世界の中心でLを叫ぶ・If
EPISODE 10:12月5日

 鼻をくすぐる紅茶の香りがとても好ましい。
 出された紅茶もケーキも、本部にいる間は…いや、出たとしても生半可な店ではとても口に出来ないレベルのものだ。さすが世界一の名探偵Lのお抱えパティシエだ。それにしても竜崎、いくら何でも砂糖を入れ過ぎじゃないか。あれじゃせっかくの紅茶が台無しだな。
 ぼんやりと月はそんなことを思っていた。あまりに今日の出来事に現実味がなさ過ぎて、逆に感覚が麻痺しているのかもしれない。
 父は強張った顔で俯いたまま、松田は周囲の様子に戸惑い自分の態度を決めかね、相沢は厳しい顔で月を見、模木はいつ指示が出ても動けるように身構え、ミサは呆然とソファに身体を預けている。
 Lと彼の仲間達は別段普段と変わった様子はない。
 皆、竜崎が口を開くのを待っていた。

「…夜神君、さっきの話の続きですが」
「僕に聞きたいことがあるって?」
「はい」
「分かることなら答えるよ。何?」
「私は何故生きているのでしょうか」
「…………は?」
「キラの手を逃れ生き延びた時から、私は自分なりに仮説を立てていました。殺人ノート…デスノートには死神が憑いていた。しかしその死神は、ノートに書い てある以上のことはほとんど話さない。一応『目』については話しましたが、夜神君が『目』について話した後でした。ですから、ノートに憑いている死神と は、キラの意志によって動く使い魔のようなものではないのかと考えたのです。命を狙われた時に真に迫った『死んだ振り』をすればキラの目を欺き逃げられる のではないか、と」
「だから竜崎は、ワタリが殺された直後に僕の目の前で倒れることで、僕に『Lも死んだ』と思わせた。それで『キラの意志で動く死神』はワタリを殺したところで行動を止めたのではないか…と考えたわけか」
「そうです。しかしミサさんに聞いた話を総合するとそれは考えにくい。死神は自分の意志を持ち自分の考えで動いている。ワタリと私を殺そうとしたことは夜 神君が仕向けたこととは言え、レム自身の意志で行ったことです。それに、自分の命をかけてミサさんを守ろうとしたレムが私を殺し損ねると言うのも考えにく い。それに…」

 竜崎は神妙な顔で右手を心臓にあてた。
 僅かに視線を降ろして独り言のように呟く。

「私はあの時、意識を失う薬を咄嗟に飲み込みました。薬の効果で意識が薄れる中で私ははっきりと感じたのです、冷たい手がこの心臓を掴む感覚を…」
「…………」
「死ぬ、と思いました。心臓が凍り付いて動かなくなるのを感じながら私は意識を失いました。…ですから病院のベッドで目が醒めた時、何故自分は生きているのかと不思議に思ったのです。その答えは夜神君なら分かるかと思ったのですが…」

 皆の視線が月に集まったが、月は首を横に振った。
 何故Lが生きているのか、それは彼自身が一番知りたかったことなのだから。

「僕にも全く分からない。間違った名前を書かれでもしない限り、ノートから逃れる術はないはずだ。一応生まれて間もない子供やギネスに載るような長寿の人 間は殺せないようだが、竜崎にその条件はあてはまらない。他には過去に四回以上名前を間違えて書かれているとノートの力が効かないと聞いたが、これも考え にくいだろう」
「そう、ですね……」
「何か、レムですら知らないようなノートが効かないルールがあったんだろうな」
「…………」

