双子神2012・ 林檎
EPISODE 3


 エリシオンでタナトスとヒュプノスが林檎をつまみながらささやかな兄弟喧嘩をしているその頃。
 地上では、城戸財閥系列の会社を星矢と瞬、一輝が訪ねていた。タナトスのマネージャーがすっかり板に付いてきたマニゴルドに呼ばれたためである。
 星矢が会議室のドアを開けると、パソコンにヘッドフォンを繋いで真剣な顔で音楽を聞いていたマニゴルドが二カッと笑ってヘッドフォンを外した。

「よく来たなお前達!せっかくの休みなのに呼び出して悪ぃな。ま、とりあえず座れや」
「…マニゴルドってさぁ、俺達より一回り年下なのにビュービュー先輩風兄貴風吹かすよな。別に年上を敬えとか言う気は無いけど」
「肉体年齢は確かにお前達より下だが、俺はシオンや童虎と同期だぞ?二百ウン十歳で元黄金なんだからお前達より年上で先輩だろーが」
「その二百ウン十年の9割くらいは肉体どころか魂も無かったはずだが…」
「はいそこ!タナトス様が来るまで時間がねーんだから細かいとこ突っ込まないでさっさと座る!あ、置いてあるパソコンは好きに使っていいからな」

 バシバシ!
 マニゴルドがわざと怒ったようにテーブルを叩くと、三人は苦笑しながら椅子に腰を降ろした。

「それで、僕達が呼ばれた理由ですけど」
「おう」
「タナトス様が歌う戦隊モノのテーマソングをどれにするか決める為に意見を聞きたいんですよね?どうして僕達だけを先に呼んだんですか?」
「いい質問だ、瞬。しかし大事なところが間違ってるぜ」
「?」
「戦隊モノのテーマソングをタナトス様が歌うとはまだ決まってない。『何が何でも首を縦に振らせろ』と社長お嬢様から厳命は出てるがな」
「えっと…じゃあ、どうやってタナトス様にテーマソングを歌う事をOKさせるか作戦練ろうってことか?」
「そーゆーこと。よく分かってんじゃねーか、星矢」

 マニゴルドはうんうんと頷きながらヘッドフォンをくるくると回した。

「あの神様ってば天邪鬼だろ?真正面から『テーマソング歌え!』って要求したら意固地になって拒否しそうだし、俺とかサガがあれこれ言うより、一応部外者 のお前達がさりげなーくおだてた方が話がまとまりやすいんじゃないかと思ってよ。そのパソコンの『戦隊』ってフォルダにテーマソング候補の歌が入ってるから今のうちに聞 いておいた方が良いぞ」
「随分と仕事熱心だな、マニゴルド」
「ったりめーだろ。タナトス様がテーマソングを歌う事を了解したらボーナス5割増し、戦隊モノへの出演も了解したら倍になるんだぞ。熱心にもなるだろ。…あ、お前達の助力でタナトス様の説得に成功したら一杯と言わず二杯奢ってやるぜ」
「ラーメンを?」
「ンな可愛気のねぇこと言ってると、替え玉無料のラーメン屋連れてくぞ」
「うっわ、ケチくさっ!そーゆーケチくさいこと言うから彼女が出来ないんだよ、マニゴルド君」
「うっせ!何を分かったようなこと言ってるんだよ、お前だって彼女いねーくせに!」
「んなぁっ!人が地味に気にしてる事をぉぉ!!」

 本題そっちのけで互いの心の傷を抉り合う星矢とマニゴルドを一輝と瞬が生ぬるく眺めていると、会議室の扉が軽く叩かれてサガが顔を覗かせた。
 彼は最後の聖戦終結後にシオンに教皇の座を返上して後進の育成に当たっていたが、沙織から『マニゴルドと一緒にタナトス神のマネージャー的な仕事をしてみないか』と打診を受け、主な仕事の場を聖域から城戸財閥関連会社に移したのである。
 何かと暴走しがちなタナトスとマニゴルドのストッパー役を自任する彼は、星矢達に目をやって微かに驚いた顔をした。

