世界の中心でLを叫ぶ・If
EPISODE 7:11月16〜17日

 …龍神邸の捜査本部。
 デスクに置かれたスケルトンタイプの電話が青く光り出した。竜崎を挟んで左右にいた秋乃とウエディがほとんど同時に顔をあげたが、電話の真ん前に座っている竜崎は光っている電話など眼中にないという顔でパソコンの画面を見つめている。
 女性二人は呆れた顔を見合わせた。
 『考え事をしている時や話をしている時に電話のベルで邪魔をされるのは我慢できない』という竜崎のために、捜査本部には音ではなく光で着信を知らせる電話が備えられている。
 だから電話が光っているということは電話が鳴っているということなのだが、竜崎は電話を取る気が全くないらしい。

「私が出るわ。秋乃が出ると、用件より口説き文句の方が長くなるから」
「…ありがとうございます」

 クスリと笑って秋乃は電話を取ろうと伸ばしかけた手を戻した。ウエディはもう一度竜崎を見てから電話を取った。

「もしもし。…何だとは何よ。二人とも取込み中よ。用件をどうぞ」

 横目でウエディの様子を伺っていた竜崎は、ジト目で覗き込んでくる秋乃に気付いてぎょっとした。

「な…なんです?」
「竜崎さん、電話をして来たのがアイバーさんだったから無視したんでしょう」
「…バレてましたか」
「ダメですよ、そんなの。一刻を争う緊急の用事だったらどうするんですか」
「それもそうですね…じゃあ、次にかかって来た電話は私が取ります」

 冗談か本気か分からない顔で竜崎が言うと、話が終わったウエディが電話を竜崎の目の前に押しやった。

「さっきの電話はアイバーからで、アメリカでのノートの検証が始まったそうよ。名前を書かれた三人の死刑囚はノートに書かれた状況通りに死亡、名前を書いた三人は現在独房で監視下に置かれてる」
「そうですか。これで全ての国で検証の第一段階が終了したわけですね。最初の検証が行われたのが…」

 竜崎の言葉の途中で電話が緑色に光り出した。
 女性二人の物言いたげな視線に竜崎は、分かってますよ私が出ますよ…とブツブツ言いながら受話器を取った。

「もしもし」
『あれっ、竜崎さん。珍しいですね』
「ええまぁ…。…何かありましたか」
『実は、警察の方のコネから非常に気になる情報を得まして、僕の独断で多少動いたのですが…今すぐ説明に向かっても差し支えありませんか』
「何か有力な情報が?」

 突然深刻になった冬彦の声に竜崎も表情を引き締めた。…次に冬彦が発した言葉に竜崎の目つきが変わった。

『…とにかく詳しいことはそちらに着いてから』
「分かりました」

 受話器を置いた竜崎の顔の険しさに二人とも心配そうな顔になった。
 竜崎は強い痛みの色を瞳に宿して重苦しく言葉を押し出した。

「今年一月から行方不明になっていた南空ナオミさんが遺体で発見されたそうです」
「……!」
「キラと接触したと思われるレイ・ペンバーの婚約者で、優秀なFBI捜査官だった人物です…独自にキラ事件を捜査している過程でキラに見つかり、殺されてしまったのかも知れないとは思っていましたが…」

 胸突く痛みを竜崎は敢えて無視した。感傷に浸るのはいつでもできること。彼女の遺した者からキラへの手がかりを探すことが、きっと彼女への一番の供養になるはずだ。
 竜崎は膝に落とした視線をしっかりと上げた。

「冬彦さんがすぐこちらに来られるそうです。南空ナオミの遺品も遺族の方から借りたそうなので、彼女の身に何が起きたのか一緒に考えて下さい」

 竜崎の言葉に二人の女性は神妙な顔で頷いた。


 

 アタッシュケースを携えて冬彦が本部に戻って来たのはそれから間もなくしてからだった。
 彼は南空ナオミの遺族から借りたと言う遺留品をテーブルの上に並べ始めた。
 財布、携帯、化粧品、手帳、アメリカの運転免許証、ペンバーと一緒に映っている写真、そして新聞記事の切り抜き。
 ビニール袋に入ったそれらをきちんと並べて彼は口を開いた。

