| そして2月14日。 町外れの神社でデザトリアンが暴れている、と騒ぐ妖精の声で起こされたつぼみとえりかは、『何でまたこんな朝早くから…』と文句を言いながら大急ぎで支度をしてデザトリアン出現現場に向かった。 神社に到着すると、先に来ていたサンシャインとムーンライトが『僕だってぇ〜食べきれないほどのチョコがほしいのにぃ〜何で一個も貰えないんだぁ〜!!』と叫んで暴れるデザトリアンと戦っていた。 「うわぁ〜…タイムリーなデザトリアンですね…」 「こんな朝から『チョコを一個も貰えない』って言われてもさぁ…せめて夕方まで待ちなよ…」 ため息混じりに顔を見合わせた二人が境内に入ると、頭上から声が降ってきた。 「来たねぇ、プリキュア。わざわざ僕達を呼び出すとは…いい度胸じゃないか」 「聞けば、俺とコブラージャをコテンパンにする作戦を用意しているそうじゃのう!その挑戦、正々堂々受けて立ってやるきに、さっさと雑魚を倒すぜよ!」 声の主は勿論、プリキュア達に呼び出された砂漠の使徒の幹部、クモジャキーとコブラージャである。 神社の御神木に登るという罰当たりをしている砂漠の使徒を見上げて、つぼみとえりかはコソコソと囁きあった。 「あ、サソリーナはそんな風に話を伝えたんですね」 「確かにそう言えばクモジャキーはコブラージャを引っ張ってでも出てきそうだもんね」 「なーにをコソコソしとるんじゃ!さっさとその作戦とやらを見せるぜよ!こちとら、お前達の挑戦が楽しみで楽しみで夜も眠れんくらいだったというに!」 「だからってこんな早朝から出かけなくても…。ふぁ…」 「何を軟弱なことを言っちょるんじゃコブラージャ!『善は急げ』『早起きは三文の得』と言うじゃろ!」 「はぁ…それでこんな朝から…。はぁ…午後から来いって言っとけば良かった」 「来てしまったものは仕方ありません!いきますよ、えりか!」 「合点承知の助!」 つぼみとえりかはココロパフュームを取り出して構えた。 …『チョコを貰えなかったと嘆くのは夕方になってからでも遅くない』というプリキュアの言葉で呆気なく戦意を喪失したデザトリアンをサクサクと浄化すると、御神木の梢で高みの見物をしていたクモジャキーとコブラージャが四人の前に降り立った。 「漸く前座が片付いたようだね」 「さぁ!その作戦とやらを見せるぜよ!」 「ふっふっふ、覚悟しなさい!シプレ、コフレ!!」 「「はいでしゅっ!!」」 離れた所で様子を見ていた二匹の妖精が、神社の入り口近くに隠してあった馬鹿でかい紙袋を持って飛んできた。 新たなプリキュアの武器か!?と身構えたクモジャキーとコブラージャは、リボンや可愛らしい包み紙でラッピングされた箱を取り出した四人の姿に怪訝そうな顔になった。 …それぞれ箱を持ったプリキュア達が状況を把握しかねて突っ立っている幹部達と向き直ると、ブロッサムが箱を頭上に掲げて叫んだ。 「砂漠の使徒の皆さん、お待たせしました!プリキュア史上最大の作戦『チョコは世界を救う!バレンタインだよ☆チョコ&ピース作戦』開始です!」 「チョコは世界を救う?」 「チョコ&ピース作戦??」 「食らえ、この愛!とぉっ!!」 「とりゃっ!」 「えいっ!」 「ハッ!」 ぶんっ!! プリキュアが投擲した箱六個…しかも可愛いラッピングがされていてうち四個は無駄に大きい…を叩き落すべきか避けるべきかキャッチすべきか一瞬悩んだせ いで反応が遅れ、クモジャキーとコブラージャは飛んできた箱を三個ずつ普通に受け止める羽目になった。ちなみにクモジャキーが受け止めたのは長方形の箱を 二個と正方形の箱を一個、コブラージャは小さい箱を二個とバケツ型の箱を一個である。 頭の上にクエスチョンマークをつけた幹部達が顔を見合わせプリキュアに視線を戻すと、キュアマリンが得意げな笑みを見せてふんぞり返った。 「砂漠の使徒の大幹部のくせに、二人ともニブイなぁ。今日は何の日か、知ってるっしょ?」 「それは知っちょるが」 「バレンタインだろ?…って、あ」 「あっ!」 漸くプリキュア達の『作戦』を理解した二人に笑顔を見せて、ブロッサムは胸の前で両手を合わせてハートのマークを作った。 