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そして翌日、6月13日。 タナトス神殿で目を覚ましたタナトス達とヒュプノス達は、寝室の壁に貼られた『午前11時までタナトス神殿で待機し、11時になったらハーデス神殿に来られたし』という紙を見てぱぁっと顔を綻ばせた。 ヒュプノスの予想通り、双子神の誕生日の今日は何かサプライズが仕掛けられているらしい。 ウキウキしながら普段より軽めに朝食を済ませ食卓を片付けると、この世界の双子神は昨晩作った花輪を異世界の双子神に差し出した。タナトスはヒュプノス少年に、ヒュプノスはタナトス少年に。 「「何だ、この花輪は?」」 「昨晩は我々の誕生日パーティーが楽しみで眠れなくてな、エリシオンに散歩に行っていたのだ」 「その時に私とタナトスで作ったものだ。良ければお前達もつけてくれないか」 「む?タナトスとヒュプノスもつけているのか」 「みんなお揃いの花輪なのだな」 子供の双子神が喜んで花輪を手首に填めると、大人の双子神は嬉しそうに彼らの頭を撫でた。 そして四神はワクワクしながら11時になるのを待ち、11時になると同時に神殿を出た。 …ハーデス神殿の入り口に『↑順路』と書かれた紙が貼ってあるのを見て、大人の双子神は微妙な顔になり、子供の双子神は目を輝かせた。 「おおっ、どんな仕掛けがあるのか楽しみだな!」 「ひょっとして迷路になっているのであろうか」 「…ヒュプノスよ、俺はこのネタに覚えがあるのだが」 「ああ、私もだ」 「ふたりとも、何をブツブツ言っているのだ?さぁ、行くぞ!頼もーーー!!」 タナトスと手を繋いだタナトス少年が勢い良くハーデス神殿の扉を開けた。 『←順路』『↑順路』『順路→』 ご丁寧に神殿中に貼られた紙に従って廊下を歩いていた異世界の双子神は、T字路になった廊下の壁に貼られた案内図を見て眉根を寄せた。 『←順路→』 …どっちだ。 困った顔を見合わせてこの世界の双子神を見上げると、ふたりは何とも微妙な顔で口を噤んでいる。『答えは知っているがわざわざ教える気にもなれない』と言う顔だ。 幼い双子神は再び顔を見合わせた。 「ふむ…とりあえずここは二手に分かれるか、ヒュプノスよ」 「それが無難であろうな」 ふたりの決定に何も異を唱えることも無く、大人の双子神は子供の自分自身と手を繋いで二手に分かれた。 …壁に貼られた『順路』に従って右に行き左に行き階段を下りたり登ったり、いい加減ゲンナリしてきた頃、廊下が交わる場所で四神がばったり出くわした。 「…………」 「…………」 散々遠回りさせられて結局どっちの道も同じ場所に出るように仕向けられていた…と気付いた異世界の双子神は、向かい合わせの鏡像のように眉根を寄せて無言で矢印に従って歩きだした。 途中に貼られていた『←順路 ゴールすぐそこ!』の紙を見てほっと安堵した双子神達が到着したのは、ハーデス神殿のホールだった。ご丁寧に扉には『全員揃ってから扉を開けるように』と注意書きが貼ってある。 異世界の双子神がこの世界の双子神を再度見上げると、ふたりはにこりと笑った。 「お前達が扉を開けるが良い」 「念のために言っておくが、乱暴に開けてはならぬぞ」 「分かった!」 「分かった」 タナトスとヒュプノスは頷いて、ふたり同時に重厚な扉を力一杯押してゆっくりと開けた、その途端。 パァン! 盛大な破裂音と共にくす玉が割れて紙吹雪が舞い、四神の眼の前で『ハッピーバースデー』の文字が書かれた垂れ幕がふわりと揺れた。 ぱん、ぱん、ぱん、ぱぱん、ぱぱぱぱん、ぱぱぱぱぱーーん! 垂れ幕に書かれた文字を見て双子神がにっこりと笑うと、部屋中にクラッカーの音が鳴り響いた。 …ホールの真ん中にはハーデスとヘカーテと夢の四神、その隣にはアテナ、タナトス達と親交のある黄金聖闘士達、星矢達、冥界三巨頭が並んでいる。 「タナトス、ヒュプノス。誕生日おめでとう!」 「おめでとう!」 「タナトス様もヒュプノス様もおめでとうございます!」 「おふたりとも、おめでとうございます」 「タナトス様ぁぁ!!