| 11月12日の朝。 一番早く起き出した月は届けられた朝刊を持って自分の部屋に戻った。わくわくしながら新聞を開いた月は、思い掛けない記事に我が目を疑った。 『タレントの秋野祥子さん自殺 友人と電話で繋がったまま…幸せの絶頂にあったはずの彼女が何故?』 月は食い入るように新聞記事を読んだ。 秋野祥子が自殺したのは昨日、11月11日の夜。彼女から電話を受けた友人は、また婚約者の自慢だろうと思っていたが、突然『自殺することに決めた』と いう発言の後、シャワーの音が聞こえ始めたと言う。驚いた友人が即座に警察と救急に連絡し彼女のアパートに向かったが、秋野祥子はバスルームで手首を切っ て既に息絶えていたらしい。 彼女は数日後に結婚式を控えておりとても幸せそうで、自殺する理由など思い付かないと関係者は首を捻っていると言う。 (何故だ…何故、タレントの方の秋野祥子が死ぬんだ…) 新聞を掴んだ月の手が震えた。混乱する頭で必死に考える。 同姓同名の人物に一度に効果は得られない、それはデスノートのルールだ。 名前を書いた時タレントの秋野祥子の方を強くイメージしてしまったのだろうか。 それともパティシエの秋野祥子はデスノートに名前を書いた時点で既に死んでいたから、タレントの方が死んだのだろうか。 あるいは名前が間違っていたのだろうか。最初に刑事達に名乗っていた名前がそもそも偽名だったとか。竜崎もトップアイドルと同じ名前を使っていたからあり得るかもしれない。 「くそっ」 月は唇を噛んで拳をデスクに叩き付けた。 確実にあの女の死を知りたくてこんな方法をとったが、手違いでタレントの秋野祥子が死ぬことは全く計算に入れていなかった。もし刑事の誰かがタレント秋野の死とパティシエ秋乃を結び付けたら…。 (大丈夫、父を始めここの刑事達は僕のことを完全に信じ切っている。万が一二人の秋野を結び付けたとしても僕が疑われることはない…) 落ち着け落ち着けと自分に言い聞かせ、月は朝食を取るためにメインルームに向かった。 食事を済ませると月はすぐデスクに向かいデータやシステムの移動作業を始めた。刑事達もそれぞれ仕事に向かい始め、最後に残った松田が付けっぱなしになっていたTVを消そうとした時。 「え…秋野祥子が自殺!?」 「………」 タイミング悪く流れたニュースに月は内心で舌打ちした。 松田の言葉にすでに仕事を始めていた相沢や模木や総一郎までがTVの前に戻って来た。 ニュースで流れた情報は新聞とほぼ同じだった。11日の夜に友人に電話をし、そのまま自殺。結婚を控えて幸せそうだったと言うのが周囲の印象で、原因については全く分からないらしい。 刑事達は複雑な顔でニュースを見ていたが、ずっと何か考え込んでいた松田が重苦しく呟いた。 「まさか…キラが…」 「ん?」 「キラが、パティシエの秋乃さんを殺そうとして、間違ってタレントの秋野祥子を殺したんじゃ…」 「はぁ?」 「秋乃さんはLのお抱えパティシエで、僕達より竜崎との付き合いは深くて、アイバーやウエディとも知り合いだったみたいだし…何か重要な情報を知っているんじゃないか、口を封じないと危ないってキラが思っても不思議じゃないですよ」 「アホか」 相沢はあからさまに呆れた顔になった。どうしてアホと言われるのか全く理解できていない松田に噛んで含めるように説明を始める。 「あのなぁ、松田。どうしてキラがLと秋乃さんの繋がりを知ってるんだよ」 「それは…えーと………」 「秋乃さんがTVや雑誌の取材は一切受けないしネット上でもお店の情報は全く流れないようにしてあるのはお前も知ってるだろ。秋乃さんが店長をしてる店の オーナーが竜崎だということも、知ってるのはここの捜査本部の人間と店のスタッフとあとは秋乃さんの家族くらいだろう。お前まさか、この中にキラがいると か言い出す気か?」 「あ…そうか…じゃあ秋野祥子の自殺はただの偶然かぁ…」 「普通に考えればLとワタリを殺したキラが次に狙うのは、情報を知っているかいないか分からない一般人よりも、一緒に事件を捜査していた俺達だろ。ま、タイミングがタイミングだからキラの仕業かと考えるのも無理はないが、もう少し頭を冷やせよ」 「はい、すいません」 松田が頭をかいてぺこりと頭を下げた。 わかればいい、と相沢が自分の仕事に戻る。模木と総一郎もそれぞれ無言で仕事に戻った。 聞き耳を立てていた月は内心でほっと胸をなで下ろしていた。 その夜。 