| 「あのさぁ。皆の知り合いとかで、ファッション関係のデザイナーの仕事をしたい!って人、いる?」 えりかが唐突に切り出したのは、夏休みがあけて最初のファッション部の活動の場でのことだった。 皆は一様にきょとんとして首を傾げ、自分の知ってる範囲にはいないと思うけど…と言いながら不思議そうな顔でえりかを見た。『何で急にそんなこと?』と怪訝そうな皆の視線の意味に気付く風もなく、えりかは尖らせた唇の上に鉛筆を乗せた。 「そっかー。まぁそうだよねー、突然こんなこと聞かれても困るよねー」 「…あの、えりか。何で急にそんなこと聞くんだい?」 「えーっとねぇ…最初から話すと長いから結論だけ言うと、ママがデザイナーを雇いたいんだって」 「えりかのママってフェアリードロップの店長だよね?だったら普通に求人出すとか、昔の知り合いとかに声を掛けた方が手っ取り早くいい人が見つかるんじゃないの?」 「うん、もも姉もパパも私もそう思ったんだけど…」 器用に唇に鉛筆を乗せたままえりかは続けた。 えりかの母でフェアリードロップのオーナー、さくらの言い分はこうである。 私の知り合いには確かに有能な人が多いが、そういう人達は(デザイナーの卵や見習いも含めて)既に相応の組織内で相応の仕事をしている。そんな人をヘッ ドハンティングしたら、狭い業界のことだから人間関係に悪影響が出てしまうかもしれない。それに、友人知人同業者のセンスは良く知っているので、私の知らない新鮮な センスを持った人と仕事をしてみたい。今すぐ人手が欲しい!と言うわけではないので、家族のツテでまず人を探してみようと思う… ころりと机に落ちた鉛筆を今度は指先でくるくる回してえりかは話を締めくくった。 「友達の友達のそのまた友達まで範囲を広げたら、この人は!と言う人が見つかるんじゃないかしら、だってさ」 「ん、まぁ、そこまで範囲を広げればデザイナー志望の人は見つかるかもしれないけど…」 「えりかママに合格貰えるような凄い人がいるかなぁ?」 「隠れた天才が発掘されるかもしれませんし、『フェアリードロップがデザイナーを探してるんだって』って話だけはしておきましょう」 「そうね、噂を聞いて応募してくる人もいるかもしれないし」 「僕も家族と門下生の皆に話をしておくよ」 「うちのママの我侭に付き合ってもらって悪いね、ありがと!じゃ、夏休み明け第一回ファッション部活動始めるよっ!行くぞーっ!!」 「おーっ!!」 椅子の上に立って拳を突き上げる部長の姿に、部員もノリノリで拳を突き上げた。 その日の夕方。 明堂院道場での稽古を終えたいつきは、門下生を集めて『友人の母が経営するファッションショップでデザイナーを募集しているので、友人知人にデザイナー志望者がいたら紹介して欲しい』旨を伝えた。 解散が宣言されて門下生が三々五々帰り始め、いつきも自室に戻ろうと道場を出ようとした時、背後から声が掛けられた。 「お嬢」 「…ああ、熊本さん」 声を掛けてきたのは『クモジャキーっぽい人』こと熊本だった。 彼は門下生の中でも人一倍熱心に稽古に打ち込み、自主的に居残り稽古をすることも珍しくない。居残り稽古をする了解を律儀に取る必要はないことは先日伝えたはずだが…と思いながら、いつきは笑顔で首を傾げた。 「どうしました?今日の稽古で気になることでもありましたか?」 「いや、そっちじゃないぜよ。お嬢がさっき言った、友達の服屋がデザイナーを募集しちょるとかいう話なんじゃが」 「え?まさか熊本さん、ファッションデザイナーになりたいんですか?」 「いや、俺じゃないき。デザイナーになりたいのは俺の友達なんじゃが…ちょっとばかし就職に不利な条件があるきに、それが心配なんぜよ。求人の紹介をしたはええが、不利な条件を理由に門前払いされては気の毒じゃき、もうちっと詳しく話を聞けんかと思ってな」 「不利な条件?」 「まず、専門の学校で勉強はしたがデザイナーとしては未経験ということ。そしてこっちが問題なんじゃが、仕事の過労とストレスでぶっ倒れて、三年近くも病院 で昏睡状態だったということじゃ。俺と同じ病院に入院しちょったのが縁で友人になった奴でな。ああそれから、男の癖に美しいものが好きで結構なイケメンぜよ!」 