世界の中心でLを叫ぶ・If
EPISODE 3:11月9日

 着信を示すランプがついた。革手袋をはめた手が携帯を掴み、通話ボタンを押す。ウエディは捜査本部の玄関から目を離さず携帯を耳にあてた。

「はい」
『私です』
「何かしら、ボス?」
『……。そちらの様子はどうですか』
「20分ほど前にMr.夜神と刑事達がでかけたわ。夜神Jr.に動きはなし」
『先ほど弥と会う約束をしていましたので、じきでかけると思うのですが』
「…噂をすれば。夜神Jr.が出かけたわ」
『死神は憑いていますか?』
「見えないわね…留守番かしら。死神が出かけるまで待ってられないから、もう仕事を始めるわ」
『ウエディ、……』
「何?」
『一番危険な仕事をやらせてしまって申し訳ありません』

 珍しくしおらしい竜崎の言葉にウエディはクスリと笑った。

「いいわよ。無事に事件が解決したら、今までのもこれからのも含めて私の罪は不問にしてもらうから」
『おやすいご用です』
「じゃ、無事を祈ってて」

 ウエディは電話を切ると頭からすっぽりと覆面を被った。死神が彼女の顔と名前を覚えていたら気休めにしかならないが、顔は隠しておかなければならない。
 まるで銀行強盗ね、とマスクの下で苦笑して、ウエディは捜査本部への侵入を開始した。

 

 一度破ったセキュリティ、しかも1ヶ月近く暮らしていた場所。ウエディは鍵を一つ開ける程度の感覚で内部に入り込み、まっすぐにモニタールームに向かった。
 ウエディはドアを細く開けて中の様子を伺った。さすがにここに死神はいないようだ。部屋の中に滑り込み、この場所で亡くなったワタリのために彼女は少しだけ祈りを捧げた。
 無数のモニタに囲まれた部屋のまん中に置かれた机の下に潜り込んで、ウエディは床板を持ち上げた。そこに何かあると知っていなければ分からないような場 所に置かれたパソコンは静かに静かに動いている。覆面の下で妖艶に笑い、彼女は元通り床板を戻してモニタの電源を入れた。あちこちに雑多に置かれたキー ボードとマウスの中から床下のパソコンと繋がったものを引っぱりだして、求められるパスワードを入力する。

 
『このパソコンは 11月5日 18時36分13秒に 起動しました』

 

 その日付、時刻。
 ウエディはきゅっと唇を噛み、監視カメラ管理プログラムを起動した。再度求められたパスワードを入力する。流れ始めた文字の羅列を彼女は素早く目で追った。

 
『11月5日 18時38分06秒  緊急システム作動
11月5日 18時45分00秒 既存の画像データ全消去
11月5日 18時50分 赤外線センサーシステム起動

 

No22 11月5日 18時57分43秒
No14 11月6日 08時21分36秒
No15 11月6日 08時22分17秒
No18 11月6日 08時22分59秒
No47 11月6日 10時33分15秒


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

 

 緊急システムが作動すると、全ての監視カメラはスイッチは入るが録画はしない状態になる。赤外線センサーが人の体温に反応した時、つまり監視カメラの近くに人が来ると自動的に撮影を開始、離れると止まり、必要な映像だけをパソコンに保存する仕組みになっている。
 ウエディは映像を撮影したカメラのデータをディスクにコピーする作業を始めた。ディスクにデータをコピーしている間に、月と刑事達の個室に入りカメラの 配線を繋ぎ直した。メインルームに置いてあった殺人ノートを何枚か切り取って、監視カメラの電源をオフにして戻って来ると、データのコピーが終わってい た。ウエディはパソコンに残っていた5日以降の映像データも全て消去し、捜査本部を後にした。もちろん侵入の形跡など欠片も残していなかった。

 

 

 …アイバーがヨツバの会議室で熱弁を振るい、ウエディが捜査本部で仕事をしている頃、夜神を含めた刑事達は警察庁に呼び出されていた。
 彼らを呼び出した張本人である北村は微妙な顔で皆を出迎えた。