「星矢達、来ていたのか」
「おーっす!」
「お久しぶりです、サガ」
「タナトスを説得するために協力しろとマニゴルドに呼ばれてな」
「そうなのか。せっかく来てもらって申し訳ないが、どうやら無駄足になってしまった様だぞ」
「何かあったのか?」

 マニゴルドが怪訝そうに尋ねると、サガは浅く顎を引いた。

「ああ。先ほどヒュプノス神から私に連絡が入ってな、『タナトスが風邪で寝込んでしまった故、今日の地上訪問はキャンセルしたい』だそうだ」
「ハァ?タナトス様が風邪で寝込んだ?ヒュプノス様の間違いじゃねーの??昨日だってフツーにツイッターにいたしTheWorldで遊んでたぞ、あの死神様」
「今日になって症状が出て来て、医師と相談して大人しく休むことにしたのだそうだ」
「ちょ…そんな大事なこと、何で今頃になって弟からサガに連絡させんだよ。メール打つのもできねー程ひどいのか?」

 マニゴルドは携帯を取りだしてメールも着信も無いことを確認すると、顔をしかめてパソコンを引きよせてツイッターのページを開いた。タナトスのタイムラインが表示されたので何となく星矢達も一緒に画面を覗きこんだ。
 最新のツイートが投稿されたのは十五分ほど前だ。

『風邪で寝込んでるなう。と言っても特に症状が酷いわけではなくて周囲の「寝ていろ」攻撃に負けただけなのだが…。弟が仕事キャンセルの連絡を(俺に断りなく)入れてしまったそうなので今日の仕事は休むことにした』
『喉の痛みが酷くて碌に声が出ないから、無理に仕事に出向いても仕事にならない気もするしな。ちなみに今日の仕事は企画の打ち合わせの予定だった。何の企画かはまだ秘密だぞ(笑)』
『弟が持って来たアイスと林檎食べてるなう。美味』

 …風邪で寝込んでると言う割に呑気なツイートだな…と皆が微妙な顔になると、新しいツイートが投稿された。
 また何か食ってんのかよ…とマニゴルドが更新ボタンを押すと、『彼女がナースコスで見舞いに来てくれたぞ(笑)』という写真付きツイートが表示されて、それを見た星矢とマニゴルドの頬がピキィッと引き攣った。

「何だよこのノロケツイートは!彼女ってヘカーテさんだろ、何だよナースコスで見舞いって!風邪くらいで仕事休んで彼女とキャッキャウフフかよ、チクショー!!リア充爆発しろぉぉ!!」
「ちょ、星矢…」
「流石にその発言は見苦しいぞ…」
「うっせー!文句の一つくらい言っても良いだろぉぉ!!」
「そんな事をしても余計に惨めになるだけではないか?」

 涙目で携帯を取り出した星矢を皆がなだめている横で、マニゴルドは頬を引き攣らせたまま添付されていた画像のアドレスをクリックした。
 …投稿された写真を確認した彼は、凄まじく微妙な顔で星矢を見遣った。

「おう星矢。文句言う前に写真見ろや」
「はぁ?そんなもの見たって羨ましいだけ…。……………」
「……………」
「……ぷっ」
「ははは、やはりこう言うオチか」

 ナース帽を頭部にくっつけてジョジョ立ちしているトナカイの着ぐるみを見て、星矢とマニゴルドは何とも言えないビミョーな顔になり、一輝はひたすら無表情、瞬とサガは思わず笑いだした。
 マニゴルドは頬杖をついて盛大に溜息をついた。

「変だとは思ったんだよなー、妙なところでシャイなタナトス様がんーなノロケツイートするなんざ」
「普通のナースコスで見舞いに行ってもヒュプノス様に追い返されると考えて、ヘカーテ様はトナカイコスをしたのかもしれんな」
「へー。サガもマニゴルドも結構タナトス様とか冥界の皆のキャラを分かってんだな」
「成り行きで否応なく、だよ。神様達のキャラを把握しないとタナトス様のマネージャーなんてやってられねーからな。ヒュプノス様もヘカーテ様もあーだこー だと首突っ込んでくるし、タナトス様への影響力パねぇ秋乃さんは天然で爆弾投下してくれるし、ハーデス様に至っては無責任に『楽しそうだ、やってみれば良 い』とか仰せになってくれやがるし…神々の気紛れに振り回されるこっちの身にもなれってんだ。挙句の果てに弟に付きっきりで看病して風邪うつされて仕事 キャンセルとか…今日と明日に予定してた打ち合わせどーすんだよあのクソ神!ったく…ツイッターする元気があるなら電話ぐれー出来るだろ」

