねーか。ほれ、お前も一緒にタナトス様やワン公と雪遊びして来いよ」
「嫌だよ。僕は人一倍寒がりなんだよ?外はめちゃくちゃ寒いのに、子供に混じっていい大人が雪遊びなんてそんなみっともないこと…。…………」

 完全武装した大人のタナトスとタナトスに引きずられたヒュプノス、イケロス、パンタソス、ヘカーテ、秋乃、沙織、星矢、エリス、ハービン ジャー、パラドクス、インテグラ、ソニア、そして異世界のマニゴルドとハービンジャーとシラーと玄武が庭に出てきて、子供や犬と一緒に雪遊びを始めるのを見たシラーが凄まじく 微妙な顔で口を噤んだ。
 マニゴルドがニヤニヤしながら後輩を見ると、シラーは唇を真一文字に引き結んで、眉間に皺を刻み、鼻息も荒く踵を返した。
 …コートとマフラーと手袋と耳モフで『完全武装』してきたシラーは、マニゴルドに同じような装備一式を押し付けた。

「何だよ、これ」
「見れば分かるだろ」
「何で俺までガキのお遊びに付き合わなくちゃいけねーんだよ!?」
「あのさぁ…前から思ってたけど、先輩って本当に空気を読めないよね。女の子や子供と一緒に雪遊びするか、枯れた大人や既婚者と一緒に室内に残るか。この状況で女の子にモテるのはどっちか、そんなことも分からないの?そんなだから彼女が出来ないんだよ、センパイ」

 フフン、と嘲笑を残してシラーは庭に足を向けた。そのすぐ後に玄武が続き、アモールが満面の笑みでマニゴルドに投げキッスして二人を追いかけていった。
 ……………。
 マニゴルドはそっと部屋に残った面子を見た。
 部屋に残っているのはイオニア、時貞、貴鬼、ミケーネ達、フドウ達、一輝・瞬兄弟と異世界のアモール、オネイロス、モルペウス、そして杳馬とパルティータだ。成立済みカップルと、言っちゃ悪いが恋愛には興味も縁も無さそうな顔触れである。
 ぐぬぬぬぬぬ。
 マニゴルドは憤怒の表情でコートを着込み、マフラーを巻き、手袋を填めて大股に庭に出た。




 異世界の双子神と弟達と一緒に雪だるまや雪トトロを幾つも作り、次はかまくらでも作ろうか…となどと考えながら周囲を見回したタナトスは、この世界のシラーがマニゴルドと玄武とアモールを連れてやってくるのを見て目を細めた。
 挨拶代わりに雪玉をマニゴルドめがけて投擲しつつニヤリと笑う。

「今頃どうした、魚介ども?」
「シラー、お前は寒さに弱いのではなかったか」
「神々だけでなくイギーや皆も遊んでいるのを見たら僕も仲間に入りたくなりまして」
「そうか、大歓迎だぞ!」
「イギッ!」
「お言葉ですがタナトス神、俺は魚介ではありませんが」
「玄武は亀の名前でもありますから、亀ならギリ魚介なのでは」
「知れは斬新な解釈だな」
「ところでタナトス様、何で俺だけに雪玉投げつけるんだよ」
「ふむ…結構な人数も揃ったことだし、このまま各自が好き勝手しているのは面白くないな」
「おい、無視すんじゃねーよ」
「ならばお約束の雪合戦はどうであろう」
「それは名案ですね、ハーデス様。では早速、皆に声を掛けましょう」
「人間ガン無視総スルーで話を進めるのは神様のデフォなのか、マジで」

 …雪合戦をしよう、と呼びかけると皆が二つ返事で集まってきた。皆の顔触れを見回したタナトスは誰に言うとでもなく呟いた。

「さて、チーム分けはどうしたものだろうな。厳密に戦力を二分することもないだろうが、あまり偏ってしまっても面白くないであろうし」
「聖域と冥界どちらに属すかで分けてはどうだ」
「いや、それは…。どちらが勝っても負けても微妙な雰囲気になりそうだぞ」
「じゃあ男性チームと女性チームで分けるか」
「女性チームの方が神様が多いから戦力的には有利なくらいだけど、人数が偏りすぎだね」
「でしたら、パンタソスさんとお子様達とイギーを女性チームに入れればバランスが取れるのではないかしら」
「それは構いませんが、イギーの役目は何ですか?」
「敵チームの撹乱担当でどうかしら」
「イギッ!」
「『イギなし』と言ってるぞ!」
「ならばチーム分けはこれで問題ないな。そうなると決めておかねばならないものがあるぞ」