「…………」 いつきは目を見開いた。 熊本の友人、三年近く昏睡状態、美しいものが好き、結構なイケメン…そのキーワードから連想される人物がいる。 砂漠の使徒との最後の戦いでキュアサンシャインの前に立ちはだかり、最後の最期に人の心の美しさを知り、『美しい悲しみ』という花言葉を持つハマナスの花を残して光になって消えたコブラージャ。彼もきっと、元に戻っているだろうと思ってはいたけれど…。 ごとごとと動き出す心臓を押さえて、いつきは努めて冷静に口を開いた。 「分かりました。明日、友人に会いますからその点について聞いてみます」 「恩にきるぜよ、お嬢!」 「その、『お嬢』はやめてくれないかなぁ…」 顔を赤くしながらのいつきのささやかな抗議に、熊本は豪快な笑いを残して道場を出て行った。 そして翌日。 いつものようにつぼみ、えりかと登校する途中、いつきは熊本から聞いた話を切り出した。 「えりか、昨日の話なんだけど。ほら、フェアリードロップがデザイナー募集してるって言う」 「ああ、あれ?なになに、ひょっとしていきなり反応あったとか?」 「あったんだよ。それも、熊本さんから」 「ええっ?」 「熊本さんって、あの、クモジャキーっぽい人?」 「そう、クモジャキーの人。その熊本さんの友達にデザイナー志望の人がいるんだけど、ちょっと不利な条件があるから、その条件を理由に門前払いされないか確認して欲しいって言われたんだよ」 「クモジャキーっぽい熊本さんの友達?」 「気になりますね」 つぼみとえりかの興味津々の視線を受けて、いつきは話を続けた。 「だよね。僕もすっごい気になって、どんな人なのか聞いてみたんだ。そしたら、仕事の過労とストレスで倒れて三年近くも病院で昏睡状態で、熊本さんと同じ病院に入院してて、美しいものが好きで、なかなかのイケメンなんだって」 「それって、ひょっとしたらコブラージャなんじゃ?」 「ひょっとしなくてもコブラージャでしょ。え、なになに、じゃあひょっとしてもしかして、いつきのところにはクモジャキーっぽい人が来て、私のところにはコブラージャっぽい人が来ちゃうの?そうなったらつぼみのところにはサソリーナっぽい人が来ちゃうわけ!?」 「えりか、それはちょっと話が飛躍しすぎなのでは…」 「そもそも、話を聞いたえりかのお母様が『そんな人は採用できない』って言ったら話はそこで終わってしまうよ」 「そっか!じゃあ、帰ったらすぐママに聞いてみるよ!」 えりかは楽しげににっこりと笑って親指をグッと立てた。 そして翌々日。 部活を終えたいつき、つぼみ、えりかの三人は明堂院道場に向かっていた。 えりかがいつきから聞いた話を母に伝えたところ、『詳しい事情を聞かないと判断は出来ないから、ひとつの情報だけで門前払いはしないわよ。遠慮なく面接を受けに来てって伝えて頂戴。そうだ、伝えるついでに求人票も渡してくれる?』の言葉 と求人票を受け取り、その旨をいつきに伝え、いつきから熊本にえりか母の言葉を伝えた上で『求人票を渡すのを兼ねて熊本さんの友達に一度会ってみた い』と頼んだところ、快く了解した熊本がその場で友人に連絡を取り、『明日の予定は何か入っちょるか?何も無い?なら明日は俺に付き合え!』と強引に約束を取り付け、あれよあれよと言う間に熊本の友人と会うことになったのだ。 約束の時間に遅れそうだったので、急ぎ足に明堂院道場に向かうその道すがら、つぼみが『実は…』と口を開いた。 「一昨日えりかが言ってた『つぼみのところにはサソリーナっぽい人が来ちゃう』が実現しちゃうかもしれません」 「え?」 「本当に?何で何で?ひょっとしてつぼみのお店で求人出したらサソリーナっぽい人が応募してきたとか!?」 「いえ、そこまでお約束の展開じゃないんですけど。えりかのお店でデザイナーを募集してることをお父さんとお母さんに伝えたら、昨日、お母さんが『ふたば の保育園の先生が友達を紹介したいって言ってたわよ』って教えてくれたんです。