| ゲームを終えた冥界の神々はハーデスの神殿に集まって本日のティータイムを過ごしていた。 本日のおやつは地上にいる冥妃ベルセフォネー(の、転生体)お手製の苺ショート。真っ赤に熟した甘い苺がふんだんに使われた贅沢なケーキだ。 そこらの店の物とはレベルが違うおいしいケーキに神々も思わず顔を綻ばせて頬張っていたが、ヒュプノスだけはまだ仏頂面で黙々とケーキを口に運んでいる。 愛しい妃の作ったケーキを噛みしめるようにじっくりと味わっていたハーデスが怪訝そうな顔になった。 「どうしたヒュプノス。このケーキはそなたの口には合わぬのか?」 「そのようなことはございません。大変美味でございます」 「…お前、まだ俺が恋文を盗み出したことを怒っているのか。ゲームはお前が勝ったし恋文のデータも返したし俺もちゃんと謝罪したというのに…相変わらず根に持つ奴だな」 罪悪感の欠片も見えない顔でケロリと言い放つ兄神に、ヒュプノスは腹の底からふつふつと怒りが戻ってくるのを感じた。 じろりと睨むと、流石のタナトスもギクリとした顔で気まずそうに視線を逸らした。 ヒュプノスは飲みかけた紅茶のカップをわざと音を立ててソーサーに戻して口を開いた。 「私はお前ほど忘れっぽくないのでな。愛する妻に宛てて真剣に書き綴った手紙を盗まれ読まれ馬鹿にされゲームの景品にされた怒りは一時間やそこらで消えたりはせぬ」 「…俺が手紙を添削してやると親切に言ってやったのにお前が頑固に拒否するから…」 「親切?しんせつだと?」 「………」 ヒュプノスの本気の怒りのオーラを感じたらしく、流石のタナトスも口を噤んで、俺はそこまで悪いことをしたのか?と言いたげな目で卓についた神々を見回した。 ハーデスは優しい苦笑を浮かべて答えた。 「余がヒュプノスの立場であったとしても、言葉での謝罪を受けて許せるのは恋文を盗み見たところまでだな。タナトスの恋文添削能力を疑っているわけでは決 してないが、妻に宛てた最初の手紙くらいは自分だけの言葉で想いを伝えたいからな。例えそれが、力が入りすぎて恥ずかしくて後から読み返せば照れくさくて 身悶えしたくなるような内容であったとしても、自分の言葉だということが何より大事なのだ」 「………」 「ああ、話が逸れてしまったな。…お前から見れば拙い恋文かただのデータかもしれぬが、それを書いた本人にとっては妻への想いそのものなのだ。愛する者へ の想いをゲームの景品にされ、負けた時にはその想いが伝えたい相手ではない誰かに渡ってしまうのは耐えられぬと思う…こう言えば、ヒュプノスがまだ腹を立 てていることにも得心が行くのではないか?」 「………」 タナトスは手を止めて目を見開いたままハーデスの言葉を聞いていた。 ヒュプノスは目を伏せて黙々とケーキを口に運び、ヘカーテは柔らかく微笑み、オネイロイは感心と納得の表情で頷いていた。 そんな皆の反応を見回したタナトスは視線を落として何か考えていたが。 「そうか…そういうことか。ようやく理解できた。うるさく干渉したりゲームのネタにして悪かったな、ヒュプノス」 タナトスは目を上げて弟神を見遣ると真摯な目で謝罪した。 自分のやらかしたことの重大性をようやく理解したのだろう。 変なところでひねくれて意地っ張りのくせに、どうしてこんな時は素直なのか。そのまっすぐな言葉が妙に照れくさくて、ヒュプノスは兄に目も向けず返事もしなかった。 そんなヒュプノスの態度に、変なところでひねくれて意地っ張りなのは兄神にそっくりだなと神々は微笑ましく見ていたのだが…タナトスは違う意味に解釈したらしい。 言葉の謝罪だけでは足りないか?と呟いたタナトスは、ケーキの上に山盛りになっていた苺を一つフォークに刺して…ヒュプノスに差し出した。 何だか覚えのある展開にヒュプノスは複雑に眉根を寄せ、オネイロイは唖然とし、ハーデスとヘカーテは声を殺して笑い出した。 タナトスはあくまでも真面目な顔で言った。 「これで許せ」 「………。