 皆に不思議そうな視線を向けられた氷の女神ヘカーテはにっこり笑って人差し指を立てた。

「負けチームの罰ゲームだ!」
「罰ゲーム?勝利チームに褒美ではなく?」
「…ま、負けた方にペナルティの方が双方やる気を出すかな。まったり雪玉を投げ合ってるだけじゃ面白くないし」
「『お前はそんなだから女にモテんのだ』と挑発すればマニゴルドは簡単に本気を出すぞ。事実、その台詞でコイツは本気で枕を俺に投げつけてきたからな」
「それは相手がお前であったからだろう、タナトス」
「むしろ『私達に勝ったらイイ女紹介してあげる』って言った方が本気出しそうだけどねー、マニマニは」
「じゃあこういうのはどうかしら。男性チームが勝ったら、私達が合コンをセッティングしてマニゴルドさんや恋人が欲しい人に責任持って素敵な女性を紹介する。女性チームが勝ったら、雪合戦不参加メンバーも含めて男性全員が動物耳を付ける」

 …龍神秋乃が無邪気な笑みを浮かべて提案したアイデアに女性と子供達は歓声を上げ、男性達の一部は目を丸くした。
 タナトスは目をまん丸にして秋乃に詰め寄った。

「ちょ、ちょっとお待ちください秋乃様!我々勝利時の褒美はまぁ理解できます、ですが敗北時の罰ゲームは理解できません!何故、一体何がどうなって、雪合戦敗北で動物耳装着なのですか!?!?」
「だって可愛いじゃないですか、動物耳」
「問題はそこじゃねーし!可愛いとか可愛くないとかじゃねーから!!」
「ん?動物耳装着くらい別にいいんじゃないの?」
「「だよなー」」
「僕とハービンジャー達は黙っててくれないかな!!」
「まぁまぁ落ち着いてくださいシラー。要は勝てばいいんでしょう?それに仮に負けたとしてもあなたが動物耳を生やすのはこれが初めてではないんですし、別にいいじゃないですか☆」
「勝てそうにないからこれだけ騒いでいるんだろう。それからアモール、俺達が負けたらお前を鯉のぼりに詰めてレテの川に放流するからな。本気で勝ちに行けよ」
「何です玄武、その罰ゲームは!私は鮭ですか!?そもそも忘却のレテに流されたら私は記憶喪失になっちゃうじゃないですか!!」
「あ、それはノープロブレム」
「ええっ!?」
「安心してください、皆さん。私も街中で動物耳を付けろなんて非常識な要求はしません。動物耳を装着するのは、コミケ会場かディズニーリゾートにしますから。あそ こなら成人男性が動物耳を付けていても不自然じゃないから大丈夫、何も心配ないですよ。何なら私達も動物耳付けますし、それならいいでしょう?ほら、よく言うじゃないですか。『赤信号、皆でわたれば怖くない』」
「いやいやいや、…」
「あーもう!たかだか雪合戦の罰ゲームくらいでガタガタうっさいなぁ、兄貴達と蟹座共は!あんたらそれでも男なの、神なの、黄金聖闘士なの!?男だったら正々堂々真正面から勝負しなよ!女の子相手に負けた時の事ばっかりグジグジ言って、男として恥ずかしくないワケ!?」

 エリスがずびしぃっと指を突きつけて喚いた台詞に双子神とマニゴルドがうぐっと唸って怯んだ。
 女性と子供で構成されたチームとは 言え、常勝の女神、氷の女神、争いの女神、双子神の上司である冥妃、更に未来予知の能力を持つ双子までいるのだ。男だ ろうが神だろうが黄金聖闘士だろうが、このメンバーを相手に正攻法で勝利するなど不可能、男性チームの負けは最初から確定しているのも同然の無理ゲーなの だ。敗北確定ということは即ち罰ゲームも確定しているということだから、その内容に抗議することのどこが『恥ずかしい』んだ?
 …と、シラーは思ったのだが、自分一人であの女性陣相手に異を唱えるだけの勇気はなかった。アテナや龍神秋乃を向こうに回すのと動物耳を付けるのとどっちがマシ?と聞かれたら耳の方がマシである。
 男性陣が不承不承ながら黙ったので、アテナは満足気に微笑んでイオニアを呼んだ。




