| …神奈子が霧雨のように弾をばらまき、諏訪子が迫りくるレーザーでふたりの逃げ道を塞ぎながら巨大な弾で攻撃してくる。しかも、回避行動をとるふたりを僅かではあるが追尾してくるのが面倒だ。緩急を付けた攻撃の合間をくぐろうとした途端。 ピチューン。 敵の攻撃に当たった効果音がして、タナトスは軽く舌打ちした。 「外の神様、被弾!これでスコアは2-2よ!次に被弾した方が負け、どっちも頑張れぇ〜〜!!」 天狗が扇をマイクに見立てて叫ぶと、ギャラリーから次々と応援の声が飛んできた。 双子神の攻撃をするすると避けながら、さてどうしたものかと神奈子は考えた。勝負を始めた最初こそタナトスもヒュプノスもルールに戸惑い手探りのよう だったのでゆるゆると攻めていたが、コツを掴んで役割分担を始めた彼らのコンビネーションはさすが双子と感心するものだった。 兄神タナトスが二つの技で切れ目なく攻撃を続け、弟神ヒュプノスは防御と兄のサポートに専念している。四方八方からフラフラと、かつ追尾機能付きで亡霊 が襲ってくるタルタロズフォビアと、神奈子や諏訪子の攻撃を巻きこみつつ真正面から問答無用でぶっ飛んでくるテリブルプロビデンスというシンプルな攻撃は シンプル故に対処が難しく、ふたりがこれでもかと弾を撃ってもヒュプノスが結界を張ってあっさりと処理してしまう。 神奈子は粥のごとく弾をばらまき、目の前で見た目だけ大きさが変わるそれに双子神が戸惑い動きを制限されているのを見ながら諏訪子に声をかけた。 「ねぇねぇ諏訪子、これ以上長引いたらこっちが不利な気がするんだけど、攻めても攻めてもヒュプノスの結界に弾かれて終わりじゃない?このままじゃ私達ジリ貧よ。どーする?」 「どーする?とか言いながら楽しそうじゃない、神奈子。ま、弟さんの結界が面倒って言うのは同感だから…」 諏訪子はくるりと目を回してニヤリと笑った。 「ヒュプノスを私が押さえつけるから、神奈子とタナトスがサシで勝負、っていうのはどう?」 「乗った」 神奈子はウインクすると、杉が繋ぐ古き縁のような攻撃に切り替えた。 …放たれた弾を、双子神は右と左に別れて避けた、その直後。 風を踏んで走った『ふたりの』諏訪子がヒュプノスに迫り、その両腕を掴んで結界に叩きつける勢いで眠りの神を連れ去った。 「!?」 「な…分身!?」 タナトスからヒュプノスを引き剥がした『ふたりの』諏訪子と、反対側で力を使っている様子の『ひとりの』諏訪子の姿に双子神が状況を理解した時には、ヒュプノスは諏訪子の分身に完全に抑え込まれていた。 それを見た天狗が扇を神奈子達の方に掲げた。 「外の神様、被弾!よってこの勝負…」 「今のはノーカウントよ!」 「へっ?」 ゲームセットを宣言しようとしていた天狗が神奈子の声にきょとんとして、結界に抑え込まれたヒュプノスと諏訪子の分身を見た。 言われてみればヒュプノスは諏訪子の分身に連れ去られただけで体当たりをまともに食らったわけではない。事実、被弾の効果音もなかった。 天狗は一度は掲げた扇を慌てて降ろした。 「すいません先走りましたっ!試合続行です!」 「……はぁ…」 「では仕切り直しね」 タナトスはほっと安堵の息を吐いて大鎌を握り直し、神奈子はきちんと背筋を伸ばしてゆるりと両手を広げると攻撃態勢に入った。 「タナトス。このまま埒の明かない削り合いをしてもつまらないし観客も飽きるでしょ。そろそろサシで勝負を決めようじゃないの!」 「フッ、良いだろう。受けて立ってやる」 「その眼に焼きつけるが良いわ、風神の神徳をね!!」 ひときわ強い突風が吹きぬけ、神奈子が自分の周囲に護符を撒き始めた。 いきなり護符を全て吹き飛ばしては面白くあるまいと、タナトスは風に乗り迫りくる護符を踏むように避けながら神奈子に近づこうとしたが、彼女を中心に円心状に護符が撒かれているので近づくにも限界がある。 護符は今までのようにバラバラに撒かれる訳ではなく、かといって追尾性能が有るわけでもない。ある程度の規則性があるようだからしばらく様子を見るか… と軽やかに舞い踊る護符を避けていたタナトスは、徐々に符が撒かれるスピードが上昇して行く事に気付いて軽く眉根を寄せた。 