詳しいことは端折りますけど、ふたばの先生も熊本さんと良く似 た事情があるらしくて、これはもうサソリーナで間違いないかなって」 「うわぁ〜世の中って狭いねぇ」 「ひょっとしたら、サバーク博士がこの町に住んでる人から幹部候補を選んだのかもね」 「熊本さん達が砂漠の使徒だった時のことを覚えていればその辺の事情も聞けたのかもしれませんけど…」 「悪の手先になって世界を滅ぼそうとしてました!なんて、覚えてない方が幸せじゃないかな」 「それはいつきの言う通りだろうけど、本当に何も覚えてないのかなー?あいつらって言わば三年間もデザトリアンやってたわけでしょ?私もうっすらとデザト リアンになった時のことを覚えてたし、あいつらも『変な夢を見てた』くらいの記憶はあってもおかしくないと思うんだけど」 「僕もそれは思ったよ。けど、真正面からストレートに聞くわけにもいかないし…凄く気にはなるんだけど」 「今日、そういうことをさりげなく聞けるチャンスがあったら聞いてみたいですね」 そんなことを話しながら三人は明堂院道場の門をくぐった。 出迎えた執事に『熊本さんが友人を連れてきているはずなんだけど』と伝えると、穏やかな笑みと共に『お二人とも道場でお待ちです』という言葉が返って来た。三人の到着を待つ暇つぶしに稽古の見学でもしているのだろうか、と思いながら三人は静かに道場に入った。 …道場の真ん中では門下生二人が組み手の稽古をしていて、熊本を始め他の門下生達はそれを見学している。いるのだが、熊本の友人らしき人物の姿が見えない。三人は怪訝な顔を見合わせてそっと熊本の隣に座った。 「熊本さん。ちょっと部活が長引いて、遅れてごめんなさい」 「おお、お嬢。特に問題ないきに、謝ることはないぜよ」 「あの…お友達は?」 いつきの問いに、熊本はニヤッと笑って組み手をしている二人を軽く顎でしゃくった。不思議そうな顔になりながら組み手をしている二人を見た三人は目を丸くした。 組み手をしている片方は明堂院道場の門下生だが、その相手をしているのは、緩く波打つ青白い髪の優男…即ち、コブラージャっぽい人だった。何故コブラー ジャっぽい人が明堂院流の道着を着て門下生と組み手をしているのか。暇を持て余して稽古に飛び入り参加でもしたのだろうか。 …などと思いながら三人が熊本を見ると、彼は楽しげに笑いながら小声で言った。 「ちょっとばかし早く着いたきに、あいつは組み手の見学をしちょったんじゃが、俺が『こいつは軟弱者に見えて俺より強い』と言ったら、ハヤトの奴が『俺と勝負しろ』 と言いだしてな。瞬殺されるからやめておけと言うたのに聞く耳持たなかったきに、『明堂院流のルールに則らなくても良いなら』とあいつが勝負を受けてな。案の定、 あっさりとひとひねりされて終わりじゃ」 「あ、相手が素人だと思ってちょっと油断しただけだ!」 「…と、言い張って突っ込んで行ったが『勝負はついただろ?』と軽ーくあしらわれてな。次はハヤトよりは強い奴が勝負を挑んだが簡単に畳まれて、途中経過は省略するが現時点で五人抜き…」 ドッターン!! 熊本の話は門下生が床に叩きつけられる音で中断された。 さつきの『勝負あり!』の声を聞いて熊本はニヤリと笑ってこそりと言った。 「六人抜きじゃ」 「お見事」 …試合を終えた二人が一礼して門下生が列に戻ると、審判をしていたらしいさつきが皆を見回して熊本の友人に歩み寄った。 「妹が帰って来たようですし、親善試合はここまでにしましょう。小早川さん、お付き合いありがとうございました。おかげで皆へのいい刺激になったようです」 「こちらこそ。新鮮な体験をさせてもらえて楽しかったですよ」 「機会があればまた稽古に飛び入り参加してください。…というわけで。お待たせ、いつき。熊本さんも今日はあがってください」 さつきの言葉に熊本が一礼して立ち上がった。 …道場の中でのお喋りを自粛した五人が廊下に出るなり、熊本は無作法にプリキュア三人組を指差した。 「このかしまし三人娘を手短に紹介するぜよ。こっちから道場の娘、服屋の娘、花屋の娘じゃ。お前が用があるんはこの真ん中じゃき」 「なんつぅ適当な紹介…」 「まぁ、確かに短くて的確ですけど」 「もう少し自己紹介しておこうか。僕は明堂院いつきです」 「フェアリードロップの来海えりかです」 「フラワーショップ花咲の花咲つぼみです」 三人が順番に自己紹介するのをどこか複雑な顔で聞いていた『コブラージャっぽい人』が淡く笑みを浮かべて軽く会釈した。 