仕事を終えて自室に戻って来た松田は落ち着きなく部屋の中をうろうろと歩き回っていた。TVを付けていつも見ているクイズ番組にチャンネルを合わせたが、全くのめり込めずにまた何をするでもなく立ち上がった。 「どうしようかなぁ…やっぱり話すべきかなぁ…」 呟いてまた部屋をうろうろする。 秋野祥子自殺のニュースを知ってからずっと考えていたこと。自分の中にしまっておくなんてできそうにないが、夜神や月にはとてもできる話ではないし、模木は何も言ってくれないかもしれないし、相沢にはまたアホかと言われそうだ。 どうしようかどうしようかと迷っていると内線電話が鳴った。 「はい?」 『松田か、俺だ』 「ああ、相沢さん」 『今、一人か?』 「そうっすけど」 『じゃあちょっと俺の部屋に来てくれ。下っ端3人で緊急ミーティングだ』 「分かりました」 願ったり叶ったりだ。松田は今夜は本部に泊まると言う相沢の部屋に大急ぎで向かった。 部屋のインターフォンを押すと、無言の相沢がドアを細く開けた。その仕種に何となく松田も声を潜める。 「どもっす」 「松田、一人だな?」 「はい」 「俺に呼ばれたこと、局長や月君には言ってないな?」 「言ってないです」 「よし、入れ」 何故か周囲を見回してから、松田はそっと部屋に入った。 部屋には既に模木の姿があった。テーブルの上には裂きイカやピーナツが並び、缶のビールが何本か出してあった。その隣には秋野祥子の自殺記事が乗った新聞。 新聞に目を向けたまま適当なソファに腰を降ろしたとたん、相沢が口を開いた。 「松田、どう思う?」 「どうって…何がです?」 「タレント秋野祥子の自殺だよ」 「そりゃ…変だなぁとは思いますよ。思いますけど………」 「俺も変だと思う。しかし、竜崎がLだということ、秋乃さんがLのお抱えパティシエだったことを知っている人間の中にキラがいるとは思えないから、これは 偶然だろうと…一度は思った。だが、ふっと俺は思ったんだ。本当にこれは偶然か?Lとワタリが殺されたその数日後、キラ事件以前からLと繋がりがあった女 性が使っていた偽名と全く同じ名前の有名タレントが死亡するなんて、そんな偶然があり得るか?松田の言ったことは案外核心を突いていたんじゃないか?」 「…………」 プシュッ、と相沢が缶ビールを開けた。ぐっと一口飲んで何かを考えるように間をおいてから松田に顔を向けた。 「松田、一つ聞くが」 「はぁ、何です?」 「昨日の葬儀の時、秋乃さんの名前に関して月君から何か聞かれたか?」 「………………。聞かれました。『アイバーが彼女をショウコって呼んでたけど、秋野さんってショウコって名前なんですか』って。だから僕、北村次長に言われた通りに答えました。『タレントの秋野祥子と同姓同名なんだよ』って…」 「そうか………」 相沢は一度大きなため息をつき、うなだれ、首を振り、そして顔を上げた。 「松田、模木。これはここだけの話として聞いてくれ」 「な…何ですか相沢さん、改まって」 「俺は秋野祥子自殺のニュースを見てからずっとキラ事件について考えていた。一切の先入観と固定観念を捨てて、事実だけを根拠にもう一度考えてみたん だ。…結論から先に言う。俺は月君が監禁されている最中に犯罪者裁きが始まった日から昨日まで、月君の潔白を信じて来た。しかし今の俺は、月君がキラでは ないかと疑っている」 「えっ………」 何を言ってるんですか相沢さん。月君がキラだなんてそんなことあるわけないっすよ。 昨日までの松田なら即座にそう言っただろう。 しかし今の彼は相沢と同じ考えを持ってしまっていた。模木も同じだったのだろう、全く驚いた顔を見せずに表情を厳しくしただけだった。 「一度は松田の言ったことを蹴ったが、俺はもう一度考え直した。秋乃さんの店のスタッフなら竜崎の顔を知っているし、会話を聞いたりして竜崎がLだと気付いたかもしれない。それなら店のスタッフがキラという可能性もあるか?と考えて、それはないと思った」 「秋乃さんがお店を持ったのはキラ事件が起こるずっと前ですし、スタッフに秋乃さんの偽名を教える必要もないですもんね」 「そうだ。秋乃さんの家族や店のスタッフなら本名を知っているから間違ってタレントの秋野を殺すことはない。俺達は『秋野祥子』が偽名だと知っているか ら、秋乃さんを殺そうとして『秋野祥子』という名前を使うことはない。月君は押収したノートに書かれていた13日のルールで潔白が証明された。