ヒュプノス様、おめでとうございます!」 「お呼ばれしたからには祝ってやるよ。おめでとさーん」 「タナトス様もヒュプノス様もミニタナトス様もミニヒュプノス様もおめでとう!」 「おめでとう!」 湧き上がる祝福の言葉と拍手に頬を染めながら、双子神達は集まった皆を見回した。 「ありがとうございます、ハーデス様。皆も、感謝するぞ」 「ありがとうございます」 「ありがとうございます!凄く嬉しいです!」 「あ…ありがとうございます」 「ちなみに、今回の誕生日パーティーの企画立案及び司会進行はハーデス様でーす」 「おおっ!!」 「ではハーデス、開会の挨拶を」 ヘカーテに促されたハーデスが、花束を持って前に出た。 「世の親愛なる臣下タナトスとヒュプノスよ。今年もまたそなたらの誕生日を祝えることを嬉しく思う。皆、堅苦しいのは好かぬゆえ、パーティーは立食式だ!存分に交流して好きなものを好きなだけ食べるが良いぞ。改めて、誕生日おめでとう!」 ハーデスが双子神に花束を渡すと、また大きな拍手が起きた。 「チビタナトス、ローストビーフのサンドイッチを食べるか?」 「頂きます!」 「ヒュプノス様、冥闘士達からの贈り物でございます。どうぞお納めください」 「そうか。ありがたく貰うとしよう」 「タナトス様!時貞お勧めの店の握り寿司でございます。どうぞお召し上がりください」 「ふむ。では蟹の握りを貰うとするか」 「俺の方を見ながら言うんじゃねーよクソ神!」 「ヒュプノス君、これは僕達三人からのプレゼント。僕と星矢と兄さんのお勧めの本の詰め合わせだよ」 「あ…ありがとう」 「タナトス様ヒュプノス様、お飲み物を…」 ………… 並べられた料理がほぼ無くなって双子神達へのプレゼント贈呈も終わったのを見て、ハーデスが皆に声を掛けた。 「皆!そろそろ本日のメインイベント、バースデーケーキの登場と行くぞ!」 「ケーキっ!」 「わぁ、ケーキですか。楽しみですね」 「ではオネイロイ。ケーキを持ってきてくれ」 「畏まりました」 ホールの裏に引っ込んだ夢の四神がワゴンに乗せて慎重に運んできたケーキを見て双子神達と参加者達は目を丸くした。ウエディングケーキのように高々と重ねられた苺たっぷりフルーツショートケーキの上には、様々な形のドーナツが所狭しとトッピングされている。 皆が感嘆の溜息を漏らすのを見て、ハーデスは誇らしげに胸を張った。 「このケーキは、タナトスとヒュプノスのために余が作ったのだ!」 「ええっ!!」 「まぁ、ヘカーテやオネイロイにも手伝ってもらったから、全部余が一人で作ったわけではないのだが…」 「素晴らしい…素晴らしいですハーデス様、最高の贈り物です」 「ハーデスは一ヶ月以上も前から菓子作りの練習を始めたのだ。朝から晩までケーキやドーナツを作って、出来上がった菓子は冥闘士達にこっそりと配って…苦労したぞ、タナトスやヒュプノスにばれないようにするのは」 「そうだったのですか…」 「ハーデス様が夢中になっていたこととはこれだったのですね」 「嬉しいです…ハーデス様、本当にありがとうございます」 「うむ、うむ。そなたらが喜んでくれたのなら頑張った甲斐があったと言うものだ。さぁ。タナトス、ヒュプノス、ケーキカットをするが良い」 臣下達に熱い眼差しと感謝の言葉を向けられた冥王は、嬉しいやら恥ずかしいやらで頬を染めながら促した。 では代表して俺が、と前に出たこの世界のタナトスが小宇宙を凝縮して死神の大鎌を出現させた。銀色に輝く大鎌を構えて巨大なケーキに鎌を振るい、ケーキを切り分けると丁寧に会釈し て大鎌を消滅させた。その後はこの世界のヒュプノスと異世界の双子神が協力してカットされたケーキを取り分け皆に配り始めた。 チョコリングが乗ったケーキを受け取ったマニゴルドは二カッと笑った。 「悪いなぁ、本日の主役にウエイターやらせちまってよ」 「気にするな!俺とヒュプノスは給食当番が得意なのだ!」 「ハーデス様が私達のためにバースデーケーキを作ってくださったのだ。そのお心に恩返しするためだ、お前の為ではない」 「ったく、相変わらずミニヒュプノス様はツンデレだなー。