| さっきからフンフンうるさいんだよ、クソオヤジが。こんな時に鼻歌か。楽しそうだなぁ。サイキッカーなんて奴は、やっぱり頭のネジが弛んでやがるんだな。 そんな雑兵達の心の声が聞こえ、ガデスは自分が無意識に鼻歌を歌っていたことに気付いた。 (楽しそう、じゃねぇよ。楽しいんだよ) 鼻歌を続けながらガデスはゆっくりと兵士達の間を歩いた。視線を泳がせれば、こっそり彼の様子を伺っていた奴もさっと目を逸らす。ガデスは懐から葉巻を取り出すと、さっきの『声』の主の前にしゃがみ込んだ。 若い兵士が不安げな顔を上げた。 「悪いな兄ちゃん。火ィくれや」 「あ…は…はい………」 兵士が慌ててあちこちのポケットを探り、やっとライターを見つけ、差し出した。 ガデスはゆっくりと葉巻を吸い、兵士の顔に煙を吹き掛けた。ゴホゴホとむせる彼にとびきりの笑顔を見せてやる。 「今日はなぁ、ノアのリーダー格が出て来るって話なんだよ。ひさしぶりに本気で戦えるから嬉しくて楽しくて仕方ねぇんだ、鼻歌くらい大目に見ろや」 「…………!」 若い兵士の顔が凍り付く。実にいい顔だった。 ガデスはその兵士の頭をがしがしと撫でて立ち上がった。 国立超能力研究所。要はサイキッカーどもを捕まえて来て実験動物にする施設だ。 実験動物を『助け出す』ためにノアの連中がこの研究所を襲撃するらしいので、貴重な実験動物やデータを彼等から守るのが今回の任務だった。 ガデスは葉巻をふかしながら三々五々固まっている兵士達を見回した。 落ち着きなく歩き回る者、神に祈る者、家族の写真をじっと見つめている者、黙々と武器の手入れをする者、様々だ。 そしてどいつもこいつもガキくさい。危険が多い最前線の戦場には失っても痛くない新入りの兵が送り込まれる。新入りだから戦場でもたついている内に呆気 無く死ぬ。そしてまた新入りが入ってくる。その結果が『下手な鉄砲数撃ちゃ当たる(お互いにな)』を地で行くような雑魚の集団だ。 まぁノアのサイキッカー共も幹部以外は雑魚なので、雑魚同士で好きなだけやり合ってくれればいいと言えばいいのだが。 「この任務が終わったら休みがもらえるから、そろそろ彼女にプロポーズしようと思うんだ」 どこからかそんな声が聞こえた。 (それ、死亡フラグだぞ。お前が生きようが死のうが俺は知ったこっちゃないんだが…味方が大勢死ぬと上がガタガタうるせぇんだよな。かといってこんな雑魚ども庇いながら戦うのも御免だし…。『命は大事にしろ』とでも言っておくか。それでも死んだら自己責任ってことで…) ガデスがそんなことを考えていると、別の兵士の声が聞こえた。 「無駄な話をする時間があったら銃の点検でもしておいたらどうだ?」 「無駄ってひどいっすよ先輩!彼女もプロポーズも、神様に祈るのも大事なことです!」 「前回の作戦で延々祈りを捧げてた奴は、肝心な時に銃に弾が詰まって、敵のサイキッカーに丸焼きにされて天に召されたぞ」 「えっ…」 なかなか面白い会話だ。 ガデスは壁に寄り掛かって葉巻を吸いながら聞き耳をたてた。 「お…おどかさないで下さいよ先輩」 「ああ、それから水に飲まれて死んだ奴とか重力に押し潰されて死んだ奴もいたな」 「そんな化け物相手にどうしろって言うんですか!」 「やられる前に殺せばいいだけだ。大抵の化け物は頭を吹っ飛ばせば死ぬ」 ガデスは好奇心に負けて声の主に目をやった。 ガキが多いせいで、隊の中では比較的年長者に入る年令に見える。それはつまり、今まで何度も『やられる前に殺して』死線をくぐり抜けて来たと言うことだ。 濃い金色の髪、闇空のような眼、軍人にしておくには勿体無い程整った顔が印象に残った。 ガデスは心地よい香りの煙を十分に満喫し、葉巻を床に捨てて足で踏みつぶした。ノアのサイキッカーの気配が急激に近付いてくる。 「来るぞ!全員、配置につけ!」 腹の底から沸き上がる喜びに満面の笑みを浮かべて彼は怒鳴った。 ノアの連中がいきなり屋根を破壊してやって来てくれたおかげで、ガデスの班が待機していた部屋は吹き抜けのホールのようになっていた。 その一番高い壁にやる気のない態度で腰をかけ、彼は眼下で展開する雑魚対雑魚の戦闘を眺めていた。 (何サボってんのさ) 別行動をとっていたエミリオからテレパシーが飛んで来た。 (だってよー、ノアの幹部はそっちの班の方に行ってたんだろ?ひさしぶりに全力で暴れられると思ってたのに肩透かしだぜ。オジサンもうやる気ゼロだゼロ) (雑魚処理だって仕事だろ?給料分くらい働けよ) (もう働いたよ) ガデスはベストのポケットに入れたディスクを軽く小突いた。 (ノアの連中が狙ってたデータディスクはちゃんと死守しましたよ。後の雑魚処理はお前に任せるわ。合流がてらこっち来てくれや) (何が『死守』だよ。