 ブツブツ言いながらマニゴルドが携帯のボタンを押し始めると、サガがクスリと笑って妙にわざとらしく言った。

「星矢達がせっかく来てくれたのだ、お茶でも用意しよう」
「ありがとなっ!悪いなぁ、元教皇様にそんな雑用させてさ」
「あ、僕、手伝いますよ」
「…………」

 瞬だけでなく一輝までサガに続いて給湯室に向かったので、星矢も皆の後をついて行った。
 とは言え、茶を淹れて茶菓子を出す程度の事に四人も人手は必要ない。何となくついて来たものの特にする事の無い星矢は、会議室で何やら電話中のマニゴルドを見遣って首を傾げた。

「それにしてもマニゴルドの奴、なんだかんだ言ってしっかりタナトスサマのマネージャーやってんだな。ちょっと前まで何かあるたびに『何で俺があのクソ神の子分みたいな扱いされなきゃならねーんだ!』とかブーブー文句言ってたのにさ」
「確かに蘇った直後はそうだったけど、最近は喧嘩しつつ仲良くしてたじゃない。どうのこうの言って彼もタナトス様に好感を持ってるんじゃないの?」
「アテナが言っていた『マニゴルドはツンデレ』は適切な表現だった訳か」
「フフッ」

 星矢達の会話を聞いていたサガがポットに茶葉を入れながら思わず噴き出して、皆に怪訝そうな顔を向けられると柔らかく目を細めた。

「彼は、タナトス様が自分より私を重用するのが面白くないらしい」
「へー。何か『古畑任三郎』の小泉クンみたいだな」
「マニゴルドよりサガを重用?タナトス様はあんまり、そう言う事はしないイメージがありますけど…」
「だな。奴は何も考えずに仕事を割り振りそうだが」
「その通り。確かにタナトス様は、情報にざっと目を通しただけでさほど考えることも無く私かマニゴルドに仕事を割り振る。…恐ろしいほど的確にな」

 湯を入れて茶葉を蒸らしているポットに手を置いて、サガは静かに言葉を続けた。

「タナトス様に『これはお前向きの案件だろう』と渡された仕事…当初こそ私もマニゴルドも『これはマニゴルド向きではないか』と思ったそれを進めるうち に、私でなければ対応できないような食えない相手が出て来た事は一度や二度ではない。タナトス様の慧眼は最早、神がかり的な予知能力としか言えないな」
「まー神様だもんな。そりゃ神がかってるだろうなー」
「…で、それがタナトス様がサガを重用してることと何か関係があるんですか?」
「ああ、話が逸れたな。タナトス様が『神がかり的な直感』で仕事を割り振った結果、ここ最近はマニゴルドに活躍の場が与えられなかったのだ。それが彼には 『タナトス様は自分よりサガを重用している』と感じられたのだろう。今回の一件にマニゴルドが熱心なのもその辺に理由があるのだろうな」
「ああ、なるほど」
「…さ、茶が入ったぞ」

 …紅茶のカップと茶菓子を乗せたトレイを星矢と瞬が分担して持って会議室に戻ると、マニゴルドはパソコンに向かってネットゲーム『TheWorld』を起動していた。
 トレイをテーブルに置いてカップを差し出しつつ、星矢はパソコンの画面を覗き込んだ。

「なんでゲーム始めてんだ?仕事の打ち合わせ、もう終わったのか?」
「仕事の打ち合わせするためにゲーム始めたんだよ。タナトス様は風邪のせいで喋るのがしんどそーだし、ツイッターじゃ他人に会話内容が見えちまうしな」
「あー、なるほど。パーティーチャットなら他人から会話内容は見えないからか」