「小早川ジャクリーンです。よろしく」 「ジャクリーン?」 「ひょっとして外国の方なんですか?」 「えっと…」 「まぁまぁ、こんなところで立ち話もなんだし。お茶を用意しますからこちらへどうぞ」 好奇心で目を輝かせるつぼみとえりかを制して、いつきは皆を自室に案内した。 …通されたのが女子中学生の自室と聞いて戸惑う熊本と小早川を『いいからいいから、見られて困るものは隠してあるから!』といつきの部屋に押し込み、飲 み物と茶菓子を用意するために台所に向かい、緑茶と茶菓子を持って戻ってきた三人が部屋の前で聞き耳を立ててみたが面白い話は漏れ聞こえては来ず、多少落 胆しつつも部屋に入り、飲み物 と茶菓子を二人にすすめ、えりかが小早川に求人票を渡して母の伝言を伝え、小早川が持参した履歴書と職務経歴書を預かって本日メインの要件を済ませると、好奇心を抑えきれない三人は早速小早川を質問攻 めにし始めた。 「小早川さんって苗字は戦国武将みたいなのに下の名前はカタカナなんですね、ご両親のどちらかが外国の方とかですか?」 「うん、母がね」 「どこの国の人?」 「フランスだね」 「へぇ〜日仏ハーフなんだ。じゃあフランス語もぺラペラなんですか?」 「いやぁ…日常会話は何とかなる程度だよ」 「ご両親の馴れ初めとか、聞いちゃっていいですか!?」 「父が仕事でフランス出張に行った時、出張先の支社にいたのが日本の戦国武将オタクの母だったって聞いたような…」 「うわぁ、素敵です!」 「何がきっかけでファッションデザイナーを目指そうと思ったの?」 「子供の頃に親戚に連れられてパリコレを見に行ったのがきっかけかな。すごく綺麗でね、子供心に凄く感動して、自分もあんな綺麗な服を作ってみたいと思ったんだ」 「と言うことは、小早川さんは子供の頃はフランスに住んでいたんですか?」 「父の仕事の都合で日本とフランスを行ったり来たりしてたから、住んでいたと言うのかなぁ…」 「じゃあ、じゃあ…」 タジタジになっている小早川にはお構いなしに質問攻めにする女子組の姿に、ちゃぶ台に頬杖を付いた熊本が呆れたため息をついた。 「お嬢達、俺にはなーんも聞かんかったくせに小早川にはマシンガン質問か。こいつがイケメンなのは認めるが、こうも扱いに天地の差があると流石の俺も軽くへこむぜよ」 「え?いえ、決してそういうわけでは。熊本さんもイケメンですよ!」 「熊本さんはほら、僕達が聞く前に色々自己紹介してくれたから」 「名前と喋り方で筋金入りのニッポン男児だって分かるし、入院するまでの経緯も小早川さんと友達になった経緯も格闘家を目指してるってこともいつきから聞 いてたし、恋バナしようにも『恋愛なんぞ修行の妨げ!』って一刀両断だしぃ。外見のイメージと実際のキャラのギャップが全然ないから今更改めて聞くことなんて 何もないじゃん」 「む…」 「そ、れ、に!小早川さんは私のお店で働くことになるかもしれないんでしょ?どんな人なのか気になるのはあたりまえっしょ!」 ちっちっち、と指を振って、ちゃぶ台に身を乗り出したえりかは一番気になっていたことを尋ねた。 「んで、小早川さんって前はどんな仕事してたんですか?やっぱりファッション関係?」 「――……」 その言葉を聞いた瞬間、小早川は微かに息を呑んで指をピクリと震わせた。 あまり踏み込んで欲しくない話題に触れられた時の典型的な反応だ。不意に場に流れた微妙な空気をごまかすように、えりかはわざとおどけた顔になって見せた。 「あ、これって個人情報の詮索ってやつになっちゃう?」 「…いや、そんなことはないよ。就職試験を受けるなら必ず聞かれることだし、君達に隠さなくちゃいけない真っ当な理由も無いし。…ただ」 「?」 「話すと結構長いし、最終的に過労とストレスで倒れる、ってかっこ悪いオチがついちゃうから、女の子に話すのはちょっと恥ずかしいなぁって思ってね。話せと言われたら話すけど、面白くも何ともないよ?それでもいいのかい?」 「そういう言い方されたら余計に気になるじゃーん!」 「私も気になります!」 「僕も」 「俺もじゃき」 「あれ?