「えー、こほん。アテナより審判に任命されました山羊座のイオニアでございます。改めてよろしくお願いいたします。…さて、雪合戦開始にあたり、簡潔に大会ルールを説明させて頂きます」

 部屋の中に残っていた面子も観戦と応援の為に出て来たために中庭にはかなりの人数が集まっている。パライストラの校長イオニアは流石の貫禄でサクサクと皆を整列させ話を始めた。
 イオニアの言葉に異世界のタナトスが大きな目を瞬いた。

「雪合戦に大会ルールなどあったのか!」
「はい。今回は代表的なものを採用しております。…まず、ラインで区切られたコートのこちら側、青い旗が立っているのが男性チームの陣地。あちら側、赤い 旗が立っているのが女性チームの陣地です。勝利条件は二つございます。一つ目は敵チームの旗を奪取あるいは倒すこと。二つ目は相手チームのメンバー全員に雪玉を当てて退場させることです。相手チームの投擲した雪玉に当った選手はその時点で脱落となります」
「ふむ。ドッジボールのように『玉に当ったら外野選手になる』ということは出来ないということだな」
「左様です。それから、チームのメンバーを攻撃役と雪玉製作役に分けて頂きます。攻撃役は雪玉を作ってはいけません。雪玉製作役は攻撃をしてはいけませ ん。一応、作れる雪玉の数には制限があるのですが、今日は無制限でよろしいでしょう。時間制限は無し、旗を取るかチーム全員が脱落するかで決着となりま す。説明は以上でよろしいでしょうか、アテナ?」
「試合に関してはそれでよろしいですわ。後は罰ゲームに関する説明が必要ですわね。男性チームが負けた時にはあなた方にも関わってきますから」
「はぁ…罰ゲーム…?」
「男性チームが勝った時には、恋人募集中の男性の為に私達が出会いの場を提供しますわ。私達が勝った時には、この場にいる男性全員に、ディズニーリゾートかコミケ会場で動物耳を付けて頂きます。ああ、この条件は男性チームの皆様に了承されておりますわ」

 アテナの言葉の前半で彼女に抗議しかけたイオニアと時貞とミケーネが、後半を聞くなりキッとシラーを見た。

「シラー!これは一体どういうことだ!」
「何故雪合戦に参加しない我々まで罰ゲームに巻き込まれなければならないのだ!?」
「ハービンジャーやアモールはともかく、どうしてお前までそんな馬鹿げた罰ゲームを了承したのだ!女性の説得はお前の十八番だろう、何故もっと普通の罰ゲームにするよう交渉しなかったのだ!?」
「ちょ、無茶言わないでくれるかな!いくら僕が女性の説得が得意でも限度ってものがあるよ!人間の僕ひとりであの女神様達を説得できるはずないだろ!タナトス様ヒュプノス様も無理だったのに!」
「ならばせめてハンデを要求しろ、ハンデを!どう贔屓目に見てもこの戦力バランスでは勝負は最初から見えているだろう!いくら神々と黄金聖闘士でも相手が悪すぎる!!」
「そんなに言うなら時貞、君もチームに入りなよ!女神様達、男性チームのメンバー、あと一人二人くらいなら増やしても構いませんよね?」

 時貞に理不尽に文句を言われたシラーが半ば逆切れしながら女性チームに尋ねると、沙織は皆を見回して異論がないのを確認して頷いた。

「ええ、そのくらいなら構いませんわよ。私達が勝利した後に『あの時メンバー補充が認められていれば負けなかった』と言われても困りますし」
「ありがとうございます。じゃあ時貞と杳馬さん、こっちチームに入って」
「強制か!くそっ、何故俺まで…」
「へ、俺も?」
「…なるほど、そういうことか」