このままでは逃げ道を塞がれ追い込まれて負ける。 死神は小さく舌打ちして反撃に転じた。 ローブの袖口から無数の霊を出して目の前の札を掻き消し、再び札が飛んでくるまでの僅かな隙にテリブルブロビデンスを撃った。神奈子は回避行動を取るだろう、そうしたら彼女の逃げた先を狙って…。 が。 神奈子は坐したまま無数の護符でテリブルプロビデンスを相殺した。 (…あの女の小宇宙は底なしか) タナトスは唇を曲げた。 病み上がりで幻想郷独自の決闘ルールなど馴染みの無い自分達を相手にして、本来の力を取り戻した大和の神々が本気を出しているなどと思っていなかったが、これだけの無数の護符を具現化して結界全体にばら撒きつつタナトスの攻撃まで掻き消す余裕があるとは。 諏訪子がヒュプノスの抑え込みに回るという形で戦線離脱したのもさりげないハンデと言う訳か。 …女にここまで舐められて負けるわけにはいかぬな。 タナトスは大鎌を一閃し護符を吹き飛ばすと僅かに出来た隙間を縫って距離を詰めた。神奈子が結界のごとく撒き散らす符を片っ端から叩き落とし、テリブル プロビデンスを放つ。風神が顔をしかめて防御態勢に入ったところをタルタロズフォビアで囲い込む。すかさず神奈子が無限に沸き出る護符で亡霊を相殺する。 まさかの接近戦を挑み始めた死神と奇襲とも言える攻撃にも全く動じず対処している神奈子の戦いにギャラリーの声援はますます大きくなり、結界の隅に追い込まれたヒュプノスは神奈子がばら撒く札から身を守り固唾をのんで戦いを見守っていた。 …刹那。 タナトスの放った亡霊の一匹が護符を掻い潜り神奈子に突進した。神奈子がしまったと言う表情になり、タナトスが勝利を確信してニヤリと笑ったその瞬間、ちょうど死角になる位置から護符が飛んできた。 ぴぴちゅちゅーーんん。 被弾した時の効果音が二つ、同時に鳴った。 「………」 「………」 神奈子もタナトスも攻撃を止め、顔を見合わせ、複雑な顔をしている諏訪子とヒュプノスを見て…四神は審判役の天狗を見た。 試合をしていた当人達だけでなくギャラリーからも注目を浴びた天狗はしばらく腕を組んで考え込み、にこりと笑って両手を掲げた。 「同時被弾!よってこの試合、引き分け!!」 ギャラリーからわーっと歓声が上がり、神奈子とタナトスはまぁいいかと言いたげに笑い、諏訪子はヒュプノスの前に降り立つと分身を消してヒュプノスに手を伸ばし引っ張って立たせた。 「ここまでハンデを貰って引き分けか。病み上がりとは言え情けないな」 「何を言ってくれちゃうのよ。こっちは3-0で勝つ気でいたのよ?」 「ちょっと神奈子、接待って知ってる?」 「神を相手に親善試合をするは久しぶりだが、とても楽しかったぞ。遊びと割り切った勝負事も楽しいものだな」 八坂・洩矢の二神と双子神はにこやかに言葉を交わし握手をすると。 その姿を遠慮なく撮影していた天狗が、ペンとメモを片手に駆け寄ってきた。きっと試合とは関係の無い事を取材と称して聞きまくるのだろう。 妖怪や人間や神々から山のような土産を渡され、『人間が生きてる間にまた来てよ!』と何度も念押しされて、タナトスとヒュプノスは名残を惜しみながら幻想郷を後にして主君ハーデスの待つ冥府に帰還していた。 河童お手製のピクルスを齧り天狗の出版した新聞を読みつつ、臣下達の熱心な話をあいずちを打ちながら聞いていたハーデスは、ふたりが話を終えると柔らかく目元を和ませてさらりと言った。 「ふたりとも、まるで幻想郷の神々が時代の最先端を行っているような話しぶりだが、そんな事はそなた達が神話の時代にやっていたではないか」 「え?」 「それはつまり、我々が人間や妖怪から信仰を集めていたと言う事ですか?」 「人間や妖怪と仲良く友達付き合いをする事が信仰を集める最新の手段なのだろう?ならば人間であるオルフェウスや、魔物であるケルベロスやワイバーンと仲良くしてきたそなたらは『時代の最先端を行く信仰集め』をしていたと言えるのではないか?」 「………」 ハーデスの指摘にふたりは絶句した。 タナトスもヒュプノスも、オルフェウスに対して『我は神だ、敬えよ崇めよ畏れよ称えよ奉れよ』と要求する事は無かった。