 竜崎は月の言葉に、親指を唇に当てて何かを考え込んでいる。
 何か心当たりでもあるのか、と聞こうとした時、リュークが口を開いた。

「あのさぁ…俺、死神界に戻ってた時、暇で暇で仕方なくってさぁ、レムに『ノートのルールを碌に知らない』って馬鹿にされてたし、物知りの死神から色々話を聞いてたんだよな」
「ん?」
「その時ちょっと気になる話を聞いたんだよ。今から20年くらい前、俺と同じように人間界にノートを落とした死神がいたんだが、最初に拾った奴はノートに自分の名前を四回間違えて書いた挙げ句、すぐに所有権を死神に返したって話だ」
「ちょっと待て、自分の名前をわざと間違えて四回書いたら自分が死ぬんだろう?」
「そうだ。だが、ノートを拾ったのは字を覚えたばかりの子供で、名前のスペル間違いに気付かずに四回書いたらしいんだよ」
「…その子は今、どうしているんだ?」
「分からん。落とした死神も誰なのかは今となっては分からなくて、『四回間違えてノートが効かなくなった人間がいる』っていう珍しいケースの話だけが残っ てるんだ。その話すら嘘か本当か分からないしな…仮に本当だったとしても、ノートを手放した以上、その子供にはノートの記憶も死神の記憶も残っていないは ず、だ…」

 リュークはちらりと竜崎を見たが、彼はじっと紅茶に視線を落としたまま黙り込んでいる。
 誰も何も言わないので、リュークは居心地悪そうに頭をかいている。
 月は浅くため息をついた。

「つまり、竜崎が生きていた理由は死神であるリュークにも分からない、ってことか」
「え…えーと……。あ、そうだ、もう一つ気になる話を聞いた。『特定の人間に好意を持ち、その人間の寿命を伸ばす目的でノートを使って人間を殺した』死神の話!」
「そんなことする酔狂な死神がレムの他にいたのか?」

 気心知れた月が相手のおかげで、リュークはスラスラと言葉が出て来た。

「一番最近はジェラスって奴だ。その前となると相当古いが、死神が好意を持った人間の為に死ぬケースはいくつかあった。それら全てに共通していることは、 『命と引き換えに殺した人間は一人だけ』ってことだ。好意を持った人間を助けるために、二人以上の人間を殺して死んだ死神はいないんだ」
「…それは……」
「『死神の命ひとつと引き換えに奪える人間の命は一つだけ』という制限があったのなら、ワタリを殺したレムが竜崎を殺せなかったことの説明がつく…」
「ま、想像だけどな。理由はどうあれLは生きている、それが現実だ」
「そうですね」

 竜崎は頷き、躊躇いがちに口を開いた。

「夜神君、あなたは南空ナオミに会いましたね」
「…ああ」
「彼女は私に対して何か言っていましたか」
「………?」
「私は彼女から一番大切な人を奪ってしまった…彼女が私を恨んでいなかったか、それだけが気掛かりでなりません」
「…………。彼女は最後までお前を信じていたよ」

 月は竜崎から目を逸らした。
 運命のあの日。雪の舞い散る中、彼女は寂しげに微笑んでいた。
 Lなら信じられる、と。

「この事件に関しては警察の人間も信じられない、でもLなら信じられる。あの人ならどんな事件も必ず解決してくれると確信しています、って…笑って、いたよ」
「…笑って………」
「僕は彼女のLへの信用を利用して彼女から本名を聞き出した。彼女はペンバーがジャックされたバスの中で乗客にIDを見せたことを知っていたから、生かし ておくことは出来なかった……。……それなのにお前は、最終的に彼女がLに教えようとしていた情報を手に入れてキラ事件を解決した。彼女の期待と信頼に応 えた。見事だよ、L」
「私は…。…………」

 竜崎は複雑に黙り込んで目を伏せた。
 大勢の罪無き者達の屍を踏み台にして得た『勝利』を賞賛される資格は自分には無い。
 自分が欲しかったのは賞賛でも名声でも富でもなく、ただ。

「L、今度は僕から質問があるんだが、いいか?」

 Lの思考は月の言葉で遮られた。
 私は、ただ…。

「ええ、どうぞ」

 促すと月は真剣な顔で口を開いた。

「L。お前も警察の頂点に立つ者として、色々な犯罪者を見て来たはずだ。犯罪者に苦しめられ、泣いている被害者達も…。なのに、キラの理想に反対したのは何故だ?キラに犯罪者が裁かれるようになってから世界中で犯罪は激減したのに」
「………………。色々な犯罪者を見て来たからこそ、でしょうか……」

 竜崎はとても困った顔で考え考え口を開いた。
 とても純粋で、そして世間を知らなくて、自分の見たもの知っているものが世界の全てだと信じている子供に話すように、ゆっくりと。