「次長、私だけでなく捜査本部の刑事全員を呼ばれるとは、一体何があったのですか?」
「うむ…。まずはこの写真を見てくれ」

 複雑な顔で北村は机の上に置いてあった写真を夜神に渡した。
 写真の人物を見た夜神は僅かに顔を強ばらせた。写真を渡された相沢、模擬、松田も『えっ?』という顔になり、北村をみつめた。

「次長…この女性が何か…?」
「君達はその女性の名前を知っているな」
「はい。それが何か?」
「今後、誰かにその女性の名前を尋ねられたら『秋野祥子』だと答えてくれ。絶対に本名を教えてはならん」
「…何故です?」
「本名を知られることはその女性の命の危険に繋がるから、だそうだ」
「『だそうだ』?」

 夜神は言葉尻を捕らえて表情を険しくした。北村は視線を合わせないようにしながら写真を受け取り、話は終わりだと言う態度を見せたが。

「次長。その指示を出したのは誰なんです?」
「上だ」
「上?」
「そうだ。上だ」

 それだけ言って北村は椅子を回して彼らに背を向けた。
 もう何を聞いても答えは貰えないと分かった夜神達は、一礼して次長室を出た。

 

 玄関ホールまで戻ったところで、松田が周囲に気遣いながら口を開いた。

「一体どう言うことなんでしょう。北村次長が秋乃さんの写真を持ってたのもびっくりだけど、名前を聞かれたら『秋野祥子』なんて偽名を教えろなんて…」
「キラがLと彼女の繋がりを知っていたとしたら秋乃さんも危ないかもしれないが…しかし…」
「殺されるとしたら秋乃さんより我々ですよねぇ…」
「うむ…」
「大体そんなことをどうして我々に言う必要があるんだ?まるでキラが俺達の周囲にいて、俺達から彼女の名前を聞き出そうとしているみたいじゃないか」
「まさか…」
「警察の中にキラがいるってことでしょうか…」
「………」

 ずっと何かを考えていた夜神が部下を見回して重い口を開いた。

「竜崎が運ばれたのはK病院だった」
「そうですね…それが何か?」
「あまり知られていないことだが、K病院には『特別病棟』という裏の顔がある」
「うわぁ…いかにもVIP専用って感じですね」
「まぁそうだな。『患者』の素性はもちろん、怪我や病気の理由や原因も一切聞かずに超一流の医療が受けられる病院だそうだ。それだけに法外な金を要求され るが、特別病棟の人間は『患者』の情報を一切外部に漏らさないので、色々と訳ありの人間がこぞって訪れるという噂だ。それこそ大統領から暴力団のボス、犯 罪者までな」
「はぁ…」
「そのK病院の最高責任者は如月達也と言う男で、日本国内はもちろん外国の要人にも強いコネを持つ裏社会の大物だ。その如月がK病院の表と裏の院長を兼ね ていたのだが、半年か1年前に高齢を理由に表側の院長の椅子をお気に入りの娘婿に譲ったんだ。その娘婿は如月の一人娘が大学で知り合ったごくごく普通の男 で、医者としての腕は超一流だったが、そんな男にK病院の院長が勤まるのか、ただのお飾りではないのかと噂になったのを覚えている」

 K病院の院長云々と秋乃の偽名がどう関係があるのか、疑問に思っていた刑事達は続く夜神の言葉に顔色を変えた。

「如月の娘婿、つまり現在のK病院の院長の名前は龍神冬彦といった。竜崎の治療にあたり、『最後を看取った』のはその龍神院長だ」
「たつがみ!?」
「確か、秋乃さんの名字も龍神でしたよね…」
「珍しい名字だから偶然なんてのはありえない…よな……」
「竜崎の造った捜査本部の近くに、秋乃さんの家族…と思える人物が院長をしている病院…竜崎を看取ったのはその院長…さらに院長のバックには各界の大物……」
「何かありそうだな…」
「……………」
「まぁ推測で話をしていても仕方がない。明日の竜崎の葬儀は遅れないようにしないとな、秋乃さんから何か話があるかもしれん」
「そう…ですね…」

 竜崎が生きているかも知れない可能性を喜ぶべきか、生きているならそのことを知らせて貰えないことを悔やむべきなのか。
 刑事達は複雑な顔で警察庁を後にした。
 吹き抜ける風にはほんのわずか冬の匂いがした。