魔物達もペットではなく友達(タナトス曰く子分)として接してきた。 異国の神である神奈子や諏訪子に改まって説明を受けたからひどく特殊で斬新に思えたが、言われてみれば双子神とオルフェウスや魔物達との付き合いは彼女達の言う『時代の最先端を行く信仰集め』に当てはまる。 余りにも当たり前に目の前にあったからこそ見落としていた事実に今更気付いて、呆然と顔を見合わせる臣下にハーデスは優しく言葉を続けた。 「そなたらはかつて敵だった天馬星座らと和解し、再会の約束もした。タナトスは魔界の大統領にまで就任したのだろう?ならば改めて身構えなくとも、既に人間や妖怪から信仰を集める条件は満たしているではないか」 「そう…です、ね」 「いや、しかしですねハーデス様。天馬星座らはアテナの聖闘士です。現役を引退したとはいえ、奴らが俺を信仰するとは思えません。それに魔界の妖怪達も霊界の仲間である俺を信用などするか…」 論理型思考回路のヒュプノスはハーデスの言葉に割と素直に納得したが、天邪鬼のタナトスは反論の為としか思えない反論をして来た。 全くこの兄貴は素直でないのだから…と言いたげな顔をしている弟神をちらりと見て、ハーデスは手を顎に当てて大袈裟に考える仕草をして見せた。 「ふむ…確かにタナトスの言うとおり、我々から遠い位置にいる人間や妖怪から信仰されようと言うのは非効率的な気がするな。まずは足元をしっかりと固めて近い場所から取り込んでいくのが得策であろう」 「…と、おっしゃいますと」 「折を見て話そうと思っていたのだが、丁度良い機会だから今話すとしよう。そなたらに冥闘士の管理を一任したいのだ」 「………」 「見ての通り余は満足に指示を出す事も出来ぬ。現在は余やそなたらやオネイロイや、時にはヘカーテが指示を出しているが、色んな上司からバラバラに指示を 出されては現場も対応に困るであろう。今は三巨頭がうまく調整しているようだが、冥闘士を管理する者をきちんと決めなくては…と、ずっと思っていたのだ。冥闘士達なら冥界の神であるそなたら を信仰する下地はある。そなたらが冥闘士達と交流し信頼関係を築き絆を強めておくのは決して悪い事ではなかろう?万が一、前聖戦のように獅子身中の虫がい たとしても、すぐに内部からそなたらの耳に報告が届けられよう」 「え…ええ、まぁ、確かに…」 ハーデスの言葉に反論の余地はなく、曖昧に言葉を濁して複雑な顔をするタナトスに、冥王はにっこり笑って最大の殺し文句を囁いた。 「冥闘士達はオルフェウスほど素直でも可愛くも無いかもしれぬが、彼らをそなたの子分だと思って、良い親分になってやってくれぬだろうか?」 「………」 タナトスは目を丸くして、言われた言葉を反芻するように空を仰ぎ、子分か…と呟いて口元を綻ばせた。 友達付き合いには強い抵抗があるが、親分・子分と言う関係なら問題ないらしい。銀の神はいかにも仕方ないなと言う表情を作って頷いた。 「ハーデス様のご命令とあらば」 「そうか、引きうけてくれるか。では早速冥闘士達に通達を出すとしよう。そうだな…今すぐ集まれと言われては彼らも慌てるだろうし、一時間後くらいで良かろうか」 「そうですね。では、それまでに私が演説の文言を考案致しましょう。ハーデス様は満足に動けぬゆえ、冥闘士の管理は臣下の双子神に一任する。 以後、彼らの指示に従い動くように。双子神も積極的に冥闘士に力を貸す意思がある…大まかな内容はこのような感じで、適当にそれっぽく文章を装飾すればよろしいで しょうか」 「そうだな。そういう方向性で頼む」 「では、ハーデス様からお話がある旨を冥闘士達に伝えに行ってきます」 言うなりハーデスの返事も待たずにタナトスは立ちあがり、鼻歌でも歌い出しそうな上機嫌で部屋を出て行った。 兄神が出て行った扉を見送ってヒュプノスはそっと微笑んだ。 「ハーデス様は、私以上にタナトスを動かすのがお上手でいらっしゃる」 「そんな事は無いぞ。余は正直に思った事を告げて、やって欲しい事を素直に頼んでいる…ただそれだけだ」 そう答えたハーデスは意味深に微笑んでいる。 つまりは『ヒュプノスは思った事を正直に言わないし、やって欲しい事を素直に頼まないからタナトスを動かすのが下手なのだ』と暗に言っているわけだ。 