それが許しを請う態度か、タナトス。というか、私の妻への愛の重みはケーキの苺と同等なのか?」 「これで許せと言っているであろう」 「その命令口調は何だ」 「いいからさっさと口を開けろ!ほらヒュプノス、あーん」 「………」 なんだろう、この覚えのある展開は。 タナトスは真剣な顔のままで、オネイロスとモルペウスはどういう表情をすべきか分からないと言いたげな顔を見合わせ、イケロスとパンタソスはプルプル肩を震わせて、ヘカーテは腹を抱えて卓に突っ伏し、ハーデスはにこにこ笑って展開を見守っている。 …この馬鹿兄貴は。 ヒュプノスはさっきとは違う照れくささに顔を赤くしながら言い返した。 「言い方を変えねば分からぬか?言葉の謝罪で許せぬことが、ケーキの苺の上乗せ程度で許せるようになると本気で思っているのか?」 「ああ、思っているぞ」 兄神は真顔で頷いた。 「だってお前は俺を大好きだろう?」 「………」 今度こそヒュプノスは絶句した。 オネイロスとモルペウスは最早思考停止状態、イケロスとパンタソスとヘカーテはとうとう涙ぐみながら爆笑した。冥王ハーデスだけは変わらず柔和な笑みを浮かべている。 ずい。 タナトスがフォークに刺した苺を更に差し出してきたが、ヒュプノスは半ば意地になって口を閉じていた。 子供の時は周囲の雰囲気にのまれてウヤムヤと口に苺を押し込まれて強制仲直りになったが、大人になった今も同じ展開で仲直りと言うのは…何と言うか、受け入れがたいというか恥ずかしいにもほどがあった。 なのに、兄神はそんな弟の心情を慮れないらしい。苛々した様子で見当外れの言葉を口にした。 「苺ひとつで足りぬならふたつでもみっつでもやるから、まずは口を開けろ」 「あのな」 「ヒュプノスよ。タナトスは本気で反省しているのだし、もう仲直りしてやればよいではないか。…さ、これで仲直りするが良い」 そう言って、ハーデスは自分のケーキの上に載っていた苺をフォークに刺してヒュプノスに差し出した。 冥王は輝くばかりの笑顔で言った。 「ほらヒュプノス、あーん」 「………」 「タナトスの反省が本物だということはもう分かっているだろう?お前ももう意地をはるな。さぁこれで許してやれ。ほらヒュプノス、あーん」 ヘカーテまでもが爆笑の名残の涙を目尻に残しながら苺を差し出した。 余りの展開に絶句するヒュプノスとは裏腹に、意外な援軍を得たタナトスが得意げな笑みを浮かべてずいずいと苺を差し出してきた。 「ほらヒュプノス。ハーデス様もヘカーテ様もこうおっしゃっておられる!おとなしく苺をもらって俺と仲直りしろ!」 「………」 「もう正直に言いますけど、俺、今回のゲームは楽しかったですよ。だから、これでタナトス様と仲直りしてください」 「僕もイケロスと同じ意見です。お願いしますヒュプノス様」 イケロスとパンタソスまでケーキの苺をフォークに刺してヒュプノスに差し出してきた。 その様子に、オネイロスとモルペウスまでケーキの苺にフォークを刺したのを見て、ヒュプノスは観念した。 「分かった分かった分かりました、仲直りすればよいのでしょう!皆、揃いも揃って…どこのお笑い芸人の影響ですか!!」 「『押すなよ押すなよ、絶対に押すなよ』のアレか」 「『自分が』『俺が』『私が』『じゃあ僕が』『どーぞどーぞ』ではないのか?」 「どれでも結構です!」 「よし!ではこれで仲直りだな、ヒュプノス」 満面の笑みを浮かべた兄が鼻先まで苺を突きだしてきて、ヒュプノスは渋々その苺を口に入れた。 記憶の中にある苺よりずっと甘い味が口の中に広がり、記憶の中にあるのと変わらぬ笑顔を兄が浮かべた。 『だってお前は俺を大好きだろう?』 何故、兄の言葉がこんなに嬉しいのだろう。 子供の頃からの、いまだに答えの出ない言葉と想い。 …ヒュプノスの長年の疑問の答えは意外な人物から得られることになる。 数日後。 ヒュプノスはエルミタージュ洋菓子店のフルーツロールケーキを手土産に、ヘカーテの神殿を訪ねていた。