 不満そうな顔の時貞と怪訝そうな顔の杳馬がチームに入るのを見てタナトスが銀色の目をスッと細めた。
 先程イオニアが説明した中に『時間を巻き戻すのは反則』というルールは無かった(そもそも人間の試合でそんなルールがある方が変なのだが)。致命的な失敗があった時は時貞か杳馬の能力で『リセット』が出来るから、男性チームが勝つのも不可能ではなくなる。
 動物耳装着はどうあっても避けて通れぬか…と思ってテンションが下がっていたのだが、勝てる可能性が出てきた途端に持ち前の負けず嫌いが首をもたげてきた。 女性には敬意を払って紳士的に接するのがタナトスの基本スタンスだが、ルールを決めた試合となれば話は別である。
 銀の死神は後ろに控えた男性チームを振り返って拳を掲げた。

「我が夜の兄弟達、そして親愛なる黄金聖闘士達よ!相手が乙女達とは言え手加減は無用だ!勝負事で本気を出さぬなど相手に対する最大の侮辱である!ルールに則った正式な試合である以上は男女平等!相手にとって不足無し!全力で挑め、そして勝利を勝ち取れ!!」

 おおーっ!!
 動物耳など絶対に付けたくない面子は超真顔で、この場を最高に楽しんでいる面子は満面の笑顔で拳を掲げた。
 すっかり一致団結してテンションダダ上がりの男性陣を見て、沙織はにっこりと笑って自軍を見回した。

「あらあら、男性チームは凄い気合の入れ方ですわね。私達女子供チームも負けていられませんわよ?…こほん。皆、雪合戦に勝ちたいかー!」
「おー!」
「ディズニーリゾートかコミケに行きたいかー!」
「おー!」
「皆で動物耳を付けたいかー!?」
「おー!」
「ならば勝利あるのみ!皆、やぁーっておしまい!!」
「あらほらさっさー!!」

 沙織がノリノリで拳を突き上げると、皆も楽しげに拳を突き上げた。
 そんな女性陣を見てマニゴルドがボソッとタナトスに呟いた。

「なぁタナトス様。開幕前の号令の面白さで俺ら既に負けてねぇ?」
「…言うな。我々は負けたら動物耳装着だということを忘れるな」

 …そして、男性チーム女子供チーム双方が(色々な意味で)ノリノリで雪合戦が始まった。
 ハービンジャーが手加減なしで投擲した雪玉がパラドクスにクリーンヒットして彼女の第二人格が発動したり、そのままハービンジャーが第二人格パラドクス に襟首を掴まれて屋敷の裏に引きずっていかれたり、異世界シラーが龍神秋乃に雪玉を当てて場が凍りついたり、場が凍る理由をシラーが理解出来ずにいると秋 乃がにっこり笑って『バイトの身分で店長に玉をぶつけるなんていい度胸です。時給の査定をする時に参考にさせてもらいますから減給を覚悟してくださいね』 と言ったり、彼女の冗談(?)を真に受けたこの世界のシラーが思いっきり動揺して羅喜の投げた玉にぶつかったり、それでも時貞と杳馬がせっせと時間を戻して一進一退していた試合は、タナトスとヘカー テが一騎打ちしている最中に皆の足元を走りぬけたイギーが男性陣の旗を倒して終了と言う予想外の結末を迎えたのだった。





 …新しい年の来訪を知らせる鐘が鳴る。
 この世界の双子神は異世界の自分自身を肩車したまま、少年の体に魂を入れたハーデスと手を繋いで、全員分の賽銭を賽銭箱に入れた。作法に則り大和神への挨拶を済ませた彼らは拝殿から少し離れたところから神々や聖闘士を眺めていた。

「チビ助、大和の神に何を願ったのだ?」
「俺は『友達を100人作って富士山の上でおにぎりを食べたい』と願ったぞ!」
「何だそれは。何かのまじないか?」
「音楽の授業で『友達100人できるかな』という歌を習ったのだ。その中に『100人で食べたいな、富士山の上でおにぎりを』という歌詞があってな、是非やってみたくなったのだ!」
「ほう…なかなかスケールの大きな夢だな」
「では異世界の私よ、お前は何を願った?」
「…………。逆上がりができますように」

