| イギリス、ウィンチェスター。 子供の声が聞こえるその建物で。 院長のロジャーは緊張と不安で顔を曇らせながら傍らに置いた携帯電話を見つめていた。 形ばかり開いたノート。ペンを持った手は止まっている。 さらさらと流れる砂のように表示される数字は確実にゼロに近付いている。 そして数字は増えることなくゼロになり、そして静かに『Lの死』を告げた。 「………………」 ロジャーは沈痛な面持ちで立ち上がると院長室を出た。 目的の二人はすぐ近くの部屋にいた。 「メロ」 「ん?」 彼は、他の子の髪を引っ張って悪戯する男の子の手を皺だらけの手で掴んで止めた。抗議しかけた男の子はロジャーの顔を見て怪訝そうになった。メロが逃げないよう手を掴んだまま、ロジャーは隣の部屋で一人ミルクパズルをしている少年に声をかけた。 「そしてニア。私の部屋に」 「…はい」 銀色のくせ毛の少年がゆるりと立ち上がった。 …院長室に二人だけを入れたロジャーは疲れた様子で腰を降ろした。 金髪の男の子、メロは大きな目をクルクル回して尋ねた。 「何だい、ロジャー?」 ロジャーは即答できなかった。 真実を告げるのは辛く苦しい。しかし告げねばならない。この子達には使命がある。 「Lが死んだ」 ポツリと告げた言葉にメロは目を見開き、ニアはパズルのピースを握った手を僅かにビクリと震わせた。 先に反応したのはメロだった。 「死んだ!?な、なんで」 「………」 「キ…キラに殺されたってことか?……そうなのか?…」 「………恐らく」 「キラを死刑台に送るって言っておいて殺されたって…そう言うのか!?」 「メロ…」 胸ぐらを掴みあげて迫るメロに、ロジャーは答えを与えてやれなかった。 その後ろでニアは完成したばかりのミルクパズルをひっくり返した。 「パズルはとかなければ、ゲームは勝たなければただの敗者」 「ニア…!」 その冷ややかな言葉にメロはロジャーを突き放しニアの肩を掴んで睨み付けた。 「お前、分かってるのか?エルが死んだんだぞ。キラに殺されたんだぞ!」 「…分かってるよ」 メロを見返すニアの目は冷静で何の感情も見えない。 ニアの肩を掴んだ手に力が入った。痛くないはずはないのに、ニアは全く表情を変えない。 メロは堪らず怒鳴った。 「本当に分かってるのか?分かってんならどうしてそんなに落ち着いていられるんだよ!悲しくないのかよ!!」 「悲しくないわけがない。でも今必要なのはエルの遺志を継いでキラを捕まえること」 「そりゃそうだけど!悲しむ暇すらないって言うのかよ!!」 「…メロ」 ニアは固い表情のまま肩を掴んだメロの手を掴んで引き離した。 「悲しむのはいつでもできる。キラを捕まえて死刑台に送った後でも遅くない。時間を与えれば与えるほど、キラはエルを殺した証拠を消して逃げて行く」 「………っ!!」 メロが思わず拳を握りしめた時、院長室の扉が開いた。 「全く…久々に来てみれば何ですか騒々しい」 「…………」 ロジャー、メロ、ニアは声の主を見て目を丸くした。 好き勝手に伸びた黒い髪、漆黒の瞳とそれを彩る隈、緩くまがった背中、不精な服装……。 死んだはずのLは何となく不機嫌に見えるいつもの目でそこに立っていた。傍らには見知らぬ男女が興味深そうな顔で立っている。 彼の仲間だ、とすぐに分かった。 ロジャーはガタンと音を立てて椅子から立ち上がった。 「エル…死んだはずでは」 「…キラ事件の後始末でいろいろゴタゴタしてて、タイマーのリセットを忘れたんですよ。定期連絡を一度忘れたくらいで勝手に人を殺さないでくれませんか」 「…………エル!!」 目に涙をいっぱいに溜めたメロがLに駆け寄り、ほとんどタックルに近い勢いで抱き着いた。 軽く受け止めるつもりだったLは受け止め切れずに思わずよろけ、少年が確実に大人になっていることに気付いた。 …まだまだ子供だと思っていたのに。 メロは涙で顔をぐしゃぐしゃにしたまま、手加減無しでどんどんとLの胸を叩いた。 