ゲームの時に約束した『報酬』を払うためである。 遥かな神話の時代にも今回と同じような悶着があったと聞き、ヘカーテは涙ぐむほど笑っていた。 「なるほどな。タナトスが何故ケーキの苺で仲直りしようとしたのかと思っていたが…それでお前を折れさせた前例があったからなのだな」 「また悪しき前例を作ってしまいましたよ」 顔をしかめてぼそりと呟き、ヒュプノスは何気なく…本当に何気なく、長年の疑問を呟いた。 「あれだけとんでもないことをされたのに、どうして 『だってお前は俺を大好きだろう?』と言う言葉でタナトスに腹を立てる気持ちがなくなってしまうのか…我ながら不思議ですよ」 「その言葉が嬉しいからだろう?不思議でもなんでもなかろう」 何の衒いもなく、当たり前のような顔をしてヘカーテが言った言葉にヒュプノスは驚きを隠せなかった。 兄のあの言葉を嬉しいと思っていることをなぜ彼女は分かっているのか、そして何故それが『不思議でもなんでもない』のか。 ヒュプノスの驚いた顔を見て、ヘカーテは怪訝そうに小首を傾げた。 「ん?お前はあの言葉が嬉しくないのか?」 「………。ヘカーテ様は、嬉しいのですか?例えば、その、『貴女は俺を大好きでしょう』とタナトスに言われたら」 「当たり前だろう」 ますます目を丸くする眠りの神に、美貌の女神はクスリと笑って見せた。 「嫌いな奴にそんな言葉を言われたら勘違いも大概にしろと張り倒してやるが、好きな奴に言われるなら嬉しいぞ。私がお前を好きだということを、お前はちゃ んと分かってくれているんだなと思えるからな。ついでに言えば、嫌いな奴に『お前は自分を好きだろう?』と真顔で尋ねる奴はいないと思うしな」 「………」 ヘカーテは何もかも分かっている目で優しく笑っている。 彼女に頼るのは正直不本意ではあったが、長年の疑問に答えを出したい気持ちの方が大きくてヒュプノスは口を開いた。 「タナトスの 『だってお前は俺を大好きだろう?』というあの言葉がどうしてこんなに嬉しいのか、私は未だに分からないのです」 「………」 「答えを、教えて頂けませんか」 「私はさっき答えを教えたつもりだったがな。教えてやってもよいがそれなりの報酬は出すのだろうな?」 「今から考えますので後払いでもよろしければ」 いたって真面目に答えると、ヘカーテは紫水晶の瞳を細めて艶っぽく笑んだ。 私の個人的見解だぞ、と前置きした彼女は指先をくるりと回して見せた。 「タナトスの言葉の『俺』と『お前』を入れ替えて見ろ。それが答えだ」 「 『だって俺はお前を大好きだろう』……?」 「まだピンと来てないという顔だな。ベルセフォネーも言っていたが、本当にお前は頭が良いのに肝心な時にバカなのだな。タナトスならここですべて理解しているだろうに」 「…申し訳ありません」 「ん、お前のふくれた顔もなかなか可愛いぞ」 「………」 「ヒュプノス。お前は、自分こそがタナトスの一番の理解者だと自負しているだろう?」 ヘカーテの言葉にヒュプノスは無言のまま頷いた。 誰よりも長い時を共に過ごしてきたのだ。兄神の好むこと好まざること、行動、考え方、心の行く先、想い…誰よりも正しく把握しているのは自分だと思う。そして同時に自分を誰よりも理解しているのがタナトスだろうとも思う。きっと兄神も同じように考えているだろう。 …という意味合いの事を告げると、ヘカーテはそうだろうなと頷いた。 「そしてお前達は、自分の考えや気持ちなどわざわざ丁寧な言葉で伝えなくとも、少ない言葉で『一を聞いて十を知る』で伝わるのが自分達のデフォだと思って いるだろう?特別なことは意識して伝え合うが、特別ではないと『自分が』認識していることは『わざわざ言わなくても分かっているだろう』と思って…いや、 『わざわざ言わなくても分かっているだろう』とすら思わずに行動を起こして、何かあってから認識がズレていたことに気付く」 「…良くお分かりで」 「第三者の視点からだと、当事者達の見えない部分が見えるものなんだ」 ふふ、と笑ってヘカーテは話を続けた。 