「南空ナオミの遺体は富士の樹海の一斉捜索で発見されました。木の根元に紐のちぎれたバッグと一緒に倒れていたそうです。その状況から、かなり高い位置に ある木の枝にバッグの紐をかけ首を吊ったのだと判断されました。紐が切れて遺体が落下したため発見されましたが、そうでなければ見つからなかったと思われ ます」
「………彼女は自殺ですか」
「この状況では他殺や事故の可能性は低いということですが…」
「キラに操られ自殺させられたと考えた方がいいかも知れませんね」

 竜崎は南空の遺体の写真を見つめた。
 美しかった彼女の面影はすでになく、いっそ骨だけなら現実味もなかろうに、僅かに残りまとわりつく服や髪がひどく悲しかった。
 竜崎は僅かに目を閉じて彼女に謝罪と祈りを捧げた。

「さて…これらの遺留品から皆さんはどのような状況を推測しますか」

 既にある程度自分の中で答えは出ていたが、先入観を与えないために竜崎は自分の考えは告げずに皆に尋ねた。

「写真と新聞記事の切り抜きが気になりますね」
「亡くなった恋人の写真を持っていたのは分かるが、新聞記事を持ち歩いていたのは何故だろう?」
「ナオミさんはFBI捜査官だったんですよね。そして多分、婚約者がキラに殺された事件を自分なりに調べていたはず」
「事件を調べる過程で、コンビニ強盗事件とバスジャック事件が何かの手がかりになると思っていた…?」

 冬彦はビニール袋に入った新聞記事をまじまじと見つめた。

「…19日の深夜、逃亡中の指名手配犯がコンビニに強盗に入り、逆に店員に刺されて死亡。その翌日の20日には同じく逃亡中の指名手配犯がバスジャックを したが、逃げようとした時に車にはねられ死亡…。二日続けて逃亡中の指名手配犯が事件を起こして死んでいる…偶然にしては出来過ぎと言う気がするな。事 実、この事件の前後に逃亡中の犯罪者が再度事件を起こしてそこで死ぬと言う事件は一件も起きていない」
「………。確か、18日から19日にかけて刑務所内で不審な行動をとって心臓麻痺で死んだ囚人がいましたね。それはキラの仕業だったようですけど」
「18日に三人の囚人が不審な行動をとって心臓麻痺。19日にはコンビニ強盗犯が、20日にはバスジャック犯が…後の二つもキラの仕業だったとしたら……」
「キラは何故コンビニ強盗やバスジャックをさせたのか、ってことになるな」
「レイ・ペンバーは17日から20日までの間、夜神家の人間を調べていました。そしてキラは、14日から19日の間に尾行に気付いていたと思われます」

 皆の考えがほぼ自分の推測と同じ方向に向かっていたので、竜崎は更にヒントを出した。
 その言葉に三人は更に真剣な顔で考え始めた。

「自分に尾行が着いていると気付いたキラは、放っておけば秘密がばれるかも知れないと考え、尾行している人間を消そうと考えた。しかしそのためには尾行し ている人間の顔と名前を知らなければならない。顔を見るだけなら簡単だが、名前を知るのは難しい。キラ事件を調べている人間だから、偽名を使っている可能 性も十分考えられる」
「コンビニ強盗犯か、バスジャック犯を利用することで捜査官の名前を調べた…この場合、本命はバスジャックでコンビニ強盗は実験と考えていいかしら」
「南空ナオミは『キラが心臓麻痺以外でも人を殺せる』事実を知らなかったはず。でも、このバスジャック事件に目を付けたと言うことは、ペンバーからバスジャック事件に関して何か聞いていたのかも知れないわ」
「そう考えると、ペンバーの写真を持って聞き込みをしていたという想像ができますね」
「…では、この写真をコピーして、ジャックされたバスの運転手に話を聞いてみましょう。バスジャックされるなんてめったにあることじゃないですから、きっと今でも色々なことを覚えていると思います」
「では後ほど手配しておきます」