 覗き見するな、とは言われなかったので皆がパソコンの画面を覗きこむと、マニゴルドは気にした風も無くゲーム内のチャットでタナトスと会話を始めた。

『マニゴルド:おーっす。風邪で寝込んでるくせにクエストやる気か?
タナトス:喉の痛み以外は大したことはないからな。クエストと言っても大真面目なものではない、ムービーを見る為だけにやるようなぬるいものだ。
マニゴルド:そっか。んじゃー今日と明日に打ち合わせ予定だった仕事を教えるから、受けたい案件とどーでもいい案件を割り振ってくれや。クエストの準備しながらで良いからよ。
タナトス:おk
マニゴルド:菓子のCM
タナトス:それは興味がある
マニゴルド:あいよ。次、カップラーメンのCM
タナトス:カップラーメン?それは微妙だな
マニゴルド:これはどーでもいいんだな。じゃあ次』

 マニゴルドが手元の紙に何やらメモしてサガに渡すと、サガが携帯を取り出して電話をかけ始めた。どうやら、タナトスが乗り気な案件の会社にドタキャンの 侘びを入れて打ち合わせの日の調整を交渉しているようだ。打ち合わせ予定のあった案件の割り振りが終わったのか、マニゴルドも電話をかけ始めた(どうやら彼が担当し たのは交渉が決裂しても構わない相手らしい)。

「はい…はい、何を言っても予想外の病気なので…申し訳ありません。本人もお仕事を受けることに吝かではないようなので、お引き受けすると言う方向で話を進めて頂ければ…ええ、予定が分かり次第こちらから折り返し連絡を…」
「話が違うだぁ?何も話してねーのに違うも違わないもねーだろ。あァ?『お前は何様だ』って…今更ナニ言ってんだ、神様に決まってんだろ!文句があんなら この話は無しだ無し。ん?今更泣き入れたってしらねーよ、後日改めて別の担当者からアポ取ってくれや。今回は御縁が無かったって事で、ごきげんよう〜」

 サガとマニゴルドは対照的な態度でサクサクと電話交渉を進めていたが星矢達は特にする事が無いので、『好きに使って良い』と言われたパソコンを操作して ネットゲームTheWorldを起動させた。ぬるいクエストとは言え、風邪のタナトスひとりで進行するのは大変だろうからサポートしようと思ったからなの だが…

『スターボウ:あれ、ヒュプノス様もヘカーテ様もいたのか!
タナトス:ん?
タナトス:何故お前がこのタイミングでここにいる?
スターボウ:マニゴルドに呼ばれて来てんだけど、タナトス様が来れなくなったからマニゴルドは仕事の電話にかかりっきりでさ、する事無いからタナトス様のクエスト応援でもしようかと思ったんだけど、要らなかったかな?
ヘカーテ:どうせやるなら大勢の方が楽しいだろ。私は大歓迎だぞ!
ヒュプノス:私達ではジョブのバランスが少々悪かったから、お前の参加は助かる
タナトス:ふむ…マニゴルドとサガも入れれば8人になるな。ならばもう一人誘ってそれなりに骨のあるクエストでもするか?
スターボウ:それは良いけど、俺は骨のあるクエストなんて仕切れないぜ?
ヒュプノス:ならば私が指揮を執ろう。タナトスほどスムーズにはいかないかもしれないが』

 …仕事の電話を終えたマニゴルドとサガ、そしてタナトス達が誘ったハーデスを加えて9人パーティーになった一行は、クエスト進行の為に訪れなければいけ ないダンジョンに向かって移動を始めた。とりあえず目的地に着くまではする事が無いので、星矢は頬杖をついてマウスを動かしながら誰に言うともなく口を開いた。

「それにしてもタナトス様が風邪とはねぇ。バカは風邪引かないんじゃなかったのか?」
「ちょっと星矢、いくらなんでもその言い方は失礼だよ」
「その通説は人間だけに適用されるものじゃないのか」
「フフ…答えは簡単」