 …………
 閑静な住宅街にある広大な龍神邸の一角。Lの新たな捜査本部として提供されたその部屋は僅か二日で最新鋭の設備が揃えられ、竜崎は龍神に感謝しつつキラ事件の捜査を進めていた。
 如月の力添えのおかげで各国の首脳や警察幹部との交渉は思った以上に順調に進んでいた。
 キラと第ニのキラを断定したこと、キラの殺人の方法をつきとめたこと、Lが日本警察とは繋がりを断ち独自に動いていることを知った各国は積極的に協力を 申し出て来た。ここでLに恩を売っておけばのちのち役に立つし、日本警察が我が身可愛さに放り出した事件を解決するために協力したとなれば自国のイメージ アップに繋がると判断したのだろう。
 キラと第ニのキラの尾行、科学検査、そして殺人ノートの検証、全てに複数の先進国が協力を確約してくれた。
 今までの捜査の難航がまるで嘘のようで、竜崎はほっと気を抜きそうになる自分を強く戒めていた。

(いや、まだまだ事件解決はこれからだ。キラは夜神月、第二のキラは弥海砂で間違いないが、証拠はない。殺人ノートの検証もまだだし、秋乃さんの身の安全 も確実ではない。夜神月が彼女の名前を探るために利用しそうなデータは全て『秋野祥子』という偽名に書き換えたが、100%安全とは言えない…)

 神経が張り詰めているのだろう、喉の乾きを感じた。
 ワタリ、何か飲み物を。
 思わず口をついて出かけた言葉を竜崎は飲み込んだ。現在の捜査本部の居心地の良さについ失念してしまいそうになる…ワタリはもういないということを。
 胸の中に冷たい霜が降りた気がした時、ふわりと優しい紅茶の香りがした。振り返ると、秋乃がティーポットとケーキを乗せたトレイを持ってやってきたところだった。

「竜崎さん、捜査もいいですけど少し休憩しませんか?」
「ええ、ありがとうございます。ちょうど何か欲しいと思っていたところです」
「良かった」

 秋乃は嬉しそうに微笑んだ。竜崎の前に紅茶とモンブラン、シュガーポットを置いて隣の椅子に腰を降ろした。

「順調ですか?」
「はい、おかげさまで。外堀はほぼ埋まったというところですね」
「いよいよ大詰めですね」

 彼女の言葉に頷いて、竜崎は砂糖をたっぷり溶かした紅茶を口に含んだ。竜崎の好みとケーキとの相性を十分に考えて茶葉をブレンドしたと思われるそれに、竜崎は思わずため息を漏らした。
 半分ほど飲んだ紅茶はワタリがいれたそれと寸分違わぬ味と香りで。
 彼らしくないセンチメンタルな気持ちが重い口を開かせた。

「ワタリがいた頃は、ワタリが紅茶をいれてくれました」
「…そうですね」
「私の好みを良く知っていましたから、ワタリの紅茶はとてもおいしかった。秋乃さんが来た時は秋乃さんが紅茶をいれてくれましたが、まだまだワタリにはか なわないなと…正直私は思っていました。それなのに、今日の紅茶はワタリがいれたものと全く変わらない味と香りがします」
「本当ですか?」
「ええ、とてもおいしいです」

 秋乃はぱっと顔を輝かせて本当に嬉しそうに微笑んだ。胸の前でぎゅっと手を握りしめて、よかった…と何度も呟く。
 その意味を尋ねるように竜崎が顔を向けると、彼女は目を細めて柔らかく微笑んだ。

「ワタリさんからおいしい紅茶のいれ方を教わっていたんです。言われた通りにしてもなかなか同じ味わいが出せなくて、ずっと練習していたんですけど…やっと竜崎さんにおいしいって言ってもらえたから、嬉しくて」
「………。私、秋乃さんの紅茶をおいしいと言ったこと、なかったですか?」
「はい。『ケーキがおいしい』と言ってもらったことは何度もありますけど、紅茶は今日が初めてです。だから、凄く嬉しいんです。ワタリさんに教わったことを私はちゃんと身につけることができたんだって思えて」
「…………」

 口に含んだふくよかな紅茶が胸に詰まった。
 ワタリは死ぬ前に全てを消していったけれど、消せなかったものがある。残せたものがある。
 竜崎の中に。秋乃の中に。そして、世界中に。
 ためらいは短かった。
 誰にもしたことのない話。