 冬彦の言葉に軽く頷き、竜崎は話を続けた。

「では南空ナオミはペンバーとバスジャックとキラの関係に気付いたとしましょう。その後彼女はどうしたと思いますか?」
「自分一人では捜査するにも限界があるから…私だったら警察に情報提供すると思います」
「でも、婚約者のレイはLの指示で警察関係者を調べていたのよね?警察内部にキラがいるかも知れないと分かっていて、警察に情報を渡そうとするかしら?ヘタをしたら自分が危ないわよ」
「ええと…だったら、Lに直接話します。以前Lの指揮下で事件を捜査した実績があるし、キラに殺された捜査官の婚約者だって名乗れば会ってもらえると思うから」
「しかし彼女は私に会うことなく行方をくらませた。それは何故?」
「…Lに会う前にキラに見つかって殺されてしまったから」
「私もそう思います」
「でもどうしてキラは、彼女が秘密を握ってるって分かったのかしら」
「彼女が『私はキラ事件に関する重要な情報を持っています』って言ってるところに偶然居合わせたとか」

 半ば冗談で言った言葉に、冬彦自身もハッとした顔になった。
 竜崎がゆっくりと呟いた。

「キラ…つまりキラ事件捜査本部の長、夜神総一郎の息子である夜神月と、キラ事件に関する情報を私に直接話したい南空ナオミが訪れる可能性がある場所と言えば…」
「警察庁!」
「でも、南空ナオミ失踪後に色々彼女の足取りを調べたけど、ホテルを出た後の足取りは全然掴めなかったんでしょう?警察庁に来ていたのに誰もそれを覚えていなかったなんて…」
「キラ事件が公になった直後は『キラ事件の情報を持っている』『自分がキラだ』という人間が大勢いましたからね。元FBIという身分も明かさず、殺された FBIの婚約者で重要なことを知っているとも言わずに、警察庁に来てただLに会いたいと言っても、恐らく相手にされなかったでしょう。それに、聞き込みを していた捜査員達も彼女が警察庁に来たことがあるとは思っていなかったようですし、警察関係者に南空ナオミのことを聞いて回ろうとは思わなかったのかも知 れません」
「灯台元暗し、ってやつですか」
「………南空ナオミが警察庁を尋ねた時、偶然そこにキラがいて彼女の言葉を聞いたとしたら…」
「一体どんな情報を握っているのか、とりあえず聞いておこうとするでしょうね。夜神捜査本部長の息子だと言うことは警察庁の人間が保証してくれますし、南空ナオミが夜神月から夜神本部長を通して私に情報が伝わると思って、知っていることを話した可能性は十分にあります」
「その際に『こちらから連絡がとれるようにあなたの名前と電話番号を教えて下さい』とでも言えば簡単に彼女の名前は聞きだせたはず…」
「もう一度、警察庁内部で南空ナオミを知っている者がいないか調べる必要がありますね…その点についてもお願いします」

 竜崎の言葉に冬彦は力強く頷いた。


 

 …二日後、彼らの推測を裏付ける証拠と証言が得られたと冬彦は竜崎に報告した。
 バスジャックに巻き込まれた運転手は、事件のこともその後話を聞きに来た南空ナオミのことも覚えていた。事件が起きた時の乗客は7人で、レイだけが一人で乗っていたので印象に残っていたという。
 そして改めて事件の捜査資料を調べた結果、七人の乗客のうち三人が事件直後にいなくなり、警察の事情聴取を受けた四人は全てキラ事件とは無関係と判明した。
 そして南空ナオミが最後に目撃された日から彼女の母親からの電話があった日の間の警察庁の監視カメラを調べたところ、元旦に受付に訪れる彼女と、彼女と話をしている夜神月の姿が映っていた。
 そのビデオを持って警察庁の当日の受付担当者に話を聞いたところ、有力な証言が得られた。『捜査本部の人の直接会いたい、約束もしてある』と受付で食い 下がる女性が来たと言う。彼女のしつこさに辟易している時に夜神局長の息子の月が総一郎の着替えを届けに来て、キラ事件に関して少し話をしたと言うのだ。 結局月が女性の話し相手を引き受けてくれて、それっきり女性は来なかったので、話は終わったのだろうと全く気にかけていなかったと言う。