「愛を失くした悲しい砂漠の使徒さん。このキュアブロッサムが、あなたのドキドキ取り戻してみせる!」 「……………」 「……………」 数秒、間の抜けた沈黙が流れて。 クモジャキーはあんぐり口を開けて、コブラージャは笑い出した。 「…ぷっ。あは、あははははは、あははははははは…プ、プリキュアが、砂漠の使徒のドキドキ取り戻してみせるって、あははっ、あははは…わざわざ日を指定して呼び出して、何を言い出すかと思えば…くっ、あはは、トレビア〜ン!予想外の余興だったよプリキュア!」 「…………。俺は一体どこから突っ込めばいいんじゃ…」 よほどツボにはまったのか、腹を抱えて笑い転げるコブラージャと投擲されたチョコを見てクモジャキーがボソリと呟いた。 一方のプリキュアにとっても二人の反応は少々予想外だった。両手でハートマークを作ったまま次の行動を決めかねて突っ立っていると、漸く笑いの発作がおさまったコブラージャが涙を拭ってプリキュア達を見遣った。 「なるほどねぇ、『チョコは世界を救う!バレンタインだよ☆チョコ&ピース作戦』かぁ。名前から察するにチョコで僕達を丸め込もうって狙いだったのかな?僕達を君達の味方に出来れば一気に君達が有利に なるからね、賄賂で味方に引き込もうって着眼点そのものは悪くないと思うよ。でも残念ながら、チョコで寝返るほど砂漠のスターは安くないんでね」 「はぁ…たかがチョコの一つや二つに釣られると思われとったとは…砂漠の使徒の大幹部も舐められたもんじゃのう」 「いえ、決してチョコで釣ろうと思ったわけでは。ただ…」 「避けられる戦いなら解決法を探るきっかけを作りたいと思っただけよ。…どうやら出来ない相談だったようだけど」 「聡明な君らしくもない発言だね、キュアムーンライト。砂漠の使徒とプリキュアの戦いは400年前から続いているんだよ?今更この戦いを避けられると思うかい?」 「この戦いが避けられるものなら、俺達とお前達は敵味方になったりしちょらんぜよ」 「そうかもしれない。でも私達は試しもしないで可能性を諦めたりしない!」 「ま、私達だってチョコでこの戦いを解決できるなんて本気で思ってたわけじゃないし。あんた達がチョコを受け取ったなら私達の作戦は成功だよっ」 作戦成功、という単語に微妙な顔になった砂漠の使徒に、キュアマリンはビシッと指を突きつけた。 「まさかとは思うけど。こーんな美少女からプレゼントされたチョコを突っ返すなんてそんな美しくないこと、砂漠の使徒の大幹部様がするわけないよねぇ?」 「…フッ、まぁいいだろう。今回は君達の口車にのってあげよう」 「じゃが、この借りは必ず返すぜよ!」 「今日のことはきちんと覚えておきたまえ。…アデュー」 いつもの捨て台詞を残してクモジャキーとコブラージャは姿を消した。 …デザトリアンにされた人を元に戻した四人は帰途に着きながら『反省会』をしていた。 「やっぱりそう簡単にはいかなかったですね…」 「泣いて喜ぶとまでは思ってなかったけど、『チョコで餌付け大作戦』があっさりと見抜かれるとはねぇ。幹部の名は伊達じゃないってことかぁ」 「彼らはああ見えてここぞと言う時は頭が回るのよ。これからも気を引き締めていきましょう」 「ところで、クモジャキーとコブラージャが『借りは返す』とか『覚えてろ』とか物騒なこと言ってたけど…」 「それはいつも言ってる台詞だし気にしなくていいんじゃないですか?」 「いやいや、今回はちゃんと覚えておこうよ!ひょっとしたらさ、ホワイトデーにお返しくれるかもしれないよ?あいつら変なトコで律儀だしぃ」 「砂漠の使徒のお返しか…。うわ、急に気になってきたなぁ」 「『さぁ、思う存分特訓するぜよ!』ってスナッキー型のサンドバッグを投げて寄越すかもしれないわよ?」 「あははっ、クモジャキーならありそうですね。じゃあコブラージャのお返しに期待しましょうか」 「物凄いドヤ顔でサイン入りブロマイドとか出されたらどうする〜?」 「うっわー、ありそう…」 「あんまり期待はしないでおいた方が良さそうだね」 …などと、プリキュア達が好き勝手を言っていたその頃。 