どうせ、僕がノアの連中とやりあってる隙にくすねてきたんだろう) (まだまだガキだなぁ。大人の世界で重要なのは結果。過程は関係ねーんだよ) 忌々しげな舌打ちのイメージが返って来たが、気付かぬ振りをしてガデスはけだるく葉巻をふかした。 天井やら壁やらの瓦礫と、不運にもその瓦礫に早々に押し潰された兵士の死体、さらにその後のドンパチで更に死体が増えて、眼下の戦場はかなりのカオス状態になっていた。 さっきの『死亡フラグ』はどうなったか分からないが、『先輩』の方はまだ生きているようだ。 月明かりに照らされた金色の髪はやけに目を引く。 砕けた壁や仲間の死体に巧みに身を隠しながら戦っている。敵味方入り乱れて誰が誰を殺ったのかハッキリとは分からないが、彼の銃口の向いた先にいるサイ キッカーの頭がほぼ百発百中でフッ飛んでいるのを見るとなかなかの腕なのだろう。後ろからこっそり近付いた奴もいたが、攻撃しようとしたところを足払いを かけられハンドガンで頭をブチ抜かれていた。 ほおぉー。いうだけのことはあるじゃねぇか。 鮮やかな仕事振りに半ば感心しながら眺めていると。 「仕事しないで高みの見物?いい御身分だね」 抑揚のない、声変わり途中の少年の声が聞こえた。 闇夜に広がる真っ白な翼。 「おう、来たかエミリオ」 「来たかじゃないよ。あんたが呼んだんだろ」 「じゃあ最後の仕上げを頼むわ。俺が兵士どもを避難させるから、合図したらアークエンゼルぶちかましてノアの雑魚共一掃してくれや」 「…分かったよ」 渋々頷いたエミリオの肩をバシッと叩いて、ガデスは戦場に飛び下りた。 「総員、退避だ!退避、退避ー!!」 大声で指示を出す。 兵士達が各々退避を始めた。何か危険を感じ取ったのかノアのサイキッカー達の中にも戦闘区域から離れようとする奴がいたが、そう言う手合いはガデスの 『力』で引きずり戻してやる。ついでに味方の兵士も一緒にくっついてきたりもするが、いちいち選り分けるなど面倒だ。後で何か上から言われたら、『血や煤 で汚れて敵味方の区別がつかなかった』とでも言えばいい。 ノアのサイキッカーに『取りこぼし』がないことだけ確認してガデスは上空のエミリオに片手を上げて合図を送った。 真っ赤な月を背負った堕天使の翼が広がり、光の十字架が発動するのを見てガデスも安全な場所へ走った。 「光よ…!」 まばゆい光が戦場を照らし、敵と逃げ遅れた味方を包み込んでいく中、迫り来る死から必死に逃げて来る兵士の姿が見えた。転がるように走りながら若い兵士は避難した仲間に向かって手を差し出した。 「助けて、助けてくれ!僕はまだ死にたくないぃぃ!!!」 いやもう無理だろ。今助けに行ったら共倒れするの確定だし。逃げ遅れたのが運の尽き、悪く思わないでくれや。 ガデスが兵士の冥福を祈ってやった時。 何をトチ狂ったのか、彼の近くに避難していた金色の髪の狙撃手が身を乗り出した。右手を伸ばす。逃げて来る仲間に向かって、迫り来る死の光に向かって。 「何やってんだお前は!死にてェのか馬鹿野郎!」 余りにも予想外の兵士の行動がガデスに彼らしからぬ行動を取らせた。咄嗟にその兵士の襟首を掴んで引きずり戻したのだ。 …直後。 仲間を救おうと差し出された狙撃手の右手は指先を閃光に掠らせて宙に残り、救いの手に安堵の表情を浮かべた兵士は真っ白な光に呑み込まれて消えた。 |
| サイキ部屋 |
総合目次 |
| 刹那の話なのにガデス視点でスタートってどうなんだろうと思ったんですが。最初は刹那視点で話をかいたのですがうまくまとまらなかったので視点を変えた
ところスイスイ筆が進みました。いやもうガデスの動かしやすさにびっくりです。愛情と理想と現実と公式の溝をどう埋めるか悩みまくる刹那やブラド(ある意
味ウォンも…)と違って、ありのまま書けばいいからでしょうか。ガデスとエミリオは書いてて楽しいので、10年前は絶対にやらなかった刹那いじりも入れて
みたいと思ってます。 ちなみに。10年前に出した小説の序章は全く違う話でした。高校を卒業した刹那が父親と決別して、友達と一緒に『上京』することになって。で、電車に 乗った後、父親が見送りにきていないか必死にホームを探すけど、見つからなくて、ボロボロ泣きながら出発するという、今にしてみればうわぁぁぁぁな話でし た。(^^;) 新しく話を練り直した時は、『学校から帰って来たら母親が首を吊って自殺していた』という話にしようかと思ったのですが、特にそれが後の伏線になるとも思えなかったので没。 んで、多少なりとも『公式』にのっとって、人工サイキッカーになる前のガデスとの接点でも作っておこうかと。ゲームでは射撃戦の鬼だったことも踏まえて『射撃が得意』という設定も入れてみました。 |