小早川さんが何の仕事をしてたのか、熊本さんも知らないんですか?」 「うむ。気にはなっちょったが、本人が積極的に話さない個人的なことを詮索するのは行儀が悪いと思って聞かなかったぜよ」 「君、変なところで常識的な気遣いが出来るんだね…」 「失敬な」 熊本のジト目に淡い笑みを見せて、小早川は緑茶を一口飲んでから考え考え話し始めた。 「えっと…さっき少し話したけど、ファッションデザイナーを目指していた僕は、専門の学校を出た後にファッション関係の会社に就職したんだ。その会社は服 のデザインから製造、販売をするだけでなく、自社のモデル事務所や出版社まで持っててマスコミとも連携している大きなところでね。デザイナー志望で採用されても、いきなりデザインの仕事をさせ てもらえるわけじゃなくて、色んな部署で下積みをすることから始まるんだよ。それはどこの会社でもあることだから、僕も入社直後はデザインとは関係ない部署に配属さ れることに不満はなかった。でも、段々大きな仕事を…先輩よりも大きな仕事を任されることが増えてきて、プレッシャーと同時に不安を感じるように なっていったんだ。『ひょっとして僕は、いつまで経ってもデザインの仕事をさせてもらえないんじゃないか?』ってね。僕が自意識過剰なくらいの自信家で、図太くて、他人から注目を浴びて持て囃されるのが大 好きな人間だったら、何も悩まずに『この部署で頑張ろう!』って思っていたんだろうけど」 「希望の部署にいつ異動できるのか、上司に聞いたりはしなかったんか?」 「出来るわけないだろう。希望と違う部署で下積みするのはよくあることだし、『今の部署で評価も結果も出しているのに何が不満なんだ、我侭な奴だな』って 思われて印象を悪くするのも嫌だったし、それが原因で左遷されるのも怖かったし。それに、ただでさえ『先輩を飛び越えて大きな仕事を任されてる新人』って 周囲から注目されてたから、あんまり悪目立ちすることしたくなかったしさ。おまけに友人からも『仕事がうまく行ってる』って思われてたから悩みを吐き出す ことも出来なくて、自分の中に溜め込んでいっちゃったんだよね」 「え?友達にも悩みを言えなかったんですか?」 「何で?友達だったら見栄を張る必要もないじゃん」 「自慢じゃないけど、僕が勤めていた会社は結構な大企業でね。友達の中には、僕と一緒に就職試験を受けたけど不採用だった人や希望の業界に就職が決まらなかった人もい たから、『悩みと言う名の自慢だろ』とか『その会社に落とされた俺には、贅沢な悩みとしか思えない』って言われて、悩んでることを言いにくい雰囲気 になっちゃって…。仕事が忙しくて友達に会う時間もなかったって言うのもあるけど。…で、人間不信になるレベルまで不安と悩みを溜め込み続けて、悩みから目を逸らす為に仕事に打ち込んだ結果が、 過労とストレスで倒れて昏睡状態って訳さ。情けない話だよねぇ」 フフ…と小早川が自嘲気味に笑うと、熊本が心底呆れた顔で腕を組んだ。 「なーにを言っとるんじゃ、馬鹿馬鹿しい。お前の成功を妬んで悩みに対して嫌味を返す奴なんぞ友達じゃないぜよ。友の成功を素直に喜び、悩みを抱えているなら力になろうと努めるのが真の友と言うものじゃき!」 「おおっ!熊本さんってばカッコイイ!」 「良いこと言う〜!」 「熊本…君は普段はガサツで無神経なのに、時々サラッと真顔でかっこいいこと言うよねぇ」 「前半は余計じゃ」 「まぁ、君のような良き友に出会えたことを思えば、三年間昏睡状態だったのも悪くないと思えるけどね」 「小早川さんもサラッとカッコイイ〜!」 「俺は、お前のそういう妙にカッコつけたところが好かん。良いことは良いと真っ当に賞賛する姿勢は認めるがな」 「…君に認められても」 「嬉しくないか。安心せぇ、それは俺も同じじゃき」 「…………」 熊本と小早川は顔を見合わせ、楽しげに目を細めて笑った。 |
| ハトプリ部屋 | 総合目次 |
| ハトプリ最終回その後、砂漠の三幹部(だった人達)とプリキュア達が再会する話です。コブラージャ(っぽい人)がえりかのフェアリードロップにデザイ