じゃあやっ ぱりタレント秋野の自殺は偶然か…と思いかけてふと思った。『この事件、偶然とは思えないような偶然がやけに多いな』ってな」 相沢がビールの缶を開けぐっと飲んだ。口元を乱暴に拭って無造作にピーナツを口に放り込む。松田は無言のままビールに手を伸ばしてのろのろと缶を開けた。 松田も模木も一言も口を利かない。相沢だけが独り言のように言葉を吐き出す。 「キラと接触した可能性があるレイ・ペンバーが調べていた警察関係者の中に『偶然』夜神家、北村家の人間がいた。第二のキラからさくらTVにビデオが送ら れて来た時期に『偶然』キラを崇拝する弥が上京して来た。第二のキラが『キラを見つけた』と言った5月22日の青山に『偶然』月君がいて、『偶然』そこに 来ていた弥が月君に一目惚れした。ついでに何故かその時に月君の名前を知っている。弥の部屋からは『偶然』第二のキラが送って来たビデオと共通する様々な ものが見つかった。そうして月君に疑いがかかり月君が拘束された直後、『偶然』キラによる犯罪者の裁きが止まった。その後、潔白が証明された弥が自由に なった途端に『偶然』犯罪者の裁きは再開された。そして……ノートに書かれた13日のルールを検証しようと言った時『偶然』Lとワタリは殺された…。ここ まで考えて俺は思った。一つや二つならともかく、ここまで偶然が重なるのは出来過ぎじゃないか?」 「…でも」 自分の考えをまとめ再確認するために松田はあえて反論した。 「月君の潔白は13日のルールで証明されたじゃないですか」 「13日名前をかかないと本当に自分が死ぬのか、誰か試したか?試してもいないのにどうして嘘だと言い切れる?13日のルールを検証すると言った途端にLとワタリが殺されたのは何故だ、検証されると都合が悪いからじゃないのか」 「あの時月君は僕達と一緒にいた。月君が二人を殺せるはずがないでしょう。弥はワタリの顔も見たことないんだし」 「月君は確かに一緒にいた。しかし死神はいなかった。弥はワタリの顔を見たことはない。しかし死神はある」 「どうして死神が二人を殺す必要があるんですか。死神がキラの味方をしてたって言うんですか」 「死神は人間とつるんじゃいけないと言うルールでもあるのか」 「…それは…わかんないですけど…死神とは言え神なのに、人間に協力なんてしますかねぇ?」 「分からん。正直俺も、死神が進んで人間に協力するのは考えにくいと思ってる」 相沢の言葉に松田はがっかりしたが、まだ相沢の話には続きがあった。 「しかしあの死神はこうも言っていた。『落としたノートをたまたま火口が拾った』と。正確には最初に拾ったのはキラだったかも知れないが」 「言ってましたけど、それが何か?」 「あの言葉を思い出した時、俺は『アラジンと魔法のランプ』の話を思い出した。ランプの持ち主の願いを三つ叶えると、ランプに閉じ込められていた魔人は自由になれる、というアレだ」 「はぁ…?」 「つまり、死神がうっかりノートを落として人間に拾われてしまった場合、そのノートを拾った人間の願いを三つ叶えないと死神の世界には帰れないんじゃないか、と思ったわけだ」 「なるほど…」 「俺の勝手な想像だがな。が、ひとつ言えることがある。理由はどうあれ、13日のルールが嘘だったら全てがひっくり返る。全ての偶然が必然になる。自覚や 記憶があったか無かったかは分からないが、月君と弥はキラだと言うことになる。それを前提に考えると『パティシエの秋乃さんを殺そうとしてキラが手違いで タレント秋野を殺したのでは』という松田の説ががぜん真実味を帯びて来る」 「でも、普通なら情報を知っているかどうか分からない一般人より先に僕達を殺すだろうって相沢さん言ったじゃないですか」 「死神が実在した時点でこの事件は普通じゃない。発想を転換しろ、松田。一緒に事件を捜査していた俺達は放っておいても秋乃さんを殺したい理由とは何だ?俺達が持っているのと全く同じ情報を秋乃さんが持っていると仮定した場合、俺達と秋乃さんの違いはどこにある?」 「………。竜崎との付き合いの長さですか?」 「違う」 相沢はきっぱりと言った。 首を傾げて答えを求める松田の視線から目を逸らして、絞り出すような声で続ける。 「竜崎を信じていたか、信じていなかったかだ」 「………!」 「分かるか、松田。キラはLを信じている人間を消したかったんだ。何故か?竜崎の推理が正解だったからだ。竜崎がキラだと推理した人間がキラだったからだ」 松田は息を飲んだ。