「私は、キラ事件が表沙汰になった時、犯人像をプロファイリングしてみました。私の出した結論は、『非常に頭のいい、自他共に認める優等生の子供』でし た。夜神君も私にそう言っていましたね、『犯罪者を殺すことでそれを見せしめに世の中を考えようとするのは小学生から高校生までの子供の発想だ』と」
「ああ」
「それはつまり、夜神君は子供の発想で世の中が変えられると思っていたと言うことになりますね」
「…………」

 月は言葉に詰まった。
 何かを言い返そうとしたが、反論が浮かばず口を噤む。
 Lは淡々と続ける。

「私は子供の目からは見えないものが見えていましたから、キラのやり方では世界は悪い方にしか変わらないと思ったから、キラに挑戦したのです」
「でも、事実キラの裁きのおかげで犯罪は減ったじゃないか」
「その言い方では少し言葉が足りないですね。『メディアで報道される犯罪が減った』と言った方がより正確だと思います」
「どこが違うんだ」
「大違いですよ。まさか夜神君、世界中で起きている全ての犯罪で犯人が逮捕され、メディアで報道されているなんて思ってるんじゃないでしょうね」
「確かに、大きな事件があれば小さな事件は報道されないかもしれないが…」
「そうです。その通りです。TVのニュースには時間の制限が、新聞には紙面の制限がある。インターネットでさえ、大きな事件、話題性のある事件が大きく扱われそれ以外のニュースはキラの目に入らないままということも十分あり得ます。この意味が分かりますか?」
「…小さな…いや、罪の軽い犯罪者はキラに裁かれにくいから数が減らないということか?」
「いいえ。メディアで報道される事件は相対的に大きなものに限られる、ということです。ある一つの事件が大きく枠を取って大々的に報じられれば、凶悪事件 の犯人逮捕の記事すら扱われないかもしれない。メディアにだけ注目していると本当の犯罪の数字を見失う可能性があると言っているのです」

 そこまで一息に言ってLはふっと息を吐いた。
 ジュースのように甘いであろう紅茶を一気に飲み干し、ケーキにフォークを突き立てる。心得た秋乃が紅茶のお変わりを準備し始めた。
 穏やかな香りが流れるその場の空気はピンと張り詰めている。
 竜崎は紅茶に角砂糖を一つ、また一つと落としながら、広がる波紋を見つめている。

「…少し話が逸れました、しかし重要なのはここではありません」
「じゃあ何?」
「実際に犯罪が起こってから犯人がメディアで報道されるまでにはいくつかの通過ポイントがあります」

 Lは紙とペンを用意させると説明しながら表のようなものを書き始めた。

「1、犯罪が起きる。2、被害者が届け出る、遺体が発見されるなどで犯罪が発覚する。3、警察が調査をし、事件性が認められ捜査本部が設置される。4、警 察が事件を捜査し犯人を捕まえる。5、各メディアが容疑者・犯人を報道する。ざっとこんなところですね。この1から5までの全ての項目が満たされて初め て、キラは犯罪者を裁けるわけです。逆に言えば2から5のどこかで流れが止まれば、犯罪が起こってもその犯人は報道されません。ここまではいいですね?」
「ああ」
「例えば1の時点で起きた犯罪が殺人だった場合、遺体を隠して失踪に見せかけたり、自殺に見せかけたりして『殺人事件ではない』と警察に判断させればそこ で終わりです。婦女暴行や詐欺の場合は被害者が泣き寝入りして警察に届けないケースもある。窃盗や傷害でも犯人が親しい人間だった場合、事件にしないとい うこともあります。さすがに強盗や殺人となると事件として捜査するでしょうが、犯人が必ず特定されるとは限らない。特に今は、警察に捕まって報道されれば キラに殺されるかもしれないのですから、犯人も捕まらないように必死になっているはずです」
「………」
「そして警察が容疑者を逮捕したとしましょう。しかし犯人が未成年だった場合、日本では顔や実名を出すことはできません。また、捕まえた容疑者が警察や政界の要人と関わりの深い人間だったら、事実が握りつぶされてしまうこともある」

 月は何も言えなかった。
 言われてみれば十分あり得ること、キラの手を逃れようと思えばいくらでも方法はあるのだ。いや、狡猾で凶悪な犯人ほど表に出てこないということになる。犯罪を犯したことが警察にバレなければいいのだから。
 Lの話は続いている。

