世界の中心でLを叫ぶ・If
EPISODE 11:12月15日

 ヨツバ本社の会議室で、アイバーと冬彦は久々にヨツバの社員と顔を会わせていた。
 緊張の面持ちで見つめる彼らに、アイバーは人なつこい笑みを浮かべた。

「皆様、お久しぶりです。皆様のお力添えのおかげで無事キラ事件は解決しました。混乱を避けるためキラ逮捕の事実はまだ公にはなっていませんので、絶対にこのことは口外されないようお願い致します」

 その言葉に彼らはほぅっと安堵のため息をついた。
 火口死亡後にアイバーが訪れた日以来、いつキラに口封じのために殺されるかと怯えた日々がようやく終わったのだ。
 アイバーは穏やかな笑みを浮かべたまま続ける。

「ですが、キラ事件に大きく関わった皆様とこの時点で『はい、ではさよなら』というわけには行きません。申し訳ありませんが最後まで付き合って頂きます。何、大したことではありません。年に一度、ある場所に来てほしいだけですから」

 分かったような分からないような説明にヨツバの6人は微妙な顔を見合わせた。

 

 アイバーは6人をLが使用していたビルに連れて来た。無論、彼らを乗せた車の窓はきっちりとカーテンで覆われて外は見えないようにされ、場所は分からないようにされていた。
 建物の地下室に案内された6人は、ものものしいセキュリティに囲まれた小さな金庫を前に複雑な顔を見合わせた。Lが一体何をさせようとしているのか、全く見当もつかなかった。
 アイバーはゆっくりと口を開いた。

「…この中にはキラが使っていた殺しの道具が入っています。いずれ世間に発表されることですからお教えしましょう、その道具とはノートです」
「ノート?」
「キラはノートで殺しをしていたと言うのか!?」
「キラの殺しの能力が『道具』であった以上、誰かに盗まれ使われることは絶対に避けねばなりません。しかし、やむを得ない事情により処分することは出来な い。故に、厳重なセキュリティ管理のもと保管するしかありません。しかしLの独断だけで解除できるセキュリティでは問題がある。そのために皆様に協力して ほしいのです」

 アイバーは金庫の周囲についている最新鋭のセキュリティ設備を指して説明を始めた。

「これらは網膜、声紋、指紋を照合・判定する機械です。皆様には、今から網膜、声紋、指紋の情報を登録して頂きます。私を含めたLの仲間4人は既に情報を 登録しましたので、皆様を含めて10人の情報が登録されることになります。10人全員の網膜・声紋・指紋を照合し、全てが本人のものだという確認をした上 で、L自身の指紋が鍵となってこの金庫が開きます。年に一度、Lが死ぬまで皆様にはこの手続きのために集まって頂きます」
「…なるほど、Lを含めた関係者11人が全員揃わないとこの金庫は開かないと言うわけか…」
「年に一度集まった時、お互いの近況や裏切り者の有無の確認もできると言うわけだな」
「そうです。不正な手段で開けようとした場合、あるいは天災などで金庫が危険な状況になった場合は中のノートが燃やされる仕組みになっています。また、Lが死亡する前に我々の誰かが亡くなった場合は、全員の合意の元に金庫を開けるのに必要な人数を減らす手続きをします」
「確かにキラの道具ならそこまでしてもやり過ぎと言うことはないな」

 ヨツバの6人は納得したように頷いた。
 …彼らがそれぞれ情報を登録してデスノートのセキュリティは完成した。

 

 

 …Lが最後の拠点にしていた龍神冬彦の屋敷の一部屋。
 竜崎、アイバー、ウエディ、そして龍神兄妹は今後の話し合いの場を持っていた。

「二人のキラは今、警察の監視下で保護されているんですよね?」
「はい。二人が暮らして行く屋敷の準備は今月中にはできますから、それまでの暫定的な処置です」
「では、『キラ逮捕』の公式発表は二人が最終的に落ち着いたら、ということになりますね」
「そうですね。キラの賛同者も少なからずいますし、護送中の彼らを襲う計画など立てられても面倒ですし」
「夜神月と弥海砂をその『L屋敷』に移動させた時点でLにとってのキラ事件は終わる…ということですか」