缶を開けただけのビールが握りしめた手の中でぬるくなっている。 相沢は一口ビールを飲んで苦しそうに続けた。 「俺は、局長を信じて尊敬していたから、局長の息子がキラだなんてあり得ない、いや、あってほしくないと思っていた。だから世界一の名探偵であるLに頑固 に逆らい、月君の潔白を認めさせようとした。最初にLが月君をキラだと断定した全ての事実を見ないふりをして、ノートの検証すらさせまいとして。今思え ば、13日のルールが嘘だと判明して月君がキラに逆戻りするのが怖かったのかもしれん」 「僕も、同じです…。怖かったんです…月君がキラだって確定して、局長がどうかなってしまうのが…」 松田はようやく、心のどこかで気付いていながら見ないふり、分からないふりをしていたことと向き合うことができるようになって来ていた。 キラの能力が記憶と同時に自分の意志で他人に移すことができ、13日のルールが嘘だったら。 竜崎が、全て正しかったとしたら。 月とミサがキラだったとしたら。 松田は朝からずっと頭にこびり着いて離れない考えをぽつりと呟いた。 「もし…竜崎の言う通り、月君と弥に監視を付けて、13日のルールも検証していたら…僕達が竜崎を信じてあんなに反対しなければ、竜崎もワタリも、タレントの秋野祥子も死なずに済んだんでしょうか…」 「言うな」 「だけど」 「言うなっつてんだろうが!今更どうこう言ったって、ワタリも竜崎も帰ってなんかこねぇんだよ!!」 ガァン!! 相沢がまだ中身の残っているビールの缶をテーブルに叩き付けた。その弾みで中身が飛び出し新聞の上に染みを作った。ぐしゃり、と缶を握り潰した相沢の手はどうしようもなく震えている。 松田は唐突に、やっと理解した。 …ああ、そうか。一番辛いのは相沢さんなんだ。 すいません、と口の中で呟いて、浮かんで来た涙を袖口でごしごし拭った。それでも顔を上げられなくて、飛び散ったビールを布巾で拭いていると、頭の上から相沢の声がした。 「だから、これからどうするかを考えなくちゃいけないんだ」 「これからどうするか…」 松田はテーブルを拭く手を止めて考えた。生涯初かも知れないくらい、人並みより回転の遅い頭を必死に動かして考えた。 自分に何ができるのか。 …しばらくして松田は強い決意を胸に顔を上げた。 「決めました。僕、初心に戻ります」 「ん?」 「僕は竜崎を…Lを信じて命を賭けると言って捜査本部に残りました。あの時の気持ちに戻ります。Lを信じて命を賭けます」 「………。何をするつもりだ?」 「殺人ノートを検証します」 「あぁ!?」 突拍子もない松田の発言に相沢だけでなく模木まで目を丸くした。 何をどこからどう言うべきかしばらく考えてから、相沢はごくごく基本的なことから話すことにした。 「検証すると言っても、13日以内に死刑執行が決まってる死刑囚が日本に二人もいるとは思えないぞ。外国の警察に頼むと言ってもLかワタリを通さないとダメだ。どちらにしても月君や局長に知られずに交渉するなんて無理だ」 「分かってます」 「月君がキラだとしたら、ノートを使った死刑囚が13日目に殺されるだけだぞ。でなければLやワタリと同じように俺達が殺される。それじゃ本末転倒だろう」 「分かってます。だから、局長や月君には秘密で、僕がノートに名前を書きます」 「へ?……………」 口を半開きにしている二人の前で、松田はこれ以上ないほど真剣な顔で続けた。 「僕がこっそりノートを切り取って、誰にも見られていない場所で名前を書いて誰かを殺します。いつ名前を書いたかは本部とは関係のない人に、例えば僕の親 か秋乃さんに教えておいて、僕が死んだら僕が教えたその日を相沢さんか模木さんに教えるように頼んでおく。こうしておけば、僕が死んでも13日のルールが 本当か嘘かが分かります。もちろん僕は名前を書いた日を覚えていますから、13日たっても僕が生きていればあのルールは嘘だったことになる」 「松田…お前、自分が何言ってるのか分かってるのか?13日のルールが嘘で、キラが捕まったとしても、お前には殺人の罪が残るんだぞ」 「分かってます。僕がLを信じていれば、竜崎もワタリも、タレントの秋野祥子も死なずに済んだでしょう。僕があの人達を殺したようなものです…。このまま自分だけ何も罰を受けずに生きていくなんて、出来ない」 「なら」 「ダメです」 相沢が何か言う前に松田は言った。 「相沢さんには奥さんも子供さんもいます。