「…もうお兄さんからお聞きかも知れませんが…。彼は私の片腕であり同時に窓口であったので、素顔や本名を公開するわけにはいかなかった。ですから、『ワタリ』という通称名を名乗っていました」
「……?」
「彼の本当の名前はキルシュ・ワイミーといいました。世界的にも有名な発明家だったのです。数々の発明で特許を取り、そのお金で世界各地に養護院や孤児院を設立して大勢の孤児達を引き取って…。それゆえに彼は『偉大なる父』とも呼ばれていました」
「…ワタリさんは、世界中の子供達のお父さんだったんですね」

 彼女はそこで言葉を切った。
 竜崎にとってもワタリは父だったのかどうか。
 尋ねられたら答えるつもりだったが、彼女は何も言わず竜崎の次の言葉を待っている。言わないことは尋ねないのは以前からの彼女のポリシーだったが、竜崎がLだと言うことをはっきりと知らされたせいか、彼女は質問することを今までよりも遠慮している感じがした。
 竜崎はその話題はまた後日にしようと思った。

「…秋乃さん」
「はい?」
「ワタリと話をすることはもうできませんが、『ワタリの子供達』と話をすることはできます」
「え………」
「キラ事件が解決したその時は、私と一緒に…アイバーやウエディや、仕事の都合がつけばお兄さんも一緒に、ワタリの子供達に会いに行きませんか。そして子供達のためにお菓子を作って頂けませんか?」
「おやすいご用です。いえ、喜んでやらせて頂きます」

 秋乃は竜崎の言葉に嬉しそうにうなずいた。

 

 それからしばらくして、『仕事』を終えたウエディが最新の捜査本部となった龍神邸に戻って来た。
 竜崎のいる部屋に戻って来たウエディはディスクの入ったバッグをカウンターにどさりと置いた。早速秋乃が紅茶とケーキを運んで来たので、彼女は火をつけかけた煙草を笑顔でケースに戻した。

「ウエディさん、おかえりなさい。お疲れ様でした」
「ありがと。んん〜仕事を終えた後の甘いものはたまらないおいしさね」
「…本部の中はどうなっていましたか、ウエディ?」
「とりあえず死神の姿は見えなかったわ。緊急システムはきちんと動いていたし、触られた形跡もなかった。多分、今あそこにいる人達は緊急システムが作動し たことは知らないんでしょうね…監視カメラに触った形跡もなかったし。何かが映ったデータだけコピーして全部持って来たわ。内容の確認はいちいちしていら れなかったから…あとこれ、殺人ノート」

 ウエディは切り取って来たデスノートを数枚竜崎に渡した。受け取った竜崎は相変わらずの無表情で軽く頷いた。

「これは検証を約束してくれた各国に渡すとして…監視カメラの方はどうなってますか」
「ばっちりよ。皆の部屋とメインルームの監視カメラの映像と音声はここに飛ばせるようになってるわ。あ、それから弥のアパートの部屋にも設置して来たわ」
「御苦労様です」

 竜崎はずらりと並んだTV画面のスイッチをいれた。夜神月と捜査員達の個室、メインルーム、そしてミサの部屋が映し出された。まだ誰も帰っていないらしく、動く人影はない。
 それでも竜崎は死神がどこかにいるかもしれないとモニタに視線を向けたまま2個目のケーキを口に運んだ。
 その隣で女性二人は監視カメラのデータを調べ始めた。メインルームでの相談や、それぞれの個室でのどうでもいい映像しか映っていないディスクがどんどん山になっていく。そうして1時間がたった頃。
 あ、と秋乃が声を上げた。
 彼女は見ていたディスクを止めて巻き戻し、竜崎とウエディを呼んだ。

「竜崎さん、ウエディさん、ちょっとこれ見て下さい。月さんが砂に埋もれた黒いノートを拾ってます!」
「え!?」

 竜崎が画面を覗き込む。ボリュームを十分に上げてから秋乃は再生ボタンを押した。
 ザッ…と音がして画面が映った。画面の下に『14』という数字と時刻が映っている。雑多な配線がむき出しになった管理室に不自然な砂の山があり、そこに 黒いノートが落ちている。扉が開き、夜神月が入って来た。砂の中からノートを拾い上げて歪んだ笑みを浮かべると、砂を払って服の中にそれを隠した。崩れた 砂を元通りに直してからドアの外に向かって叫ぶ。