あ、俺はその苺味のドーナツが乗ったケーキがいいな!」 「全く…お前の図々しさは大したものだな、天馬星座。シラー、カットできていなかった上段部分のホールケーキを持って来た故、これはお前達黄金聖闘士で分けるが良いぞ」 「畏まりました、タナトス様」 「おいシラー、俺にはフレンチクルーラーが乗った部分をくれよ」 「私はフルーツソースのドーナツが乗ったところがいいわぁ」 「俺はポンデリングがいい」 「はいはい。じゃあアモールは、皆に配った残りのケーキ下半分だけでいいね?」 「何でそうなるんですかっ!私はその、鯛焼きが乗った部分を希望します!!」 「アテナよ、あなたにはこのクロワッサンドーナツが乗ったケーキを差し上げよう」 「まぁ、おいしそうですこと」 「皆にケーキは行き渡ったようだな。ではハッピーバースデーの合唱を…。…ああっ!!」 テーブルの陰に隠してあった指揮棒を取ろうとしたハーデスが大声を上げた。 どうかしたのか?と参加者が冥王を見ると、彼は蝋燭の束を抱えてオロオロしていた。 「しまった!ケーキに蝋燭を立てるのを忘れていた!」 「あら…」 「やっちまったな」 「何、大した問題ではありませんよハーデス様。蝋燭など、今から皆のケーキに立てればよろしいでしょう」 「今からか?」 「普段と順番を入れ替えてみるのもまた一興でございましょう」 「それは良いが、火を吹き消すイベントはどうするのだ」 「なら、俺達で皆のケーキの蝋燭を吹き消して回ります!」 「結婚式のキャンドルサービスの逆バージョンですね」 「なるほど。…では皆、手間を取らせるが余のところに蝋燭を受け取りに来てくれ」 チャッカマンと大量の蝋燭を抱えた冥王が言うと、皆は冥王のところに蝋燭を貰いに行った。 …参加者全員のケーキに火の付いた蝋燭を立てると、ハーデスは改めて指揮棒を手に取った。満面の笑みで冥王が振る指揮棒に合わせて皆が歌い始めた。 ハッピーバースデートゥユ〜♪ 同時に双子神達は皆のケーキに立てられた蝋燭の火を吹き消して回り始めた。全員の蝋燭の火を吹き消して、歌が終わるタイミングに合わせてハーデスの前に戻ってきた二組の双子神は互いのケーキに立てられた蝋燭の火を吹き消した。 ひときわ盛大な拍手と祝福の言葉の中、タナトス達とヒュプノス達は最高の笑顔で同時に同じ言葉を口にした。 「誕生日おめでとう。タナトス、ヒュプノス!」 |
| 星矢部屋 | 総合目次 | SS・2012時代 | SS・神話時代 | SS・蟹座達 |
| 今年の双子神誕生日SSのテーマは「双子神のためにバースデーケーキ
を作るハーデス様」にしよう!と思いついたのが双子神誕生日の一週間前でした(笑)。双子神にハマってはや四年、毎年のように「今年はネタが無い〜」→
「直前になってネタが出たけど、来年の自分は別ジャンルにはまってるかもしれないなぁ」と思いつつ今年も双子神の誕生日をお祝いすることが出来ました。こ
の世界の双子神も、蝶様の双子神もおめでとうございます! 当サイトの双子神は、蝶様双子神を「チビ(チビ助)」「異世界の私(タナトス)」と呼ぶのですが、今日だけは名前で呼んでいます。 以下、解説など。 ・当世界と蝶様世界は一日ちょいの時差があります。ので、この世界で当双子神の誕生日パーティーをした後、皆で蝶様世界に行って二度目の誕生日パーティーをするんだと思います。 ・6月12日の茶会で出されたお菓子はハーデス様が作ったものです。ハーデス様+ヘカーテ+オネイロイが入ってきた時に甘い匂いがしたのは、彼らがお菓子を作っていたからです。 ・「順路」ネタは、私が初めて書いた双子神誕生日SS「双子神1747・生誕」と同じです。当世界の双子神は「またこのネタかよ!」と思っているのでノーコメントです。 ・双子神誕生日パーティーに来ているΩ黄金は、シラー・ハビ・パラ・玄武・アモの5人とマニさんです。 |