「バカ!生きてるならどうして連絡の一つもよこさなかったんだよ!本気で心配したじゃないか!!」 「言ったでしょう、忙しかったんです」 「嘘つくなよ!電話かメールくらいできるだろ!」 「そんなに叩かないで下さい、メロ。痛いです」 「僕を心配させた罰だ!我慢しろ!」 そう怒鳴ると、Lにしがみついたままメロは声を上げて泣き出した。 もうそろそろ子供を卒業する少年の頭をそっと撫でていると、おずおずとニアが近付いて来てそっとLのシャツの裾を掴んだ。右手でメロの方を抱いて、開いた方の左手で抱き寄せると、ニアは遠慮がちにLに寄り添って声を殺して泣き出した。 メロの前で強がっていた背中はLの腕にすっぽりと入った。 Lは二人を抱き寄せた腕に少し力を込めて微笑んだ。 「全く…何ですか二人とも、私は生きていたのに、子供みたいに泣いたりして」 「生きてたから嬉しくて泣いてるんだろっ!」 叫ぶメロの声は鼻声で少し聞き取りにくくて。 その姿に秋乃が思わずもらい泣きで涙ぐみ、冬彦が優しく微笑んでハンカチを差し出し、出遅れたアイバーは出してしまったハンカチのもって行き場に悩み、ウエディは見て見ぬ振りをしていた。 …Lのシャツが二人分の涙と鼻水でぐちょぐちょになり、メロとニアの涙がようやく止まった頃、ロジャーは遠慮がちにLの連れに声をかけた。 「お客様にお茶も出さずに申し訳ありません。まさかエルが生きてここに戻って来るなど思ってもいなかったので、驚いてしまって」 「いいえ、お構いなく」 「エル、この人達は?」 「私と一緒に最後まで命を懸けてキラ事件を捜査した、本物の仲間です」 「あー、このお姉さんお菓子のいい匂いがする」 袖口で涙と鼻水を拭ったメロが秋乃に抱き着いた、途端。 不機嫌そのものと言う顔でLはメロを彼女から引き剥がした。襟首を掴まれたメロはムッとした顔で彼を見上げた。抱きとめてあげるつもりだった秋乃も両手を宙に浮かせたままきょとんとしている。 「何だよ」 「何だよではありません。そんな涙と鼻水だらけの顔で初対面の女性に抱き着くなんて失礼でしょう。もう子供じゃないんですから」 「さっきは『まだ子供』とか言ってたくせに。エルってさぁ、自分の物に手ぇ出されるとすぐ怒る癖、全然直ってないな」 「人に対して物とは何です、物とは」 「自分の物に手を出されると怒る癖が直ってない、ってところは否定しないんですね」 「生意気なことを言うのはこの口ですか、ニア」 Lは片手でメロの襟首を掴み、開いた手でニアの頬を摘んだ。 ぶーぶー文句を言うメロとニアはそれでも嬉しそうで、ロジャーは苦笑するだけで止めには入らなかった。 「…で、エル。今回はいつまで滞在できるんだ?せっかくだからクリスマスまではいてほしいが」 「今回は年明け頃までいようと思っています。私の後継者達に話しておきたいこともありますし、キラ事件に関して教えたいこともあります。…まぁ今日は皆さんを紹介したり院の中を見てもらったりで終わるでしょうから、明日以降にでも」 「じゃあ僕とニアで院の中を案内してあげるよ!来て!」 メロはするりとLの手から抜け出してニアの手を掴むとドアの外に飛び出した。 こっちこっち、と叫ぶ声に皆がついて行くとようやく院長室は静かになった。 「…お互いを紹介する暇もありませんでしたね」 「院を一周する頃にはもう友達になっているだろう。エル、まず服を着替えて、それから何があったか聞かせてくれ」 Lは静かに頷いた。 話さなければならないことはたくさんある。キラのこと、Lの後継者のこと、仲間のこと、そして…ワイミーのこと。 その夜。 すっかり院の皆と打ち解けた仲間達と共に久々にワイミーハウスで夕食を取ったLは、客人用の部屋の窓から夜空を見上げていた。 漆黒の空、輝く星、そして青白い満月。ベッドの上に落ちる窓枠の四角い影。 あの日、ルームメイトのケイが死んだ時と同じ光景。 