 サガは微かに笑みを浮かべ、皆の尋ねるような視線に気付いて口を開いた。

「タナトス様は馬鹿ではないと言う事だよ」
「ハァ?全くサガは…」
「あ、その点は俺も同感だわ」

 相変わらず生真面目な元教皇に笑いかけた星矢達は、マニゴルドが真顔で言った言葉に目を丸くした。

「え?マニゴルドも『タナトス様は馬鹿じゃない』って思ってるの??」
「何か悪い物でも食ったのか?それとも頭でも打ったか!?」
「ちみっこいタナトス様のいる世界のマニゴルドはタナトス様ラブラブらしいけど、この世界のお前までそっちの道に…」
「行ってねーよボケェェェ!!つか『タナトス様は馬鹿じゃない』発言に同意しただけで何でそこまで言われなきゃなんねーんだよ!!魂ひっこ抜くぞ小僧どもぉぉぉ!!!」

 バン!!
 顔を真っ赤にしたマニゴルドがテーブルを叩いて人差し指を立てると、だってさ…と星矢が言い返した。

「タナトス様はバカだろ、どう考えても!ゴヒャクマンとゴヒャクエンの違いを聞かれて『文字がひとつ違う』って素で返すんだぜ!?」
「そりゃ馬鹿じゃなくてボケだろ!神がかり的天然ボケだろ!タナトス様がボケだっつーのは俺も否定しねーよ全面同意だよ!ボケとバカは違うだろって言ってんだよ!!」
「言ってる内容はともかく、そこまでタナトス様を擁護するなんて…」
「やはりこの世界のマニゴルドも異世界のマニゴルドと同じ道を…」
「黄泉比良坂にバカンスに行きてーかそこの兄弟ィィ!!」
「そう言えば、何かの映画で興味深い台詞があったな。『不思議なことに馬鹿と頭の良さは必ずしも矛盾しない』」

 サガが微笑しながら穏やかに発言すると、半ば椅子から腰を浮かしていた星矢がそのままの姿勢で頷いた。

「あー…ナントカって海賊映画のキャプテンだっけ?そんなこと言ってたな」
「言われてみればタナトス様はバカ…こほん、ボケと頭の良さを両立してるのかもしれないね。さっきサガが言ってたけど、パッと書類を見て的確に仕事を割り振るなんて、頭が良くないと出来ないことだし」
「一定レベルを超えて頭が切れると、一周回って何も考えていない馬鹿に見えるのかもしれないな」
「タナトス様は何も考えてねーよ、それは間違いない。思い付きでホイホイ出した指示が恐ろしく的確っつーだけだ。…なんつーか」

 パーティーがダンジョンに到着し、クエスト進行に関するヒュプノスのチャットを眺めながらマニゴルドは真顔で呟いた。

「大神ゼウスがタナトス様を警戒してたっつーのも妙に納得だぜ。ヘカトンケイルだのヘカーテ様だのついでにハーデス様だの、冥界の強大な戦力がタナトス様の超高性能カンピュー ターの指示でサクサク動いて、その後ろで優等生のヒュプノス様がイヤラシイ能力と作戦でサポートしてたら、いくら知恵や勝利の女神がいても勝てる気しねーもん」
「そう言えば、最新のアップデートで実装されたあの超ウルトラ強くて厄介な新ボスを倒したことがある主催ってタナトスサマだけだったな」
「そうだね。他の主催が同じ作戦でやろうとしたけど、不規則でランダムなトラブルが起きた時に的確な指示が出せなかったり、状態を立て直すのに時間やアイテムが足りなかったりで、誰も新ボス討伐に成功してないらしいよ」
「適材適所とはよく言ったものだな。こうして見ていると、ヒュプノスはタナトスの補佐役が適任だと言うのが良く分かる」

 クエスト進行のリーダー役が初めてだと言うのを差し引いても今ひとつ手際が悪くもたついているヒュプノスを見ながら一輝が呟くと、皆は奇妙な真顔で深く頷いた。
 …ヒュプノスの手際の悪さを見ていられなくなったタナトスが途中でリーダーを交代し、風邪が悪化するんじゃ?という皆の心配などものともせず、張り切ってボス討伐クエストの陣頭指揮を執るまでさほど時間はかからなかった。
 タナトスが風邪をこじらせて今度こそ真面目に寝込んだ…とヒュプノスからサガに連絡が入ったのは翌日のことだった。