『みんな来てくれ!』
『何だ!?何かあったか?』

 どやどやと他の捜査員達がやって来て、床に溜まっている砂を怪訝そうな顔で見ている。

『何だこれは?』
『砂…?』
『ど…どうなってる…?』
『……なんであろうと…どうなっていようと…』

 刑事達の後ろで月ははっきりと宣言する。

『竜崎を殺したのがキラだろうと、死神だろうと、人間だろうと…必ず竜崎の仇は打つ…。この事件を解決することが餞なんだ…ワタリや他の犠牲者、全ての人の為にも…』

 その言葉に刑事達は動揺を隠せないながらも同意している。
 竜崎は白けた目で呟いた。

「御立派な演説ですねぇ」
「前もって考えてあったのかしら」
「この監視カメラの番号は14ですね。14と言ったらどこです?」
「メインルームのすぐ隣の配線室ね」
「…………。ワタリが倒れたあの時、死神は隣の部屋に行っていたのかもしれない…二人とも、配線室周辺の監視カメラの画像を探して下さい。これに繋がる何かが映っているかも知れません」
「OK」
「分かりました」

 ビデオの映像チェックが再開されてしばらくした頃、ヨツバとの会議を終えたアイバーが帰って来た。彼も参加して一通り映像をチェックした結果、手がかりらしき映像がいくつか見つかった。
 『竜崎の死』を告げる夜神、机を叩いて憤り『死神、出て来い!』とわざとらしく叫びながら部屋を出ていく月。
 別のディスクには、廊下から刑事の姿が消えるのを待ってメインルーム隣の配線室に迷わず入る月の姿が映っていた。

「さっきの映像と合わせて見ても、夜神月がメインルームの隣に何かがあると知っていたのは間違いなさそうですね」
「カードキーを使わないと開かない部屋に迷わず向かってるし、わざわざ人目がないのを確認してるし」
「こうなると、夜神月が誰もその存在を知らない殺人ノートを持ってるのは間違いないな」

 アイバーの言葉に竜崎は軽く頷いてテープを止めた。
 監視カメラに映る捜査本部やミサの部屋には特に動きはない。

「今日のところはこれだけ収穫があれば上出来でしょう。皆、お疲れ様でした」
「竜崎さんも。…じゃあ、私はそろそろ夕食の支度をしてきますね」
「手伝うわ」
「じゃあ僕も…」

 秋乃に続いてアイバーとウエディが部屋を出ていく。
 部屋にひとり残された竜崎は、多少ふて腐れて監視カメラの映像が映るモニタに視線を戻した。誰か一人くらい残って一緒に監視してくれてもいいだろうに。

「……?」

 竜崎は首を傾げた。空になったティーカップの陰にディスクが一枚置いてある。その上にはまるで手向けのように、デスクに飾ってあった花が三輪添えてあった。
 そういえば、秋乃とアイバーとウエディがなにやら真剣な顔で見ている映像があったが、これがそうだろうか。見てくれとは言われなかったから重要な映像は映ってないのだろうと思っていたが…。
 竜崎は花が添えられたディスクをデッキにいれた。
 ザッ…と音がして映像が映し出された。
 竜崎の瞳孔がすぅっと小さくなった。膝を掴んだ手に無意識に力が入る。
 ワタリだ。
 モニタルームのまん中に倒れたままぴくりとも動かない。
 …どやどやと足音がして刑事達が部屋に入って来た。ワタリ、ワタリと叫びながら身体を起こす。脈や瞳孔を確認した相沢が沈痛な面持ちで首を振った。松田ががくりと膝をつく。夜神と模木はそっとワタリに手を合わせた。
 胸の上で手を組んだワタリが担架にのせられ、刑事達が部屋を出ていく。ドアが閉まり、画像は消えた。

「………」

 三輪の手向けの花。
 竜崎を部屋に一人きりにしてくれた三人に感謝しながら、これが最初で最後だと心に決めて。
 声を殺して、竜崎は、泣いた……。


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