それは覚えているのに、肝心のケイが倒れた経緯は全く覚えていない。それは記憶の扉が閉ざされていると言うより、扉は開け放たれているのに部屋の中には何もないと言う感覚に近い。部屋にあったはずの記憶は誰が持ち去ってしまったのだろう。 取り留めもない思考は控えめなノックの音で遮られた。 どうぞ、と言うとLのお抱えパティシエの秋乃が顔を覗かせた。 「失礼します」 「すいません、わざわざ呼び出したりして」 「いいえ。お話って何ですか?」 ベッドの脇の椅子にきちんと腰を降ろして彼女は首を傾げた。 ワタリの次に竜崎の近くにいた、そしてこれからも近くにいるであろう、Lが心を許した数少ない人間。だから話しておきたかった。誰かの記憶に残しておきたかった。 竜崎は満月を見上げてポツポツと話し始めた。 「私は、子供の頃の記憶がほとんどありません。物心つく頃までは両親と暮らしていたらしいのですが、全く覚えていない。私の記憶はこのワイミーハウスで始 まっているのです。ワタリ…つまり院の創始者であるキルシュ・ワイミーが訪れることもありましたが、『院長先生より偉い人』程度の認識しか私は持っていま せんでした」 「………」 「あれは私がある程度物事を分かる年令になった時だったと思います。ワイミーは私を院長室に呼び、こう尋ねました。『私はあなたがここに来る前に何度か 会ったことがありますが、覚えていますか』と。私が全く覚えていないと答えると、ワイミーは私の過去について話し始めました」 「………」 「私の家は相当な資産家で、当時はまだ駆け出しの発明家だったワイミーを高く評価し、何かと世話を焼いていました。その甲斐あってかワイミーは発明家とし て名が知れるようになり、ようやく恩返しができるようになった時、私の家族は旅行先の外国でホテル火災に巻き込まれ、私一人を残して亡くなったのです。私 の両親に身内らしい身内はなかったので、ワイミーは私の後見人として名乗り出て幼かった私を自分の創立した擁護院へと入れました。私の素性は隠したまま で…。そして、私が色々な話を理解できる年頃になるのを待って全てを話したのです」 独り言に近いLの昔語り。 それは自分のことを話すと言うより誰かから聞いた誰かの話をしているという感じだった。 秋乃の隣でリュークも興味深げに話を聞いている。 「そしてワイミーは私に尋ねました。『あなたは何がしたいですか』と。私は『どんな事件も解決する正義の味方になりたい』と答えました。…ワイミーは言い ました、ならばあなたは警察官ではなく探偵になればいい。何者にも縛られず、自分の心の向くままに、正義を貫けるように。その為に障害になるもの、あなた を脅かすものは全て私が消しましょう、と。幸か不幸か私には探偵の素質があったのでしょう、私の家族が残した資産と人脈を使い、数年後には『L』と呼ばれ る存在になっていました」 「…何だか他人事みたいに話すんですね」 「他人事みたいなんですよ」 秋乃の言葉にLは浅くため息をつく。 とても残念そうな顔で爪を噛みながら彼は続けた。 「ワイミーは私を『生家』に連れて行ってくれましたが、私は何も思い出せませんでした。家族と食事をしていた食卓を見ても、『両親』と一緒に映った写真を 見ても、そこに映っているのが自分の両親で、自分はここで暮らしていたという感覚が全く沸かなかったのです。だからかも知れません、何の躊躇いもなく残さ れていた自分の過去を全て消してしまったのは」 「消した…って、家を手放したってことですか?」 「はい。家は適当に競売にかけて売り、写真なども全て処分しました。辛うじて繋がっていた『普通の人間らしい生活』と、私はそこで完全に決別したのです」 「…後悔は、していないんですね」 秋乃が柔らかく微笑んだ。 Lは微かに顎を引いた。頷いたのだろう。 「あの日から、ワイミー…ワタリと生きて来た時間が私の全てです。覚えていない過去の真偽はどうでもいい。