「…つまりノアは憎むべき敵であり、我々は、市民の安全を守るため命をかけて戦わねばならず……」
安全なところから指示を出すだけの奴が良く言うぜ。
彼はあくびをかみ殺しつつ内心で毒づいた。
先の作戦で殉職した兵士達の合同葬儀だったか追悼集会だったか…とりあえず『国軍はテロリストから国民を守るためがんばってますよ』と対外的にアピールするためのつまらない集まり。大佐だの少将だののお決まりの演説を直立不動で聞いているのは拷問以外の何ものでもない。
テレビカメラを意識して熱く語る大佐(少将だったか?)の後ろに設置されたモニターに殉職した兵士達の写真が順番に流れている。ルームメイトの写真が写った時、右手の指先がチリリと痛んだ。
あの日。
助けを求めて手を伸ばした仲間の手を掴もうとしたあの時。
片目の大男が襟首を掴んで引き戻してくれていなければ、自分も『あっち側』になっていただろう。少なくとも利き手の肘から先はなくなって、退役の書類にサインをするはめになっていたに違いない。
『何やってんだお前は!死にてェのか馬鹿野郎!』
大男の声が耳に蘇る。
なら、味方が死なないような作戦を立てやがれ!あの羽の生えた小僧の攻撃に巻き込まれて何人死んだと思っているんだ!
壇上に立つサイキッカー部隊の司令官とかいう男に内心で言葉を叩き付けた。
司令官殿はそんな彼の心の声が聞こえるはずもなく…いや、サイキッカーなのだから聞こえているかも知れないが…仮面のような笑みを浮かべたまま話を続けている。
『…皆さんのすばらしい働きのおかげで貴重なデータを入手できました。………』
データ。
多大な犠牲とやらを出した成果はたった1枚のデータディスクだったと聞いた。
数十人、数百人の下級兵の命より、たった1枚の紙切れやディスクが優先される。それが軍の現実だった。
…だが。
『今回の様な悲劇を防ぐためにも、我がサイキッカー部隊の戦力増強は急務です。そのための人工サイキッカー計画…経歴・身分は一切問わずの文言は建て前ではありません。我こそはと思う方はぜひ志願して下さい。お待ちしていますよ』
司令官はそう言葉を結んだ。
彼は背中で組んだ手をぐっと握りしめた。
軍の使い捨ての道具で終わってたまるか!俺は必ず力を得て上に行く。必ず、必ずだ!
退屈な集会が終わり、彼は『飲みにでも行くか?』という仲間の誘いを断って自室に向かっていた。せっかくの貴重な休日だ、少し休みたいと思っていたのだが。
兵士の宿舎に続く渡り廊下の当たりで見慣れない人間を見つけ、彼は足を止めた。
入れ代わりの激しい下級兵士の顔など覚えきれないから知らない顔がいてもおかしくはないのだが、その人物は兵士には見えなかった。白く丈の長い、白衣の
ような服を着て、顔はよく見えないが体つきから察するに若い男だろう。渡り廊下の手前に有る案内版を見て首をかしげ、右に曲がって左に戻り、左に行っては
右に戻り、また案内版の前に立ち…その奇妙な行動が彼の興味を引いた。
(何だ、あいつは?)