眠りの神は曖昧に笑みを返してさらりと話題を逸らした。 「しかし、人間や妖怪から信仰されれば我々冥界の神の力が強くなるなど…そのような事が有り得るのでしょうか」 「分からぬ。しかし分からないと有り得ないはイコールではなかろう。…それに」 ハーデスは言葉を切って私室の窓から外を見た。 その視線はエリシオンの花畑より更に遠く、冥闘士達が働く冥府を見つめている。 「我々から歩み寄れば、きっと人間も我々に歩み寄ってこよう。そうすればきっと、タナトスが言われもなく人間達から忌み 嫌われる事は無くなるだろう。オルフェウスのようにタナトスを慕う者も現れるかも知れぬ。信仰が得られなくとも、神の力が強くならなくとも、それで十分だと余は思う。そしてそなたやタナトスも同じように思うであろうと信じている」 「………」 冥王の言葉にヒュプノスは無言で睫毛を伏せた。 タナトスが人間と親交を持つ気になったのは、彼らの信仰を得て己の力を高めるためだ。しかしきっと、兄神は遅かれ早かれ手段と目的を取り違え、取り違え たままで周囲を巻き込み、それでも迷わずに意気揚々と皆の先頭を歩いて行くだろう。手段と目的を取り違えた事に途中で気付いても、楽しいから、面白いから これで良いと言って。 きっとそれで良いのだ、とヒュプノスは思う。 手段と目的を取り違えても、手段の楽しさに本来の目的を忘れても、いつの間にか最善の結末に辿り着くのがタナトスなのだから。それこそが、短慮で、考え無しで、愚かで、正直で、まっすぐで、愛おしくて、尊敬に値する、ヒュプノスが慕ってやまない自慢の兄なのだから。 |
| 星矢部屋 | 総合目次 | SS・2012時代 | SS・神話時代 | SS・蟹座達 |
| 引き続き神様の弾幕ごっこの攻撃解説。神奈子:お天水の奇跡→諏訪子:二礼二拍手一礼→神奈子:神の粥、杉で結ぶ古き縁→諏訪子:宝永三年の赤蛙→神奈子:マウンテンオブフェイス オチはどうやって付けようか散々悩んで、今後のSSに繋ぐ事を考えつつ「再会」ラストとリンクするような形で終わらせました。そして最近、ハーデス様が しっかり大人な主君に成長してくれて嬉しい限りです。双子神は変なところで灯台もと暗しなところがあるので、そこをびしっと突っ込んでくれるのは有難い。 で、タナトスが冥闘士達や人間達に積極的に関わるようになった理由はこのシリーズで説明できたかな、と思っています。 タナトスが人間や妖怪と信仰するのは、「彼らの信仰を集めて自分の力を強くするため」と言うのが本音であり建前の理由です。で、何で強くなりたいかって 言うと、無印聖戦でハーデス(と、ヒュプノス)を守れなかった自責の念と、ヘカーテよりも強くなったら自信を持って彼女と付き合える(恋人としての交際と 言う意味とは限らない)、的な考えが無意識にあります。 んで、ハーデスとヒュプノスが予想してる通り、タナトスは目的と手段を取り違えます(笑)。強くなるための手段として人間達と交流を始めたんだけど、交 流が楽しかったり面白かったりで、「人間達と面白楽しく交流する事」にいつの間にか目的がシフトしてる。で、しばらくして目的と手段を取り違えた事に気付 くんだけど「面白楽しいからまぁいいか」となる。人間達と仲良くなったのに一向に神の力が強くならなくても、「楽しいから別に構わん。それはそれ、これは これ」とタナトスは思うし、人間達がタナトスを好きになってくれればそれは十分良い結果が得られたと言える、とハーデスとヒュプノスは思っている訳です。 んで、一応、人間との交流が上手くいかなかった場合ですが。上手く行かなかったら、タナトスは「人間と交流しても面白くない」と交流を止めるだろう。交 流しなければ信仰が集まらず力も強くならないが、それは「交流しなかったんだから仕方ない」とタナトスは納得して文句は言わないだろう。人間と親交して楽 しければ「強くならなくても楽しいからOK」、親交が楽しくなければ「交流しなかったから強くなれなくて当たり前とタナトスは納得して現状維持」…まぁ どっちに転んでも決して悪い結果にはならない、とハーデスとヒュプノスは思ってたんだよ、ってことです。 |