これからはあなた達と生きて行く時間が真実になる。私はただ、『L』であればいい。『L』でありたい、これからも」 「…時々は、私のお店の『竜崎オーナー』になって下さいね」 「約束しますよ」 竜崎は、今度は自分から小指を差し出した。 自分を縛っていた鎖はキラ事件が解決したことで切れてしまったから。 だから、彼女と繋がる新しい鎖を。何かに繋がれているという事実は、確かな拠り所を彼に与えてくれていた。 ツリーの下には山積みになったプレゼント。部屋のまん中のテーブルには皆でデコレーションしたクリスマスケーキが所狭しと並んでいる。 一通りクリスマスソングを歌い終わると、皆は我先にとケーキに走って行った。早く早くと取り皿を差し出す子供達に、秋乃は嬉しそうに微笑みながらケーキを分けている。さすがのLも、今日ばかりは後回しにされても機嫌を損ねることはなかった。 生きて、ここに戻ってくることができた。ワタリが一緒だったらどんなに嬉しかったか、と思わないではなかったが、今はこの平和な時を心ゆくまで楽しもうと思った。 …子供達の胃袋に一通りケーキがおさまり、客人にお構い無しに遊び始めるのを見てLは立ち上がった。秋乃、冬彦、アイバー、ウエディ、そしてメロとニアに静かに自室に来るように告げて彼はパーティーの部屋を出た。 …しばらくして呼び集めたメンバーが部屋に揃うと、Lはキラ事件の一部始終を話した。死神の存在、死神のノート、リュークの姿も見せた上で全て話して、Lは単刀直入に本題を切り出した。 「さて…キラ事件も無事解決しましたし、あなた達のどちらをLの後継者とするか最終試験を始めたいと思います」 「………!」 「!!」 それまで身を乗り出し顔を輝かせて話を聞いていた二人は顔を緊張に強張らせた。 ニアは目つきを鋭くしてLを見つめ、メロはちらりとニアを見てから睨み付けるようにLを見た。 「この院での成績は若干ニアの方が勝っているようですが、決定的な差ではありません。有能な探偵になれるか否かは学業の成績だけで決まるものでもありませ ん。そこでどうやって試験を行うか、ですが…二人には私と行動を共にしてもらい、ドヌーヴとして実際の事件に携わってもらいます」 「…!?」 「!!」 「最初に基本的なことを教えますが、その後は私は手も口も出しませんので、窓口から報酬の交渉、事件解決まであなた達二人でやってみて下さい。その様子を 見て後継者を決めます。結論が出るまで何年もかかるかも知れませんし、二人とも不合格になるかもしれないし、二人とも合格するかもしれない。とにかく真剣 に取り組んで下さい」 余りにも突拍子のない話に、メロとニアは目を丸くしたまま呆然としている。自分の言葉が二人の中にきちんと落ちて行くまで、Lは黙って待っていた。 しばらく考えて頭と気持ちの整理がついたらしいニアがおずおずと口を開いた。 「あの…エル…いくら何でも、探偵としての経験が全くない私達がいきなり世界三大名探偵の一人を受け持つと言うのはかなり無理があると思うのですが…」 「ええ、ですから軌道に乗るまでは助っ人を入れます」 「助っ人?」 「って、誰ですか?」 「夜神月です」 「え?夜神月ってキラじゃないか、なんでそんな奴が助っ人なんだよ?」 「夜神はキラですが、彼の推理力はかなりのものがあります。屋敷にいても特にすることもなく退屈なんでしょう…あなた達の相談相手になってくれないかと持ちかけたら二つ返事で引き受けてくれました」 「…………エル……何、企んでるのさ?」 「退屈は人を殺せる、という言葉があります」 胡散臭げなメロの視線をさらりと受け流してLは淡々と言葉を繋いだ。 「夜神月は…少なくとも現時点では、自分が罪を犯したという意識はありません。さっさと彼らを処刑するのは簡単です。