近くに自動販売機があったので、飲み物を買う振りをしながら横目で様子を伺った。
一般人立ち入り禁止の建物にいるのだから軍の関係者なのだろうが、着ている服はどう見ても軍服には見えない。事務所関係の新入りだろうかとも思ったが、仕事で来たにしてはラフすぎる格好だ。
そうなると、軍のお偉いさんの身内だろうか。
大佐か少佐あたりが『サイキッカー部隊が設立された基地に仕事に行くから、お前も一緒に連れてってやろう。超能力者に会わせてやるぞ』とか言って息子を連れて来たとか。
十分ありうる話だ。
彼はポケットの小銭を自動販売機に入れた。
どうやら道に迷って困っているようだが。親切に案内してやるか、見なかったことにして立ち去るか。あの男が軍のお偉いさんの関係者なら恩と顔を売って損はない。非常識な新入りだったら関わるだけ時間の無駄だ。
どうしようか考えながらブラックコーヒーのボタンを押した、その時。
ピロリロリ〜♪
場違いに明るい音楽が自動販売機から流れて、彼は複雑な気持ちで『当たり』の文字が点滅するのを見ていた。
(当たることがあるのか、コレ……)
つか、このタイミングで当たるか。
そっと『迷子』の方を見ると、向こうも彼を見ていた。そりゃそうだ、場違いにお気楽な音楽が聞こえれば一体何だと思うだろう。
『困ってる人がいたら親切にしてあげるのよ』
口癖のようにそう言いながら、本当に困った時に誰にも親切にされずに自ら命を絶った母の顔が脳裏をよぎった。
白いコートの男を視界の隅で捕らえながら、彼は自分では飲まない甘いコーヒーのボタンを押した。
2本目を取り出した時、遠慮がちな声がかけられた。
「あのう…すいません……」
「はい?」
話し掛けられた以上は無視するわけにも行かない。彼は仕方なく顔を上げた。
そこで初めて『迷子』の顔が見えた。
深紅の瞳と病的なまでに白い肌。アルビノというやつだろうか。片流しにした銀色の髪が顔の半分を覆っているがまずまずの顔立ちだ。遠目には白衣のように
見えたのは丈の長い白いコートで、何故か左手にだけ白い手袋を嵌めていた。身分証らしき物は何も付けていない。
やはりお偉いさんの身内だろうか…と思いながら彼は口を開いた。
「何かお困りですか?」
「そうなんです、困ってたんです。ここに来るのは初めてで、すっかり迷っちゃって」
「ああ、軍の施設はどこも似たような造りですからね。どちらにご用です?」
男の口からは意外な言葉が返って来た。
「人工サイキッカー計画の案件を扱ってる事務所に行きたいんですけど」
「人工サイキッカー?」
さらりと言われた言葉を鸚鵡返しに呟いた。
兵士達から実験体候補を募っているとは言え、人工サイキッカー計画はトップクラスの軍事機密だ。上から下まできつく箝口令が敷かれて、サイキッカー部隊の設立されたこの基地の関係者でなければ計画の存在すら知ることはない。
何者だ、こいつ?
不審感と好奇心で眉根を寄せた彼に、男は不安そうな顔になった。
「あの、僕、何か変なこと言いました?」
「………。あなたは…その、軍の関係者ですか?」
「ええと…一応そうです、けど…?」
「人工サイキッカー計画関係の場所は色々と規則が厳しいので…大変失礼ですが、軍の身分証を見せて頂けませんか?」
「身分証?」
「こういうのです」
彼は自分の胸ポケットにぶら下がっている身分証を見せた。顔写真と名前、所属が書かれたネームプレート。軍に属する者なら休日でも携帯していなくてはいけない物だ。
…深紅の眼の男は心底困った顔になった。
「まだ、持ってないんです」
「まだ?」
「今日、作ってもらう予定だったんです…」
「じゃあ、あなたの身分を証明できる方に連絡を取って頂ければ」
「それが…会議中らしくて、連絡、取れなくて……。そもそも連絡できればこんなとこで迷子になってないですよ。っていうか、『受付で名前を言えば案内してもらえる』って聞いてたのに受付に誰もいなかったし」
「……………」
どこまで運が悪いんだ、お前は。
喉元まででかかった言葉を呑み込んだ。目の前の男は半べそ状態だが、正直こっちも泣きたい。訳の分からん奴に関わってしまって、訳が分からんだけなら途
中で投げ出すのだが、人工サイキッカー計画のことを知っているからうっかりほったらかしにもできない。この男が問題を起こしでもしたら下手な対応をしたと
言われて彼が処分されるだろう。かといって身元のはっきりしない奴を軍事機密を扱う部署に連れていけばそれはそれで大問題だ。
