世界の中心でLを叫ぶ
EPISODE 3


 ガー…。
 メインルームのドアが開く音でその場にいた者は一斉に顔を上げて立ち上がった。
 ぺたぺたと、緊張感の無い音が高い天井に響く。

「お久しぶりです」

 Lは、竜崎は、何ごともなかったような顔でそこにいた。左右には彼を守るようにアイバーとウエディが控えている。
 最初に動いたのは松田だった。
 半ば走るように竜崎の前に出て、勢い良く頭を下げた。

「竜崎。あなたのことを信じなくて、じゃまばっかりしてすいませんでしたっ!」
「じゃまをしていると言う自覚があったんですか」
「今になって気付きました。あの…」
「竜崎」

 言葉の途中で相沢が松田を押し退けて前に出た。

「…色々とすまなかった。いや、申し訳ありませんでした。出過ぎた行為をおわびします」

 深々と頭を下げた相沢の横で模木も無言で深く頭を垂れる。夜神は半ば呆然として、何を言うべきか分からないという顔で突っ立っていた。
 竜崎は刑事達を順番に見て、小さな声で気にしていません、と答えた。
 その言葉が本心からのものだとは思えなかったが、刑事達は何も言わずに引き下がった。
 Lが見つめる先にはキラがいる。
 Lの眼差しをまっすぐに受け止めた月は唇に笑みを乗せた。

「ずいぶんと久しぶりに会う気がするな。体の方はもういいのか?」
「おかげさまでもう何も問題ありません」
「それはよかった」
「立ち話も何ですから座りませんか」

 竜崎の言葉にピリピリと張り詰めた空気が少し弛んだ。竜崎と月は向かい合って座り、刑事達も各々腰を降ろす。紅茶と菓子を用意して戻って来た松田が腰を降ろすと、竜崎はおもむろにポケットからノートの切れ端を取り出した。

「みなさん、これに触れて下さい。夜神君は…どうしますか?」
「聞くまでもないだろう。僕は必要無いよ」
「はい」

 切れ端に触った刑事達はリュークの姿に言葉を失ったが、さすがに死神を見るのも2度目になると悲鳴をあげるほど驚きはしないようだった。期待した反応が返ってこなかったのか、リュークは残念そうな顔になった。
 これから二人の間でどんな会話が交わされるのか。刑事達が固唾を飲んで見守る中、先に口を開いたのは月だった。もう誰の目にも隠せなくなったりュークを見上げて。

「リューク、まさかお前が最終的に竜崎に憑くとは思わなかったよ。まだ姑くは人間界にいるつもりなのか?」
「ああ。牢獄に閉じ込められる弥やライトに憑いてるより、こいつに憑いてた方が面白いものが見られそうだしな。人間界にいるのが飽きたらこいつに所有権を放棄してもらって死神界に帰るつもりだ」
「そうか。…竜崎、リュークのことよろしく頼む。時々でいいからリンゴをやってくれ」
「その点は御心配なく。ところで夜神君」

 竜崎がティースプーンをソーサーに置いてすっと月を見つめた。

「私が切れるカードは全て出しました。そろそろ自分がキラだと認めてくれますか?」
「………ああ、認める。僕がキラだよ、L。世界中の犯罪者やFBIや南空ナオミ、そして火口を殺したのはこの僕だ」

 夜神ががっくりとうなだれる。刑事達は唇を噛み締めたまま視線を上げようとしない。アイバーとウエディは無表情に二人の会話を聞いている。
 月はため息をついてソファによりかかった。

「記憶を取り戻した時、これで僕の勝ちだと思ったのに…見事だL。潔く負けを認めよう」
「私をここまで苦しめて追い詰めたのは、あなたが最初で最後ですよ」
「褒め言葉と受け取っておくよ」
「どうぞ御自由に」
「…L」