 ついに、南空ナオミとペンバーと夜神月が一本の線に繋がった。
 …竜崎はキラ事件解決への確かな手ごたえを強く感じ始めていた。




 11月16日から17日に日付けが変わる頃。
 ミサはカツラと眼鏡で変装してアパートを出た。肩からかけた鞄には手袋と小さなスコップが入っている。周囲に人影がないか慎重に見回して彼女は静かに行動を開始した。

 

 …最新の捜査本部のモニターには衛星から送られるミサの映像と周辺の地図が同時に映し出されていた。地図の上ではミサを表す光の点が点滅しながら移動している。
 冬彦が手元の資料を見ながらすいっと眼鏡を押し上げた。

「向かう先は、ヨツバ会議で報告があった場所と同じのようですね。何かが隠してあると考えるのが妥当かと」
「ええ…恐らく殺人ノートでしょう」

 竜崎がモニターから視線を動かさずに答えた。
 衛星に撮影されているミサは頻繁に周囲を見ながら郊外の山林へと向かっている。

「ノートがあるのはほぼ間違いないと思っています…問題はそこにどこまでの証拠が残っているか…」
「指紋くらいは残ってるでしょう」
「弥の指紋と、過去にキラに殺された犯罪者の名前が残っているといいのですが…夜神月がキラだと言う手がかりもみつかれば…」
「あ、何か探してるみたいですよ」

 秋乃の言葉に竜崎は独り言に近い推理を止めてぐっと身を乗り出した。
 ミサは山林の入り口でもう一度周囲を見回し、慎重に歩数を計るように歩き、1本の木の根元にしゃがみ込んだ。持参した鞄からスコップを取り出して穴を掘り出す。
 袋に包まれた何かを取り出すと手袋を外して袋の中に手を突っ込んだ。

「………!」

 竜崎が目を凝らす。
 ミサは袋から黒い表紙のノートを取り出し、ページを何枚か切り取り、ノートに挟んであった封筒の中身を見てから全てを元に戻した。ノートを穴に埋め直すとミサはスコップとノートの切れ端を鞄に入れて急ぎ足でその場を立ち去った。
 同時に竜崎も椅子から立ち上がった。

「…行きますよ、皆さん」

 龍神兄弟とウエディが真剣な顔で頷いた。

 


 冬彦は車を止めてカーナビの地図の現在位置とさっきミサが何かを掘り起こしていた位置を確認した。

「この近くで間違いありません」
「…さっきの映像からすると、この辺の木の根元のようでしたが…」
「ほんの一時間くらい前に一度掘り起こしてるんですから、土の色や柔らかさで分かると思いますよ」

 冬彦が車から照明機材を降ろしてセッティングした。ライトのスイッチを入れるとその場所だけ昼間のように明るく照らし出された。ウエディはビデオカメラを回しながらついて来た。
 竜崎は地図を見ながら数本の木の根元を見て回り、不自然に土が柔らかい場所で足を止めた。

「…ここですね」

 呟いて、竜崎は慎重に土を掘り始めた。さほど深く掘るまでもなく、油紙に包まれた何かが見えて来た。
 竜崎が手袋を填めた手でそれを取り出し、紙を開いた。中から現れた黒いノートに皆の緊張が高まる。
 表紙をめくると封筒が挟まっていた。最初のページには第二のキラの予告殺人に使われた芸能人やアナウンサー、そしてさくらTVに駆け付けた宇生田や刑事達の名前が記されていた。