困っている人を見たら親切にしろと言った母やこんな時に当たりを出した自動販売機や受付を開けっ放しにした職員や仲間の誘いを断った自分自身や連絡の取れない男の上司や、色々なものを一通り恨んで、彼は結論を出した。
問題の先送り。
「それでは仕方ないですね。連絡が取れるまで待ちましょう」
「……仕方ない、ですね…………」
彼の言葉に男はしょんぼりと頷いて自動販売機の横の長椅子に腰を降ろした。
「そうだ。これ、良ければどうぞ」
彼は軽い気持ちで、何気なく、さっき当たったミルクコーヒーを男に向かって放り投げた。
「えっ?あっ、わっ」
不意を突かれたらしい男は、まだ熱い缶をうまく受け取れず取り落とした…次の瞬間。
コーヒーの缶は床にぶつかる寸前でピタリと止まった。
「………………」
「危なかったぁ。これ、床に落ちちゃったら大変でしたよね」
男は空中で制止した缶コーヒーを当たり前のように拾い、顔を上げ、絶句している彼を見て不思議そうに首を傾げた。
「どうかしました?」
「…………今、その缶コーヒーが、床に落ちる前に止まったように見えたんですが…………」
「ええ、止めましたから」
「は?」
「床にぶつかりそうだったから止めたんです、重力を切り離して」
「……………………」
何を言ってるんだこいつは。頭がどうにかなりそうだ。
見つめあったまま微妙な沈黙が流れた後、男が申し訳無さそうに彼を見上げて尋ねた。
「あのぅ…僕、自分がサイキッカーだってこと、言いましたっけ」
「少なくとも俺は今初めて聞きました」
「あっ…す、すいません。ここはサイキッカー部隊の基地だから、皆さんサイキッカーなんて慣れっこだろうし、わざわざ言わなくてもいいかなぁって…ご、ごめんなさい、わざと黙ってたわけじゃないんです」
「いや別に、謝ってもらうことではないですよ」
彼は複雑な気持ちで目の前の男を見遣った。
この男もサイキッカーか。
あの羽の生えた小僧や片目の大男や東洋人の司令官と同じ世界の住人のはずだが、受ける印象はずいぶん違った。この男も連中と同じように人間を見下す尊大な空気を纏っていたらすぐに気付いただろうが。
混乱していた頭が多少冷静さを取り戻して来た。
(結局のところ、こいつの上司と連絡がとれるのを待つしかないか…)
(まぁ人工サイキッカー計画のことを知っているサイキッカーとお近づきになっておくのも損にはならないだろう)
見れば、サイキッカーと名乗った男はまだ凹んでいる。
彼はコーヒーを飲みながら話し掛けた。
「俺はサイキッカー部隊の基地にきて結構経ちますけど、手を使わずに物を動かすとこなんて初めて見ましたよ」
「そうなんですか?」
「俺らとサイキッカーの皆さんはほとんど接触すること無いんです。管轄とか、完全に別物ですから。サイキッカーの力を見るのは、任務とかで戦場に行った時くらいです」
「じゃあびっくりしますね」
男はやっと少し微笑んだ。
いかにも人の良さそうな笑顔だった。まるで手品でもするように缶コーヒーをフワフワと浮かせてみせる。左手の袖口にちらりと金属のような物が見えたが、
ギブスでも嵌めているのだろうか。一瞬気になったが、今はそれよりも空を飛ぶ缶コーヒーに興味を引かれた。
「でもね、こうやって手を使わずに物を動かすの、サイキッカーなら誰でもできるって訳じゃ無いんです。誤解してる人、結構いるけど」
「ひょっとして、サイキッカー部隊の司令官もできないんですか?」
「できないんですよ、実は」
「…意外です」
「その変わりと言っては何だけど、僕は瞬間移動はできないです」
「そうなんですか…残念、見せてもらいたかったのに」
男が何気なくとんでもないことを言っていることにも気付かず、内心彼は落胆していた。
人工とは言えサイキッカーになれれば手を使わずに物を動かしたり瞬間移動したりできるものとばかり思っていたのだが。
彼のがっかりした顔を別の意味に解釈したのか、男は悪戯っぽく微笑んだ。
「そのかわりと言ったら何ですけど、もっと大きな物を手を使わずに動かしてみせましょうか?」
「もっと大きな…というと、どのくらい?」
「そうですね…」
男は廊下の窓から外を見て、中庭に置いてある巨大な戦闘機を指差した。数年前に『現役引退』してその後はオブジェとして飾られている物だった。
「あれとかどうです?」
