| TV画面に映し出された黒いノート。 ミサの、ノート…。 全身の血液が音を立てて落ちていく。視界がブレる。平衡感覚がなくなる。 Lの楽しそうな声が聞こえる。 『キラ。お前が第二のキラと最後に連絡をとったのはいつだ?』 ミサ。ミサ。 そう言えばここ一週間ほど電話もメールもきていない。よほど仕事が忙しいのだろうと、もともと彼女が煩わしくてたまらなかったから大して気にかけていなかったけれど。 異常なほど月を愛しているミサが一週間も何の連絡も寄越さないなんて異常事態だ。どうしてもっと早く気づけなかったのか。 Lの声が流れる。 『私を殺したと思って安心したお前は警戒を緩めただろう。用心深いお前でも気が弛んだ、あの第二のキラは無防備になったも同然だった。私は24時間体制で 彼女に尾行を付け、彼女がこのノートを掘り起こしページを千切ったところで身柄を確保した。このノートからも、ノートを包んであった紙からも、そして中に 挟んであった手紙からもお前の指紋が複数採取された。必要無いとは思ったが手紙の筆跡鑑定もした。結論は言うまでもないだろうが、お前の筆跡と完全に一致 した。お前は第三のキラに渡すノートには証拠が残らないよう気を配っただろうが、まさかこちらが私に見つかるとは考えていなかったのだろう』 刑事達はもうTVをみていない。憎しみの混じった厳しい顔を月に向けている。 自分が神となって統治するはずだった新世界が遠のいていく。もう、手は届かない。変わりに近付いてくるのは底なしの闇だ。 『私は第二のキラを病室に呼び、今までお前に聞かせたのと同じ話を彼女にした。そして、『これらの証拠を世間に発表すればキラは間違いなく捕まる。仮に罪 は免れたとしてもキラは社会的生命を断たれるのは間違いない。さらに世界中の犯罪者や犯罪組織、行き過ぎた正義感を持つ人間から命を狙われることになる。 その対象はキラ本人だけでなくキラの家族にも及ぶだろう』と教えた上で私は彼女に取り引きを持ちかけた。取り引きの内容は想像がつくだろう?彼女が見たこ と、聞いたこと、知っていることを全て話し、そしてキラの能力を永久に手放すと約束すれば、私は世界の警察に指示を出して警察組織としてキラを守ると約束 する、と。彼女がどう答えたかはわざわざ言うまでもあるまい』 もういい。もうやめてくれ、L。 もう聞きたくない。 月の気持ちとは関係なく声は迫る。 『第二のキラはビデオカメラに向かって全てを打ち明け、最後に自分自身に向けてメッセージを言ってからキラの能力を手放した。彼女は今、自分の罪を記憶で はなく知識として持った上で拘束されている。第二のキラが罪を告白したビデオは私の話が終わった頃にでも届けさせるつもりだ。…そして現在、このノートの 所有権は私にある。ゆえに第二のキラの『相棒』は今は私の相棒になっている。『彼』はお前の手下より頭が柔らかくて話も分かる、なかなか楽しい奴だ。 『彼』は第二のキラが全てを告白したことでお前の負けが決まったと判断し、私の質問になんでも答えてくれた』 …リューク、リューク。 お前まで、お前まで僕を裏切るのか。 リューク。 『キラ、知っているか』 Lの唇が笑っている。 僕はこんなに苦しいのに。 Lは嬉しそうにケーキを口に運んでいる。 僕はこんなに辛いのに。 『死神はケーキも食べる』 もう、いい。 もう終わらせてくれ。 月はふらりと立ち上がった。 本部のメインモニタの前にはデスノートが置いてある。 Lがこの腕の中で息を引き取った、僕が勝ったと確信したあの時のままに。 手を伸ばした瞬間、松田がノートを取り上げた。 「!?」 「月君、何をするつもりだい?まさかこのノートに自分の名前を書いて逃げるつもりじゃないだろうね」 「逃げる…?」 松田の言葉が月の意識を鮮明にした。 逃げる?この僕が? 松田は今までにないほど厳しい顔で月を見ている。 