その人達の為にも、相沢さんは殺人者になっちゃいけない」 「……松田…」 「僕は、馬鹿だから」 松田は情けない顔で笑った。 「もし13日のルールが嘘だと分かっても、相沢さんがいないと月君を追い詰めるなんて出来ない。これくらいしかできることがない…だから、やらせてください」 「…分かった。もう止めねぇよ。そのかわり、やるなら失敗するんじゃないぞ。ノートをこっそりとって来るなんて芸当、お前には無理だろうからそれは俺がやってやるよ」 「ありがとうございます」 松田と相沢、そして模木が固く握手をした。 どんな結果になろうとも、後悔だけはもう二度としたくない。 それが彼らに共通する思いだった。 …総一郎と月が外出している時に相沢がノートをほんの少し切り取って松田に渡す。松田は自分で決めた日に誰かに連絡した上でその切れ端に名前を書く。名前を書いた人間が死ななかったらノートを一ページ切り取って再検証。 『松田特攻計画』と名付けられた作戦会議は10分もかからずに終わった。 「で、あとは連絡を入れる相手を誰にするかだが」 「秋乃さんがいいんじゃないかな。多分あの人ならすぐにピンと来るはず」 「その前にちゃんと連絡とれるか確認しておかないとな。松田、今の計画の内容、具体的なことは伏せてメールしてみろ。それで返事がくればOKだ」 「そうですね」 松田は携帯を取り出して考え考え彼女にメールを出した。 『秋乃さん。 こんばんわ、松田です。お元気ですか。急な話なんですが、僕は竜崎の仇を取るために、命がけで事件を捜査をする決意を今更ながらに固めました。その際には秋乃さんに連絡を入れますので、ほんの少しだけ手を貸して貰えませんか。お返事お待ちしております』 メールを発信して数分後、散らかったテーブルの上を片付けている時に松田の携帯が鳴り出した。 メールだ、と呟いて画面を開いた松田は微妙な顔でメッセージを読んでいた。何度かメールを読み返し、松田はなんとも言えない顔で携帯を二人に差し出した。 「これ…どういう意味だと思います?僕には『余計なことしないで何も知らない振りしてろ』って言われてるように見えるんですが」 なんだそりゃ、と言いながらメールを見た相沢と模木も松田同様なんとも言えない顔になった。 『「松田さんの覚悟はとても有り難く思いますが、その気持ちだけで十分です。松田さんや相沢さんや模木さんが御自分の命を危険に晒すことは私は望んでいません。ですからもう少しの間、静かに状況を見ていて下さい」』 「確かに『余計なことはするな』と言ってるように見えるな」 「でしょう?まるで秋乃さんがキラ事件を捜査してるみたいな書き方ですよね」 「それに、メッセージをわざわざカギカッコで括ってあるのも気になるな」 「そうだ…まるで、これは誰かからの伝言ですよと言わんばかりだな」 「そうですね。そう考えると、何だか竜崎が言いそうなことですよね、これ」 「…………」 「…………」 竜崎が言いそうな言葉。 カギカッコで括られたメッセージ。 松田が何気なく言った言葉に、相沢と模木はある一つの可能性に思い至った。相沢は一気に真剣な顔つきになって松田に尋ねた。 「松田。お前、葬儀の時竜崎に触ったか?」 「え?そんなことできるわけないですよ。棺はしっかり閉じられてたし、秋乃さんがずっと横に立ってて、何かしようとしたら怒られそうだったし…」 「局長が言うには、病院に運ばれた時の竜崎はまだ生きていた…最後を看取ったのは龍神と言う名前の院長で、息を引き取った竜崎には会わせられないと言っていた…つまり、俺達の誰一人として竜崎の『死亡』を確認した者はいない…」 三人は顔を見合わせ、同じことを考え、自分の考えを言いかけてやめた。 コホン。 わざとらしく相沢が咳払いをして澄ました顔で口を開いた。 「まぁなんだ」 「あれですね」 「うむ」 「はっきりしたことが分かるまでは迂闊な行動は謹むべき、だな」 「そうですね」 「む」 三人は散らかったテーブルを片付け、中途半端に残っていたビールやつまみを口に入れ、握りしめた拳を軽くぶつけあって無言のままそれぞれの部屋に戻った。 竜崎が生きていて、キラ事件の捜査を続けているのかも知れない。 限り無く事実に近いであろうその可能性をどう受け止め、受け入れればいいのかをそれぞれに考えながら。 |
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