しかし『自分は正義だが、愚民は偉大 すぎる自分を認めることが出来なかった』と思い込んでいる人間に罰を課しても、それは償いにはならないと私は思うのです」 「つまり、キラが自分は罪を犯したと自覚するまで、身体的にも精神的にも死んでもらっては困るということですか」 「はい。それに、世間にはまだキラは正義だと思っている人々もいます。キラの処刑を急いで行ってしまっては、歴史や人々の記憶に印象強く残ってしまう。 『キラは義賊だった、悲劇の英雄だった』などというイメージが定着するのは好ましくありません。ですから、人々の記憶からキラ事件が風化するのを待つ意味 もあります」 メロとニアは納得したように頷いたが、ずっと黙っていた冬彦が初めて口を開いた。 「しかしL、夜神月はいずれ自分の犯した罪を理解するでしょうが、弥はどうでしょうか?彼女は殺人をした記憶そのものを無くしていますし、そうでなくとも罪の意識を感じる風には見えませんでしたが…」 「そうですね。もともとなのか両親を殺されたことがきっかけなのかは分かりませんが、弥は人間としての心のどこかが壊れていると私も考えています。ですが、弥も殺人犯であることに違いはない。罪は償ってもらわなくては」 「ではどうやって…?」 「弥も馬鹿ではありません。夜神月の自分に対する愛情が偽りだといずれは気付き、命を懸けて愛した相手に道具としてしか見られていなかったことも思い出すはず…。それからの人生が彼女の贖罪の時間になるでしょう」 Lはそっと呟いて目を伏せた。 月とミサを友達だと思ったこともあった。 しかし彼らはたくさんのものを奪っていった。奪われたそれらは取り戻せない。友達になれるかもしれないという想いも。 もう、どんなに手を伸ばしても届かない。伸ばしたいとも思わない。 12月31日、日本時間午後7時。 2004年最後の日、Lはほぼ一年ぶりに公の場に姿を見せた。 全世界同時発信のLの演説だった。 前日に知らせを受けたマスコミは、『数分間、Lが演説するだけ』という連絡にも関わらず全ての予定を変更し特別枠を取ってLの演説を放送しようと待ち構えていた。 そしてキラ事件に深く関わった者達は。 刑事達は自宅で。 ヨツバのメンバーは三堂の邸宅で。 夜神総一郎夫妻と娘の粧裕は引っ越した先の家で。 月とミサは拘束されている屋敷の中で。 龍神兄妹とアイバー、ウエディ、そしてメロ、ニアはワイミーハウスの一室、Lの隣で。 真剣な顔でTVを見つめていた。 …Lはゆっくりと息を吸った。 『私はLです』 画面に大きく映し出される『L』の文字。 『私がキラに宣戦布告した日から一年近い時が流れました。事件の性質上、捜査状況を公にすることはできませんでしたが、本日ここに、キラの能力が解明され たこと、キラ及び第二のキラを逮捕したことを御報告致します。詳細は各報道機関に本日中に通知しますので、それぞれの判断で報道をお願い致します。…そし て…』 Lは言葉を切った。 まるで込み上げてくる涙に言葉が詰まったと言うように俯いて、目を閉じ、浅く呼吸し。 『…仲間であるはずの人々から信じて貰えずに孤立し、片腕を失い、一人きりになっていた私を信じ最後までついてきてくれた古くからの友人と新しい友人…そ して、第二のキラの正体を知った時、恐れることなく名誉回復の為に私に協力してくれた企業の方々に、心より感謝を申し上げたいと思います。…最後に。世界 中の警察官の皆さん。キラは殺人の力を失い、身柄を拘束されました。あなた達が逮捕した犯罪者がキラに殺されることはもうありません。安心して悪と闘って 下さい。私達は強い正義感を持ったあなた方を信じ、期待しています。そして世界の皆さん。キラが捕まったことで世界が悪い方に向かうことはありません。た だ本来あるべき姿に戻っただけ…この世界をどう変えていくかは皆さんにかかっているのです』 そう締めくくってLは演説を終えた。 世界のあちこちで、拍手が起こり、Lをたたえる声が聞こえた。同時にキラの消滅を嘆く声も。 …Lが月を追い詰めた様々な映像は各メディアの判断の元で公開され、Lの演説内容と共に大反響を呼んだ。 夜神月は未成年だったが、日本以外の国では実名と顔が公開され、日本でも一部のメディアではほとんど名指しに近い状態で報道された。マスコミは即座に二人の家族を取材しようと向かったが、既に彼らは別人として姿をくらました後だった。 家族への取材を諦めざるを得なかったマスコミは東応大学やヨシダプロ、警察関係者に鉾先を向けた。 特にLの言葉が『日本警察はLに協力しなかった』と言わんばかりのものだったため、警察トップに対する取材は厳しいものがあった。連日のマスコミの質問 に警察庁長官は『Lの指示で捜査本部の状況は全く知らされていなかった。本部長だった夜神がLの指示で姿を消したので私は何も分からない』と繰り返すばか りだった。個々に取材された一時は捜査本部に属していた刑事達も、キラを恐れて逃げ出したとは言えずにただ口を噤むだけだった。その様子が更に『Lを信じ ず協力しなかった日本警察』のイメージを強くしていた。 一方、ヨツバも『キラを恐れずLに協力した』企業としてマスコミの取材を受けていた。社長は『私は何も知らない、知っているのは将来有望な幹部達が定期的に極秘の会議を開いていたことくらいだ』と暗に噂を認める発言をし、更に取材熱を加速させていた。 ミサ主役の映画『春一番』は上映中止寸前まで行ったが、第二のキラが主役と言うことが逆に話題になり、日本以外での公開も決定した。 そして『Lの古くからの友人と新しい友人』は誰か、マスコミは熱心な取材の結果K病院の院長という噂まで辿り着いたが、様々な圧力により噂は噂のまま揉み消された。 それでもあちこちで噂は流れ、憶測は飛び、様々な情報が連日マスコミを賑わせていた。 様々な声や想いを包み込んで世界は今日も動き続けている。 年は開けて1月5日。 ワイミーハウスの一室でお茶の時間を過ごしながら皆はTVを見ていた。報道される内容は8割方がキラ事件のことだ。 「それにしても、毎日毎日飽きずによくやるよなぁ。とうとう夜神月の小学校の同級生まで出してきたよ」 「人類史上最初で最後とまで言われる大事件がたったの一年で解決したんですから、一週間やそこらでマスコミ熱が冷めるはずないでしょう」 「こんなにマスコミが熱心に取材してると、竜崎さんがLだってことがバレないか心配になりますね」 「その点については細心の注意を払っていますから大丈夫ですよ」 「でもこんなに毎日毎日何か新しいことを報道してたらそのうちネタが尽きるんじゃないか?」 当たり前のようにお茶の席に同席しているリュークが尋ねると、当たり前のような顔で冬彦が言葉を返した。 「新しく報道することが無くなってネタがつきたらキラ事件の報道は終わりますよ。世界では毎日のように事件が起きていますし、キラがいなくなった今の時期は犯罪も多発するでしょうから、ニュースのネタには不自由しないでしょう」 「そうそう。一ヶ月もすれば世の中の人の興味はキラ事件にはほとんど残っていないだろうね」 「一年もすれば、『ああ、そんな事件もあったっけ』って言ってるんでしょうね」 「人類史上最初で最後の大事件を起こした夜神月や弥海砂が忘れられてしまうのか…そんな短い時間で……」 「そしてその大事件を解決したLも、でしょうね」 「世紀の大犯罪だろうと世紀の自然災害だろうと人類史上初の大事件だろうと、自分と直接関係ないことならば時がたてば忘れてしまう。それが人間というものなんですよ」 「じゃあお前もいつかは事件のことを忘れるのか?」 「…………。私は……」 リュークのその質問に、世紀の名探偵はアップルパイを崩す手を止めた。 彼独特のどこを見ているのか分かりにくい黒目がちの瞳をじっと見開いて、Lは唇に言葉を乗せた。 ――二年… |
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