 ヒュプノスに尋ねられた小さなヒュプノスは、少し口篭ってから恥ずかしそうにぽそっと答えた。
 その言葉にタナトスは不思議そうに首を傾げた。

「逆上がり?」
「確か、鉄棒の競技のひとつであったな」
「体育の授業で鉄棒を習ったのだが、俺はすぐに出来たのにヒュプノスは出来なかったのだ」
「あれは、教師であるハービンジャーの教え方が悪いのだ。『根性で何とかしろ!』とか『考えるな、感じろ!』とか」
「…それはわざわざ大和の神に願わねばならぬことか?」
「三学期が始まったら逆上がりのテストがあるから、ヒュプノスはそれが怖いのだと思…」

 ゲシッ!
 
「あいたっ!」

 ヒュプノスに肩車されたヒュプノス少年に足を蹴られて、タナトス少年は唇を尖らせ涙目で弟を睨みながら口を閉じた。
 必死に笑いをこらえて痙攣しているヒュプノスと、凄まじく複雑な顔をしつつ兄の足を撫でているタナトスと、ニコニコしているハーデスを見ながらヒュプノス少年がわざとぶっきらぼうに尋ねた。

「そういう皆は何を願ったのだ」
「俺の願いは去年と変わらん。『今年もこの国で信仰集めをするのでよろしく頼む』という挨拶と、『これからの一年もお前達や皆と変わらず交流していきたいので力を貸してくれ』だ」
「余も同じだ。それから、妃を見守ってやってほしいとも願ったぞ」
「私もタナトスと同じことを願った」
「そうか。きっと大和の神々はその願いを聞き届けてくれると思うぞ。何せ八百万も神がいるのだからな!」
「私達も、私達の世界の大和の神に同じことを頼んでおこう」
「フ…楽しみだな。これからの一年も、また」
「新たな誰か、新たな世界、新たな出来事…一体何と出会えるのであろうか」

 神々は冷たく透き通った星空を見つめて微笑んだ。
 …双子神を生んだ夜と、聖闘士を生んだ星座を散りばめた遥かな天空を。

END
↓楽屋裏↓


星矢部屋
総合目次
SS・2012時代
SS・神話時代
SS・蟹座達


杳馬 「レディ〜〜〜ス、あ〜んど、ガ〜〜〜ルズ!楽屋裏へようこそぉ〜〜!!楽屋裏座談会はこの俺、メフィストフェレスの杳馬の司会進行でお送りしま〜す!!ドンドンパフパフ〜〜〜〜!!」
タナトス 「去年に続いてまたお前の司会で同じ顔触れで『楽屋裏』か」
ヒュプノス 「それにしても随分と上機嫌だな、メフィストよ」
杳馬 「んはっ♪何と言ってもオイラ、コラボ第二段でいきなりピンで挿絵登場してカラーにも出ましたからねェ。幸先の良いスタートじゃあ〜りませんか!」
マニゴルド 「で?楽屋裏では何をするんだよ。また本編の解説か?」
タナトス 「改めて解説することなど今回はないのではないか?雪合戦で男性チームが負けたが、『ディズニーランド旅行参加メンバーだけ店で売ってる動物耳か被り物を付けるという妥協案で落ち着いた』ということだけ補足しておけば十分だと思うが」
シラー 「あとは、僕がバイト料を減給されるネタは、コラボ相手の蝶に貰った漫画が元ネタってくらいでしょうか」
マニゴルド 「お前が秋乃さんの冗談にビビッてたのは、『生誕』でタナトス様と悪戯して怒られた時の恐怖の記憶が理由ってのも補足しとけよ」
シラー 「…………」
ヒュプノス 「それから、一番最後の文章だが。最後の『天空』と言うのはハーデス様の祖父である天空神ウラノスの暗喩になっているらしいな」
杳 馬 「俺とパルティータちゃんが夫婦水入らずでいちゃついてたエピがカットされたことも補足しときますよっと。ったくもう、こんな重要な話、どうしてカッ トしちゃうかねぇ。…そうそう、ディズニーランドで動物耳装着の話がSSになるかどうか不明ですけどね、ツイッター情報によると『タナトス様コンビがミッ キー耳、ヒュプノス様コンビがプー耳、こっち のマニゴルドさんがドナルド帽子、あっち側のマニゴルドさんがミニー耳ヘアバンド。女性陣はミニー耳かデイジー帽子』だそうですよ」
マニゴルド 「そっか、俺はあの水兵帽か。ならまぁ許容範囲だぜ。あっち側の俺はご愁傷様だけどな」
シラー 「あの、僕は?」
杳馬 「ん〜この話が出たのはシラーちゃんがΩに登場する前だからねェ、まだ未定っぽいぜ。さて、他に質問は?ありませんね?じゃあ今後の予定に入りますよっと。今後の予定つっても2014年に公開予定のSSのサブタイと大 まかな内容を紹介するだけの備忘録みてーなもんだから予め承知しといてくれよ!」