「ヒュプノス、お前は『双子の兄なのにタナトスは自分とは何もかも正反対だ』と思っているだろう?」 「…はい」 「タナトスもそう思っているだろうな。『双子の弟なのにヒュプノスは自分とは何もかも正反対だ』と」 「でしょうね」 「それなのに、だ。『あいつは自分と正反対だ』と思っているにも関わらず、お前達は何故か『あいつは自分と同じように考え感じ思うはずだ』と何の疑問も持 たずに思い込んでいる節がある」 「………」 「タナトスの 『だってお前は俺を大好きだろう?』という言葉を私なりに通訳すると、『お前を大好きな俺は、お前が俺にシャレにならない悪戯をしてきても謝罪の言葉と ケーキの苺で許してやる。だから、俺を大好きなお前も、俺がお前にシャレにならない悪戯を仕掛けても、謝罪の言葉とケーキの苺で俺を許すだろう?』とな る」 「………」 ヒュプノスは目を見開いた。 心の奥底に長い間沈んでいた疑問が、氷の女神の言葉で氷解していった。 ああ、そうか。…そうだったのか。 『だってお前は俺を大好きだろう?』 だから、兄のあの言葉がこんなに嬉しかったのだ。 兄神の気持ちをようやく理解できた満足感で、ヒュプノスは柔らかな笑顔をヘカーテに向けた。 「…お陰様で長年の疑問に答えが出てすっきりしました。ありがとうございます」 「こんなことでお前に礼を言われるのも不思議な感じだが…どういたしまして、と言っておけば良いかな」 「その言葉はまだ早いのではありませぬか、ヘカーテ様?私はまだ言葉で感謝しただけで報酬をお渡ししておりませぬ」 「?」 「ヘカーテ様は、今回のゲームで不二子役を頼まれたにも関わらず、これと言った役どころを与えられなかったことがご不満でしたね」 含み笑いを浮かべた眠りの神の言葉に、美貌の女神は面白そうに身を乗り出した。 「…ヒュプノスお前、何を企んでいる?」 「企んでいるとはお言葉ですね。ただちょっと、タナトスが大事にしている何か…例えばネットゲームのレア武器とか…を盗み出して追いかけっこゲームのネタにしたら、あいつはどんな反応をするかなと考えてみただけです」 「ふぅん?考えてみただけ、か?」 「ええ。そういうゲームをやるとしたらヘカーテ様にはどのような立場で参加していただこうかな…とか、考えてみただけですよ」 ヒュプノスはあくまでしれっとした顔で言って、ヘカーテはそれ以上は追求せずに紅茶のカップを口に運んだ。 果物たっぷりのロールケーキを口に運んで、その甘酸っぱさを噛みしめながらヒュプノスは思った。 (見ていろタナトス。私はお前と違って周到に策を練って準備をするぞ) 自分がどんなに策を練っても、あの兄神は全てを蹴散らして突き進んで勝利を手にしそうな気がしたけれど、でも。 タナトスが大事にしているゲームのデータを人質にゲームにつき合わせて、散々振り回した後にケーキの苺を差し出して『だってお前は私を大好きだろう?』と仲直りを強制したら、兄神はどんな顔をするだろう。 自分のしたことなど綺麗に忘れて激怒するだろうか。それともすんなりと負けを認めて大笑いするだろうか。 そんなとりとめも他愛もないことに考えを巡らせるのはとても楽しくて。 ヒュプノスの唇には知らず甘やかな笑みが浮かんでいた。 …数日後。 自身の神殿で読書していたヒュプノスの優雅で静かな時間は、兄神の乱暴な足音で破られた。 タナトスはノックもなしで弟神の私室の部屋をバァンと開いた。 「ひゅっ、ヒュプノス、お前、俺の武器…俺の武器をどこにやった!!??」 「ああ、あれか。ヘカーテ様がおっしゃるにはとてつもなく強力ですごい武器らしいな。しかし、私が使っても全く敵に攻撃が当たらないし使えないことこの上ないのだ。一体どういうわけか…」 「当たり前だ、あれは高レベルキャラクター用のアイテムなのだからな!新規作成したばかりで低レベルのキャラが使ったところで本来の力は発揮されぬ、宝の持ち腐れだ!