「キラの裁きは弊害も生み出しました。警察の裏事情を知らないキラが報道される犯罪者を殺してしまったせいで、事件解決の道が立たれるケースが出て来たのです。…司法取引を御存知ですね」
「より大きな犯罪を解決するために、小さな罪は不問にするというシステムだろう?」
「そうです。麻薬組織などを摘発する時は末端の工作員を捕まえて司法取引を餌に組織の情報を引き出すのが常套手段です。…この方法で摘発されることを恐れ る組織はキラの裁きを逆手に取りました。組織の起こした殺人の罪を警察に捕まった末端工作員に被せ、『凶悪殺人犯』と称してネットに情報を流すのです。う まく行けば自分達にとって都合の悪い情報が警察に伝わる前にキラが口を封じてくれます。このように、苦労して捕まえた末端工作員がキラに殺されたことで取 り逃がした組織がいくつもあります」
「……………」
「そしてキラの裁きはもう一つ弊害を生み出しました。当初は凶悪犯罪の犯人しか殺さなかったキラが、窃盗や傷害などまで殺すレベルを下げて来たことが原因です」

 何を言うつもりだ、L。僕がキラだと証明し勝利しただけではまだ足りないのか。
 月の動揺はお構い無しにLは話し続ける。

「警察官とて人間です。自分が捕まえた犯罪者がキラに殺されるのではないか、そうなると自分が犯人をキラに差し出したことにならないか、だとすると、犯人 の家族はその人物を捕まえた警察官を恨むのではないか…その躊躇いが捜査の手を緩めさせてしまうのです。被害者も同じです。犯人がキラに殺されるかもしれ ないと思うと、その後味の悪さ故に被害を受けても事件扱いにしない人が増えて来ているのです。表向き、犯罪が減っているように見えるのはこのためです。犯 罪がきちんと捜査されていないのです」
「………………」
「このように目に見える範囲での犯罪が減ってくれば、夜神君は『犯罪そのものの発生数が下がった』と判断し、犯罪者でなくとも夜神君の価値観に照らし合わせ『生きている価値がない』と判断した人間を殺し始めるでしょう。違いますか?」
「………………」
「こうなればますます犯罪組織は喜ぶでしょう。キラの価値観は裁かれる人間を見ていれば傾向が掴めます。あとは邪魔な人間にキラの気に入らなそうな説明を 付けて『殺して下さい』とばかりにネットの然るべき場所に流せばいいだけです。犯罪組織でなくとも、消えてほしい邪魔な人間がいる者は駄目元でやってみる でしょう。失敗しても自分に被害は及ばないのですから。…それとも夜神君は、ネット上に流れる無数の情報の真偽を全て確かめて裁きを行うつもりだったので すか」
「………僕は……」
「このような社会がどんな方向に向かうか想像できるでしょう?誰もが疑心暗鬼になり、常に顔を隠し、他人の動きに怯え、外出すらままならない…。こんな世 の中です、『自分は絶対に誰からも恨まれていないし、恨まれるようなこともしない』と絶対の自信を持って言い切れる人がどれだけいるでしょう。夜神君が描 く『理想の世界』とはこんな暗黒の時代なのですか?」
「僕は…本当に、世の中の為を思って…犯罪者を裁き続ければ、犯罪はなくなると信じていたんだ。心の優しい人間だけの世界ができると思っていたんだ……」

 月は拳を握りしめ、涙を浮かべて言葉を押し出した。
 全てが記録されているというのなら、最後に自分のこの姿を。世界平和の為に正しいと信じて努力して来た純粋な子供の姿を。
 きっと誰もが同情してくれる。君のやったことは間違いじゃなかったよと許してくれる。
 静かな、Lの声がした。

「誰に対しても、誰から見ても優しい人間など偽善者です。犯罪者に心の優しい者が一人もいないわけではない、犯罪者でない者が全て心が優しいわけでもな い。人間には色々な面がある、色々な面があるからこそ人間なのです。上辺の数字しか見えていなかったあなたは決して神ではない、人間です。一人の人間に過 ぎないあなたが人類を選別するなど、傲慢以外の何者でもありません」
「………っ」
「それでも自分は神だと言うのなら」