| 西暦2012年6月初旬、聖域。 アテナに招集をかけられた聖闘士数名が教皇宮の会議室に集まっていた。ちなみに顔触れは蟹座のシラー、牡牛座のハービンジャー、天秤座の玄武、双子座の パラドクス、魚座のアモール、そして元蟹座の黄金聖闘士マニゴルド、星矢、一輝・瞬兄弟の9人である。タナトス神と交流の深いメンバーだけが集められたこ と、双子神の誕生日が近いことから、双子神の誕生日イベントに絡む用件だろうと皆が察しをつける中、夢神オネイロスを同伴してアテナが姿を見せた。何故オ ネイロスが?と怪訝そうな顔をしつつ会釈する皆に挨拶を返して、椅子に腰を降ろした沙織がにこりと笑って口を開いた。 「あなた方を招集した理由は既に察しがついているかと思いますけれど…双子神の誕生祝賀会に関することですわ。来る6月13日、冥界エリシオンで開催される双子神の誕生日パーティーへの招待状が届いておりますの」 「あーやっぱりな」 「時期的にそれだと思ったぜ」 「今回は異世界の双子神様もお出ましになるのですよね」 「ええ。ですから皆さん、プレゼントは四人分用意してくださいね。尚、13日はパーティー終了後エリシオンに一泊して、14日は異世界に行ってあちらの世 界の双子神誕生日パーティーに参加することになっておりますわ。13日は、プレゼントだけでなくお泊まりグッズも忘れずに持ってきてくださいね」 はーい。 最早この程度のイベントは慣れっこになった皆が明るく返事をすると、アテナは楽しげに笑って隣に座ったオネイロスを見遣った。 「では次に、オネイロス殿からお話がありますわ」 「珍しいな、アンタが地上に来るなんて」 「イケロスとかパン太は時々タナトス様にくっついて来るけどな」 「パン太言うなよ」 「で、何の用なんだ?」 「…私がここに来たのはハーデス様のご命令だ」 好き勝手言う皆に少しばかりムッとしつつ、オネイロスは持参した箱をテーブルに並べて蓋を開けた。 何だそれ?と箱の中身を覗き込んだ一同は意外そうな顔になった。…箱の中にはドーナツやカップケーキ、ショートケーキがずらりと並んでいる。しかも、どれもこれも『素人のお手製』感が満載だ。 皆の視線を集めたオネイロスは淡々と口を開いた。 「お前達には、これの味見をしてもらいたい。そして忌憚の無い感想を聞かせて欲しい。まずければまずいと言って構わぬ」 「へ?」 「何じゃそりゃ」 「つーかこれ、誰が作ったんだ?いかにも素人が作りましたって感じだけど」 「…………」 オネイロスは無言で箱をテーブルの中央に押しやった。 いいから食べて感想を言えということらしい。 一同は怪訝そうな顔を見合わせつつ、それぞれにドーナツやケーキに手を伸ばして食べ始めた。 「うん、普通にうまい」 「お菓子作りが趣味のお母さんが作ったお菓子、って味だな」 「スーパーで売っているお菓子よりずっと美味しいと思うわ。流石にプロの味には負けるけど」 「何だかこれ、ヘカーテ様お手製のお菓子と良く似た味がしますね。ヘカーテ様のお菓子はもっとこう…プロに近いレベルですけど」 「とっても優しい味だね」 「そうか。出来に問題はないということだな」 ホッとした様子のオネイロスにマニゴルドが尋ねた。 「で?このドーナツやケーキが何なんだ?」 「実は、この菓子を作られたのはハーデス様だ」 「え?」 「へ?」 「まぁ」 「『今年は余がタナトスヒュプノスのためにバースデーケーキを作る!』と宣言されて、先月からヘカーテ様についてみっちりと菓子作りの特訓をされているの だ。我々や冥闘士達も味見をしていたのだが、連日のように幾つも菓子を食べていると味覚が麻痺してきてな。現時点での菓子が美味いのか不味いのか分からな くなってきたので、第三者の意見を聞いて来いとハーデス様に命じられたのだ」 「ああ、なるほど…」 「毎日毎日ビミョーな味の物ばっかり食ってたら、ビミョーちょい上の味でも美味く感じちゃったりするもんなぁ」 「ま、このクオリティなら問題ないと思うぜ」 「うん、美味しかったね」 「きっとタナトスサマもヒュプノスサマも大喜びだぜ」 「そうか、ならば安心だ。ハーデス様にはそのようにお伝えするとしよう」 皆のコメントに漸く安堵の笑顔を見せて、オネイロスは神の道の通行証を人数分置いて冥界へと帰っていった。 |