「Lとの対決から逃げるのか?君が今まで大切に守って来た信念っていうのはそんなに簡単に捨ててしまえるものなのか」 「何を言ってるんですか松田さん」 月の口元に冷ややかな笑みが浮かんだ。 思わぬ事態で混乱していた頭から熱が引いていく。 状況証拠、物的証拠、第二のキラの証言、リュークの裏切り。もう逃げ道はほとんど無いと言っていいだろう。 それでも。 僕は正しかったと信じているから。 だから、逃げない。最後まで。 月は落ち着いた足取りでソファに戻った。 『キラ。今のお前は何を考えている?もう逃げられないと開き直ったか、それともまだ私の手を逃れる手を考えているのか?どちらでもいいが、『キラ、Lに追 い詰められて自殺』なんてみじめな結末は見せてくれるな?仮にも私の生涯最大の敵だったお前だ、誇り高い最後を見せてくれると期待しているぞ。もう一度お 前に会う時が楽しみだ』 その言葉が終わると画面がまた『L』の文字に戻り、数日中にはいずれかの国の警察を通して結末を公表すると締めくくって消えた。 刑事達は複雑な顔で月を見ている。 放送の途中から青ざめ震えていた月が、今は余裕とも思える笑みを浮かべて演説を聞いているからだろう。 (感謝するよ、L。もう一度お前に会えるなんて思ってなかった) コトン、と音がして刑事達はビクリと顔を上げた。夜神に目で合図された松田がびくびくしながら立ち上がりメインルームの入り口を見に行き、ビデオテープを持って戻って来た。そこには赤い口紅のキスマークがつけられたメッセージカードが添えてある。 「…ウエディか」 「きっと弥が罪を告白したと言うビデオだろう」 「見ます…か?」 「ええ、お願いします」 月に言われて松田はおずおずとテープをデッキに入れた。 プロ用の機材で撮影したかのような鮮明な映像でミサが映し出された。彼女は憔悴してはいたがしっかりとカメラを見つめて口を開いた。 『私の名前は弥海沙。第二のキラです。これから私は、自分の意志でLの質問に答えます。決して脅迫・強要されての証言ではありません』 ビデオの内容はLが質問しミサがそれに答えると言う形で進んでいた。ミサがノートを持つことになった理由、ジェラスという死神、レムのミサへの思い入 れ、月との出会い、約束…。ミサは聞かれたことは何でも正直に淡々と答えていた。13日周期のルールやノート破壊での関係者の死は嘘であることも全て話し て、最後に記憶を無くした自分自身と月に向けてメッセージを告げた。 『これを見る時には記憶を無くした私。これがあなたの犯した全て。Lは、私が死ぬまでライトと一緒に暮らしていけるようにするって約束してくれたから、安 心して。何も怖くないよ。…そして、ライト。何も役に立てなくて、最後までじゃまになっちゃってごめんね。それでもミサは、ライトを愛してるからずっと一 緒にいるよ。レムが私を助けてくれたからきっと寿命も延びたしね。理想の世界じゃないけど、ミサは、ライトと一緒にいられるならどこでも天国だよ。…早 く、会いたいな』 ビデオは終わった。 重くやるせない沈黙を最初に破ったのは相沢だった。 「なんてこった…」 「相沢さん」 「竜崎は正しかった。最初から最後まで、あいつが間違ったことなんて一度もなかったんだ。なのに、俺は竜崎を信用せずに現実を見ろなんて…」 「身近にいたから、頭では『竜崎=L=世界一の名探偵』ってことが分かっていても無意識に自分達と同じレベルに竜崎を落としていたんでしょうね」 「我々は竜崎を助けるどころかじゃまをして、ワタリまでも…」 「竜崎がここに来たら謝りましょう。それに対してLがなんて言うか分からないけど、でも、謝らないと…」 「そうだな」 1分1秒が1時間にも感じられるほどじりじりと時が流れ、そして。 |
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