「「へーっくしょーーーーーん!!!」」 アジトに帰還したクモジャキーとコブラージャが同時に盛大にクシャミをしていた。 「これは…」 「プリキュア達だね、絶対に」 「どうせ碌でもない事を噂しとるんじゃろ」 「ふん…覚えていろよプリキュア。ホワイトデーにはぎゃふんと言わせてやるぞ。…で、このチョコはどれが誰宛てなんだろ?六個あるけど…」 「俺とお前とサバーク博士なら三個じゃろ?一人につき二個ずつってことか?」 「…ひょっとしてサソリーナとダークプリキュアとスナッキーの分もあるのかな。このバケツみたいな箱には一口チョコがたくさん入ってるし」 プリキュア達に貰ったチョコを見ながら二人が相談していると、ダークプリキュアとサソリーナが部屋に入ってきた。 「あらぁん?バレンタインの朝も早くから出かけたと思ったら、チョコを貰いに行ってたのぉん?」 「おお、サソリーナ。『プリキュア達が俺達をコテンパンにする計画を立てている』とお前が言うから出向いてやったんじゃが、長ったらしい作戦名を宣言した後に『食らえ、この愛!』とチョコを投げつけられたぜよ」 「『愛を失くした悲しい砂漠の使徒さん。このキュアブロッサムが、あなたのドキドキ取り戻してみせる!』って決めポーズ付きで言われてねぇ、涙ぐむほど笑ってしまったよ」 思い出し笑いをしながら胸の前に手を持ってきてハートマークを作るコブラージャにダークプリキュアが冷ややかな目を向けた。 「それで、チョコだけ貰って帰ってきたのか」 「俺は闘る気満々だったんじゃがな。盛大に肩透かしを食らった上にコブラージャが横で笑い死んでたきに、戦う気が失せてしまったぜよ」 「今回は奴らの計画に乗ってやったまで。勿論、乗せられっぱなしで終わるつもりはありませんよ」 「…まぁいい。クモジャキー、コブラージャ。お前達の望みの物を用意してやったぞ。有難く受け取れ」 無表情で淡々と言って、ダークプリキュアはチョコの箱を二人に投げた。ちなみにクモジャキーにはジャンボサイズのチョコポッキー、コブラージャには有名ブランドのチョコである。 私からもあげるわぁん、とサソリーナからチョコを差し出された男性二人は笑顔で箱を受け取った。 「今日は素直に感謝しておくぜよ」 「今日は、じゃなくて普段から素直に感謝しなさいよっ」 「ふたりとも、ありがとう。ホワイトデーにはちゃんとお返しをするから期待してくれたまえ。…それから」 コブラージャは傍らに置いてあった袋をごそごそすると、綺麗にラッピングされた箱を取り出して皆に差し出した。 怪訝そうな顔をするクモジャキーとサソリーナにひとつずつ、ダークプリキュアにふたつ差し出して彼はにっこりと笑ってみせた。 「僕から君達への友チョコだよ」 「お?おう…」 「あんた、こういう妙なところでソツが無いって言うか、マメねぇん…」 「…コブラージャ。バレンタインとは、女性がチョコを渡すイベントの日ではなかったのか」 「ああ。言い忘れていましたが、最近は男性がチョコを渡すこともあるのですよ。細かいことは気にせず、チョコを食べるイベントを楽しめば良いのです」 「そうなのか…」 「じゃ、飲み物でも淹れてチョコの試食会といきましょうか。皆、コーヒーでいいかしらぁん?」 「ああ、構わないよ」 「俺は何でもいいぜよ」 「…………」 「ダークプリキュア、何も言わないってことはあんたもコーヒーで良いってことねぇん?じゃ、後から文句を言うんじゃないわよぉん」 「え?私は…」 チョコの試食会など参加するつもりはないが。 …と、言う前にサソリーナはコーヒーを準備する為に部屋を出て行った。クモジャキーとコブラージャはダークプリキュアにはお構いなしで貰ったチョコを開 けて品定めを始めている。立ち去るタイミングを逃してしまったダークプリキュアは、たまには馬鹿共に付き合ってやるかと考え直して仕方なくソファに腰を降ろした。 …そして数分後。 一口食べてチョコにハマり、ビッグサイズの板チョコを一人で黙々と齧り続けるダークプリキュアの姿があったという。 |