ナーとしてやってくるのはお約束だよね!と言うことで、当サイトの三幹部の紹介をしつつ、コブラージャメインに話を作っていこうと思っています。 モデル業界の裏話とかは全く分からないので、あくまでもフィクションと言うことで、変なところがあってもご容赦ください。 コブラージャっぽい人こと小早川さんが別人レベルでフツーの人になっていますが。流石に初対面の人(しかも就職を希望している店の娘)を相手にあのキャ ラはやらないだろう+コブラージャも要所ではちゃんと常識人だったので羽目を外すべきではない場所では普通にしてるだろう、と言うことでおとなしめの描写 になりました。その辺の突っ込み諸々は2話目でやるつもりです。 その他、本文中で書けなかったことなど。 ・組み手をしているコブラージャが明堂院流の道着を着ていますが、これはクモジャキーに借りたものです。 ・後ろ髪を大きめリボンで縛っています。 ・プリキュア達がお茶を入れている間に道着から私服に着替えています。着替えた後はシャツ+細身のネクタイという格好です。 ・妖精達はぬいぐるみの振りをしてプリキュアの頭に乗っかったり鞄に入ったりしています。 以下、書いては消し書いては消しして結局没った部分です。 当初の予定では、道場を出た後にいつきが「僕の部屋でお話しましょう」と言っていました。 「え?」 「『え?』とは何じゃ、小早川。何ぞ不都合でもあるんか」 「不都合って言うか…初対面の女性の部屋に入っていいのかなって」 「相変わらず変なところを気にする奴じゃのう。入っていいから誘っちょるんじゃ、遠慮なくお言葉に甘えればいいぜよ。なぁ、お嬢?」 「はい。見られて困るものはちゃんと隠してありますから」 「…じゃあ、お言葉に甘えて」 …熊本と小早川をいつきの部屋に通して(ついでに熊本の道着を借りていた小早川が着替えると言うので)、三人は飲み物を淹れるために台所に向かった。 飲み物もお菓子もいつきが用意してくれているので、特にすることがないえりかが我慢できなくなったように口を開いた。 「あのさぁ。私、すっごく失礼なこと言ってる自覚はあるんだけど、コブラージャって普通にしてたらすっごいイケメンなんだね」 「ねー。正直私もびっくりしちゃいました。こんなにカッコよかったっけ?って」 「僕達と彼らは最初から最後まで敵同士の関係だったから、カッコイイかどうかなんて気にしてる余裕なんて無かったしね。さ、お茶が入ったよ」 「じゃあ私、お菓子持っていくね!」 いつきの部屋の前まで戻ってきた三人は、無言のまま視線を合わせて意思疎通するとそっと襖に耳を当てた。 三人が席を外している間、二人は何を話しているのか。砂漠の使徒だった頃の記憶は無いというが、本当だろうか。ひょっとしたら何も覚えていない振りをしているだけなのでは?プリキュア達がいないと油断してうっかり失言するかもしれない…。 そんなことを考えて聞き耳を立てると、二人の話し声が漏れ聞こえてきた。 「…そこまで気にすることか?」 「念には念を入れておくに越したことはないってだけだよ。仕事の話をしに来たのにだらしない格好だなって思われても困るからね。悪印象を与えないに越したことはないよ」 「仕事の話と言っても、書類を一枚貰うだけじゃろ?あの娘が面接官じゃと言うなら分かるが」 「彼女は社長令嬢だよ。立派に面接官だと思うけど」 「まだ店で働いてもいないのにか?」 「持つ親の立場で考えてみたまえ、熊本。自宅を兼ねた店舗で人を雇うってことは、他人を家に入れるって事だよ。年頃の娘が『あんな男がウチに出入りするなんて嫌だ』と言ったら、それは僕を不採用にする立派な理由になると思うけどね」 「む…」 熊本の複雑な唸り声を最後に会話が途切れた。 三人は目と目で会話して、足音を殺してそぉっと廊下を逆戻りし、わざと足音を立てるようにして部屋の前まで戻った。 「お茶が入りましたよー」 「もう着替えは終わってますかー?入っちゃってもいいかなー?」 「おう、大丈夫ぜよ」 お約束の言葉が返ってきて、えりかが襖を開けた。 熊本は道着のままだが、小早川は長袖のシャツにネクタイを締めた格好に着替えていた。面接を受けるにしてはカジュアルなデザインと色使いだが、友人の友人と雑談をするにしてはお堅い格好だ。 |