 冬彦の言葉に竜崎は頷いた。
 皆の顔に安堵と少し寂しげな表情が浮かんだ。
 キラ事件の終結、それが意味するのは命を懸けて共に闘った仲間との別れだ。
 アイバーは腕を組み、しんみりと呟いた。

「スリルとドキドキに満ちた日々はもうすぐ終わり、皆ともお別れか…名残惜しいな…まぁ年に一度は会えるわけだけど」
「何を言ってるんですかアイバー?」
「え?」
「私の別名であるエラルド=コイルを名乗った以上、今後も責任持ってエラルドを演じて貰いますよ」
「ええーっ!?」

 素頓狂なアイバーの声に、竜崎は憮然とした表情で当たり前でしょう、と言った。

「ワタリがいなくなったからと言って三大名探偵が活動を止めるわけにはいかないですからね。事件の捜査そのものは今まで通りに私がしますが、せめてコイル の窓口だけでもいないと不便で仕方ありません。それに、私への橋渡し役をしていれば詐欺の獲物を探すのにも苦労しませんよ」
「……………………………………」

 それが自称『正義の味方』のセリフですか。
 ソファから立ち上がって酸欠の金魚のごとく口をパクパクしているアイバーに、ウエディが冷静に言った。

「断る理由なんてないでしょ?コイルの窓口になれば秋乃と会う機会が増えるんだから」
「いや、それは…まあ…そうだけど、そういうウエディはどうするつもりなんだ?」
「私?私は元の生活に戻るだけよ。秋乃との個人的な友達付き合いは仕事抜きで続けるけどね」
「だから結局、ウエディさんは竜崎さんともちょこちょこ会うことになりそうね、って話してたんですよ」

 ウエディと秋乃は顔を見合わせてにこりと微笑んだ。
 男性陣の知らないところで女性二人は交流を深めていたらしい。
 なんだか仲間はずれな雰囲気にアイバーは必死に言った。

「いや、でも、コイルの窓口は僕がするとしてもだよ、Lとドヌーヴはどうするつもりだ?」
「ドヌーヴの方は当てがありますし、Lの方は決まっています」
「え、誰?」
「Lの窓口は僕がしようと思っています」
「冬彦が?」

 K病院の表側の院長である冬彦がLの窓口になる話は本人達しか知らなかったらしい。妹の秋乃まで目を丸くした。

「兄さん、それじゃ病院の仕事はどうするの?」
「もちろん今まで通り続けるさ。Lの窓口業務に時間を裂くことで手が回らなくなる仕事はお義父さんにお返ししたから、全部の仕事を今まで通りこなすってわ けじゃないけどね。お義父さんも現役引退にはまだまだ若すぎるし少し表に出て欲しいと思っていたから、ちょうどいい口実になったよ」
「……分かった、分かりました。みんな結局今後もLと一緒に仕事をして行くって言うのなら、僕だけ仲間はずれなんて嫌ですからね。コイルの窓口くらいならがんばってやらせて頂きますよ」

 アイバーは肩をすくめて両手を上げ、降参のポーズをしてみせた。嫌々ながらLの依頼を受けたというポーズを取りながらも口元は楽しそうに微笑んでいる。
 どうのこうの言っても、今回の一件で親しくなった仲間と別れずにすむのは嬉しいのだった。
 その様子にLは微かに口元を綻ばせた。
 ワタリを失った今、共に命を懸けた仲間が少しでも自分の近くに残ってくれるのは心強く、安心できた。
 それを口に出して言ったりはしないが。

「では、キラ事件の解決と事件解決の為に尽力してくれた皆さんをねぎらうのも兼ねて旅行にでも行きましょうか」
「慰安旅行ですか、いいですねぇ」
「どこにいくつもりなの?まさか温泉とは言わないでしょうけど」
「そうですね…言うなれば『L誕生の地』でしょうか」

 唯一その言葉の意味が分かっている秋乃だけが嬉しそうに顔を輝かせたが、アイバー、ウエディ、冬彦は意味が分からずきょとんとなった。
 竜崎はいたずらを仕掛けた子供のような顔で笑った。
 …目的地がどこかは秘密にしておこう。
 自分が訪れることも『彼ら』には秘密にしておこう。
 驚く顔が、見たいから。


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