――間――



杳馬 「じゃあまずタナトス様から予定を伺うのがお約束でしょうかね」
タナトス 「俺に関する話はあまり消化されておらぬ故、去年とほとんど同じだぞ。まずは…現時点で3話目まで公開しているが…異世界の我々と一緒に戦隊 モノの仕事をする『戦隊』。アレスと馬鹿騒ぎする『軍神』、ヘラクレス絡みの事件『英雄』、ヘカーテ様が天馬星座らに初対面する『対価(後編)』、それか ら『兄弟』の蛇足で、温泉旅行中の俺とヘカーテ様の会話ネタ。ハーデス様が聖戦を始める経緯を描く『聖戦』。魔界統一 トーナメント参加の『魔界』、ぼたんのお仕事拝見の『視察(仮)』もあるが、この二本は優先度はかなり低い故に没になる可能性も高い。あとはアポロン・ア スクレピオス親子とヘパイストスに絡む小ネタ、俺がオムライスを作るネタがあるがこちらも微妙だ。…このくらいであろうか」
杳馬 「はい、次はヒュプノス様」
ヒュプノス 「私は去年と全く同じだ。子供の頃にワイバーンを狩りに行った思い出話の『記憶』と、パシテアと交際が始まる前後の話『恋心』だな。一体いつになったらこの話が日の目を見るのだ…」
杳馬 「次は蟹座さん達の…去年と同じですけど先輩からいきますかね」
マニゴルド 「俺は2013年中にほとんど消化したな。残ってんのは、俺とタナトス様とサガと三人でひと暴れする『憤慨(仮)』くらいだな。あとは、俺とタナトス様が来世の話をする『約束』ってネタがあるらしいぜ」
杳馬 「ラスト、シラーちゃん」
シ ラー 「ええと…『明るく甘めの前編+病んでて暗めの後編』がテーマで、ハービンジャー×僕と、玄武×僕の『契約』の前後編。ハービンジャー、フドウ、時貞、僕で手巻き寿司を食べて一騒ぎする『如月(後編)』、それからタイトル未定だけどいつもの面子でドタバタしてる話だね」
杳馬 「そうなると、現時点でネタが上がってる話だけで…小ネタを抜いても16本?」
ヒュプノス 「2012年の年末も16本と言っていたな。誕生日や何がしかのイベントもアイデアがあれば話を書いたようだし、予定外の話も書いて結局プラスマイナスゼロということか」
マニゴルド 「いつになったら書きたい話を全部書き終わるんだ?」
シラー 「書きたい話を全部書き終わった時には、この世界の僕達の時が止まるんだろうね」
タナトス 「フ…それも良かろう。止まった時の中で終わらぬ夢を見続けるのもまた一興」
杳馬 「んじゃー最後に、皆様が大和の神に何を祈願したのかを伺って楽屋裏はお開きとしましょうかね」
双子神 「「NDかLC外伝への顔出し出演」」
マニゴルド 「LC外伝へのゲスト出演」
シラー 「Ω本編再登場」
杳馬 「あーあーもう、皆さん揃いも揃って世知辛いなァ。んじゃま、ちょいと時を操って2014年の年末に行って状況を確認してきますかね。ではっ!レディース、アンド、ガールズ!2014年の終わりにまたお会いしましょう〜!」





 …三回目の2012年の幕が下り、四回目の2012年の幕が上がる。
 どこからともなく声がする。
 ――ようこそ、新たな2012年の舞台(ステージ)へ。