「あれを動かすんですか?ハリボテじゃない本物ですから、事故防止のために厳重に固定してありますけど」
「全然問題じゃないですよ」
「じゃあ、見せて頂こうかな」
目の前の男は彼よりも華奢でいかにも非力そうだった。サイキッカーなら腕っぷしなど関係ないのかも知れないが、その細腕で戦闘機を持ち上げられるならやってみろと言う気持ちが彼にその言葉を言わせた。
男は柔らかく微笑んで窓を開けると彼を手招きした。
「?」
「ここから腕を出して下さい。…そう、それからゆっくり手を上げて」
「??」
言われるまま窓から腕を差し出してその手を上に動かすと。
ゴゴゴゴ…。
轟音と共に、地面にかたく固定されていた戦闘機が浮き上がった。彼の腕の動きに合わせて、ゆっくりと。
男に勧められるまま手を上下させたり回したりすると、宙に浮いた戦闘機は彼の手の動きに合わせて上下したり回転したりした。
まるで自分が戦闘機を動かしているような不思議な感覚に夢中になっていると、急に戦闘機が動きを止めた。
「…あ」
男がなんともバツの悪そうな顔で呟き、空を飛び回っていた戦闘機はゆっくりと元の場所に降りていった。
せっかくの楽しい遊びを中断されて、彼は内心がっかりしつつ尋ねた。
「どうしました?」
「会議、終わったみたいで…僕の身元を保証してくれる人から連絡が来たんですけど」
「連絡が来た?」
「あ、テレパシーが来たんです。『時間になっても来ないと思っていたら、あなたは一体何をやってるんですか』って苦笑いされちゃいました」
「テレパシーですか…」
いかにもサイキッカーらしい連絡の取り方だ。
憧れと妬みの混じった視線の先で、男は片手を耳に当ててわずかに唇を動かしながら何か連絡を取っている風だったが。
テレパシーを終えたらしい男は申し訳無さそうに彼を見た。
「申し訳無いんですけど、僕を研究棟の入り口ってところまで連れてってもらえませんか?そこまで行けば迎えの者がいるそうなんで…。少佐の指示があれば、現時点で僕の身分が証明できなくても大丈夫ですよね」
「え?ええ、それなら大丈夫ですけど」
「じゃあ今から指示を出してもらうので。あ、僕の名前はブラド・キルステンと言います」
どうやって指示を出すのかと思っていると、館内放送がかかった。
『サイキッカー部隊よりお願いです。ブラド・キルステン氏を保護された方はお手数ですが研究棟入り口までお連れして下さい。くり返します。ブラド・キルステン氏を保護された方は…』
どこか面白がるような響きの声は、確かにサイキッカー部隊司令官のそれだった。
保護って…まさに迷子扱いだな。
そんなことを考えていると、ブラドと呼ばれた男に顔を覗き込まれて彼は心臓が止まる程驚いた。
「!!??」
「あのぅ…というわけで、案内をお願いしていいですか?」
「あ…は、はい。どうぞ、こちらへ」
慌てて先に立って歩き出す。
…サイキッカー部隊の関係施設がどこにあるかは知っていたが、その中に入った経験は数える程しかなかった。ましてや研究棟は軍事機密の塊で、その入り口に近付くだけでも手続きや書類が必要だと聞いていた。
それなのに。
いわゆる『関所』の職員達はブラドが名乗るだけで何の確認もなく二人を通した。
「じゃあ今から指示を出してもらうので。あ、僕の名前はブラド・キルステンと言います」
どうやって指示を出すのかと思っていると、館内放送がかかった。
『サイキッカー部隊よりお願いです。ブラド・キルステン氏を保護された方はお手数ですが研究棟入り口までお連れして下さい。くり返します。ブラド・キルステン氏を保護された方は…』
どこか面白がるような響きの声は、確かにサイキッカー部隊司令官のそれだった。
保護って…まさに迷子扱いだな。
そんなことを考えていると、ブラドと呼ばれた男に顔を覗き込まれて彼は心臓が止まる程驚いた。
「!!??」
「あのぅ…というわけで、案内をお願いしていいですか?」
「あ…は、はい。どうぞ、こちらへ」
慌てて先に立って歩き出す。
…サイキッカー部隊の関係施設がどこにあるかは知っていたが、その中に入った経験は数える程しかなかった。ましてや研究棟は軍事機密の塊で、その入り口に近付くだけでも手続きや書類が必要だと聞いていた。
それなのに。
いわゆる『関所』の職員達はブラドが名乗るだけで何の確認もなく二人を通した。
(フリーパスでサイキッカー部隊の基地内を通れるということは、それなりの階級なのか?それとも司令官から指示が出ているのか?)
