| クリスマスパーティーから一週間後、大晦日の夜。 双子神とヘカーテは月桂樹の身体にハーデスの魂を入れて地上を訪れていた。 「それにしてもすごい数の人間だな。小宇宙のテレパシーも併用しないと碌に話も出来ぬとは」 「日本人は神を信仰しなくなったと言うが、まだまだこうして集まっているのだな」 「まー年末年始はな。それにここは有名な神社だし」 吐く息は白く闇空に消えていく。 大晦日の神社は普段とは比べ物にならない人出で、子供の体のハーデスは押し潰されては困るとタナトスに肩車されている。 双子神は毛糸の帽子を目深にかぶってマフラーで口元も隠しているので、『半端に顔が売れたタナトス』に話しかけてくる人間も今夜ばかりはいなかった。 コーン、コーン…年明けを告げる除夜の鐘が鳴り始めると、集まった人々はぞろぞろと神社の本堂に向かって歩き始めた。 流されるまま歩きながら、ところでさ、と星矢はタナトスに肩車されているハーデスを見遣った。 「ハーデスサマは地上には来ないんじゃなかったっけ?」 「余もそのつもりだったのだが…。タナトスとヒュプノスが『冥妃様に会わなければギリギリセーフだから、今年だけは日本の神に挨拶をしに行きましょう』と 言ったのでな。余が妃を見つけられたのも、こうして臣下がこの国を訪れてあれこれと活動できるのも、大和の神のおかげであろう。ならばきちんと礼を言わね ばならぬと思ってな」 「ギリシアの神であるあんた達がどうして日本の神を参拝するのかと思ったら、そういう訳だったのか」 「私は個人的な頼みごとをしに来たんだけどな」 「神様が神様に?」 「ん、まぁ異国の友人を頼るようなものだ」 「ああ、なるほど」 そんな雑談をしつつ何とか本堂の前まで来た神々と聖闘士達は、景気良く五百円玉を賽銭箱に入れて参拝した。 人ごみに流されつつ何とかそれなりに空いている…と言っても人をかき分けなくても歩ける程度だが…場所まで着た一行は、缶コーヒーを飲みながらホッと一息ついていた。 「そう言えばさ、カミサマ達は日本の神様に何を頼んだんだ?差し支えなければ教えてくれないか?」 「余は妃が今年も息災で幸せであれるよう頼んだ」 「私はクリスマスに貰ったこの指輪が本来の意味を発揮するように力を貸してくれと頼んだぞ」 「………。ここって縁結びの祈願も受け付けてたっけ?」 「さぁ…」 「色恋担当の神がここにいなくても別に構わん。ギリシアの女神がこんなことを要請していったぞと伝わればそれで良い」 「なるほどねー。で、ヒュプノスサマは何を頼んだんだ?ヘカーテ様にお兄ちゃんを取られませんように、とか?」 星矢の言葉に眠りの神は微かに眉根を寄せて、いや…と答えた。 「私は訳あって今は妻と離れて暮らしているのでな。昔のように妻と一緒に暮らせるようにと願っておいた」 「妻?え、何、ヒュプノスサマって奥さんいたの!?」 「何で別居しちゃったんです?アレですか、嫁姑問題とかってやつですか?」 「ああ、確かヒュプノスは母ニュクスとの間に子供がいたしな…。連れ子の母が姑では問題も起きるだろう」 「勝手な推測で納得するな!私が妻と離れていたのは聖戦のためだ!」 「ああ、なるほど…」 「何を見栄を張っているのだヒュプノスよ。お前がパシテアと別居を始めたのは聖戦が始まるずっと前…、…っ!!」 素で突っ込んだタナトスが、手加減なしの本気でヒュプノスに足を踏まれて顔をしかめた。 何か抗議しかけた銀の神に、金の神は恐ろしく据わった目を向けた。 「お前にだけには見栄を張っているなどと言われたくないぞ。お前にだけは」 「………」 タナトスは凄まじく不満そうな顔をしながらも大人しく口を噤んだ。 ヘカーテと恋仲だと言うのが星矢達に対する見栄から出た嘘だとばらされては色々と困るからである。 むくれた顔でそっぽを向いたタナトスに星矢は無邪気に声をかけた。 「じゃーさ、タナトスサマは何を頼んだんだ?」 「人間どもが今後も俺を信仰するように、だ。人間が俺を信仰すればするほど神の力は強くなる。そうすれば、仮にお前がまた神聖衣を纏ったとしても俺は無様に負けたりせぬぞ!」 「な、なんだと…!タナトスサマ、二流の神の汚名を挽回する気満々か!」 「その通り…ん?ちょっと待て天馬星座!それを言うなら『汚名を返上』であろう!取り戻してどうする!」 「チッ…日本人でも時々間違える奴がいるから引っかかるかと思ったのに…」 「貴様…。今後の態度次第では罪を軽くしてやっても良いかと思っていたのに、そんなにコキュートスに行きたいのか。いいだろう、ならば望み通りにしてやるぞ」 タナトスが不貞腐れて吐き捨てた言葉に、星矢は目を丸くした。 「え?いや、ちょい待ちタナトスサマ!今の無し!つか間違い!」 「何を今更。挽回と返上を言い間違えたなどという言い訳は聞かぬぞ」 「違う違う!バンカイはバンカイでも、ほら、あれだよあれ、あっちの…そう、斬魄刀を開放して出す『卍解』の方だって!」 