 月は熱すぎる紅茶を冷ましながら口を開いた。竜崎はケーキを突き崩しながら月を見る。

「僕はどうなる?」
「ミサさんにも約束した通り、Lの名にかけて警察があなたを守りますよ」
「そう言えば聞こえはいいが、要するにどこかの刑務所の奥深くに閉じ込めて一生出さないぞってことだろう?」
「平たく言えばそうなります」
「報道は?僕は顔と実名は公表されるのか」
「夜神君は未成年ですが、過去に例を見ない凶悪事件の犯人ですし、殺したのは日本人だけではない。日本では公表されないかも知れませんが外国では公表され るかもしれません。人の口に戸は立てられませんからインターネットなどへの流出は避けられないでしょうね。どちらにせよその辺は私の管轄外のことですし、 私の力でどうこうできることではありません」
「…そうか…」

 月は言葉を切った。
 整った顔から笑みが消え、真剣な色が見える。Lはケーキを食べる手を止めて月の言葉を待った。

「僕は負けた。それは認める。しかし、僕は今でも自分は正しいことをしたと思っているし、自分は正義だと信念を持っている。だからお前の足元に跪いて許しを乞うような真似は絶対にしない」
「はい」
「それでもお前は、世の中から僕の家族を守ってくれるか?」
「夜神君と家族の皆さんは全く関係ありません。十分に話し合った上で、御家族も安全に暮らせるよう手配します」
「なら安心だ。…なぁ竜崎」
「はい?」
「テニスのゲームでは僕が勝って、この推理対決では竜崎が勝った。これで一勝一敗だな」
「…テニスと世紀の大犯罪を同じ天秤にかけますか」
「一回は一回、だろ?」
「………」

 竜崎はかなり不満そうな顔になったが、まぁそうですねと呟いた。月は再び唇に笑みを乗せて続けた。

「このまま引き分けって言うのは心残りだし、きっちり決着つけないか?」
「いいでしょう。またテニスでもしますか?」
「いや」

 月はカップを置いて立ち上がった。拳を固めて姿勢を正し、きゅっと身構えて。

「男だったら拳で決着をつけよう。2回とも松田さんに止められて決着をつけられなかったからな」
「…いいでしょう。もう一度念の為に言っておきますが、私は強いですよ」
「望むところだ」

 竜崎はケーキの最後の一切れを口に入れて立ち上がった。
 モニタルームのまん中で二人は対峙した。
 Lとキラ、竜崎と月、二人の戦いの全てに決着をつけるために。最後の勝負に異を唱える者は誰もいなかった。

 

 そして数日後、世界各国のマスコミで『キラ逮捕』のニュースが大々的に報じられた。日本の各マスコミもそれぞれの判断で未成年の犯人の実像を流し、連日 TVも新聞もその話題で持ち切りだった。Lの権力で圧力をかけたおかげで、夜神月の家族については一切触れられず、彼を知る者へのインタビューも禁止され ていたので報道できる内容は限られていたが、それでも毎日異例とも言える時間を裂いてそのニュースを流していた。
 リンゴを齧りながらリュークは飽きもせずTVを眺めていた。

「一体いつまでこの過熱報道は続くかな」

 新しい宿主に尋ねると。

「せいぜい3ヶ月でしょう。人の興味など長続きしないものです」

 と、返事がきた。

「たったの3ヶ月かぁ?」
「ノートのことは公表されませんでしたからね。犯人は一部の局で実名報道されましたが、家族や関係者への取材は禁止してありますし…報道することもすぐになくなるでしょう」
「世紀の大犯罪が解決したっていうのになぁ」
「世紀の大犯罪だろうと世紀の自然災害だろうと人生に一度の大事件だろうと、時がたてば忘れてしまう。それが人間というものなんですよ」
「じゃあお前もいつかはライトのことを忘れるのか?」

 リュークのその質問に、世紀の名探偵は沈黙で答えた。
 死神はリンゴを全部飲み込んで思った。

(やっぱり人間って…面白!!)


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