 Lは月に発言させずに畳み込んだ。

「世界平和の為にできることが他にいくらでもあるでしょう。戦争を終わらせる、テロを未然に防ぐ、後進国の飢えや病気の問題を解決する、それでいくつの命が救われますか」
「………」
「あくまで世界から犯罪を無くすことが目的なら、誰かが捜査をし誰かが捕まえた犯罪者を殺して見せしめにするのでは無く、人々の心から犯罪への欲求を取り 去ったらどうですか。神とて全知全能ではない、人の心は動かせないと言うのなら、犯罪を犯したことを誰にも知られずのうのうと生きている人間を裁いてみせ たらどうです」

 Lの声は厳しく耳を打つ。

「あなたは自分が殺した人間の遺族に対しても、胸を張ってさっきのセリフを言えるのですか。世の中を平和にするためにあなたの家族を殺したのです、と」
「…………」

 月は答えない。答えられない。
 ただ黙って唇を噛み、涙を零す。
 Lが一方的に月を攻撃しているように見えるように。
 …隣に松田が来るのが視界の端に映った。
 ほら。
 松田さんが僕を慰めに来てくれた。
 君は悪くない、悪いのはLだよと、きっと言ってくれるはずだ。
 ガチャリ、と聞き覚えのある音がして月は驚いて顔を上げた。
 ついこの間まで彼を拘束していた金属の環が両手に填まっている。

「12月5日16時38分、容疑者確保しました」

 松田が警官の顔で言った。相沢と模木が頷く。
 月は呆然と手錠を見ていた。
 まるで犯罪者扱いだ。新世界の神となるはずだった、この僕を。
 最後の望みを父に託して月は夜神を見つめた。
 父さん、何か言ってやってくれ。月が犯罪者なんてありえないと。この子はただ正義感が人一倍強かっただけなんだと、あんな社会のゴミとは違うって言ってくれ、父さん。
 …夜神は見つめる息子の目から視線を離し、Lに向けると深々と頭を下げた。

「…L…どうか息子を、よろしくお願い致します」
「お任せ下さい。ミサさんとの約束通り、月君もミサさんも、お二人の家族の皆さんも、Lの名に懸けて保護します」
「ありがとうございます」

 最敬礼する父の姿が視界の中で歪んだ。

 

 Lが用意した車にミサと手錠をかけられた月が乗せられる。L達も一緒の車で行くらしいが、どこに行くのかは刑事達は教えて貰えなかった。
 相沢と模木、松田は目配せをしあい、背筋を伸ばしてLの前に出た。
 怪訝そうな顔の彼に三人は頭を下げた。

「L。あなたを疑い、捜査方針に反対したことをお詫びします」
「………。別に、謝って貰いたいとは思いません。謝って貰っても……」

 Lの言葉尻は淡く濁って消えた。
 松田は堪らず口を開いた。

「あの、竜崎、僕達が最初から最後まで竜崎を信じて竜崎の言った通りに捜査していたら、ワタリやタレントの秋野祥子は死なずにすんだんでしょうか」
「それは誰にも分かりません。私の方針通りにやっていても今回のような決定的な証拠は出なかったかもしれない。…ワタリも最初から命を懸けてキラ事件を捜査していました、自分の命と引き換えに事件が解決したのならきっと本望だったでしょう」

 Lは刑事達の目を見ない。
 刑事達が最初から最後までLを信じて彼に従って、それでもワタリが死んだのだったら、Lは自分の目を見てくれたのだろうか。
 松田の心がずしりと重くなった。

「では、私達もそろそろ行かなくては」
「あの、L」

 一度背中を向けたLが振り返った。
 松田は半べそをかきそうになりながら尋ねた。

「また、会えますか?」

 沈黙は長かった。
 Lは小首を傾げてしばし考えた後、そっと口を開いた。

「お互いが望めば、きっと、会えるでしょう」

 穏やかに、感情の薄い表情でそう言って。
 Lは仲間達と一緒に車に乗り込んだ。
 刑事達が最敬礼する前を車は走り去って行った。
 その車が見えなくなるまで、見えなくなっても、刑事達は敬礼の姿勢を崩さなかった。


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