「ほう?では聞くがな、汚名を卍解したらどうなるのだ。汚名がパワーアップするだけではないのか?」 「分かってねーなタナトスサマ!今はB級グルメで日本征服できる時代だぜ!」 「……………」 星矢の無茶苦茶な言い訳に神々も聖闘士も一瞬あっけにとられ、そして笑いだした。 よっしゃぁ、ウケは取ったぜ!とガッツポーズする星矢に、タナトスはあからさまに見下した態度でニヤリと笑った。 「いいだろう。俺を笑わせたことに免じて先ほどの失言は不問にしてやろう」 「マジで!?サンキュー、タナトスサマ!」 「ただし不問にしたのは先ほどの失言だけだぞ。俺に手を上げた罪までは不問にしたわけではないからな」 「分かってますって。今後の心掛け次第なんだろ?」 「そうだ。俺を信仰すると誓うなら、お前の罪を軽くするようハーデス様に口を利いてやらんでもない」 「アンタ…それがアテナの聖闘士に対して要求する事か?」 「『元』聖闘士だ、と貴様は事あるごとに言っているではないか」 「う、うーん…」 和解が成立し親しく交流が始まったとはいえ、現役を引退したとはいえ、コキュートス行きは本気で遠慮したいとは言え、アテナの聖闘士である自分が冥界の神を信仰するのは…と真剣に悩んでいる星矢に、タナトスは穏やかに声をかけた。 「天馬星座よ。お前は俺を友人だと思っているか?」 「え?あ、うーん…カミサマを友達と思うかって言われたら悩むけど…でも、俺のタナトスサマに対する認識つーか気持ち的なもんは、友達って言うのが一番近いかなぁ…?」 「なら良い」 「へ?」 タナトスが幻想郷で聞いた話など知らない星矢は、傲岸不遜な死神様の意外すぎる言葉にますます目を丸くした。 その言葉の意味するところが何なのか聞きたそうな顔をしている星矢に悪戯っぽい笑みを見せて、タナトスはもう一度呟いた。 「それで良いのだ」 「はぁ…。何か良く分かんないけど、きっと聞いても教えてくれないんだろーな。まぁいいや、忘れた頃にどういう意味なのか聞くとするか。…あ、そうだそうだ!大事な事を言い忘れてたぜ!」 「?」 怪訝そうな顔をする神々と瞬と一輝を見回して、星矢はにっこり笑って今この場に一番ふさわしい挨拶を元気よく口にした。 「新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします!」 その言葉に皆がにこりと笑い、同じ言葉を返してきた。 あけましておめでとう。 今年もよろしく。 …そして、これからも。 |
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| 本当はここでエピローグとなるはずだった大晦日の話です。12話でハーデスは(ベルセフォネーが転生するまで)地上には来ないような事を言ってました
が、これが最後って事で地上に来て頂きました。神々の大晦日〜初詣の話をどこかで書けたら…と思っていたので、消化できたことに満足です。彼らが着物を着
てくれなかったのは残念ですがそれはまた機会があれば。 中盤の星矢とタナトスの漫才は当初はもうちょっと長かったのですが、どこまで行ってもオチが無いので挽回と卍解をかけて無理矢理落ち付けました。ヒュプ がブラコンだとかタナトスがブリーチ読んでるとか何で星矢達は知ってるの?と思われそうですが、双子神やヘカーテはたびたび地上を訪れているのでその時の 雑談で知ったのではないかなと思っています。 そして星矢がコキュートス行きを免れることが出来る可能性もちょっとだけ示唆したり。 このSSを読んで下さった方から「彼らの未来が明るく幸せなものだといいな」と言うメッセージを幾つか頂いたので、それを匂わせる要素を12話、大晦 日、未来と三つの話に入れてみました。 本当はここでエピローグとなるはずだった大晦日の話です。12話でハーデスは(ベルセフォネーが転生するまで)地 上には来ないような事を言ってました が、これが最後って事で地上に来て頂きました。神々の大晦日〜初詣の話をどこかで書けたら…と思っていたので、消化できたことに満足です。彼らが着物を着 てくれなかったのは残念ですがそれはまた機会があれば。 中盤の星矢とタナトスの漫才は当初はもうちょっと長かったのですが、どこまで行ってもオチが無いので挽回と卍解をかけて無理矢理落ち付けました。ヒュプ がブラコンだとかタナトスがブリーチ読んでるとか何で星矢達は知ってるの?と思われそうですが、双子神やヘカーテはたびたび地上を訪れているのでその時の 雑談で知ったのではないかなと思っています。 そして星矢がコキュートス行きを免れることが出来る可能性もちょっとだけ示唆したり。 このSSを読んで下さった方から「彼らの未来が明るく幸せなものだといいな」と言うメッセージを幾つか頂いたので、それを匂わせる要素を12話、大晦日、未来と三つの話に入れてみました。 |