 

 …そして二週間後。
 風邪が治ったタナトスが城戸財閥の会社を訪れ、会議室の椅子に腰を降ろすなり、卓についていたマニゴルドは開口一番言った。

「タナトス様、今回の戦隊モノの話だけどよ。アンタから何か条件出してウダウダ言わずに引き受けろや」
「何?」

 マニゴルドの言葉にタナトスはたちまち眉間に皺を寄せたが。

「私もマニゴルドと同意見です。これはあなたのマネージャーとしての進言ではなく、個人の陳情として聞いて頂きたいと存じます」
「……?何かあったのか?」

 サガの静かな言葉に不機嫌オーラを消して怪訝そうに尋ねたので、今度はマニゴルドが眉間に皺を刻む羽目になった。

「ちょ、おま…何で俺とサガでそんなに反応違うんだよ…」
「何かあったのかと聞いている」
「タナトス様が風邪で寝込んでいる間に、沙織お嬢様と秋乃様が戦隊モノに関するアイデアを出し合って冗談半分でそれを特撮スタジオに持ち込んだところ、『これは面白い』と採用されてしまったのです。アイデアの内容については言わずともお分かりかと」
「…………。ひょっとして…敵組織のボスが腹心の部下に裏切られ、土壇場で主人公を庇って死んだと思われたが、力を無くしただけで実は生きていて、今度は味方側のアドバイザーになるとかそういう展開か?」

 以前、異世界から小さな双子神が訪れた時、秋乃と小さなタナトスがそんな話をして盛り上がっていたが。
 嫌な予感をビシビシ感じながらタナトスが尋ねると、サガとマニゴルドが頷いて口を開いた。

「社長お嬢様に無理言って戦隊モノの設定見せてもらったんだけどな。シリーズ前半のボスは五芒星がトレードマークの『死の神タナトス』で確定したんだと。 主君ハーデスと弟ヒュプノスが原因不明の呪いに掛かって目を覚まさなくなって、部下から『主人公達のボスを倒せば呪いが解ける』と吹きこまれて人間世界を 攻めてくるって設定らしいぜ。ちなみにボスのタナトスを騙して唆して主人公達と戦うように仕向けた、『土壇場で裏切る腹心の部下』の名前は『タルタロス』だ そうだ。こいつがシリーズの最終ボスなんだとよ」
「前半ボスの『死の神タナトス』の立ち位置は先程あなたがおっしゃった通りです。前半のクライマックスで部下の裏切りに気付き、主人公を庇って死亡したと 思われたが神の力を無くして命は取り留め、以降は自身の神の力奪還と真の意味で主君と弟を助ける為に主人公に協力します。味方側に寝返った後は、味方のボ スの会社でアクセサリーのブランドモデルとして働く設定になっているそうで」
「まさかとは思うが、その『味方側のボス』がアテナなどと言う事は…」
「ピンポーン。そのまさかだ」
「主人公達は某学園の生徒達で、彼らのボスは学園理事長である城戸沙織。そして城戸沙織の正体は地上を守る使命を帯びた戦女神アテナと言う設定です」
「……………」

 タナトスはあんぐりと口を開けた。
 まさかアテナ自身が、本名で、アテナの役そのままで戦隊モノに出演するとは。
 あまりのことに言葉が出ないタナトスに、サガとマニゴルドは至って真顔で話を続けた。

「話が逸れましたが、戦隊モノの敵ボスは完全にタナトス様をイメージして作られています。既にこの設定で部下や組織の人選やデザイン製作が進められているので今から変更は出来ません」
「…つまり?」
「アンタがこの話を蹴ると、明らかにアンタをイメージして造られた『死の神タナトス』の役を人間の俳優がやることになるんだよ。ふざけんなって思うだろ?人間如きが死神様の役をやるなんざ」
「む…」
「どんな名優が演じようとも人は人。神を演じきるなど不可能です。本物の神であるアテナと並べばどうしても見劣りするし、そうなるとタナトス様ご自身のイメージダウンに繋がりかねない。そのような事態、私やマニゴルドは到底受け入れられません。…ですから」
「…なるほど。マニゴルドの『ウダウダ言わずに条件出して引き受けろ』発言はそういう訳か」