返せ、今すぐ返せ!!」 血相を変えて喚くタナトスに、ヒュプノスは余裕の笑みを見せた。 「返すのはやぶさかではないが、今すぐとはいかぬな」 「何?」 「ゲームのアイテムならば、ゲームに勝って取り返すのが筋と言うものであろう?」 「??」 怪訝そうな顔をするタナトスに、ヒュプノスはあくまでも人当たりの良い笑みを浮かべたまま携帯と玩具の手錠を手渡した。 …それで全てを理解したらしいタナトスは、何とも言えない仏頂面でヒュプノスを睨んだ。 「タイムリミットは午後3時。お前の勝利条件含めゲームのルールは言わずとも分かっているな?」 「…やってやろうではないか」 「では」 ヒュプノスはにこりと笑って自身のローブの袖口に目印留を貼り、小宇宙のテレパシーで仲間の神々に呼びかけた。 「同士諸君、ゲーム開始だ!」 |
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いろいろ迷って書き直したり削ったり書き足したりしましたが「怪盗」シリーズはこれにて完結です。「子供の頃、ケーキを一口『あーん』で食べさせてあげ
て、大人になった今、それを再現する」というお言葉でここまで来れました。メッセージをくださった方に感謝感謝です。「霊界」で多少羽目を外していたの
で、今シリーズではもっと羽目を外してハジけてみました。ヒュプノスのキャラが崩壊したというか別人になった気もしますが、彼もまた聖戦が終わり平和に
なったことで心境が変化し、それが性格を多少変えたのかも…的に解釈していただければ嬉しいです。 神様みんながケーキの苺をヒュプノスに差し出して「ほら、あーん」とするシーンは書いてて楽しかったです(笑)。 ハーデス様の出番は少なかったですが、存在感を出していただこうと頑張りました。 ヒュプノスの長年の疑問を解決するのがヘカーテ、と言うのは、「 『だってお前は俺を大好きだろう?』というタナトスの言葉の『俺』と『お前』を入れ替えて見ろ」というセリフも含めて当初の予定通りです。うまく言葉で説明するのは難しいのですが、言いたいことは伝わったでしょうか…。 ちなみに迷って没にした部分を↓に乗せておきます。没にした理由は、ヘカーテが恋する乙女すぎるかなと思ったことと、ヒュプが陰険すぎるかなと思ったことです。 『だってお前は俺を大好きだろう?』 だから、兄のあの言葉がこんなに嬉しかったのだ。 「謝罪の言葉とケーキの苺でシャレにならない悪戯を許してもらえるなんて…私はお前が羨ましいよ、ヒュプノス」 ヘカーテは拗ねたような視線を色っぽい仕草でヒュプノスに向けた。 肝心な時に限って鈍いヒュプノスでも、今回はヘカーテの言葉の意味を正しく理解することができた。 「…ヘカーテ様がシャレにならない悪戯をタナトスにしかけた時は、仲直りするためにラッコが必要でしたね」 「そうだ。ケーキの苺とラッコ…雲泥の差ではないか」 「お言葉を返すようですがヘカーテ様、結論を出すには早すぎるかと」 「?」 長年の疑問が氷解した嬉しさと兄神の考えをようやく理解できた満足感で、ヒュプノスは柔らかな笑顔をヘカーテに向けた。 「あの時のヘカーテ様は、ケーキの苺を出す前にラッコ提供を提案されたではありませぬか。ケーキ持参で謝罪に来て、苺をやるから許せと言ったらタナトスは折れたかもしれないでしょう」 「ん?うーん…まぁ、試していないから有り得ないと断言はできぬが…」 「それに、です。タナトスは『ヒュプノスが俺の恋文を盗んでゲームのネタにしても、謝罪とケーキの苺で許してやるのに』と思っているかもしれませぬが、いざ自分の大事なものを私に盗まれてゲームのネタにされたら、謝罪とケーキの苺では許さないかもしれませぬ」 「…何か考えがあるのか、ヒュプノス?」 期待に目を輝かせて身を乗り出したヘカーテに、ヒュプノスは困り顔の微笑を返した。 