「やはりこれは殺人ノートで間違いないでしょう。ここに残っている名前は弥の筆跡と鑑定してもらいます。…後はこの封筒…」

 封筒の中身を開いた竜崎は、予想以上の収穫に思わず笑みを浮かべた。
 夜神月が、キラとしてミサに宛てた手紙。最後にははっきりと彼自身の署名がされている。

「これは予想以上でしたね…。火口から押収したノートからは火口の指紋しか取れませんでしたが、このノートや手紙からは弥だけでなく夜神月の指紋も取れるかも知れません」
「弥と夜神の指紋が取れて、筆跡鑑定の結果も同一人物だと断定されたら、二人をキラだと立証することはできますか?」
「裁判でどうなるかまでは断言できませんが、世界の警察や世の中の一般人を納得させるには十分でしょう」
「彼らが記憶を無くしたり、あるいはそのふりをして『キラに操られていただけだ』と言い逃れることは?」
「まず無理でしょう。この手紙やここ数日の彼らの会話を聞けば、あの二人が自らの意志で自覚を持って人を殺していたと考えて間違いないと思います」
「…では、仮に法の裁きを逃れることができたとしても、彼らの末路は…」
「大国で極秘に抹殺されるか、世間から殺されるか、あるいは熱狂的なキラ信者達に祭り上げられるか…。どちらにせよ、彼らの家族も含めて…まともに生きて行くのは不可能でしょう」
「………」
「彼らの結末を決めるのは、彼ら自身です。…さぁ、そろそろ戻って休みましょう。私達も明日からは忙しくなります」

 竜崎はビニール袋に慎重にノートや封筒を入れた。
 皆が無言で車に戻る、その途中。
 竜崎は空を見上げた。
 頭上に広がる満天の星空。空気が冷たく済んでいるためか、ひときわ星が美しく見えた。
 もうすぐ、一年。
 去年の今頃は、ワタリを失って秋乃と事件を捜査することになるなど夢にも思っていなかった…。

「竜崎さん、そんな薄着でいつまでも外にいたら風邪をひきますよ」
「ああ、すいません。星がとてもきれいだったから。…確かに寒いですね、早く帰って温かいココアでも飲みましょう」

 竜崎は微笑んで車に乗り込んだ。
 星空。満月。暗い空。そして黒いノート。
 遠い遠い記憶がどこかでざわめく。
 目を閉じるとワイミーハウスが脳裏に浮かんだ。
 …帰ろう、この事件が終わったら。
 みんなと一緒に。みんなに会いに。

 

 

 11月18日。
 映画がクランクアップし、二日の短いオフを挟んで、ミサは奈南川と共に渡米した。
 一日目は時差ボケがあるだろうと気遣われてホテルで休み、二日目、三日目は奈南川にエスコートされて観光名所を巡り、四日目からようやくCMの打ち合わせなどが始まったが、日々の大半はアメリカを観光して時間は過ぎて行った。
 海外旅行が初めてのミサにとっては願ったり叶ったりだったが、仕事より観光がメインになっていることが少々心配だった。五日目、また観光名所に連れて行ってくれると言う奈南川に、ミサはおずおずと尋ねてみた。

「あのう…奈南川さん」
「はい?」
「毎日色々な所に連れて行って頂けるのはとても嬉しいんですけど、お仕事はいつから始まるんですか?」

 ミサの質問に奈南川は苦い微笑を見せた。

「実は、ミサさんのCM作成に関わる責任者がまだこちらに来ていなくて…彼がこないと仕事にならないんですよ」
「えっ…18日から仕事が始まるってことは伝わってなかったんですか?」
「伝えたんですが、どうしても仕事が片付かなくてまだ動けないと…。本当に申し訳ありません、ミサさんには無理を言って映画の撮影が終わったばかりでアメリカまで来てもらったのに」
「いいえ、そういうことなら全然構いませんよ」

 ミサは笑顔で手を振った。
 理由が分かれば安心して観光を楽しめる。今日の月へのメールの内容は何にしよう。

 …まさかこれが、自分の意志で自由に動ける人生最後の日々になるとは、ミサは夢にも思っていなかった。


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