 タナトスは盛大に溜息をついて考えを巡らせた。
 戦隊モノのテーマソングを歌うのも敵役として出演するのもあまり気が乗らなかったが、この話を拒否したら引き受けた時以上に不愉快で面倒な事態になりそ うだ。人間如きが自分の役を演じるのも気にいらないし、そのせいでせっかく集まりつつある信仰が失われたりしたら、それこそ冗談ではない。
 自分がこの話を引き受ければ今まで以上に信仰が集まるだろうし、冥界の神々も地上で交流のある人間達も異世界の双子神も喜んでくれるだろうし、決して悪 い話ではないはずだ。ヒュプノスだけは『ああでもないこうでもないと言いながら結局引き受けたのだな。なんだかんだ言って楽しそうではないか』とからかっ てくるだろうが…。
 …ヒュプノスか。
 俺が風邪で寝込んだ時も、あいつは『どうせアテナや秋乃様に言いくるめられて、こんなはずでは…と言いながら仕事を引き受けるのだろう?そんな醜態を晒 すくらいならお前から先に条件を出してさっさと引き受けた方が良いと私は思うぞ』などと可愛気の無いことを言っていたが…
 …………。
 素晴らしい悪戯を思いついた子供のような顔でタナトスが微笑んだので、サガとマニゴルドは怪訝そうな顔を見合わせた。




 …エルミタージュ洋菓子店の林檎ケーキを土産に冥界に帰還したタナトスは、ティータイムの席に皆がつくなり楽しげに口を開いた。

「今日は、例の戦隊モノに関してサガとマニゴルド相手に打ち合わせをしまして…その報告をと」
「おお、そうか。確かタナトスにも出演依頼が来ていたのだったな」
「で?で?どうするんだ?テーマソングは歌うのか?本編への出演はするのか?」

 身を乗り出して興味津々と言う顔をするハーデスとヘカーテに爽やかな笑顔を見せてタナトスは頷いた。

「条件付きではありますが、テーマソングも敵役としての出演も引き受けることにしました」
「え!?マジで!マジで兄貴ってば俳優デビューすんの!?」
「じっくり話を聞いたら、これはもう出ないわけにはいかぬと思ってな。ヒュプノスの言う通り、俺の要望を製作側が受け入れると言う条件で話を受ける、と言って来た」
「ほう…一体どんな条件を出したのだ?」
「知りたいか、ヒュプノス?」

 面白さ半分怪訝さ半分で尋ねたヒュプノスに、タナトスは無邪気で意地悪な満面の笑みを見せながら答えた。

「お前を戦隊モノに出演させることだ」
「…は?」

 一瞬タナトスの言葉が理解出来ず、ヒュプノスはフォークを握ったまま固まった。
 タナトスが戦隊モノの話を引き受けた条件が『お前を戦隊モノに出演させることだ』?それはつまり、要するに。

「…私も、その戦隊モノに出演すると言う事か?」
「ちょっとヒュプ兄、何ボケかましてんの。今タナ兄が言ったじゃん」
「まぁ、メインではなくゲスト扱いだろうがな」
「おお、タナトスに続いてヒュプノスもデビューか!これは楽しみだな!」
「え?え?タナトス、それはもう決定事項か?」
「タナトスが話を引き受ける条件がお前の出演なんだろう?そんな面白い話、ベルセフォネーやアテナが断るはずがないだろうが」
「……………」

 思わぬ形で兄神から反撃を食らって呆然とするヒュプノスを横目で見ながら、タナトスはこれ以上ないほど満ち足りた気分でケーキの林檎を口に入れた。
 …覚悟するのだなヒュプノスよ。これからしばらくは、戦隊モノの撮影を口実にしてお前を俺に付き合わせて思う存分振り回してやるからな。
 そんな事を考えながら味わう林檎はいつにもまして美味だった。




