世界の中心でLを叫ぶ・If
プロローグ…Lがキラに宣戦布告する1年ほど前…

 秋乃はスケッチブックを広げて竜崎に見せた。イチゴと生クリームの定番から、チョコレート、チーズ、アイスクリームまで色々なウエディングケーキのイメージイラストが描かれていて、彼女が試行錯誤しているのがよく分かった。

「どれがいいと思います?」
「定番なら無難でしょうが、アイスケーキもいいですね…チョコレートも捨てがたい」
「…全然アドバイスになってないです」
「秋乃さんのケーキならどのタイプにしても大丈夫だと思いますから、御本人達の好みに合わせてはいかがですか」
「全面的に任すって言われたんです…」
「一番難しい注文ですねぇ」

 せめて好みだけでも伝えてくれればいいのに…と思いつつ竜崎はスケッチブックをめくった。
 …結婚式のケーキの事で相談が、と言われた時は正直焦った。
 竜崎は秋乃に好意を持っているし秋乃も同様だと思う、しかしそれは友情の延長であって恋愛感情ではない…はずなので、彼女が竜崎に事前の相談なく結婚す るとなってもそれに対して文句を言う筋合いはない。ないのだが、自分以外の男に秋乃の好意が向けられると言うことにはっきりと不快感を感じ、そんな自分に 少しムッとしたのだが、よくよく話を聞いてみると結婚するのは秋乃本人ではなく彼女の兄だと分かり、竜崎は喜んで彼女の相談に乗ることにしたのだった。
 ああでもないこうでもないと相談し、1時間近く。秋乃のイメージが固まり、ラフを描き終わったところでやっとお茶の時間になった。
 …秋乃お手製のフルーツミルフィーユを食べながら、話題は自然に彼女の兄の事になった。

「秋乃さんのお兄さんはお医者さんだそうですね」
「心臓と脳を専門にする外科医だったと思います。子供の頃に読んだブラック・ジャックに感銘を受けて医者になったんですって。初志貫徹って言うか、思い込みが激しいって言うか」
「じゃあ、鉄腕アトムに感銘を受けたらロボット工学者になっていたかもしれないですね」
「あー迷ったそうですよ、アトムを作るかお医者さんになるか」
「夢溢れる道より現実を見つめる道を選んだわけですね」
「夢を追うのもいいけれど、やっぱり人の命を救う道に進みたいって言って。もしもアトムを作る道に進んでいたら、この結婚はなかったんじゃないかしら」
「……?」
「大学の入学式で隣に座った女性に一目惚れしちゃったんですよ。しかも、大病院の院長の一人娘に。周囲のみんなが『身分違いの恋だからやめておけ』って止めたんですけど、兄は本気で、私も応援して。真正面から告白したらすんなりOKされちゃって」
「…ドラマみたいな展開ですね」
「でしょう?」

 夢を追うより現実を、真実を見つめる道を選んだその先で、ドラマのような恋。
 いかにも秋乃の兄らしい、と竜崎は微笑ましく思った。
 秋乃は楽しそうに続けた。

「彼女のお父さんから『一流の医者でなければ娘の結婚相手としては認めん!』って言われて、猛勉強して、やっと認めてもらえて、ついにゴールイン!なんです」
「では秋乃さんのお兄さんは彼女のお父さんの病院で働くことになるのですか」
「そうなるでしょうね。けっこう大きな総合病院らしいですから」
「…じゃあ、日本に秘密基地を作ることになったらその病院の近くに建てるとしますか。秋乃さんのお兄さんなら信用できるし、色々と無理も聞いてくれそうですし」
「秘密基地ですか、かっこいいですね」

 竜崎さんは正義の味方ですもんね、と秋乃は笑う。
 彼女も、そして竜崎も冗談のつもりで『秘密基地』をつくるならどんなものがいいか話し合った。約一年の後、その言葉が現実になるとは夢にも思わず。


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