そんなことを考えていた彼は、研究棟入り口で待っていた『迎えの者』を見て我が目を疑った。
不機嫌そのものと言う顔で突っ立っていたのは羽の小僧…もとい、少尉殿だ。
仏頂面の少年にブラドはにっこり笑って片手を上げた。
「エミリオ、久しぶりだね」
「何が『久しぶりだね』だよ!ブラドさんがもうすぐ来るって聞いて迎えに来たのに!どれだけ待ってたと思ってるんだよ、遅いよ!」
「ずっとここで待っててくれたの?」
「そうだよ!」
「そっか、遅れてごめんね。迎えに来てくれて嬉しいよ。ありがとう」
ブラドに優しく頭を撫でられたエミリオは、別に暇だったからいいけど…とボソボソと呟いた。
そんなやり取りを彼は一歩下がったところから見つめていた。
少尉が迎えに来て到着を律儀に待ち、ファーストネームに『さん』を付けて呼び、頭を撫でられたくらいで手なづけられる存在。ということは、このブラドという男の階級は中尉か大尉で、それはつまり彼がサイキッカー部隊の幹部だということを意味する。
人工サイキッカー計画の始動と同時に司令官御自ら呼び寄せた人物。
幸か不幸かとんでもない奴と関わってしまった。
そう思うと急に恐くなって来て、彼は軽く敬礼して二人に声をかけた。
「…では、自分はこれで」
「え?ちょっと待ってください」
「な…何か?」
「わざわざ送ってくれたんだもの、お茶くらい飲んでいって下さい」
「いや、そんな」
背中を冷や汗が伝った。一刻も早く逃げたいのにお茶のお誘いなんて、勘弁してくれ。
そう思った時、翠の髪の少年が彼を一瞥して口を開いた。
「ブラドさん、ここはサイキッカー専用エリアだよ?勲章のついてない軍服着てるだけで浮きまくる場所でお茶飲んでいけって、それ嫌がらせだよ」
「そうなの?」
「そうなの!ここまで歩いて来て『二人とも』気がつかなかったの?」
「何かチラチラ見られてるなぁとは思ったけど…。そういうことだったんだ」
ブラドは少しだけ悲しそうな顔になって、彼を振り返った。
「わざわざ送ってくれて、本当にありがとうございました。機会があったら、さっきのコーヒーのお返しをしますね」
「お気遣い、ありがとうございます。…では、失礼します」
彼は一礼して踵を返した。
サイキッカー部隊の専用エリアに人間の兵士が一人でいるせいだろう、ブラドを案内して来た時以上に自分に向けられる視線は冷たく感じた。
どうして人間がこんなところにいるんだ。
無言の圧力がのしかかり、彼は拳を握りしめた。
いつか、何の負い目も劣等感も感じずに、一人で堂々とこの廊下を歩いてやる!
|