END  


星矢部屋
総合目次
SS・2012時代
SS・神話時代
SS・蟹座達



  「ヒュプを戦隊モノに登場させると言う条件でタナトスが戦隊モノのテーマソングと出演を引き受ける」と言うオチは割と早く決まっていたので、そのオチに 向かって話を作った3話目です。当サイトのサガ+マニさんの立ち位置紹介も兼ねた話なので、当サイトの彼らはこんな感じか、と伝わればいいなと思いつつ。時期的にはコラボと「死刑執行人の生誕記念日」の間を考えています。
 サガは、普段は優等生な物言いだしタナトスにも一定の敬意を払ってるしマニさんみたいに慣れ慣れしくする事も無いですが、タガが外れたらいい歳してウ ワーハハハする人だと思って書いています。イメージ的には、「ネウロ」終盤で清濁併せのむキャラになった笛吹警視。サガとマニさんとタナトスのでこぼこト リオの小ネタはあったのですが、上手く会話に入れられなかったのでまたの機会に。
 皆が遊んでるネットゲーム『TheWorld』についてはSS「世界」をお読みください。
 後は「タナトスはボケだけど馬鹿じゃない」と認識してるマニさんネタもここで消化できてよかったです。口ではあーだこーだ言いながら、マニさんはタナト スを認めてるし好意も持ってるし「こいつスゲーな」と認めてるんだよ、的な。BLの道に行くことはないと思いますけどね!(笑)
 それと会話にうまく入れられなかったので没にしたのですが、「大神ゼウスも脅かす双子神コンビがアテナとの聖戦に負け続けていた理由」ですが、ぶっちゃけ「本気でやってなかったから」です。ネトゲのボス討伐云々の解説は長くなるので後述。
 そしてコラボで前振りっぽいことを言ってから、私の脳内ではタナトス出演戦隊モノのネタが着々と練られていたので終盤の会話はサクサク書けました。蝶様 に挿絵を書いて頂く約束も取り付けていますので双子神関係のネタを消化したらそちらも書きたいところですムフフ。後、当サイトの沙織さんは若手やり手社長 としてそれなりにマスコミとかに顔出ししてると言う裏設定がありまして、まぁ戦隊モノにゲスト的に出て来てもさほど変ではないかなと。
 そしてタナトスがヒュプを戦隊モノに出演させる理由ですが、それを理由に弟と絡みたいから…です。ヒュプは分かりやすいツンデレブラコンですが、タナトスも弟大好きブラコンなのです。
 そしてネトゲパートの解説ですが…あくまでも私の経験によるものですが。大抵のネトゲではプレイヤー達でパーティー(グループ)を作ることが出来ます。 そして、皆とパーティーを組んで強いボス敵を倒すのはネトゲの大きな楽しみであり、イベントです。このイベントを企画し、参加者を募り、パーティーを編成 し、ボス討伐イベントを指揮する人を「主催」と言います。軍隊で言えば司令官です。戦に勝つ(=ボスを倒す)か、負ける(=ボスを倒せずにイベントが終わ る)かは、司令官が適切に人員を構成したか、それぞれのチームに的確な指示が出せたか、に掛かってくるわけです。
 んで。
 新しく出て来たボス敵=攻略方法が不明、と言う事が多いです。大まかな情報は事前に公開されますが、どんな攻撃をしてきてどんな行動をとってぶっちゃけ どのくらい強いのかは実際に戦ってみないと分かりません。プレイヤーが何度も戦い、試行錯誤しつつ、必要なアイテムや有効な攻略法を探していく…と言うの がネトゲの醍醐味でもあります。必要アイテムや有効な攻略法が見つかっても、持久戦になってアイテムが底をついたり、ランダムに敵が起こす超強力な攻撃で パーティーが全滅したりですんなりボスを押せないことも多々あるのですが。
 で、SS内の会話で皆が言っていたのは、「有効な攻略方法が確立されていない段階で、双子神が指揮を執ったパーティーだけが、タナトスがランダム要素に 的確な指示を出し、ヒュプノスが持久戦に備えて十分なアイテムを補給する手段を用意していたので強力なボスを倒すことに成功した」と言う事です。
 ううむ、長々説明した割に分かりづらい気がします(==;)