「正直、やられっぱなしは悔しいので仕返しをしてやりたいのですが…私の恋文と同じくらいタナトスが大事にしていて、ゲームのネタに手軽に使えるものが何か思いつかぬのですよ」 「ヒュプノス。そのゲームのネタを私が提供してやるから、今度はお前がゲームを主催せぬか?」 「…ヘカーテ様が共犯になって下さるのなら…そしてゲームの主催が先ほど頂いた答えの報酬になるのなら喜んで」 ヒュプノスが悪だくみをする越後屋のような目配せをすると、ヘカーテは心得た悪代官のような顔で頷いて手近にあったノートパソコンの電源を入れた。 ネットゲームのアイコンをクリックしてゲームを起動すると、彼女は慣れた手つきでIDとパスを入力してゲームにログインした。 「これはタナトスのIDだから、このキャラもタナトスのキャラなんだがな」 画面に映ったほっそりした銀髪のキャラはまあまあタナトスに似ている(よく見れば名前も『タナトス』だった)。 これがどうかしたのかと不思議そうなヒュプノスに、ヘカーテはゲームキャラの『タナトス』が持っている華奢な割に豪華な剣を指さした。 「この武器は、このゲームの世界に数本しかない貴重品、超が付くレアアイテムだ。タナトスは先日、大金…と言ってもゲームの世界のだが…を払ってこの武器 を手に入れたんだ。しかもこれは金を積めばいつでも手に入るという武器ではない。ゲーム内にいる特定のボス敵を倒した時に一定の確率で出現するものだから、値段なんてあってないようなものだな」 「つまりこの武器がなくなったらタナトスは大騒ぎ、と…」 「そういうことだな」 「ほう…それは面白そうですね」 ヒュプノスはヘカーテに教えられるままにゲームのキャラクターを新規作成し、タナトスご自慢のレア武器を作ったばかりのキャラに移動させ、ついでにゲームのシステムを使ってゲームキャラの『タナトス』宛てに『お前の武器は預かった』旨のメッセージを送っておいた。 …タナトスは仕事で出かけていて、エリシオンに帰って来るのは数日後だ。 それまでにゲームの詳細を決めておかなくては…と、ヒュプノスは楽しげに含み笑った。 ネトゲの経験がある方なら「ゲーム内のレアアイテム」がプレイヤーにとってどれほど重要かわかって頂けると思います(笑)。 ちなみに私が一時期はまっていたゲームでの一例ですが…。モンスターを1匹倒してもらえるお金は100〜1000くらい。敵を倒すにもアイテム(お金) を使うので、実質プラスマイナスゼロです。まれに敵が落とすお金以外のアイテムを換金してお金を貯めて、より良い装備やアイテムを買うわけですね。 で、強いボスを倒すイベントに参加して、ボスがレアアイテムを出した場合(←ここ重要。ボスを倒してもレアアイテムを出さないこともある)、イベントの 参加報酬として300万〜2000万、ゲーム内のお金がもらえます。で、「ゲーム世界に数えるほどしかないレア武器」のお値段は30億くらいします (笑)。しかもその武器はまたお金をかけてオプションをつけなければ使い物にならず、最低限のオプションをつけるだけでまた数億かかります。ここまで手間 暇とお金をかけた武器がなくなるということは、RPGをやりこんだデータが全部吹っ飛ぶくらいのショックです(笑)。 で、「でもボスを倒すイベントに何度も出ればお金はたまるよ!」と言いたいところなのですが。 良いものを出すボスになればなるほど、イベントに参加するためのキャラクターの条件が厳しくなります。レベルだったり、装備品だったり、はては人脈だったり。お金をもらうイベントに参加するために、お金をかけて装備を整えなくてはいけないというパラドックス(笑)。 まぁつまり。 ネトゲで超レア武器を手に入れるのは物凄い手間暇と時間がかかるのです。真っ当でない手段で手に入れる人もいますが、そういう行為は大抵ルール違反です…。 ちなみに↑で、ヘカーテがタナトスのIDでログインしていますが、こういう「他人のIDでログインする」行為を禁止しているネトゲは多いです、念のため。 |